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第二章 迷宮都市の救世主たち ~ドキ!? 転生者だらけの迷宮都市では、奴隷ハーレムも最強チート無双も何でもアリの大運動会!? ~

2-124.J.B.- Here Her Come.(ここで彼女の登場だ)

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「デジーちゃん……?」
 リリブローマの小さなその呟きと、突然中空から現れたその小柄な人影が視界に入ったのはほぼ同時。
 人影、と言ってもそりゃここで普通に普通のヒトらしきモンに出会えるたァ思っちゃいねえ。いねえがこいつはかなり驚き。
 言うなれば人間たいまつヒューマントーチ、全身を炎に包んだ化けモンだ。
 
「うぉい、ありゃ一体何だ!?」
 思わず叫ぶが答えはない。
 だがその人間たいまつヒューマントーチは目の前のぶよぶよゼリーに包まれた巨人の腕へと着地をして、そのまま手にしたドワーフ合金製のダガーをガシガシと叩き付け攻撃を始める。勿論全身のみならずその武器も魔力の炎を纏っているから、言わば炎の固まりそのものに抉られ切り裂かれているようなもの。
 
「なんと……とんでもない魔力だ……!?」
 驚き絶句するニルダムの声だが、どうやらこの巨人の死体で作られた死の巨人と敵対してるらしい人間たいまつヒューマントーチのおかげで、こっちも幾つか有効な対策が見えてくる。

「ニルダム! 火だ! ありゃ巨人の死体で作られた死の巨人だ! 火による攻撃は効き目あるぜ!」
 言われてすぐさま丸太みてーな杖、または杖代わりの丸太をドンと地面に打ち付けつつ、例の低く唸るような呪文を唱えて、俺たち全員へと火属性の魔力を帯びさせる。
 
 そして俺はその火属性魔力の補助を受けた【風の刃根】を放ちつつ上空を旋回。見た感じで効いてるのか効いてないのか分かり難いが、多分効いてンじゃねーかな?
 
 上から全体を改めて観ると、こりゃ本当におぞましくて糞でけえ、ジャイアント・ジャイアント・ゾンビだ。
 巨大岩蟹? いやいやそんなもんじゃねえ。もしかしたら大きさそのものは同じくらいかもしんねえが、こっちゃヤベえことに腕が六本ありやがる。その代わりに脚は半分くらいで千切れたみてえになっていて、もしかしたら急遽足の素材を腕に付け替えたりしたのかもしれねー。
 機動力を殺して手数を増やす、てのは、たしかにこの暗くて動きにくい洞窟内では正解かもしんねえが、ならこっちはその腕を丁寧に一本ずつ壊して行くしかねえわな。
 
「ぐおぉぉぉぉぉ!!」
 ってな分かり易いほどの雄叫びとともに最初に飛びかかったのは赤く輝く“死爪竜の爪”を振りかざすキーンダール。
 腕の一本へと組み付くと、“死爪竜の爪”を使い何度となく突き刺し、抉り、切り裂く。
 それを契機に、他の巨人達も次々と手にした武器で躍り掛かる。こうなりゃ隠れて機を伺うなンて場合じゃねえ。とにかくガンガン攻め続ける。
 
 見回しつつ【風の刃根】を撃ち込み、腕の動きを見て警告を発する。大きく動き出しそうなところからは一旦逃げて、別の腕へと攻撃。また大きな振りの攻撃を大勢で受け止めては引き倒す。
 悪くない連携に、さらに援護でニルダムとドゥカムの魔法が掛けられる。ニルダムは火炎弾を放ち、ドゥカムはそれらを増幅させる。
 こりゃ思ってたより悪くなねえぞ、と思いつつ、そう言えばあの人間たいまつヒューマントーチはどこ行ったんだ? と観ると、いつの間にやら巨人の頭の方……つまり、人間の女らしき身体……ドゥカム曰わく、おそらくはデジーだろう“核”の近くまで移動してる。
 何者かわからねーが素早いしまた行動が的確だ。あれは見たまんまに多分頭脳。ドゥカムの説が正しけりゃ、こいつを核にした魔力溜まりマナプールそのもののはず。
 
 問題は人間たいまつヒューマントーチの野郎の目的は何で、敵なのか味方なのかというところだ。敵の敵は味方……であって欲しいが、突然現れて死の巨人を攻撃し始めた理由も目的もわからねえ。
 そう思い観察を続けていると、不意にそいつが跳躍しこちらへ向かってくる。
 ヤバい! “シジュメルの翼”の防護を強めて回避、迎撃を試みようとすると……、
「JB!  何か来るぞ!」
「あぁ!? おま、ジャンヌ!?」
 何が何でどーなってる!? この人間たいまつヒューマントーチの炎の中身は、センティドゥ廃城塞で転送門をくぐり行方不明になっていたジャンヌ。いや確かに俺は、ジャンヌとアデリアを捜すためにここまで来たわけだが……何があってこうなった!?
 
「おいマジかおめー、何……さっきの、何だ? 炎の……アレは!?」
 今は既に周りの炎はなくなって、以前と同じ……いや、以前の装備と金色まだらの金色オオヤモリの皮で作られたらしい装備を身に付けた姿。そんなに長く会ってないワケじゃねーのに懐かしいやら新鮮やら。
「それどころじゃねえ! あのデカい化け物、何か狙ってるぞ……!!」
 飛びついてきたジャンヌを受け止め抱きかかえた形の俺は、それを受けがっしりと抱きしめてから“シジュメルの翼”で待避しつつ岩陰へ。
「待避! 離れて待避しろ!」
 大声でそう警告するが、猛りだした巨人達の半数は全く聞く耳を持たない。
 
 その瞬間……洞窟内に轟くほどの声の合唱が響く。
「うぐぅっ……が、何……だ、こりゃあ……!?」
 声……いや、音の塊に頭をぶん殴られ、そのまま脳味噌をほじくり返されてでもいるかのようだ。
 
 一つ一つの声は、それ程の大きさでも無い。ニルダムの使う呪文に似た響きを持つそれは、けれども魔術というより呪詛。生けとし生ける者全てを呪い憎むかのようで、それが何重にも折り重なり地獄のハーモニーを奏でてる。
 
「……あ? 何? ああ、そうか、糞」
 独り言のようにそう呟くジャンヌ。
「おい、ジャンヌ、おめー、平気なんか?」
「平気じゃあねえけど、耐えられる。
 てか、てめーいつまで抱きついてンだボケ」
「誰がだよ、アホが」
 ここまで運ぶ流れで後ろから抱き抱えていたが、例の呪いの合唱を受けてちょっと力が入ってしまってた。頭痛と吐き気を感じながらも手を離し、ふらりとよろめきかけた俺を逆にジャンヌが抱き止める。
 
「てめーこそ、フラついてんじゃねえかよ?」
「ああ……あまりのひでェ歌にめまいがしちまったぜ」
 めまいどころじゃねえ。胃の中のものがひっくり返りながら込み上げて来そうだ。
 
「こりゃ……合唱魔術ってものの一種らしいぜ。
 本来は儀式とかで集団で呪文を唱えるもんらしーけどよ。これは……あの死体をくっつけて出来た化け物巨人に、何人もの顔が埋め込まれてンだろ? だからそれを利用して、完璧な合唱が出来ている」
「おいおい、何だよ詳しいな」
「アタシじゃねえ。レイフの奴だ」
 レイフ……てのは確かガンボンの連れだったダークエルフの魔術師。なるほど、奴の言うとおり色々助けてはくれているらしい。
 
「んで……どーすりゃ良いンだこりゃ?」
 再び嗚咽。くそ、これじゃあ“シジュメルの翼”で空を飛ぶ……どころじゃねえな。歩くのすら危ういぜ。
「魔法耐性を上げる加護……特に光属性のものが使えると良いらしーけどよ。レイフは光属性使えねーって言うからなあ」
「ああ、じゃあ……ドゥカムだ。ドゥカムなら……リリブローマの麦わら帽子から複製して光魔法の加護を与えられる……」
「誰だそいつは?」
「おめーもセンティドゥで少しは顔見てるぜ。ハーフエルフの学者だ」
「……あいつか」
 少し遠目にニルダムと数人の巨人と共に岩陰に居るドゥカムが見える。
 
 ジャンヌの肩を借りつつそちらへ向かおうと立ち上がると……その間を分断するように死の巨人の腕が振り下ろされる。
 よろけて後ろに倒れ込んだところへ別の巨体。
 何かと思いきや……おおー、ちょっと待てコイツも何なんだよ? 何だか金色にうっすら輝くあの巨地豚のやつだ。
 そいつが俺の腰ベルトのポーチを口に咥えると、まるで「俺に任せとけ!」とでも言うかにジャンヌを一瞥。それからトントントーンと跳ねるように岩を蹴りドゥカムのところまで。
 俺とは引き離された格好になるジャンヌだが、俺がドゥカムの居る安全圏にまで連れて行かれたのを確認すると、またも全身を魔法の火に包んで素早く前線に戻る。
 
「ふぅむ、貴様もか。ドワーフ合金装備のお陰で少しはマシな様だが……」
 そう言うドゥカムも青ざめ顔色が悪い。人間より魔法に強いドゥカムや他の巨人達でも影響が出るレベルの“呪歌”ってことか。
 ここで今、呪歌の影響をあまり受けずに動いていられているのは、麦わら帽子の加護のあるリリブローマ、それをドゥカムに複写してもらっているキーンダール、元より闇属性への耐性が強いオークのガンボンに、曰わく“高い光属性魔力を持つ”という聖獣巨地豚……そして何故か人間たいまつヒューマントーチ化して現れたジャンヌ。
 
「一つ聞くが、あの火の玉人間は貴様の連れか?」
「……あ、ああ。探してた行方不明の一人、ジャンヌだ」
「……ずいぶん変わった術を使う奴だな。とにかく……まずこの豚の奴は、強い闇属性の魔法を受けると、【聖なる結界】を発動するようだ。
 こいつの近くにいる限りある程度は緩和されるが、とは言えずっと豚に寄り添っているワケにもいくまい」
 言われてみると、確かにさっきよりは頭痛も吐き気も弱くなっている。動くにはさほど支障はないが、戦えるかというと無理なくらいだが。
 
「この豚の【聖なる結界】を、貴様と他数人に複写する。全員にするには……ちょっと手間がかかるな。リリブローマの【聖なる加護】の方が簡単に大量に出来るが……まあ、どちらにせよ色々面倒だ……」
 言いながら、まずはとニルダムへと【聖なる結界】を複写して、数人の巨人達はニルダムを中心とした小隊を組み移動。まずは逃げ遅れた仲間を助けに行くという。
 それから俺だ。
 
 左手を巨地豚に置き、右手を俺の額へと翳す。ドゥカムのいつもの甲高い声からは想像もつかない低く落ち着いた呪文の詠唱。地豚の輝きがドゥカムの左手に移り、それが全身を包んでから右腕を伝って俺へと移る。暖かい。体温が数度上がったかに錯覚するそれで、【聖なる結界】の守りの力が全身を包み込んだのが感じられる。
 周りを見ると、俺を中心にぼんやりと光の帯のようなものが見える。目算では3パーカ(9メートル)程度の範囲。
「感じるか? その範囲が結界の広さだ。その中にいる、お前が味方だと認識している者達にも、お前同様に光の加護が与えられる」
 なるほど、言うなればリリブローマの麦わら帽子にかけられた【光の加護】の上位版か。
 
「よっしゃ、随分楽になったぜ」
 完全にとは言えないが、呪歌の圧力はかなり減った。
 立ち上がり戻ろうとするも、ドゥカムが軽く引き留め、
「あの火の玉娘……。あやつがこの戦いの鍵だ。貴様はアレを守ることに専念しろ」
 と言う。
 良く分からねーが、どうやらレイフとかいう奴の魔法でかなりパワーアップしてる臭いからな。
「言われンでもな!」
 さて、みっともねー所ばっか見せてらんねーぜ! やや調子は悪いが“シジュメルの翼”に魔力を循環させ、再び飛び上がる。
 
 ジャンヌもガンボンも、それにキーンダールの奴までも、それぞれに動いている死の巨人の糞でけぇ腕を引きつけ、撹乱しながら応戦してる。
 素早いジャンヌは問題なさそうで、ガンボンはそれほど機敏じゃないが体の小ささを活かし隠れながら巧みにかわす。カーニバルとかにある出店のゲームみてーだな。岩陰から飛び出す標的を、うまくおもちゃのハンマーで叩けば得点、てなヤツだ。
 一番苦戦してるのはキーンダールで、どうやら左腕が折れたかどうかしたらしい。
 素早く逃げ隠れは出来ないし、例の姿隠しは実体が消えるワケじゃ無いから無意味。そもそも他の倒れた巨人から注意をそらすためにも完全に隠れてちゃ意味が無い。
 
 そのキーンダールが攻撃している腕へと、俺は旋回しながら【風の刃根】を撃ち込み援護しつつ、そのままジャンヌの方へ向かう。
 ジャンヌが鍵になる……とドゥカムは言うが、それが実際どういう意味、どういう局面でのことなのか?
 何だかガンボンの連れのダークエルフにかなりの魔法で援護されてるっぽいが、けどその本人はどこだ?
 
 視界にジャンヌを捉えつつ旋回して魔法を撃つ。下手な動きだと死の巨人の身体や洞窟内の岩にぶつかりかねず、速度も出せないしかなりの注意力が必要になる。敵の本体に何本もの腕の動き、そしてジャンヌから目を離さず、ガンボンや他の巨人も見ておく。
 その上で援護射撃も続けるのだから、さすがの俺もいっぱいいっぱいだ。
 
 
 で、そのかなりいっぱいいっぱいのところへ、また別の勢力が現れ死の巨人へと攻撃を始める。
 先ずは激しい鉄砲水。そして無数の糸が絡みつき、巨人達に匹敵する巨体……。
 こりゃ……味方ってことで良いんだよな?
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