遠くて近きルナプレール ~転生獣人と復讐ロードと~

ヘボラヤーナ・キョリンスキー

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第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!

3-48.マジュヌーン 川賊退治(31)-空と海が出会う場所で

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 港湾都市バールシャム。ラアルオームの東にある独立した都市国家で、クトリア人と南方人ラハイシュ達の入植者達により作られた。 猿獣人シマシーマの王国アールマールとは同盟関係にある。猿獣人シマシーマは海の近くに住みたがらないし、船に乗るのも好きじゃないが、人間達はこの都市を中心に河川を使い、また外洋に出て東海諸島やさらにその先のダークエルフの住む火山島や東方人の住む地域なんかと交易をしているらしい。
 
 とにかく船を使った交易や水上運輸という、猿獣人シマシーマの苦手とする、あまりやりたがらないことをすると言うところで利害が上手くかみ合っていて、猿獣人シマシーマの王国アールマールと港湾都市バールシャムはかなり良好な友好関係にある。
 
 アスバルは 空人イナニースという傍目には“翼の生えた人間”みたいな種族に生まれ変わっている。そんでその種族はぶっちゃけ特に人間達からかなりウケが良い。チヤホヤされるのが大好きで、その上【魅了の目】なんてのを持っているアスバルが、ラアルオームより人間の多いバールシャムへとちょいちょい行くようになるのはまあ自然な流れ。
 
 シーリオの北にあるボバーシオとは逆に、バールシャムは昔は幾つかある海賊の拠点の一つだったらしい。
 クトリアが瓦礫の廃墟になるより以前、まだ海洋交易の国として栄えていた頃には獣人達との交易拠点だったが、その後政情が不安定になると東海諸島を中心に海賊達が勢力を拡大。で、この河口の集落もその一つとして占拠され荒れていく。
 そこを4、50年くらいだか前に、クトリアの交易商だかのナンタラ家が中心となり武装船団を結成して海賊連中を追い払おうと戦いが始まり、火山島のダークエルフまで巻き込んでの全面戦争の果てに、大きな拠点の全てを奪還、破壊した。
 生き残った海賊連中はさらに南の方へと逃げたりもしたらしいが、以前のような大規模な海賊組織はなくなっている。
 
 は、ず、だ、が……だ。
 
「その生き残り連中がまたちょっと勢力を強めだして居るんだとさ」
 とのアスバル情報。
 
「けーどよーう。俺ら船乗りじゃねえべさ? 海賊相手にドンパチやんのは柄じゃあねえべ?」
 カシュ・ケンは種族的には海嫌い船嫌いの猿獣人シマシーマだが、クトリアの家畜小屋生まれの家畜小屋育ち、覚えているのはほぼほぼ前世で、文化的に猿獣人シマシーマらしい気質はそんなには無い。なので海も船も特に嫌いではないが、かと言って船乗り並に海上戦が出来るワケじゃあない。
 
「あー、違う違う。別に船で戦えってな話じゃねえよ。基本の依頼は偵察と情報収集。
 一つは怪しい地域を探って、海賊共の隠れ家やら何かが無いか調べる、ってのと、どうも連中、奴隷狩りか何かして戦力増やしたりしてっらしいから、その辺の調査? みてーなの。
 んで、ま、特に俺は上空から広範囲探せるし、カシュ・ケンは木の上とかウキウッキーで得意だろ? マジー達猫獣人バルーティは隠れてコソコソ嗅ぎ回るのうめえじゃん?
 結構俺らに向いてるんじゃね?」
「……おめー、軽くディスってねえか?」
「えー? 別に全然ー?」

 言い方は相変わらずチャラいしウゼェが、アスバルの割には結構的確な状況分析。確かに俺ら向きな仕事かもしんねえな。
 
「俺ば、どうずる?」
 巨体怪力が売りのダーヴェがそう聞くと、
「お前やることねえし、残って畑でも耕してろよ」
 と素っ気なく返す。まあ確かに、調査や偵察がメインならダーヴェには全力で向いてねえか。
 
「ま、どっちにせよ農園の規模もけっこうデカくなってきたし、あんま長いことここを空けておくワケにもいかねえな」
「いっそ小作人か何か雇った方が良いかもなあ」
「畑だげで、ぞごまで利益ば出ぜでねぇ」
「そこは他で補填するしかねえか」
 農園の収穫、カシュ・ケンの小物作り、俺の狩り。どれもそれだけじゃ稼ぎと言うにはまだまだで、やっぱり頻繁に“砂漠の咆哮”での依頼を受け、その中でも最初の死霊術士とのときみてーなラッキー副収入が欲しい所じゃある。
 
「……おお? 待てよ待てよ? 海賊の隠れ家見つけてよ? そこで財宝とか手に入れれば、結構な副収入にはなるんじゃね?」
 カシュ・ケンがそう気付いてはしゃいだ声をあげるが、
「……そーれーは、あきまへん!」 
 と、ここまで黙っていた“依頼人”の南方人ラハイシュの女がそう言った。
 
▼ △ ▼
 
 マーリカというその南方人ラハイシュの女は、小柄で丸っこい顔立ちで、一見すると幼くも見えるが、体つきはむっちりと大人びてもいる。何とはなしにアンバランスな印象を受けるが、そこも含めて愛嬌のある雰囲気だ。
 それもそのはずで、これは後になって聞いた話だが、彼女は南方人ラハイシュ猿獣人シマシーマの混血で、体格含めて猿獣人シマシーマの特徴が現れているからだ。つまり、やや小柄で手足が長く耳が大きくて毛深い、と。
 この辺りでは猿獣人シマシーマ、または猫獣人バルーティと人間の混血は少なくないらしい。
 人間種と獣人種の混血というのはほぼ全ての獣人種で出来るものらしい。ただし種によって出来やすさに差はあるそうだ。そして獣人種と人間種の混血の殆どは、ベースが人間で、そこに獣人種の特徴が合わさったような外見、能力を持つ。
 その次の世代はというと、同じ獣人種と人間種の混血と子をなさない限りは、非混血種側に寄る。
 これは獣人種同士の混血でもだいたい似たようなものになるらしいが、獣人種同士の方がもっと複雑ではある。
 前世の遺伝だの何たらの法則だのの感覚前提ではいまいちピンとこないところだ。
 
 そしてマーリカの妙に癖の強いクトリア語は、バールシャム周辺の特徴。
 最初の媚びた感じのお軽い喋りはアスバルを調子に乗せるための演技でもあったンだろうが、今はもっとしたたかそうな地金を見せてもいる。
 
「新興の海賊共は今は小型、中型の交易船狙いばっかしやし、盗られたンはほぼウチ等河川交易組合のモンやから、それは取り返させてもらわんと困りますわ」
 にこやかな表情はそのままに、しかしキッパリとそう言う。
「ん~~。理屈は分かるがよォ~? それじゃこっちの実入りが少ねェぜ」
 カシュ・ケンが頭を掻きつつややそう食い下がると、
「“情報”には追加の謝礼を払いますわ。海賊の拠点の位置だけやのうて、その戦力、武装度合い、捕虜の数や位置、それに奴らの集めたお宝の場所や量、隠し財宝……。
 何でも役に立つ情報ならええお値段で買わせて貰います」
 と返す。
 お宝そのものは貰えずとも、お宝の情報は売れる……と言うことか。
 
「ま、そこは分かった。ただ、何だ。マーリカ、アンタはつまり、その河川交易組合の代表として俺らに依頼をしに来た……てことで良いんだよな?」
 改めて、そう確認をする。
「そうですわ~。今回の依頼は、ウチ等河川交易組合とヴォルタス家とが共同依頼主で、“天空を貫く風”のアスバルはんとそのお仲間への指名依頼です」
 下界じゃ珍しい空人イナニースで、しかも“砂漠の咆哮”の一員。仕事そのものは適当なアスバルだが、その名は結構売れている。そして依頼内容が海賊共の拠点の偵察となれば、空を飛べる空人イナニースを指名するというのは理にかなっている。
 
 ちらりとアスバルへと視線を送ると、本人はどうもマーリカが河川交易組合を代表して来ていると言うことを全く理解していなかったかの呆けた面。何も考えず呆けている時の方が、顔立ちの造形の良さと空人イナニース故の神秘性から、何か物憂げで思慮深げな風に見えるンだが、実際この顔の時はガチで何も考えてない。
 
「細かい条件はこちらに記載してあります。条件設定の交渉はあちらにお越しになられてからでお願いしますけれども、あんさんらには絶対に損はさせませんわ」
 羊皮紙の巻物を取り出して広げて見せると、クトリア語で細かく何かが書かれているが、
「悪ィな。俺ら難しい文書は読めねえ」
 俺らの知ってるクトリア語は、家畜小屋で勝手に覚えたり習わされた一般的な会話レベル。文字も最近になって覚えたりした。アルファベットと同じ様な音と対応した文字だから通り一遍には憶えられたが、これで漢字みてーなのがあったら無理だったろうな。
 それでも、難しい文法や専門的な言葉になると全然だ。
 
「せやたら、後で簡易な言葉で改めて書かせていただきますわ~」
 くるりと丸めて懐に戻そうとするマーリカの手を止めて、
「一応読める分だけでも読ませてもらうわ。預かっても良いか?」
「───それは、お請けして頂ける……言うことでよろしいんですか?」
 
 マハ、アスバル、カシュ・ケン等を見回して意思確認。
 
「前向きに検討……てな所かな?」
 
 ▼ △ ▼
 
 船で河を下って夕方にはバールシャムだ。
 バールシャムは街の半分は海の上で、桟橋と小舟が道と家。そんな連中がかなり居る。
 遠くに目をやれば、見事に美しいブルーの光り輝く海と水平線。
 だが近くへと目を戻すと、猥雑でゴミゴミした街並みとゴミだらけの汚い水面。
 
 かなり広い河口の北と南でいつの間にやら住み分けが出来るようになっていて、北は地盤も固く高台も多い。中産階級から上流階級が住んでいて、半ば湿地帯でもある南岸側は貧困層。
 当然ながら河川交易組合があるのは北側だ。
 
 河川交易組合本部も半分陸上半分河の上で、そのまま桟橋と繋がり中型から小型の船が繋いである。
 船は外洋を行くような船底の深いタイプじゃなく、上から見たシルエットが笹の葉みてーな浅い舟で、小型なら3、4メートル、大型は10メートルくらいだろうか。
 それぞれ1本から2本くらいのマストがあり、変わったモノだとそれを二本の梯子で横に繋げたみてーなのもある。
 
 ちょっとした積み荷なら小型のやつでちょいちょいと往き来できるが、規模の大きいものなら数艘で船団を組む。で、そういうのを狙って海賊……まあ厳密には川賊か? そいつらが暴れてやがるらしい。
 川賊共の舟はそう大きなもんじゃない。つまり目立たない。小型、せいぜいが中型。中には貧しい漁民の使うような葦舟なんかもある。
 だが、数が多く何時の間にか囲まれて、矢を射掛けられ数人が手傷を負うと脅してくる。舟から降りて泳いで帰れ、とな。
 
「特に、霧の多いときを狙って襲撃をしてきますのや」
 河川交易組合の組合長だというやや肉の付いた、眉も鼻も身体も全体的に太いキオン・グラブスという名のクトリア人系の中年男は、顔をなで上げながらそう言う。
 飾りは少ないが上質な布地らしい衣服。ゆったりした白の服の上に濃い赤い色のベストを身に付け、房飾りと宝石のあしらわれた赤い円筒形のトルコ帽のような帽子を被っている。この帽子はこの辺りではよく被られているようで、またここの警備兵や使用人たちも色違いの房付き帽子をしている。ある種の組合員の証みてーなもんかもしれねえ。
 組合長は顔立ちは濃いが、全体として俗っぽい下品さが無い。かと言って上流階級的な気取った雰囲気もない。なかなか掴みどころのない男だ。
 
 その掴み所のないむっちりした組合長だが、焦燥感を感じているのかどうか、かなり冴えない表情。
 伏し目がちでいながら、ときおりこちらとマーリカとをちらちらと見て何やらもの言いたげではある。
 さてどうしたもんか。部屋の中には来客用なのかけっこう強めのお香が焚きしめるて居る。正直ここの河口近辺は汚水のせいもありけっこう臭い。なのでこの辺の金持ちでは、それらを消すためにもお香がよく使われるらしいが、そのお陰もあって相手の匂いから情報を得る俺たち猫獣人バルーティの得技が使いにくい。
 
 簡素だが品の良い組合長の応接室では、マーリカと組合長の他一人の警備兵ともう一人の事務方らしき男が居て、俺達三人、従者であるカシュ・ケンとムーチャを除く“砂漠の咆哮”メンバーの俺、アスバル、マハが籐の長椅子に座り相対して居る。
 だがアスバルは明らかに何も考えずに自信満々で座って居るだけだし、マハは多分もう飽きてる。
 となると俺が交渉ごとをするしかなくなるわけで、ふうむと唸って切り出した。
 
「───どうも組合長殿は依頼内容に心配事があるように見えるが、何か不安でも?」
 依頼に隠し事や嘘があるのは後々困る。なのでそうやや強めに言ってみると、
「いや、いやいや、別にそないなことやないですわ。いや、いやいや、ええ」
 額の汗を拭いつつそう言う。もはや何かあると自白してるくらいの態度、反応だ。
 
「───すんません、差し出がましいですがちと言わせて貰いますわ」
 と、ここで唐突にそう口を挟むのは、組合長の向こう側の別卓で記録を取っていた別の男。
 あまり日に焼けていない肌をした面長のクトリア人系の顔立ちで、なんつうか生真面目を絵に描いたような雰囲気だ。
「そら、組合長は人選に関してマーリカに一任しはりました。けど、あては正直疑問ですわ。
 “砂漠の咆哮”はそら勇猛で鳴らした戦士団です。評判も実績も立派なもんです。
 せやけど、今回の仕事は腕尽く力尽くでどないにもなる言うもんちゃいますやろ?
 ほんまにこの方々でええんですか?」
 事務方らしいがはっきりモノを言う、なかなか気骨のある男だな。
 
「おおー、何だァ~? 俺様の実力を疑うって……」
「いや、お前は黙ってろ」
 アホ丸出しの意気がり方をするアスバルを黙らせて、俺はまずマーリカを見る。
 そもそも俺たちを選んだのはマーリカだ。彼女にゃ彼女なりの言い分があるだろう。
 
「疑問に思わはるんももっともですわ。せやけど私かて何も下調べせずに彼らに依頼したわけやありません。
 最初は上空からの偵察に適した空人イナニースや言うことでアスバルはんに注目しました。
 それから“砂漠の咆哮”の野営地でアスバルはんとそのチームの方々のお話を色々と聞き込んで、この人達こそ適任やと、そう判断したんです。
  決め手になったんは、マジュヌーンはんです」
 
「んあ? 俺か?」
「うえぇ~!? 何でだよ!?」
 突然そう話を向けられ驚くが、それ以上にアスバルの方がでかい声で騒ぐ。
 
「この猫獣人バルーティでっか……?」
「はい、そうです。
 アスバルはんもマジュヌーンはんも“砂漠の咆哮”に入って半年程度の方ですが、マジュヌーンはんはその短い期間で二ツ目のメダルを得てます」
 何だか、細かいことまで調べられていたみてーだな、おい。
 
「……その、詳しくないんやけども、二ツ目というのは何なんかね?」
「二ツ目は簡単に言えば、見習いから一つだけ格上げされた位です」
 組合長のごもっともな質問に、これまた立て板に水と言わんばかりにスラスラ返すマーリカ。
「何や、その……それがどないですのん?」
 これまた生真面目そうなもう一人の男が続けてさらにごもっともな質問。
 
「普通は見習い三年……そうですやろ、ハビエル」
 マーリカがそう返すと、ハビエルと呼ばれた事務方の男がややばつが悪そうに黙る。
「アンタが見習いから脱したんには何年かかりました?」
「……二年と半年……ですわ」
「ですやろ? 見習いからその上へ認められるんは、そないに簡単な話やありまへん」
「せやけど、そら商売の話ですわ。 猫獣人バルーティはあてらと違うて、そら戦いやら荒事に向いてますやろ。短い間にデカい手柄立てはったんかもしらんし、それはまあ立派なことなんやろけど……」
「ええ。“砂漠の咆哮”でもそれは聞きましたわ。
 入って間もない期間に、ごっつい魔物を狩ったりやとか、そないな形で手柄立てて二ツ目、それより上になった言う方もおるらしいです。
 けど、このマジュヌーンはんは違います」
 
 いや、まあそうだ。別に俺はそんな目立った活躍なんざ一切してねえ。
「地味に、コツコツ、実直な仕事を数多くこなして、それが評価されての二ツ目です。
 一般的な団員なら、早くて一年、普通で二年の仕事を、きっちり丹念に半年の間で着実にこなしはった」
 ……いや、まあ、その……その通りなんだけどな。
 
「つまり……他の団員の二倍、いや、四倍以上真面目に仕事をしはらはった……?」
 ……や、まあ、そうだけどよ。
「……なんてお人や……」
 
「……頼む、それ以上はマジで止めてくれ」
 マーリカが本気で評価してるのも、ハビエルが本心から感心してるのも分かるが……だがなんつうか、全然誉められてる気分になれねえ!
 
「いえ、それだけやおまへん。その仕事内容も、本当に地味でつまらなく退屈な、魔獣の生態分布調査やとか、野営地の保守管理と点検やとか、そないな仕事もありますし、その調査の内容まで、猿獣人シマシーマの係員が感心する程に丁寧なもので……」
「……やめてくれッ!!」
 顔から火が出るくらいの恥ずかしさで思わずそう叫ぶ。
 いや、俺が丁寧で真面目なんじゃねえよ! この世界の、特に猫獣人バルーティの戦士一般が雑でいい加減過ぎンだよ!?
 マハとか! マハとか! あと猫獣人バルーティじゃねェのにアスバルとか!!
 
「いやー、さすがだねェ~、マジメーンくぅ~ん」
「てめェ、コロすゾ……!」
 糞ムカつく顔でアスバルの奴がそう耳打ちしてくる。
「不良ぶってたけど、本当はマジメーン君だったンだにィ~ん」
「……マジデコロス……」
「やだァ~ん、マジメーン君にマジでコロコロされちゃうぅ~ん」
 
「ンフー? マジュはスゴいよー! ウン、色々覚えも早いし、スゴく立派だもヨ!」
 話の流れと空気を読めてないマハがそう口を挟み、
「───加えてこないに、自分の実績をひけらかさん、謙虚さもありますよって」
 と、さらにこう……微妙なほめ言葉を続けるマーリカ。
 
 ……いや、もういい。アスバルはあとできっちりコロすが、とにかく話を進めてくれ。
 
「……分かりました。そない話でしたらに、あての方からは何もありまへん」
 ハビエルはそう言うと、一礼をしてから再び自分の卓へと戻る。
 
 だが、この一連のやりとりを聞いていた組合長のキオンはというと、何ともハッキリとしない表情のまま目を泳がせ、ハビエルとは逆サイドに立つ中年の警備兵と話を向ける。
「……ティド、どない思う?」
 聞かれた中年で丸顔の南方人ラハイシュは、
「まァ~……そォ~ですなァ~」
 とやや思案げに軽く目を伏せて、
「ワタシも猫獣人バルーティ戦士と闘ぅた事はありますよって、その強さは身ィ持って知っとりますわ。
 せやけどハビエルも言うた通り、本来ならこの手の調査や何や、そういうのは猫獣人バルーティ向きとは言えませんなァ。狩りの獲物探す言うんとはちと具合が違いますよって」
 ティドと言う名の警備兵の見立ては、まずまず妥当な言い分だ。
「……とは言え、マーリカがそないに言うのやったら、それは信頼したってええんと違いますか」
 と、全体としちゃ無難なところに着地する。
 
 それを聞き、組合長はうむうむと何やら頷き考えてはいるが……大丈夫か?
「せやな、うん、せや。皆がそう言うんやったら、まあ、間違いないやろ……」
 自分自身に言い聞かせているかのようにそうぶつぶつと言うが、マーリカにハビエルはまだしも、ティドの言い分はぶっちゃけりゃ何も言ってないのに等しい。
 
 どうにもこの組合長、頼りないというか決断力が無いと言うか、今ここにいる三人を、信頼し頼りにしてるとも言えるが、どちらかと言うとこう……まるで顔色を窺っているみたいな感じだ。
 
 が、ひとまずまあ俺たちへの依頼を確定するという事は話が済んだ。
 それから川賊問題への詳細の説明に入る。 

 組合長の言うには、今問題になっている川賊達には結構な人数が居るらしい。
 組織的で統率もとれているし、素早く現れ即座に帰る。使うのもほぼ小型の舟だから逃げやすく見つかりにくく隠しやすい。
 確かに厄介で手強い相手かもしれねーな。
  
 細かい条件の方は既に突き合わせて合意し書面にもした。
 大まかには日当と成果報酬。拠点の位置情報、その内容、その他有益な情報には追加報酬を出す、というもの。
 まあ考えようによっちゃ探偵業みたいなもんだな。調査対象が浮気相手じゃなく川賊だ、というのと、相手に見つかりゃ命が危ない、てのが違うところだが。
 
 そしてその調査対象についてだが……、
「ここだけの話……なんですけどな」
 組合長は小声になりそう続ける。
「……恐らく町の中に協力者がおる……。そう睨んどりますのや」

 川賊がこちらの運航予定を事前に知ってるんじゃないかと、組合長はそう睨んで居る。
 それがまた、わざわざ外部、“砂漠の咆哮”から人を雇う理由でもあるらしい。
「いいのか? もしかしたら今ここにいる三人のうち誰かが川賊の手先かもしんねえだろ?」
 そう話をふると、
「今おる三人は、昔から我が家に仕えとる者達ですわ。最も信頼しとる部下です」
 マーリカに警備のティドと会計係のハビエル。つまり依頼の使いとしたマーリカも、見た感じはただの若い娘だが、組合長としては腹心を送って来た、ということか。
 
 俺は改めてその三人を見る。
 マーリカはアスバルに連れられてこられた当初の媚びた雰囲気はまるでなく、まあ見事にすまし顔で組合長の横に。先ほどの調査力もさることながら、契約内容の書面化なんかもソツなくこなしていて、こりゃなかなかの才女みてえだな。
 ハビエルはその奥で別の卓に着いていて、時々必要な書類や何かをマーリカや組合長へと渡したり、また何事かを耳打ちしたり。実直を絵に描いたような面通りの男のようで、さっきのやり取りからも気骨が感じられる。
 で、そのやや離れたところで直立不動の南方人ラハイシュの小柄な中年男ティドは、傷のある顔をニコリともさせず立っている。こちらもパッと見にはただの丸顔のおっさんの様ではあるが、そうそう舐めちゃいけねえ腕前はありそうだ。
 
 普段ならここで匂いを含めた人間観察をするところだが、やはり例のお香かのお陰でイマイチ利かない。
 別に猫獣人バルーティ対策ってワケじゃあ無いだろうが、より強い匂いを持ってこられると自慢の嗅覚もイマイチ役に立たなくなる。
  
 と、そこへ、扉の向こうからどっかどかと騒がしく何者かが歩いてくる声と音。
 ノック音からの、「アニチェト・ヴォルタス様とロジウス・ヴォルタス様がお見えです」との使いの声。
 入室を促す組合長の声に応じてかそれより早くか、入って来たのはまずは派手な服装に高い鷲鼻で白髪混じりの髭の小男、そして痩せ身だがバランスの良い体格の優男が続く。
 
「おう、来たぞ来たぞ、来てやったぞ!
 まぁったく厄介な事になっとるな、組合長!
 だーが、“砂漠の救世主”たるこの俺様が来たからには、川賊なんぞはちょちょいのちょいだ!」
 入って来るなりそう大声でがなるのは、派手な格好の年老いた小男の方。
 
 で、話によるとこの男が、かつて武装商船団を組織して近海の海賊共を一掃したヴォルタス家の現当主であり、魔術師兼魔導技師のアニチェト・ヴォルタスで、後ろに続く優男はその息子だそうだ。
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