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第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!

3-54.クトリア議会議長、レイフィアス・ケラー「───もう、不安しかないッッ!」

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拝啓 レイフィアス・ケラー様
 
 お元気ですか? 僕は多分お元気です。
 王国領の疾風戦団の本部へ戻り……と行くはずが、こう、色々あって、そのまま辺境四卿の一人、ヴェーナ伯領サルペンディポルデへと来ています。
 ヴェーナ辺境伯はとても怖いという噂です。
 なので僕は変装をしてます。
 目立たないようにタカギにも変装をしてます。
 “忍豚”です。ニンジャのブタです。
 アリックさんが道案内で、山越えをして辺鄙な村に入ります。
 そこから、色々調べます。
 この手紙は、山越えをする前の宿場町で書きました。ちゃんと着くと良いなと思います。
 他に、セロンと、ラシードが居ます。
 最初は、リタとカイーラも来る予定でしたが、色々あって二人は別の方向から調査をするらしいです。
 この四人の旅は、とても男臭いです。
 ラシードは社交的なので、交渉ごとに向いてます。少しセロンと似たところがあります。
 アリックさんは、サッドと少し似てます。キャラ被りです。ダブルでキャラ被りしてます。かぶりかぶりです。
 サッドの情報が全然無いので、けっこう、みんな、サッドのことは、あきらめ気味です。
 今のところ、だいたいそんなに危険もなく、進んでます。
 また連絡出来るときがあれば、手紙をします。
 
 それでは。
 
  ガンボンより
 
 □ ■ □
 
 ……微妙。
 なんというか、うん。まあ、めちゃくちゃというほどではないけど、こう、スッキリしない文章だよなあ~。
 字もめちゃ汚いし。
 
 ガンボンと別れてからはほぼひと月くらいか。
 闇の森での出会いから、ゴブリンロードのユリウスとの戦いに、その後転送門をくぐってからのダンジョンバトルとその集大成としてのザルコディナス三世の亡霊との戦いに、と。
 そう長くもない中にもかなり濃密な時間をともに過ごしている。
 お互いに所謂「同じ別世界の前世の記憶」を持つ者同士、という共通点もありはするものの、それもただのキッカケの一つに過ぎない。
 この世界に生まれ、またかつての別の人生の記憶を蘇らせてからも含めて、僕にとっては最も深く濃い関係性を持った相手だと、間違いなく言える。
 
 正直に言えば、僕は前世においても今世においても、社交的じゃないし人付き合いも下手だ。
 エヴリンドにしろデュアンにしろ、そもそもは僕が元氏族長の母、ナナイの娘であるから関係性があるだけでしかないし、マヌサアルバ会の面々も「恩人であるナナイの娘」ということで尊重はされているが、そのいずれも母、ナナイの存在抜きでは有り得なかったもの。
 もっと言うなら、アデリアにしてもそうだ。彼女自身には裏もないし、現しているのも正直な好意だが、かつてのヴォルタス家と母、ナナイとの関係性が無ければ、彼女が妖精、エルフフェチになることもなく、となれば転送門を共に誤ってくぐった“風の迷宮”でのアデリアとジャンヌとの関係性も、多分もっと違うものになっていただろう。
 
 こんなことを口に出して言えば、例えば母、ナナイなんかは、「キッカケだの最初の動機なんて何だっていーんだよ。大切なのはそこからどういう関係を築くかだろ?」とかなんとか、多分そういう意味のことを言うだろう。
 実際その通り。
 普段の言動はあんなんだけれど、母、ナナイがこういうときに言う言葉は、腹が立つくらいにだいたい正しい。
 だから僕は別に、エヴリンドやデュアン、マヌサアルバ会、アデリアやジャンヌ等との今の関係性が無価値だとか良くないとか上っ面だとか、そう言いたいワケじゃない。
 ただ、一つと事実として、僕とガンボンとの関係性には、なんというか、一言で言い表せないが、強く深いものがある、と。
 まあ、そんなことを思うのだ、と。
 言いたいわけなのだ、と。
 思いはするワケではあるのだ、と。
 
 うーんむ……。
 
「七回目だな」
 うわ、と驚き顔を上げると、入り口近くで直立不動のエヴリンド。
 七回目とは何ぞや、と申しますれば、
「ため息だ。その手紙を読んではため息、読んではため息……。
 全く他のことが手に着いてない」
 うへぇ、数えないでよそんなの。
 
「いやぁ……まあねえ……」
 何ともニンともカンともねえ。まー、そのォ~……さァ~。
「心配か?」
「まぁ、ねェ~……」
 そりゃあまあさぁ~。
 
 一人の戦士としてみたガンボンは、多分今はけっこう……かなり強い。
 そもそものオーク戦士としての怪力にタフネス。体格が小さいからこそ培った、猪突猛進ではない戦術の工夫。前世の知識と経験から来る格闘技術。そして、今ではかなり制御出来るようになっている、“狂犬”ル・シンの呪いによる、人狼の力。
 加えれば、聖獣となった巨地豚のタカギの持つ機動力に【聖なる結界】の効果をもたらすオーラ……。
 ……豚の聖なるオーラ……。
 いや、まあ、そこはもう突っ込むまい。
 
 何にせよ、今現在そういうこう……カタログスペック的な面で言えば、実はガンボン、かなり全方位的に隙のない、一人旅をしてても安心安全なバランスのとれた能力がある。“生ける石イアン”のお墨付き、てなぐらいに。
 唯一弱いのは遠距離攻撃か。弓とかそういうの超ニガテ(E)なので、精度の高い遠距離での立ち会いになると弱いけど、まあタカギの機動力で逃げれば良いし、話によると棍棒で石をシートノックするという遠距離攻撃出来るらしいし。まあまず当たらないけど、威嚇にはなる。
 
 なので、そういう点では、確かにあまり心配はない、とも言えるのだけど、も……だ。
 
 うーーーんむ。
 ガンボンは、ああ見えて基本、バカではない。バカではないけど……基本、ちょっと抜けてる。
 抜けてるというか、意外と実はお調子乗りなところがある、というか、基本的にお人好しというか、騙されやすいというか、ビビりな部分がある癖に危機感が無いというか……。
 
 とにかく、精神的な面に関しては───心配しかない!
 
 で、それもあって、現在クトリアから動けない僕としては、それとなーーーく、「闇の森レンジャーの誰かとか、ガンボンについてかせてサポート出来ないかしらん?」みたいなことを手紙で打診してみたのだけど、その役目に立候補したのが、セロンだと言う。
 
 セロンは、闇の森ダークエルフ、ケルアディード郷の若手の中では、まあ可もなく不可もなく。特に突出して秀でたところもないが、大きな穴も欠点もない、見事なまでのバランス型のレンジャー見習い……だそうだ。
 外交と魔術を中心としてたデュアンとは、叔母のガヤン等から魔術を教えて貰う際に一緒になったりして面識は以前からあったけど、アランディのレンジャー訓練にはほぼ不参加だった僕はセロンとは殆ど交流がない。
 いやまあ、訓練以外でも本来なら交流の機会なんていくらでもあるんだけどさ。本来は。その辺は、もう、ね。僕の非社交性が、ね。
 彼、ちょっと遠目に見てても、なんというかダークエルフとして云々する以上に、こう……チャラいキャラしててね。
 ダークエルフにも勿論世代による気質の差はあるので、若者世代としてはあれくらいのチャラさはそんなに特別では無いというか、要は僕やガヤン叔母が「年寄り臭い」だけなんだけどさ。
 
 何にせよ、基本内向的で非社交的な僕が苦手とするタイプだったので、ほぼほぼ交流が無い。
 無いんだけども、そのセロンはというと、ゴブリンロードのユリウスのところで殺されかけたのをガンボンに救われたのだとかで、かなーりガンボンを英雄視しているらしいのよね。
 
 けどねえ……それはどーーーかなーーー、と!
 いや、「ガンボンは英雄じゃない」と言いたいンじゃないのよ?
 これはね……キャラの問題?
 ガンボンは、所謂「後輩キャラ」なンだと思うのですよ、ええ、ええ。
 つまりこう、「よし、俺について来い!」みたいな人が居て、その人に合わせて動き回る……てな方が、力を発揮するタイプ。
 
 アランディ隊長にしごかれたりとかさ。あと僕も性格的にはリーダータイプとは言えないけども、ダンジョンバトルでの司令塔の僕とそれを受けて駆け回る感じとかさ。
 で、地上に出てからはイベンダーとかJBとかドゥカムとか、けっこうそれぞれ我の強い、能動的に動いたり人を引っ張ったり巻き込んだりするタイプとチーム組んだりとしてて、まあその形で上手く行ってた。
 ガンボンの性質にある、お人好しで油断しがちで騙されやすいところを、そういう我の強いタイプの人と組むことで、うまくフォローしてさ。
 
 けどセロンはというと、多分ガンボンを尊重し過ぎてしまう。
 アリックという人のことは全く知らないのだけど、JBから聞いた限りではリーダータイプじゃあ無い。
 なので頼みの綱は、疾風戦団で若手の実力派とも言われてるらしいラシードという人のリーダーシップに掛かっているんだけども、ねェ……。
 
「ありゃあお調子者の女好きだ」
 とのイベンダー氏によるラシード評に、
「自惚れ屋の無礼なガキだ」
 というエヴリンドによるラシード評……。
 
 ───もう、不安しかないッッ!
 
 はぁ~……と、またも無意識に8回目のため息をしてしまう僕。
 その僕へと再びエヴリンドが、
「なんなら、今からヤツの後でも追うか? こんなところでくだらん王様ごっこなんぞしているより、その方がよほど面白いだろうな」
 と、相も変わらずの不機嫌そうな顔で言う。
 
 エヴリンドのそれは多分八割本心。
 けど───、
「……いいえ、行きません!」
 大きく息を吐いて、吸って、ふん! と鼻息。
 悪筆きわまりないガンボンからの手紙を折り畳み封筒へと仕舞い込んでから、僕は再び“妖術士の塔”の執務室のデスクへと向き直る。
 
 何であれ、彼には彼の道があり、僕には僕の道がある。
 ───それに、本当に問題が起きたら、一応セロンから手紙鳩による緊急通信が来る手はずにはなってるしね。
 うん、大丈夫……と、思いたいっ……!
 
 ■ □ ■
 
 上院議会での貴族街三大ファミリーに関係する諸法案は、思ってたよりもすんな可決された。
 事前の諸々の根回しによる効果もあるし、何よりもマヌサアルバ会による、僕が彼らの恩人である母、ナナイの娘であるということへの忖度……を遙かに越えた、ほぼ全面的な賛同の効果が大きい。
 結果的には良かった、良かったという話ではあるけど、法治主義を導入しようという試みの面で言えば、これは完全な人治主義的な経緯なワケで、正直あまり良くない。
 法治主義的には、僕が誰の娘だろうと関係なく、法案そのものの是非で判断されるべきで、結局は今回のことは、言うなれば「親の威光で法案を通した二世議員」みたいなもの。
 
 ……精進します。
 
 後は細かい修正と、下院議会での審議待ち。
 下院議会は制度上は上院議会との不平等な格差があるので、これらの法案に審議差し戻し要請や修正案の提案は出来るけども、それらはあくまで提案なので突っぱねることも出来る。
 ただここ、まあイベンダーとも相談して、必ず修正案を提案させて必ずそれを元にした再審議をする流れにする予定ではある。
 つまり、「前例を作っておく」為に。
 
 制度上出来ると言っても、慣例上行われません、では意味が無い。
 だからなるべく早い内にその制度をきちんと運用し、前例として「その制度は有名無実ではない」という事を示しておく。
 そのため、今回可決された法案にはきちんと穴を作っておいて、その穴についてジャンヌにレクチャーしておいてある。
 そういうまだるっこしくややこしい裏のやりとり駆け引きに関して、ジャンヌは相当ご不満だったけど、これはもう仕方ないのです! と、無理やり納得させている。
 
 で、まあ次に大きな懸案事項は二つで、一つは当然、ティフツデイル王国との外交、同盟関係に関して。
 もう一つは、治安組織の再編について。
 
 同盟関係は、ひとまずは「魔力溜まりマナプールの支配者である僕個人」と王国とのものとして再締結することは決まっている。これはまあ、“ジャックの息子”がやっていた事を引き継ぐ形。
 まだ国としての同盟関係を決められる段階ではないので、それは後々の話になる。
 
 難しいのは治安組織の件だ。
 貴族街には所謂治安組織はない。三大ファミリー周辺は三大ファミリーが仕切って居て、王国の大使館周りには王国兵が居る。そして全体には“ジャックの息子”の古代ドワーフのからくりゴーレムが居る。
 このそれぞれが、言うなればそれぞれ勝手に「私的な自警団」として、それぞれの判断で「こいつは罰して良い」という判断で私刑を繰り返している……というのが現状。
 もちろん、法律とまではいかないが、大まかな共通認識としてのルールはある。その前提にあるのも“ジャックの息子”による三者協定と、王国との同盟条約。
 例えば三大ファミリー同士での抗争を禁止し、トラブルがあればきちんと協議した上で擬似的な裁判のような形で裁定するように、というのもそれ。
 また王国兵が王国法に乗っ取った裁定をしても良い区画、つまりは治外法権を認めている範囲がどこからどこまでか、というのも“ジャックの息子”との取り決め。
 
 なので大枠としてはそれらを引き継ぐ形で法制化を進める流れになるのだけども……問題は組織の人員だ。
 端的に言えばトップ。警視総監に相当する役割を誰に担わせるか?
 貴族街の人間は誰であれ三大ファミリーとの関係がある。誰をトップにしても派閥の問題がついて回る。
 かと言って市街地の誰かをトップにしたら、当たり前ながら貴族街三大ファミリーの人達は言うことなど聞きはしないだろう。
 名声、人望、実力、そして人格も込みで、貴族街からも市街地からも認められるだけの人物───。
 うーむ、難しい……。
 いっそのこと王国から誰か来て貰う、とかの方が良いのかもしれない。少なくともそれならば、貴族街三大ファミリーとは平等に距離が取れるし。
 
 その点で言えば、市街地側の方はほぼ問題無く再編可能だ。
 何せすでに支持のある自警団組織がある。
 王の守護者ガーディアン・オブ・キングスと呼ばれている彼らは、元々は邪術士支配の時代からの地下組織で、王都解放後も一貫して市街地の治安維持を担ってきた実績がある。
 曰く、彼らが居なければ貴族街の外側、市街地がこうまで発展、復興することはなかっただろうとまで言われている。
 
 なので、市街地における警察組織は、ほぼほぼそのまま彼らを採用して再編するつもりで居るし、下院議会にもその方向で調整してもらう予定だ。
 
 郊外、城壁外の集落や地域に関しては、アメリカにおける保安官制度に似たシステムを採用しようかと思っている。
 保安官制度と、かつてのクトリアの護民官制度の折衷、みたいな感じかな。
 護民官制度との違いは、護民官は王都の下級貴族が各地方に派遣され、治安維持のみならず様々な統治活動をする代官の役割だったのに対して、統治、行政はあくまで選出された議員を中心として、独立した司法権を持つ立場になるだろう、ということ。
 後はそれを、中央から送り込む形にするか、その地方で選出してもらうか。
 派遣制ならば中央集権的になり、地方の腐敗などを監視しやすくはなるけど、地元民からの信頼度は下がる。
 地方選出型なら地方自治や信頼度が高くなる代わり、癒着の可能性が高まる。
 その辺のバランスは、やっぱそれぞれの地方を視察したりして現地の感覚を肌身で感じないと分からないだろうなあ。
 
 で。
 本日のこれからの予定が───。
 
 
「ロケンローーーーーーー!」
 
 ……誰ですかこの、ロカビリーなのかオルタナティブなのかよく分からない、上半身むき出しの髭マッチョさんは?
 
 
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