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第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!
3-46.マジュヌーン 砂伏せの猫(29)-流血のならわし
しおりを挟む「ぬぐぁあああッッ……!? 貴様……まさかそれは……!!??」
苦しみのたうつかの術士に、護衛二人が慌てて駆け寄るも、何をどうすべきか分かりゃしねえ。
今度は剣を構えて気合いとともに俺へと振り下ろす。
それを……俺は胸から突き出てきた真っ黒な歪んだ刃の塚を握って引き抜くと、そのまま受け太刀をしてから左に逸らし、くるりと回転させ逆手に握り直し素早く突き入れる。
突き出したその歪んだ黒刀はぬるりとした奇妙な感触で護衛の一人の横腹に吸い込まれ、引き抜いて半回転でもう一人の剣を持つ腕を切り裂いた。
その間……まるで一呼吸、二呼吸の僅かな間。
しかも、右足は引きずったままの状態で、だ。
俺は荒く息を吐く。疲労からでも痛みからでも、興奮からでもねえ。
吐き気を催すほどの悪寒。腹の奥底から湧き上がり渦巻く感情────怒りからだ。
「糞ッ……たれ!」
血塗れの右足を跳ね上げ、地に伏すようにうずくまる仮面の術士へと蹴りを入れる。
「がッ……はァッ!?」
嗚咽するその姿を見ると気分が高まり、さらに蹴りを数回。最後にその整った顔を踏みつけにして力を入れて踏みにじる。
「ぐぅっ……うぁぁう……」
「何……なんだよ、テメーらよ? あぁ……?
いきなり、しゃしゃり出て来……やがッて……糞が……。
コッチは……色々……面倒なンだよ……攫われたり……奪い返したり……よ。
ただでさえ……糞面倒臭ェ……状況なンだから……余計な事……すンなッッ!!」
「ぐぁッッ!!!」
言い終わらぬうちに、背後から飛びかかってくる手首を切った護衛へと回し蹴り。見ると何故だか手首の傷からは血が止まっている。何やら使ってやがんのか、化け物みてーな回復力だな。
「───そこまでにして頂けぬか?」
闇の奥から聞こえる別の声。先の術士より低く太いその声は、余裕でもあるかの響きがかんに障る。
「テメーがこいつらの代わりになるッてーのか? あ?」
「いや。
だが貴君も万全ではなかろう。
お互い、本来の目的を損なうのは得策であるまい?」
本来の……目的?
頭がぼんやりとし、それが何だったかと考えてもいまいちはっきりとしない。
「ああ、そりゃ……テメーらの喉をかッ斬るッてことか……?」
歪んだ黒刀をくるりと再び構え、新しい来客へと向き直るが───、
「───チーガーーウ、でーしョォ~~」
後ろからのし掛かるようにしてマハに組み付かれる。
「マジュヌーン、馬鹿。頭に血昇ってる。馬鹿。単純。馬鹿」
足元で倒れてるカシュ・ケンを平手でたたき起こしつつ“馬鹿”を三連呼してくるムーチャ。
「仕事はァ~、猫獣神のォ~、救出ダノー。最優先ー!」
何やら酔っ払ったみてえなふにゃふにゃした口調だが、さっきの長身の方の術士による【魅了の目】の効果が残ってるからなのかはよく分からねーが、とにかくそのマハに毒気を抜かれて、俺は深く息を吐く。
「……ああ、そうだな。俺達ゃテメーらにゃ用はねェ。そっちがまだあるッ……てンなら別だがよ」
「ええ、我々もあなた方には用はありません。ただし───あの死霊術士は別ですが……」
なんともまあ、大した人気者だな、あの野郎は。
▼ △ ▼
連中の言い分はこうだ。
奴らの親分───まあ、主ッてーのがかなり前に攫われた。
紆余曲折ありなんとかその主は取り戻したが、その間に多くのモノを奪われたとか。
で、こいつらはそれを取り戻す為に、クトリア王都に居た生き残りの邪術士、死霊術士連中を追跡している。
このドニーシャの廃神殿へと住み着いていた奴らもその一部。
「───ですので、我々としてはあの死霊術士から情報を引き出す必要があります。
あなた方が 奪われた猫獣神を取り戻したい様に、我々もまた奪われたものを取り戻したい。
モディーナの早計な振る舞いは詫びます。そして我らの従士の怪我に関しても不問としましょう。
ですから……」
「死霊術士を引き渡せ……、ってか?
再び神殿前の広場にて、縛り上げられ顔面蒼白な死霊術士はぶるぶると首を振り拒絶を主張しているが、その決定権は俺にはねえ。
惨めそうな顔で同情を引きたくても、黒石の台座の周りに散乱するリカトリジオスのみならぬ様々な死体の山を見れば、イマイチ同情心は沸いてこない。
ただ、何にせよ何より雇い主たる“砂伏せ”達がどう判断するか。
「我々ハ、猫獣神さえ無事に戻ってくれば後はどうでもいいスな。スかス、まずは猫獣神に取り憑いた悪霊をどうにかスてもらわねば…… 」
ダーヴェのレスリングテクニックによる押さえ込みと、月光花の練り香の力でなんとか大人しくさせている悪霊を取り憑かせられた“砂伏せ”の猫獣神を見ながら代表がそう言う。
その為には死霊術士を殺せば良いのか、術を解かせる必要があるのか、その辺りすら俺らにゃ判断出来ねーしよ。
だがそれを聞くとその喋りのやたら慇懃な仮面の術士は、
「ならば問題ありませんな」と言いながら、手にした指輪を触りつつ何事か唱える。
するとダーヴェの押さえていた猫獣神から何か薄気味悪い影のようなモノがぶわっと巻き上がり、それが黒い霧のような粒子として醜くおぞましい姿を中空に描いたかと思うと、吸い込まれるようにしてその指輪へと消えていった。
「ンナーフ……マーグロウマー……」
文字通りに「憑き物の落ちた」“砂伏せ”の猫獣神がそう言うと、ついてきていた“砂伏せ”達から歓声があがる。
「貴殿のソレが万全であれば、私の指輪など必要なかったのでしょうがね……」
ちらりと俺の胸板を一瞥してそうボソリと言う。
俺の……そう、さっきまでこの手に握っていた黒く歪んだ醜い刃。それは気が付くとまた再びどこかへと消えていた。多分そう、それはまた俺の心臓の中に潜んでやがる。
ヒジュルが俺の心臓をあの刃で刺し貫いたそのときから、あの黒刀は俺の心臓の中にずっと“在った”んだ。
『“災厄の美妃”は貴様を選んだ……。それが貴様の運命だ、受け入れろ』
そのときのヒジュルの言葉が思い起こされる。
『抗えば死ぬぞ』
そして俺は生きていた。つまりは───あの刃を俺は受け入れた。そう言うことなんだろうな。
「───貴殿が」
仮面の術士は俺だけに聞こえるような小さな声で、そうボソリと耳打ちする。
「いかにしてそれを手に入れたのか、それが本物か複製か───それは私には関係ありません。
しかし何れにせよ……忘れてはなりません。
“災厄の美妃”は常に生命と魔力を欲しています。
あるいはそれは、あなた自身のものかもしれません……」
「へッ……、そうかい。覚えておくぜ」
鼻で笑ってそう返すが、これがただの脅しじゃないだろう事は、俺にも十分に分かっている。
▼ △ ▼
結果から言えば万事めでたし、めでたし。
猫獣神は無傷で取り返せた。俺達には大きな被害はなし。“砂伏せ”の戦士が数人怪我をし、“砂漠の咆哮”の中じゃ俺だけ右足に凍傷含めてかなりの怪我を負ったぐらい。
戦利品は他にリカトリジオス軍の残した装備に物資。そして死霊術士達の残した魔法薬に魔導具やら宝石やらと、かなりのものだ。
こういうとき、依頼に含まれない戦利品は基本的には俺達が独占出来る。だが今回は“砂伏せ”の戦士たちも同行しての戦利品になるから、そこは半々で分け合う形。
それでもこれだけのモノが手には入るってのは、間違いなくとんでもねえ収穫だ。
“砂伏せ”達と手頃な場所を見つけて夜営をし、戦利品の分け方の話やら傷の治療やらしてひとまず休み、明け方にまた飯など食いながら仕分けをする。
“砂伏せ”達は死霊術士達の魔法薬やそのレシピ、そしてリカトリジオスの食料なんかを主に欲しがり、俺達としては使えそうな武器や防具、魔装具類なんかが欲しい。それらはそのままでも有用だし、“砂漠の咆哮”で買い取りもしてもらえる。
それ以外の宝飾品なんかは、街まで行って換金すればかなりの金額になる。
結果から言えば、初仕事にしちゃあ本当に「運が良い」。
夜明から昼前までは移動をする。
俺は“砂伏せ”達からはかなりの感謝をされ、手厚い治療と共に今はここの猫獣神の背に乗せられ運ばれている。
大型犬より少し大きいくらいの体格だが、その力は大型犬なんざ比べものにならねえくらいあるからな。
昼前にはまた野営をして休息。
風通しは良く、日陰があり、なおかつ周りを見渡せる良い場所で、日除けの簡易テントの影の中横になりつつ、俺は右手を心臓の上へと置き、その醜くただれたような傷跡へと指を這わす。
ヒジュルが何を考え、どういう目的であの黒く歪んだ刃を俺に与えたのか……いや、奴の言葉を借りれば、“災厄の美妃”が俺を「選んだ」のか。
そいつは未だに分からねえ。分からねえが……ヒントはある。
俺の家畜小屋時代のおぼろげな記憶。そして死ぬ直前のヒジュルの言葉。
邪術士シャーイダール。
その邪術士が、この件には何かしら噛んでいる。それは多分間違いない。
だとしたら───まずはそいつを探し出すこと。
いや、探し出さなくても、恐らくはそいつから何かしらやってくるだろう。
いずれ、そう遠くないうちにな。
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