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第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!
3-72.マジュヌーン 災厄の美妃(43)-モンキーマジック
しおりを挟むさて。玉座スペースへと招かれた俺を含めた三人。他の客達は見せ物を見るかに囲んで大はしゃぎだ。
“輪っかの尾”は、確かに間抜けな奴ではあるが、ある種のエンタメ的な場の盛り上げ方に関しちゃなかなかたいしたモンだな。賭場の元締めより芸人の方が向いてるんじゃねーのか?
「さーて、お前たち、今回は何で勝負をする? 札か? サイコロか? スゴロクでも良いぞぉ~? 何せなぁ~にをやっても……わし、勝っちゃうもんね~~!!」
「王さま、しゅごい!」
「王さま! 王さま!」
“輪っかの尾”の宣言を受けて、周りに侍っていたリムラ族が煽る。そしてその煽りを受けて観客達が王さまコールを連呼する。ッたく、うるせーッたらありゃしねーぜ。
さて、ここで何をやるのかは重要だ。運任せのゲームじゃどーにもなんねえ。俺がルールを知らないゲームでも困る。ここは受け身じゃなくて先手をうたなきゃなんねー流れだ。
「おいムスタ、俺の言葉を通訳してくれ」
「分かった」
俺はすぐ後ろに居るムスタにそう言ってから、一応獣人達の間でも“毛無し”達の言葉として知られてるクトリア語の口上を述べる。
「偉大なるダイスの王さまに申し上げる!
俺は旅の猫獣人の勝負師。ゲームの達人“輪っかの尾”の御高名を伺い馳せ参じた!」
芝居がかったその口上に、王さまのみならず観客達の視線も集まってくる。
「ふふぅ~ん? 猫獣人の勝負師となァ~ん? 面白い! 何じゃ申してみよみよみよ~ん?」
愉快そうに顔をゆがめて身を乗り出す。やっぱこいつにはこういうアプローチがハマるみてーだな。
「どんなゲームでも勝てるという王さまに、札一枚で戦う猫獣人のゲームで勝負を挑みたい!
受けてもらえるか!?」
「ほほぉ~ん? 何じゃ何じゃ? 気になるなるゥ~ん!」
猫獣人のゲーム、てのは大嘘。この世界に似たようなゲームがあるかどうかは知らないが、俺がやらせたいのは前世でインディアンポーカーと呼ばれる、ハッタリと駆け引きと洞察力の必要なゲームだ。
カードを伏せたまま親が各プレイヤーに一枚の手札を配るか、各々が一枚引く。
各プレイヤーはカードの目を見ずに、それを額にぺたりと貼るか、帽子や頭に巻いたバンダナかにでも挟んで他のプレイヤーにのみ見せる。
つまり各プレイヤーは自分以外の手札だけを知ることが出来るワケだ。自分の手札しか分からない通常のポーカーとは真逆。そして役も作らず、勝負は自分の手札が他のプレイヤーより強いか弱いかその一点のみ。
自分の手札は分からないから、他のプレイヤーの手札と、そいつらの表情から自分が勝てるかどうかを推察する。
そこからの手順は通常のポーカーとだいたい同じ。
レイズ……掛け金を乗せるか、ドロップ……勝負を降りるか。勝てば場の掛け金は総取り。
良い札が来るかは運次第。だがそれを除けば、役を作る計算や戦略も何もなく、勘と度胸と腹のさぐり合い。
ここ暫くやっちゃいねェが、前世じゃそこそこやれる方だった。
そのルール説明をムスタから聞いて“輪っかの尾”はケラケラ笑い両手両足をチンパン人形みてーに叩いて、
「うほほぉ~? 簡単そうじゃのぉ~? 簡単過ぎて、わし、へそからオナラ出ちゃいそうだもんねェ~? ぷぅ! んんー、臭い!」
「王しゃま、くさい!」
「王さま! 王さま!」
何を言ってるのかはよく分からんが、とにかく凄い自信だ。
「よぉ~し、それじゃ今回の王さまゲームは、その猫獣人のゲームに決定じゃ~!」
“輪っかの尾”のその宣言に、またもや取り巻きのリムラ族と客達が拍手喝采で騒ぎ出す。
猿獣人……特にアシャバジ族ってーのはどうも、何かと手を叩いて踊り騒ぐのが好きみてーだな。うるさくてかなわねー。
▽ ▲ ▽
俺たちは“輪っかの尾”の座る玉座の前にて車座になり座っている。
このエリアには今、“輪っかの尾”を含めた4人以外入れない。もちろんイカサマ防止のためで、俺の通訳係のムスタも、さっきまでちょこまかと侍っていた“輪っかの尾”の側近のリムラ族も居ない。少し離れた玉座スペースの外だ。
そして今は配られた札をそれぞれ帽子や王冠や頭巾に差し込み既に掲げた状態。
この札は甲羅馬の甲羅を加工して作られたものだとかで、濃い琥珀色の裏面に乳白色の表面。その表面に刻まれ描かれたマークは五種類で数字は1から10 まで。前世でよく使ってたトランプとよく似てる。
マークの種類も、王冠、司祭棒、宝石、鎌、そして木の実。マークの強さもこの順で、民族それぞれを象徴している。
数字の強弱を競う場合、同じ数字ならばマークが上の方が強い、てのもトランプと同じ。
で、今のところ五戦して、既に“輪っかの尾”は三勝してる。
「なぁははァ~ん、そこのポヨポヨ髭~。んんー、おぬし弱いのぉ~、弱い弱い! そんな弱い札しか引けんとは、今日はもうお家に帰った方がよかろ~う?」
相変わらずの鼻にかかった間抜け声で全力で煽りに来る“輪っかの尾”だが、実際コイツは強いし、ポヨポヨ髭と呼ばれたあご周りに綿毛みたいな白い毛の生えた猿獣人の男は全敗中。引きも弱いしすぐに顔にでる。
今回の勝負は与えられたチップ代わりの点棒がなくなった順に脱落し順位を決めるという形で勝敗を決める。
そして今回の勝負で───、
「降りだ」
場に見える他の三人の札で一番強いのは“輪っかの尾”が持つ司祭棒の9。他の二人は4と7で、こりゃまた勝負にならない。
王冠の4のポヨポヨ髭がぐぅ~、と唸りつつ最後の点棒を場に乗せる。
勝負は“輪っかの尾”とポヨポヨ髭との一騎打ちだが、まあ結果は知っての通り。一番最初の脱落者はポヨポヨ髭に決まる。
「王しゃま、すごい!」
「王しゃま、つよい!」
「なははァ~? あれ、もしかしてわし、また勝っちゃった? 困ったのぉ~? あまりわしばっかり勝ってしまうと、盛り上がらんぞぉ~?」
「王しゃま、すごい!」
「王しゃま、つよい!」
いい加減うんざりするリムラ族のコールがさらにうるさい。
もともと運否天賦の賭は向いてねえ俺だが、にしてもこの“輪っかの尾”は引きが良い。今のところ引いた札は全て5より上。そして「降り」の二回が6と7で、勝負に行ってたら確実に負けてた。
つまり引きが良く、相手の札に勝てるかどうかの見極めが的確で、攻めるか引くかの判断も速い。
このゲームにおいては完璧な勝ち方。
その上感情豊かで開けっぴろげな態度のようだが、その感情のスイッチがイマイチ読めねえ。渋い表情を見せて負けを読んだか? と思うと、「うぅ~ん、おケツがむずかゆくなってきたのだ~。モールド、おケツかきかき棒を使えぇ~い」なんぞと言い出し、側近のリムラ族へと命令する。ちょこまか走っておケツかきかき棒とやらを持ってきたリムラ族が“輪っかの尾”のケツをかいたらご機嫌になり、実際そのゲームでは文句なしに勝ってもいる。
俺は……と言うと一応二番手につけて善戦中。札の引きはまあ良くもなく悪くもなく……やや悪く、かな。あとはハッタリと観察力と……ここからは“奥の手”だ。
「ほほほっー! では次の勝負にいくぞー!」
札を全て集めて全員で混ぜ合わせる。全てを裏にしてその中から一枚めいめいが引く。
トランプのカード程には薄くなく、麻雀牌程には厚くない。強いて言うなら花札くらいか。縦に重ねるにはやや厚く、素材が素材で滑りやすい。
ま、この札選びは“輪っかの尾”の決めたやり方で、俺らはそれに従ってるだけ。だがそこにつけ込む隙があった。
慎重に目当ての札を嗅ぎ分けて、俺はその内一枚を引く。
引いた札はそのまま頭に巻いてある頭巾に挟む。
左手、残ってるもう一人の脂ぎった顔の歯の欠けた奴が俺の札を見て微かにひきつる。そいつの札は鎌の3。まあ負け確だな。
正面の“輪っかの尾”はニヤリと笑いつつ手を叩くが、札は宝石の8。なかなかの良札だが───俺には勝てない。
少なくとも俺の札は9以上ある。見えちゃいないがそのはずだ。
何故分かるか? 匂いで、だ。
猫獣人は猿獣人より目は悪いが鼻が利く。
そして俺はコレまでの数試合中、9以上の札にこっそりと“赤ら顔”のところでもらって来たネムリノキの麻薬成分入りの丸薬の匂いを、密かにこすりつけておいた。
ネムリノキの麻薬成分の匂いは、特に俺たち猫獣人には強く感じられる。
だから今ここでは俺以外には感じ取れない。特に薬作りを生業としてる“砂伏せ”たちとの取引なんぞで、そういう薬の材料の匂いはかなり嗅いでる。おかげで今じゃネムリノキの大まかな産地の違いまで分かるくらいだ。
ギャンブルのイカサマで言うガン、っつーヤツだ。
牌やカード、札に、自分だけが分かる目印をつけておくことで判別する。
猿獣人だらけの賭場の中で、唯一の猫獣人だからこそ出来る技。
俺は真剣に悩んでるかに眉根を寄せつつ二人の札を見比べる。間違いなく勝てているが、それを顔に出したらダメだ。自分の札が分からず勝負にでるか迷っている。そんな態度をしていると───。
「ふーん……。何ーか気が乗らんのー。わしゃ降りる」
“輪っかの尾”と歯ッ欠けが二人ともベタ降り。俺は場代分だけの点棒を貰う。
札を降ろし確認すると、確かに俺の札は王冠の9。
歯ッ欠けからすれば、王冠の9と宝石の8に挟まれりゃ降りるしかない。
だが“輪っかの尾”からすりゃまだ一か八かで点棒を乗せ、ハッタリで相手を降ろす手もあるはず。ここもポーカーと同じで、どんなに強い札でも降りれば負けだ。強気で点棒を重ねていけば、自分の札が分からない相手は、「こんなに強気で来るッてことは、俺の札ってめちゃ弱いんじゃね?」との疑念が沸く。
そーゆー駆け引きハッタリもこのゲームのミソなんだが……やけにあっさり、だ。
俺が場代を小さく儲けて、再び札を混ぜて再戦。
立て続けに9を引くと怪しまれるから、今回は敢えて8以下を引いて様子見。歯ッ欠けデブも“輪っかの尾”も、微妙な中間くらいの数字で、俺含めて今度は点棒の乗せ合いになる。
俺は二回目まで乗せてから降りる。三回目まで乗せたらさっきの勝ち分マイナスになるし、それら含めた二人の反応としても多分そうたいした札じゃねえしな。
歯ッ欠けは三回目まで点棒の乗せを競い合うが、四回目で降りる。今回は“輪っかの尾”の勝ち。
次で勝たないと場代だけで飛ぶ歯ッ欠けは祈るようにしつつ札を引くが、目は木の実の七。弱くもないが確実でもない。俺は敢えてワンテンポずらして奴の札をちら見し、奴に分かる程度に軽く目を伏せる。
笑われれば自分の札は弱いと思う。目をそらされたり警戒心を見せられれば強いと思う。
麻雀やポーカーは自分の手が分かるから、自信満々のハッタリ、ブラフは相手に分からない自分の手を大きく見せる為だ。けどこのゲームは逆。相手に自分の手は弱いと思わせる為のハッタリ。
だが、それも相手に見えている自分の手が弱かったら意味がない。
“輪っかの尾”はその点、手が強かろうと弱かろうとペースが全く変わらない。常に周りを舐めてるかの態度。いや、舐めてるのか単に間抜けなのか。間抜けな上に舐めてるのか。
それとも───間抜けな振りをして舐めさせているのか、だ。
今回は少なくとも9以上の手じゃない。全ての9以上の札に匂いをつけたワケじゃないから、少ない確率で9以上の可能性もあるが確率は低い。そして“輪っかの尾”は王冠の8。まあ俺が勝てることはまずないな。
俺はベタ降りで、歯ッ欠けは俺の反応から自分は強い手と思い込み……または思いたがり点棒を乗せる。勿論“輪っかの尾”もだ。
どうあれ歯ッ欠けは今回で飛び、ゲームは俺と“輪っかの尾”とのタイマン勝負。
だが今のところ確実に“輪っかの尾”の方が上。入る札がほぼ常に高く、見切りも早い。
さて次だ。今度は“匂い”を使って高い手札を手に入れたい。二回ほど様子見をして、どちらも低めの札だった。そろそろ9以上を引いても不自然じゃない。
その上で───。
「悪いが、もうちょっと王さまの札に近付かせてもらっていいか?
俺たち猫獣人は猿獣人より目が悪いから、イマイチ良く見えねーんだ」
言ってることは本当。実際、今の距離もそう見えやすいワケじゃねえ。けどまるで見えないワケでもなく、当然別の理由がある。
「ふぅん? 何じゃ、わしにお近づきになりたいと言うのか? あまり興奮しすぎるなよ? それとも、あまりの神々しさにかえって目がくらむかもしれんのーう? ナッハッハー!」
「王しゃま、すごい!」
「王しゃま、こうごうしい!」
「王しゃま、こうごうしいって何? おいしい!?」
「あはぁ~ん? 神々しいとはな! つまり、わーしのようなことだァ~!」
「王しゃま、すごい!」
「王しゃま、こうごうしい!」
間抜けと取り巻きのバカ殿コントはさておき、とりあえず許可はでた。
のっそりやや緩慢にも見える動きで立ち上がり、“輪っかの尾”の額の札をまじまじと見る……ふりをする。
さてどうだ? 思惑は一つアタリ。この手はしかし、あんまり露骨にはやれないが……いや待てよ?
俺は近づいた事で気付いたある事について考える。俺はここまで近付かなければ見えなかった。
だが……そうだな、それはきっとそうだ。
“輪っかの尾”の強さの秘密の一つは、多分これだ。
それを……どうするかな。
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