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第二章 迷宮都市の救世主たち ~ドキ!? 転生者だらけの迷宮都市では、奴隷ハーレムも最強チート無双も何でもアリの大運動会!? ~

2-135.J.B.- Funky Bugs.(オモシロなムシ)

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 壁や天井に擦れ当たるのも構わず全力飛行。いや、それでもまだ出力足りてねえか。追ってくる虫どもは拳大程度の甲虫だが、口に鋭い針がありぶっ刺して麻痺毒を注入してくるヤベェやつ。そいつらがブンブン飛び回り執拗に迫るが───よし、ここで交差して……決まった!
 消防車の放水より激しい水流の塊にぶちのめされた虫どもの、半数はほぼ死に、残りもバタバタと水溜まりの中で喘いでる。
 そいつをまあ、ちまちま丁寧に踏み潰して始末すれば、一段落。
 
 この精霊獣のケルピーは、半分は水の魔力そのものが具現化した馬みたいな獣で、水属性の様々な魔法を操ることの出来る奴だ。
 今回は俺が虫どもを引きつけ集めて、待ちかまえていたケルピーの【水の奔流】で一網打尽。こいつ、精霊獣ってだけあってか頭も良い。下手すりゃピクシーのピートより賢いんじゃねーか?
 
 とりあえずばらばらになってる虫どもを集めて小袋に入れる。
 こいつは所謂魔虫の一種だが、そもそも本来はここら辺に生息してる奴らじゃない。というより、本来この世界にすら居ないハズの虫なんだそうな。
 言うなれば……異世界? この次元とは異なる、特定の魔力に満ち溢れた世界があり、そこから溢れ出た、または召喚されたものだという。
 誰が言ったか? といやあ、もちろん例のダークエルフの魔術師のレイフって奴だ。
 
■ □ ■ 
 
「分かった! 今すぐにでも連れて行ってくれ!」
 そう声を張り上げたのは“巨神の骨盤”の古代ドワーフ遺跡……その奥にあった山の巨大な谷間からさらに上に登った先。曰わくダンジョンハートとかいう魔力溜まりマナプールのあるホール。
 ホールの感じはボーマ城塞地下深くにあった地底湖の奥のそれと似ている。ガンボンが言うにはここのデスクを使いダンジョンを作って、魔獣を召喚、使役したりとするらしい。
 つまりまあ文字通りにハート、心臓部と言うことだ。
 
 
 ジャンヌが例の巨人の死体で作られた大巨人、“死の巨人”の頭の部分、ドゥカムが言うところの人を核にした人為的魔力溜まりマナプール
 それへと手を伸ばし、何等かの魔力を使った方法でやり合っていたそのときに、突如としてその魔力溜まりマナプールから闇が……ああ、まさに闇そのものとでも言うべきものが溢れ出し、辺りを覆った。
 濃密なその闇の魔力───真っ黒な闇そのもの。そいつがドゥカムが聖獣の巨大地豚から写し取ってくれた【聖なる結界】による加護をも越えて脳を掻き回す。
 しかも……ただの闇の魔力ってだけじゃなく、精神的な負荷の高さが違う。絶望、悲観、恨み辛みと様々なネガティブな感情までが喚起され渦を巻き始める。
 そう、ただの闇の魔力じゃなく、悪意が山盛りに乗せられた闇の魔力だ。
 
 あまりの強烈さに、一瞬にして意識を手放しそうになるが、なんとか踏みとどまる。踏みとどまってぐらり落ちそうになるのを“シジュメルの翼”に魔力を込めてやや浮遊。しかし足場の死の巨人が崩れていくのまではどうにもできない。この状況で出来るのはなんとか着地をすることまで───あー、糞!
「ジャンヌ!」
 呼びかけるものの返事はない。どうした? 意識を失って地面に叩きつけられたか? 即死するほどの高さじゃなかった。多分、恐らくそうだ。だが意識のない状態じゃヤベェ落ち方しちまう可能性が高い。
 這うように闇の中で手を伸ばし、何かに触れたかと思うとそれは一人の巨人。
 
「デジー……ちゃん、が……連れて……」
 その主はリリブローマ。あの 魔力溜まりマナプールそのものと化した女性……恐らくはリリブローマがずっと口にしていたデジーちゃんとやらを死の巨人の身体からひっぺがそうと奮闘していた状態からそのまま落下し、その下敷きになったらしい。
 リリブローマはその前に、既に死の巨人による焼け付き肉を溶かす粘液を浴びて大きなダメージを受けていた。
 そして落下、下敷き、そして今も崩れた死の巨人からの溶解液にその身を焼かれている。
「おい、糞! こいつは……マジでクソ重い……ぜ!」
 上に乗ってる巨大な結晶のような魔力溜まりマナプールは、俺一人の力でどかせるようなもんじゃねえ。
 そこへガンボンが、それからグイド、ニルダム……と集まりだしてなんとかどけるが、その時は既に事切れていた。
 
 濃密な黒い霧のような闇の魔力はすでに薄れ、拡散し視界も元に戻っている。その中を見回し探し回るが……ジャンヌの姿はどこにもない。
 そこに、例の水を吐く水色の魚っぽいような馬───つまり精霊獣のケルピーを連れて再びガンボンが来て、レイフの居るそのダンジョンハートとやらへと案内される。

「や、JB! アカンねんて! レイちゃん、意識のうなって、目ェさませへんねん!」
 そのホールで大騒ぎしているアデリアに組み付かれるようにして引っ張られて、重厚なデスクに突っ伏したダークエルフを見たのがファーストコンタクト。いや、意識が無いからコンタクトは取れてないが、まあ初めて目にしたわけだ。
 俺たち南方人ラハイシュの褐色の肌とも違う、青黒い艶やかな肌。痩せて貧相にも見える小柄な体格で、この状態で見る分にはとても強力な魔術師には思えない。
 
 どうなってんだこりゃ? とアデリアにガンボンへと事情を聞こうとするも、ぶっちゃけどっちも要領を得ない。
 話を継ぎ接ぎしてみるに、何らかの魔術の結果らしい。しばらくすると意識を取り戻すが、“生ける石イアン”とかいう魔導具と話をしてから再び意識を失い、再覚醒した後にさらなる異変───“嵐雲の巨人”の来訪と、「次のステージ」とやらへのお誘いだ。
 
 どうするか? 行く、以外の選択肢なんざありゃあしねえ。ザルコディナス三世だか何だか知らねえが、糞舐めた真似しやがる亡霊野郎は、もう一度棺桶に叩き返してやるしかねーだろ。
 それにレイフというダークエルフの魔術師も乗って来る。奴がジャンヌと居たのはほんの十日ちょい程度。それでそこまで関係が深くなったか? そりゃ俺にも分からねえ。何にせよ助かる話ではあるが───。
 
 
「俺からも頼むぜ、ガンボン」
 レイフが何やら言い含めたとかで、ガンボンはアデリアを連れて一旦アジトに戻る。それからハコブ達にこれらの話を伝えて、今回同様に外と中から攻略する───てなことにしたらしい。ああ、いいね、悪くねーぜ。センティドゥでもそれで勝ったんだ。
 
 ぐしゃぐしゃな泣きっ面のアデリアを残し、俺とレイフはいくらかの荷物と共に糞バカでかい大型セスナ機みてーな鷲に似た鳥の背に乗せられる。嵐の霊鳥とかいうそいつは、ぶわっと空気を巻き上げて羽ばたくと、このやたらに吹き荒れる谷風の中を舞い上がり……とんでもない高さまで急上昇。
 必死で捕まってないと即死するかってな風だというのに、意外にも背の上は安定して穏やかだった。これは俺の“シジュメルの翼”同様に、空気の膜で周囲を覆って防護してるんだろう。となるとこいつの飛行も、鳥本来のそれではなく魔力によるものなんだろうかな。
 
 そのまま連れて行かれたのはほぼ山頂近い標高の絶壁。そこに大きな横穴が開いていて、格納庫みてーに入っていく。
 着地して伏せた嵐の霊鳥からひょいっと降りると、その背の上から転げ落ちそうになるレイフ。ご立派な銀のブーツを履いてるが、その辺アデリア並みに不器用臭え。受け止めて支えると、これまた見た目以上に軽くて華奢だ。ドゥカムもそうだが、エルフってのは基本的に人間よりも平均的に軽いらしいが、こいつはまるで子供並だ。
 
「ありがとう」
 ややぎこちない簡潔な帝国語でそう言うレイフに、ん、待てよ? と気がついた。
「……待て、お前……女か?」
 ガンボンから聞いていた話やドゥカムの存在含めて、勝手に熟練のダークエルフ魔術師をイメージして、それも勝手に男だと思い込んでいた。けど改めて考えれば、ガンボンは女とは言ってなかったが男とも言って居ない。単に性別について何も言ってなかっただけだ。

「はい。エルフの外見は、人間と比べて、性別が分かり難い」
 そのエルフ特有の黒目がちな目で見られると、何だかこちらの腹の底まで見透かされるかに錯覚しちまう。ドゥカムみたいに感情の起伏が常から開けっ広げなら分かり易いが、こんな風に落ち着いた佇まいだとそうもいかない。
 ややばつが悪くなり、
「そうか。悪い」
 と目をそらすが、
「気にしないで。行きましょう」
 岩棚の上に足を着くと、抱えるように持っていた杖を突きながら歩き出す。
 こちらもどうやら単に不器用ってんでもないらしい。
 
「あ、すみません、あの荷物、下ろして下さい」
 言われて、まだ嵐の霊鳥の背に乗せたままの幾つかの袋を取り、レイフの後を追い奥へと進む。
 
 
 篝火の焚かれた高く広い洞窟のような通路を進むと、やはり例のダンジョンハートとやらに似たホールに出る。
 その真ん中にはまたも台座に設えられた人為的魔力溜まりマナプール。そしてその横には───やや緑がかった青白いような肌の巨人。
『準備はよいか、“挑みし者”よ』
 頭ン中に直接聞こえるその声は、相変わらず心の……いや、魂の奥底にまで響いてくる。
 けど見た目はこりゃどーしたもんか。今まで見てきた苔岩の巨人の姿や、ついさっき見た渦巻く嵐そのものの姿とも違う。
 今のこの姿は、巨人の集落にいた他の普通の巨人達と大差がない。
 けどどーゆー事かは分からねえが、頭に響く声の感じはさっきと同じ。だからまあ、そーゆーもんかと納得しておくしかねえわな。
 
「───あー……うん、多分」
「多分、ってお前……!?」
 しかしこれが、“大いなる巨人”の改めての問いに何やら曖昧な返しをするレイフ。
 
「あ、いや、良いですよ? 良いですけど……ちょ、ちょっと待って! 深く……長く……深く……長く……」
 何やら急に深呼吸なんか初めてやがる。
「おい、どっか具合でも悪ィのか?」
「……いえ、はい、良いです。行きましょう」
 
 何だかな……。ガンボンの言ってた感じとかなり違うな、こりゃ……。
 確かに人柄は悪く無さそうだ。アデリアも懐いてたみてえだし、ジャンヌが短期間であんな風に動き回り魔力の扱いに慣れていたのも、どうやらコイツのお陰でもあるらしい。
 だが……まあ、マーランにティエジに、と、魔術師ってのはぱっと見の風体物腰からは決めて掛かれないもんだけどよ。正直何だか頼りないぜ。
 
 まあ良い。別にコイツに頼って何とかする気はハナからねえ。俺は俺の意志俺の力で……ザルコディナスか誰か知らねえが、ジャンヌを攫ってったクソ野郎をぶちのめして助け出してやる。
 
「俺はいつでも構わねえ。ていうかさっさとしてくれ。時間が惜しい」
 そう青白い肌の“嵐雲の巨人”へと改めて向き直るが、
「いえ、その前に、まだ聞きたいこと、あります」
 と留められる。
 
「おい! いいだろもうそんな……」
 そう組み付くように声を荒げちまうが、
「いいえ、よくありません。これから行く先───そこでどう振る舞いどう戦い、どうジャンヌを救うか……そのためには、きちんと聞いておく必要、あります」
 きっぱりはっきりとそう言ってきた。
 
 それからどんなやり取りをしたかは分からねえ。奴は自分のネイティブな言語のエルフ語で話していたし、どうやら“大いなる巨人”の声も奴にしか返していないようだった。
 どっちにしても聞いたところで俺に分かる話かどうかは怪しいし、だったら後から奴に聞きゃあ良い。苛立ち焦りつつも暫く待ち、ようやく話が終わったのは半刻ほどか。途中でまたそこにある魔力溜まりマナプールへと手をかざして何事か呪文みてえなのを唱えていたりもしたが、何をしてるのかもはっきりとは分からん。多分支配したってことなんだろう。
 
「待ちくたびれたぜ」
「はい、行きましょう」
 軽く嫌味を言ってやるが、あまり通じた様子はない。まあいいぜ、どっちにしてもよ。
 
『───改めて、言う。
 “悪しき者”の巣くう場所へは送ってやれるが、後戻りも出来ず、我ら自身が手助けすることも出来ぬ。
 我らの今の力で出来るのは、“悪しき者”をその領域から出てこぬよう封じ込めることのみ。
 お主ら二人───それに従う使い魔、召喚獣などでのみ、道を切り開くしかない』
 再び聞こえた“大いなる巨人”はそう警告するが、ああ、構わねーっての。
「───はい」
「上等」
 
 そうして、俺たち二人は───。
 
□ ■ □
 
「うえぇぇぇ。しっかしいつ見てもきめぇな」
 小袋に詰めた虫の死骸を改めて見ながらそう呟く。
 いや本当マジでキモい。ぱっと見はカブトムシやクワガタに近い甲虫なんだが、黒を基調の外骨格は油が浮いたようなぬめりがあり、またそこかしこにこう、人間の目玉に似た目がついている。
 いや昆虫じゃねえのかよ!? とも突っ込みたくなるが、まあ別世界の生き物じゃあなあ。
 
 そんなマジでキモい虫の死骸を集めてどうするのか?
 これが……はァ~~……いやマジ憂鬱だぜ、本当に。
 何にするか? 煮出してお茶にするんだよ、これを!
 
「戻ったぜ」
 入り組んだ狭い通路を行ったり来たりでたどり着いたのは、これまた小さく狭い穴ぼこみてえなところ。
 雑に岩肌をくり抜いた坑道の出来損ないとでも言うか。
 クトリアで暮らしていた地下街とも、“巨神の骨盤”の巨大洞窟に造られたドワーフ都市とも異なる。
 とにかく狭くて息苦しいような、なんつーか蟻の巣穴みてーなところだ。
 
「お帰りなさい。成果はありましたか?」
 ややぎこちないが文法的には丁寧な帝国語でそう返してくるのは、その穴ぼこの壁際に座るダークエルフ魔術師のレイフ。
 闇の中で魔法の僅かな光に照らされる青黒い肌は、なんとも独特の神秘的な艶めかしさすら感じられる。
 
 ダークエルフだから……てんでもないのか分からねーが、なんとも掴み所が無いというか、腹の底が読めないところがある。あるがまあ、腹に一物抱えた悪党策士、ってーんでも無さそうなのでなんとも言えねぇ。
 
「おらよ、こんだけだ」
 投げて渡す小袋の中のクッソきめぇ虫の様子を見て、何やらふむふむニヤリと軽い笑み。いやそれ、今のこの明かりの少なさからするとけっこうヤベェ顔つきだぜ。
「これは、乾かしておきます。前の分が、出来てますよ」
 ニコリ、とまた微笑んで、陶器のポットにマグを渡される。
 中身はもちろん……。
 
「ぐっ……! くせぇ……!」
 なんとも言えない苦味というか焦げ臭さと言うか。或いは腐った穴掘りネズミの内臓を焦げ付かせて乾燥させた匂いとでも言うか……。
 当然匂いだけじゃなく、味の方も最悪で、焦げた木炭を濃縮したような糞苦い味。
 何にせよ「異世界から来た純度の高い闇の魔力溢れる魔虫」から煮出した、“闇のエキス”とでも言うそれを……俺はここに来て毎日のように飲んでいる……いや、飲まされている。
 この……なんとも言えねぇ穏やかだが腹の読めない笑顔と共にな!
 
 何故俺がこんなところでこんな臭くて糞苦いもんを飲まさせられているか。それがまあ……この場所の“闇の魔力濃度”の問題だ。
 
 嵐雲の巨人曰く、「“悪しき者”ザルコディナス三世の支配する領域」だと言うこの場所は、とんでもねえ程の闇の魔力に満ちていた。
 そもそも魔力というのはこの世界のあらゆる場所に存在しているという。だがそれらには属性の偏りや濃度の差があり、偏りは周りの環境と相互に関係し影響し合っている。
 
 例えばクトリア周辺の砂漠、乾燥地帯は水属性の魔力が希薄で、その結果土属性の魔力も弱くなってる。
 つまり「乾燥して水属性の魔力が希薄→土が十分に水を含まず、生命を育む力も弱まる→結果、土属性の魔力も弱まる」と言うことなのだそうだ。
 
 この場所の闇の魔力は、レイフ曰く「闇の森以上」だという。
 ここへと運ばれてきたとき俺はドゥカムが複写してくれた【聖なる結界】の効果が残っていた。それでも、転移させられた直後から胃がひっくり返りこね回され頭痛と吐き気が治まらない程の状態になる。
 意気込んで啖呵を切ってやってきておきながら、即座に行動不能で倒れ込むなんざみっともねぇったらありゃしねーぜ。
 けどそんな状況の俺を、レイフがなんとか世話して回復させつつ、周りに結界を作り闇の魔力を緩和させてくれたお陰で、一応こうして動き回れている。
 
 このレイフの結界は、ドゥカムが複写してくれた【聖なる結界】とは違い、対闇の魔力、対呪い、てなのではない。
 空間にある魔力の偏りや濃度をある程度調整してくれる、というもの。
 んーー。空気中の極端な湿度や酸素の薄さみたいなのを調整して、ほどほどの湿度や酸素濃度に変えてくれる……みたいなもんと言えるのか?
 
 が、それはあくまでレイフが……あー、領域の支配とやらを出来た場所に限られている。
 その範囲から出て、来た当初に浴びた濃度の闇の魔力をまた浴びれば、【聖なる結界】の効果もなくなった今、レイフ曰く「体中の穴という穴から血と体液を吐き散らしながら悶え苦しみ死ぬ」らしい……。
 ホラー映画並みの死に様だな、そりゃあ。
 
 で、話は例の臭ェ虫を煮出した汁……に戻る。
 煮出したお茶の中には、ある種の不純物を取り除いた闇の魔力が抽出されている。
 ぶっちゃけ毒だ。毒茶だ。なので臭くて糞苦い上に、飲むとまためちゃくちゃ気持ち悪くなるしちょいちょい吐く。
 それをレイフの【大地の癒やし】とかいう治癒魔法を受けながら飲んでは吐き、飲んでは吐きの繰り返しだ。
 どんな変態プレイなんだよ、ってな話だが、まあなんつーか「毒をもって毒を制する」だのなんだの、ってな事だという。
 
「この状況は、本当に、切実に、とても、危ないです」
 こっちに飛ばされ約半日ほどのたうち回った後に、真剣な顔つきでそう言いだし、俺にとって今この場所に満ちた闇の魔力がどれほど害になるかを丁寧すぎるほど丁寧に説明された。つまり大まかには今ざっと整理したようなことを、だ。
 そしてその対処方として提案されたのがこれというワケだ。
 
 鼻をつまみ目をつむって一気に流し込む。吐き戻しそうになるのをこらえて全てを飲み干すと、脂汗と共に身体中から得体の知れない黒いものが溢れ出しそうだ。
 飲み干すと同時にぶっ倒れて、びくびくと痙攣するかに震えだす。吐き気に頭痛、寒気と熱が一気に襲ってきて、指先一つ自分の意志では動かせない。
 
 その俺の背中からふんわりと暖かい感覚が広がり、この最悪の感覚と押し合いせめぎ合いし始める。
 治癒魔法ではあるが、所謂光属性の浄化ではないし、身体に入った闇属性の魔力そのものを無くす効果はない。というより浄化したら意味がない。あるのは、俺の身体に起きている高濃度の闇属性魔力への拒絶反応を緩和し、また耐えられるように消耗した体力を補うだけ。
 くっそ……また意識が朦朧としてきやがった……。
 何度目か分からねー程いつも通りに、俺はまた意識を失い、闇の中へと落ちていった。
 
 
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