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第二章 迷宮都市の救世主たち ~ドキ!? 転生者だらけの迷宮都市では、奴隷ハーレムも最強チート無双も何でもアリの大運動会!? ~

2-114.J.B.(69)Rock House.(ロックなお家)

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「ほほーう? 殴るか? なる程それが食人鬼オーガ流か?」
 無駄にふんぞり返ってそう言うドゥカム。真ん中の大きな焚き火の向こう側で睨み付けてくる赤紫の巨人は今にも牙を剥き飛びかかって来そうな程だ。普通に見れば巨漢プロレスラーを挑発する子供の構図。
 これはマズい。俺は密かに“シジュメルの翼”へと魔力を通わす。いざってときには取りあえずドゥカムの奴を抱えてる飛び立つ事が出来るようにと準備しておく。
 だがそれよりも先に暴発寸前に見えた赤紫の巨人を抑えたのは、最初にこちらを見に来ていた三人の巨人の一人、長い髪を束ねた痩せ身の巨人。
 
「キーンダール、それが“灼熱の巨人”の眷族として恥じぬ振る舞いか?」
 なんとなく分かり初めて来ているが、巨人族にとってこの“大いなる巨人”というのは信仰の対象と言えるくらい神聖な存在らしい。
「“灼熱の巨人”もあの様な侮辱を許すものか」
「ならばお前がヴェデダへ向けた疑念もまた、“霧の巨人”への侮辱であろう?」
 返された言葉に黙り込むキーンダールと呼ばれた赤紫の巨人。
 
「ふん、そこだそこだ。そーーれが無意味だと言うのだ!
 私はその“霧の巨人”とやらには会っておらん! まあそこはお前達と同じだ。グイドが本当にその“霧の巨人”と会ったかどうかなどわかりもせん。
 だが、グイドに言わせれば“霧の巨人”は我々に対して“狼の口”へと向かえと言ったらしいな」
 ドゥカムの言葉に、今度はさっきとは又異なるざわめきが起きる。
 曰く、遺跡の入り口の一つで、魔獣の巣窟。
 そこが俺たちの探している、ジャンヌやアデリアの居るだろう遺跡なら話は早いンだがなあ。
 
「グイドが“霧の巨人”に会ったかどうかも、ダークエルフがその試練とやらをしているかどうかも、どっちにせよ今は確かめようもないし、伝承も正確に伝わっとらんというなら検証しようもない。
 ならばさっさと飯を食って寝てから、“狼の口”とやらに行き確かめてみる他あるまい。
 だぁーーから、無駄な言い合い無駄な争いだというのだ。無駄な争いは食人鬼オーガのような下等な連中にやらせておけば良い」
 
 確かに、ごちゃごちゃ考えたり言い争ったりしたところで、何の検証にも確認にもならないなら無駄でしかない。
 俺らにしてもつまるところその“狼の口”とやらに行かないことには何も始まらねえワケだしな。
 ドゥカムの言うことはその点もっともではあるンだが……。
 
 周りの巨人達もそれぞれに、ドゥカムの言葉を聞き、改めて数人で話し合ったり考え込んだりしている。
 中にはまだ納得出来ず……というか、ドゥカムへの不快感や不信感を捨てきれずに苛立たしげな視線やらを送る者達らも居るが、たとえ相手が見上げるほどの巨人であってもそんなものは意に介さない辺り、ドゥカムの傲岸不遜ぶりは徹底しているぜ。
 
 ■ □ ■
 
 で、そんなやや不穏な空気の中、どたどたどたっという足音とともにやってくるのは、ガンボンと数人の巨人達。
 いつの間に? と思う暇もなく中央の焚き火周りに集まってくる。
 ガンボンが抱えているのは巨大な鉄板、いや、ドワーフ合金製の巨大な盾か? 巨人サイズとしては中くらいの長方形。よく洗われたそれを裏返すと、真ん中にある石組みの焚き火の上に乗せた。
 
 続く巨人達もそれぞれに手にしたものを使い支度を始める。
 巨大な串に刺された肉の塊は、串刺しの丸焼きもあるが、アティックがマヌサアルバで作っていたケバブもどきのように下処理をして重ねた肉を何重にも重ねたものもあり、それを盾のまわりに設置して炙っている。
 獣脂を火にかざした盾の裏に落としてそれを広げる。満遍なく広がった脂の上に、小さく切られた野菜や肉を更に広げていく様からは、つまりは炒め物料理を始めているようだ。
 
 他の巨人達は皮袋に入った飲み物を、俺達からすればデキャンタ並みの大ジョッキへと注ぎ、焚き火周りの各巨人へと配り出す。
 俺達の方へも回ってくるが、渡されたマグからは……うえぇ、とてつもない臭さ!
 思わずガンボンの方を見るが、目が合うとややうつむき加減で軽く首を振る。えーー……つまり何だ? 「あきらめろ」ってことか?
 
「各部族、どうするかは明日の朝までに決めてもらおう。
 だが今はまずヴェデダの帰還と客人の来訪を祝う宴をはじめる。
 また、今回は客人の一人、ガンボン殿が宴の料理を作ることを手伝ってくれた。お互い食べ慣れぬものもあるだろうが、親交を深める為大いに飲み、大いに食べることとしよう」
 
 マーカルロ族長が音頭をとると、場の空気ははっきりと変わる。
 焚き火周りのそれぞれに杯が行き渡ると、この乳白色で微かに泡立つ臭い飲み物を掲げてから、例の「“大いなる巨人マイナギアト”に!」の叫びがあちこちからあがり飲み干される。
 マーカルロ族長や巨人達は無表情ながら満足げにそれを飲み干し、グイドは暫く杯の中を見つつ感慨深げにしながら一口。やや渋いような顔を一瞬だけ見せるものの、二口目から一気にいく。
 ドゥカムは? というと、矢張り眉根を寄せつつ杯の中をじっと見たまま。
 
「おい、どーすんだ? 飲むのか?」
 小声でそうドゥカムに確認をすると、
「飲むに決まっておろう! 本物は始めてみるが、これは巨人族に伝わるとされる“神々の優しさの乳”というやつだろう。
 一口飲めば気力が沸き、二口飲めば生命が漲り、一杯飲み干せば寿命が一年延びると伝わっている」
 嘘か真か、なかなか怪しげな伝承を言ってくる。
 
「ほほう、よくご存じだ。もはや下界のもの達に“神々の優しさの乳”のことなど知っている者が居るとは思わなんだ」
 顎髭を撫でながら、感心するようにマーカルロ族長が言うと、
食人鬼オーガと巨人の区別もつかぬ人間共には知る者などおるまい。が、私は違う。古代ドワーフ文明研究の第一人者だ。古代ドワーフと関係の深かった巨人族についても調べてある。或いは伝承の失われたお主等より詳しいかもしれんぞ?」
 態度は相変わらず堂々としたものだが、微妙に口元を歪ませているのは、多分そうは言いつつもこの臭さの飲み物を飲むのが恐いからだろう。俺だってそうだ。
 
「無理して飲まなくても良い。俺には懐かしい故郷の味だが、それでも人間達の料理に慣れた舌には厳しいものもある」
 そうグイドが言いはするが、ドゥカムはそれでは引き下がらない。
 意を決したように一口飲むと、なんとも言えないぐちゃぐちゃな表情で悶絶しつつもなんとか飲み込む。
「お、おい、大丈夫か?」
「ふ、ふん! 心配無用っ……!
 何、ちょっとばかし、予想以上の酸味に、お……驚いただけだ」
 
 酸味、か。チーズみたいな臭いだが、味としてはキツめのヨーグルトみたいなものなのか?
 そう思い俺も恐る恐る一口。
 ……酸っっっっっっっぱい……!
 確かに、これは……酸っぱい。酸味はかなりきつく、ほのかにアルコールの香りもする。
 が、うーん……まあ、飲めなくもない……か? 蜂蜜か何かを混ぜればもうちょっと気軽にはいけそうなんだがなあ。
 そう考えつつ二口、三口舐めていると、ドゥカムがかなり怪訝な顔でこっちを見ている。ドゥカム的にはかなり苦手な味のようだ。
 
 そこへ再び、どたどたとやってくるのはガンボンともう一人の巨人。
 巨人はガンボンが持ってきていた小樽のヤシ酒を右手に軽くつかみ、左手には例の串刺しにした肉。
 テーブル代わりの平たい石の上にどんとその二つを置くと、再び戻っていく。
 ……まてまて、ここには皿に分ける、という習慣はないのか? 無い……んだろうな。
 周りを見ると実際どこもこのテーブル代わりの石の上に直接串焼き肉を置いて、手にしたナイフなんかでこそいで食べている。つまりは、この石テーブルがそのまま皿代わり……ということか。
 
 ガンボンの方はというと……ああ、コッチはきちんと皿に分けている。だが乗ってるものはこりゃ……何だ?
 俺、ドゥカム、グイド、そしてマーカルロ族長他数人分と思われるそれぞれの皿には、焦げ茶色というか黒というか、そんな色をしたぶよぶよの物体……正直に言えば「焼いたゲロ」みたいな見た目のもの。
「おい、ちょっとこりゃ何だ?」
 そう聞く俺の問いに、ガンボンはやや考えてから、
「……ガンボン焼き?」
 と答える。
 いや、何で本人が疑問系なんだよ?
 
 だが……。
「……何だこの匂いは……!?」
 俺より先に食いついたのはドゥカムの方。
 そう、さっきの“神々の優しさの乳”と違い、こっちはどことなく覚えのある、それでいて食欲をそそるような香ばしい匂いがしていた。
「ううむ……。我々のクズ菜ダレに似ているが……少し違うな」
「クズ菜ダレ?」
「野菜クズなどを壷に入れて塩漬けにしていると、汁が出てくる。その上澄みを煮詰めてタレにして使うのだ。
 肉を焼くときにも塗り込むが……ん? この串焼き肉の方も……いつもと少し違っているような……」
 
 塩漬け野菜の汁を分けて煮詰めるタレが巨人達の調味料として使われている、と。けどこれは少し違う……というのなら、その違いを付け足したのはガンボンだろう。
「クズ菜ダレに蜂蜜とすり潰したベリーを足して煮詰めてから、持ってきたハーブ、スパイスを追加して風味付けをして馴染ませた」
 ガンボンの説明に、それぞれなる程と頷いて、再度皿を見る。
 しかしこりゃあ……見た目が悪いぜ。

 最初に手をつけたのはドゥカム。自前のドワーフ合金製のフォークで小器用にどろねばした茶色の物体を掻き取ると一口。
「む、むむむぅ!?
 なるほど、これは面白い!」
 と、またもなかなかの評価だ。マジか?
 俺もグイドも、マーカルロ族長も続いて食べてみるが……ほォ~~~、確かにこりゃ面白い。
 
 味、香り、共に方向性としてはデミグラソースに近い。いや……どっちかっつーとイギリス人のお気に入り、ウスターソースってヤツに近いか? そういや日系の奴に聞いた話じゃ、日本人もイギリス人に負けず劣らずウスターソースが大好きで、色んなものにドバドバかけて食うそうだ。ポークのカツレツなんかにゃ、それ専用の濃厚なウスターソースがあるんだとか。
 
 黒っぽいどろどろしたゲロに見えたのは、どうやら緩く溶かした小麦粉の生地で、そこに最初からウスターソースもどきを混ぜ込んでいる。
 下処理をした肉に葉物野菜を軽く炒め、それからその上に被せるようにウスターソースもどきを混ぜた小麦粉の生地を落としさらに焼く。
 ねばねばぐちゃぐちゃのスライムみたいでもあるが、少し焦げたようなソース入りの生地は食感と味わいのアンバランスさも面白い。
 
 このねばぐちゃの“ガンボン焼き”を、ガンボンは皿によそってはそれぞれの巨人達のグループに配り、また鉄板代わりの盾で生地や具材を追加して焼いている。まあこういうとこ、けっこうマメだよな、あいつ。
 配られた皿のねばぐちゃを最初は怪訝そうに見ている巨人達も、俺達や他の巨人が食べているのを見ると手を出して食べ、それぞれに驚きつつも顔をほころばせる。グイド以上に表情の分かり難い巨人達だが、これは多分間違いない。
 
 その内、何人かは単純な喜びよりも、さっき“神々の優しさの乳”を飲んだときのグイドみたいな、何というか神妙とも言える表情を見せる。
「これは、クトリアの味だ」
 マーカルロ族長の言葉に俺は疑問を感じるが、それを引き継いでドゥカムが言う。
「今の、じゃあないぞ。ま、4、50年以上は前、か。
 まだザルコディナス三世の圧政もひどくはなく、クトリアが海路交易の中継点として栄えていた頃のだ。
 あの頃は南方諸島や獣人の国々、火山島のダークエルフに東方からの様々な交易品がクトリアに集まり、スパイスや特別な嗜好品も豊富だった。
 クトリア王からの貢ぎ物の中にも、そういったものは含まれていたのだろう」
 
 なるほど、俺の知らないかつてのクトリア……か。
 ガンボンが持っている貴重なスパイス類は、独自に南方諸島や火山島と海路交易をぼそぼそ続けていたボーマ城塞のヴォルタス家や、どういうルートか不明ながら様々な食材調味料を集めているマヌサアルバ会からもらったもの。今のクトリアじゃあまずお目にかかれないが、昔は違った……と言うことか。
 
「ああ、これはデジーちゃんだ! デジーちゃんの味だよ! デジーちゃんがまた来てくれたのかい!?」
 妙に上擦ったような声でそう言うのは、大角羊の世話をしていた例の三つ編みに麦わら帽子の年寄り巨人。
「デジー?」
 思わずそう声に出すと、マーカルロ族長がやや沈痛な声で、
「かつてクトリアからの使者だった者の一人だ」
 と言う。
 
「我ら巨人族がザルコディナス三世の奸計により、一部の者達が奴隷にされたことは知っているな?
 そしてその者達はヴェデダがそうであるように、恐ろしい術式を埋め込まれてしまった」
 戦奴とされ無理矢理ティフツデイル遠征の尖兵にされ、グイドは一人取り残されさらなる術式の実験台として剣闘奴隷にもさせられていた。
「あのリリブローマやキーンダール達は、さらに異なる魔術実験をされていた者達だ。
 ザルコディナス三世は、巨人族の隠密部隊を作ろうとし、彼等に強い闇属性の魔力を植え込んだ」
 マヌサアルバ会お得意の闇属性の魔法には、幻惑や隠蔽に適した術が多い。
 そう、例えば姿や気配を消すような、そういう術だ。
 
「だがそれは半分は巧く行き、半分は失敗した。
 彼らは特に精神的な変調をきたしている。
 多くは幻聴や幻覚、また記憶や感情の抑制にも問題がある。
 戻ってきてからもそれらに悩まされ、苦しみ、行方知れずになった者や自ら命を絶った者達もいる。
 キーンダールはその幻聴を自らの信奉する“灼熱の巨人”の声だと信じ、以前から自分こそが試練を全うするのだと主張している。
 リリブローマは過去と現在の記憶が混濁し、ザルコディナス三世による戦争の前の意識のままだ」
 
 なんとも───やりきれねえ話だ。
 ザルコディナス三世って糞野郎は、どこまで腐り果てた奴だったんだかな。
 マヌサアルバ会のアルバ、情報屋の“腐れ頭”もそうだが、“鉄塊の”ネフィル、“猛獣”ヴィオレト、“炎の料理人”フランマ・クーク……。
 三悪と呼ばれたあいつらにしたって、大元はザルコディナス三世とその配下の邪術師による実験台で魔人ディモニウムにされイカレちまった。
 話に聞く末路は巨人達に反抗されズタズタに引き裂かれたとかいう話だが、全く同情する気にもなりゃしねえわ。
 
 リリブローマという三つ編みの老いた巨人は、スパイスの効いた“ガンボン焼き”と串焼き肉を配っていたガンボンに、デジーちゃんはどこだと食い下がっている。30年以上は前の、しかも王家からの使節に居たような人物だ。それなりの要職だろうから当然生き残っちゃあ居ないだろうし、仮に生きてたとしても俺やガンボンにその居場所が分かるワケもない。
 当然答えようもなくあわあわしているガンボン。ここはまあ……一応間に入るとするか。
 俺は例の“神々の優しさの乳”をヤシ酒で割ったものをゴクリと一飲みしてから、立ち上がりガンボンの方へと向かった。
 
 ■ □ ■
 
 巨人達に寝床を提供されはしたものの、正直部屋はただ岩山をくり抜いただけの洞窟同然で、寝藁に毛皮だけの寝床はこれまためちゃくちゃ臭くてたまらない。
 幸いに、というかドゥカムが集落の一角に場所を貰い例の魔力中継点マナ・ポータルと自分専用の小部屋を建てたので、「自分達はドゥカムの護衛を兼ねてるので」という口実でテントを建てていつもの寝床。こっちにしてもそれなりに臭いんだが、同じように臭うなら、慣れ親しんだ自分の臭いの方がはるかにマシだ。
 ただグイドだけは特別に、同じ“霧の巨人”の眷族達の住居近くに寝床を貰い遅くまで色々話し込んでいたみたいだ。
 
 翌朝、けっこうな寒さにもやった空気の中目覚めると、ドゥカムが設置した魔法の湧き水で顔を洗い歯を磨き、便所で用を足してからいつもの軽い運動。基本はストレッチに型の訓練だけだが、入れ墨魔法の魔力循環も取り入れている。
 巨地豚と自分のテントの中で押し合いへし合いしつつ寝ていたガンボンは、その豚公に蹴り出されて転がった後にドゥカムの小部屋の壁に頭をぶつけてなお高いびきだが、しばらくしてその小部屋から不機嫌そうな顔で出てくるドゥカムに睨みつけられ、何やら簡単な呪文で起こされた。
 具体的にはよく分からないが、俺に魔力の流れが分かったのだから風属性の魔法だ。目覚めてキョロキョロ周りを見回すガンボンが、しきりに耳のあたりを撫でさすりしているから、多分ありゃ、耳の穴の中に息を吹き込まれるみたいに生暖かいそよ風を吹き付けられたんじゃねえかな。アレ、寝てるときやられるとすげえ気持ち悪いんだよな。
 
 火をおこして簡単な朝食の準備をしていると、次第にぽつりぽつりと巨人達が周囲に集まってくる。
 肌が暗灰褐色の者、赤銅色の者、青白い者、薄緑がかった白い者に、例の赤紫っぽい者など色々だ。
 
 グイドも来て、おこした火のそばでガンボンの出した薫製を軽くつまんでいる。朝飯自体は既に貰って来たらしい。その余りなのかおそらく串焼き肉を削いだらしい炙られた肉を結構な量持ってきてくれた。
「ふうむ。昨日は暗くてよく分からなかったが、やはり巨人族はその眷族である“大いなる巨人”により肌の色が変わるというのは本当のようだな」
 蜂蜜入りハーブティーを飲みながら周りの巨人達を見てそう独り言のように口にするドゥカム。
「灰褐色の肌は“苔岩の巨人”。赤みがかかると“灼熱の巨人”。青白い者は“霧の巨人”で、薄緑がかっているのは“嵐雲の巨人”……といったところか?」
 微妙に得意気なドゥカムだが、俺やガンボンには分からない話だし、唯一知っているだろうグイドは全く気にしてない。
 
 そこでその答え合わせをしてくれたのは、昨日最初に出会った三人の一人、スマートな赤みがかった肌の巨人。
「ああ、その通りだ。個人差もあるがな。
 改めて自己紹介をしよう。私は“灼熱の巨人”の眷族、ブラーマー部族ダドゥビザの子、ニルダムだ。
 部族内では第三位の呪術師をしている」
 名前以外は何が何やら分からんが、おそらくそれなりに地位は高いのだろう。
 
「あの、キーンダールとか言ったか? ザルコディナス三世に闇の術式を埋め込まれた者達。
 肌に青黒い色味の混ざって居る者達が、その生き残り達なのだろう?」
 続けるドゥカムに、少しの間を置いてからニルダムが「そうだ」と短く返す。
 暗い赤紫や青紫に近い色合いの巨人達。キーンダールやリリブローマ達の色合いの違いは例の心を破壊したという闇属性魔術の影響……と言うことか。
 
「ドゥカム殿。貴殿は古代ドワーフ文明の研究家で、我ら巨人族の古き事柄にも詳しい。
 そしてそれはおそらく、我らから失われたであろう事にもだろう。
 我々は“循環の試練”については多くを失った。戦争で仲間も失い、“大いなる巨人”達との繋がりも希薄になりつつある。
 今回の調査、我々も出来る限り協力をする。そして、その代わりと言っては何だが、出来れば貴殿の知恵と知識を我等のためにお借りしたい」
 ニルダムがまた改まってそう言うと、得意気な顔をさらに上に向け、
「ふふん、私の知識はかなーーーり高くつくぞ?」
 と返す。
 
 そのドゥカムにさらに改まった調子のニルダムは、
「いかほどの報酬を支払えば良いか?」
 と。

「……あー、ニルダム。そこは気にしなくて良いぞ。多分ただの冗談だ」
 あまりに真面目に返されたせいで逆に反応出来なくなったドゥカムに代わり、俺はそう軽く返しておいた。
 
 
 食事が終わり、荷物の整理も一通り終わった頃には、けっこうな数の巨人達が周りに集まってきていた。
 
 “嵐雲の巨人”の眷族であり、今ここの巨人達の集落で最長老のマーカルロ。
 “灼熱の巨人”の眷族であり呪術師のニルダム。
 “苔岩の巨人”の眷族、最初に会った三人の一人で赤ん坊の頭くらいの岩を大リーガー並みの豪速球で投げつけて来たズルトロム。
 それに例のキーンダールとリリブローマも居る。
 
 マーカルロ族長と各部族の代表達が話をし、結局はとにかくまず、“狼の口”へと数人の巨人達が同行して場合によっては調査を助ける、ということになったようだ。
 とはいえこれが、いやいや、思ってたよりも大所帯だ。
 だいたい各眷族から二、三人。加えてキーンダールとその仲間に、何故かリリブローマ。
 およそ15人もの巨人達がついて来る。
 これ、魔獣の巣窟とか言われても、あっという間に掃討しちまうんじゃねえのか?
 
 
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