遠くて近きルナプレール ~転生獣人と復讐ロードと~

ヘボラヤーナ・キョリンスキー

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第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!

3-96.J.B.-The Morning After.(二日酔い)

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 時期としちゃあ去年の暮れ頃。まー、アジトが暴走ドワーベン・ガーディアンに襲われ、そのときのダメージから立て直すのに四苦八苦していた頃の話だ。
 
 その時期、この東地区じゃあいわゆる秋の収穫祭みてえな祭りがだいたい1週ぐらいぶっ通しで行われるらしい。やることつったって飲めや歌えや、食えや踊れやのバカ騒ぎのどんちゃん騒ぎを繰り返すだけ。
 そんなときはもちろんこの娼婦街もかきいれ時。よそから来た交易商だとか、流れの狩人に探索者だとかもやってくる。 貴族街ほどお高くないし、市街地よりは上等だ。
 
 祭りも後半になってある程度落ち着いてきた頃に、娼婦街の何人か、サリタを含めた娼婦達が連れ立って街へと繰り出した。
  めいめいに着飾り、屋台の串焼きを食って、安い地酒を飲み、踊りの輪に加わる。
 そして夜も更けた辺りに……記憶を失った。
 
 恐らく、何かしらの薬を盛られたんだろうとサリタは言う。
 あまりその薬が効いてなかったサリタは、何者かに担がれ、荷車に乗せられ、そのまま荒野を移動したこところをうすぼんやりと覚えてる。
 そして着いたところは……“炎の料理人”フランマ・クーク達のアジト。
 炎を操る魔力を持った魔人ディモニウム、フランマ・クークは、何度かこの東地区の事も襲撃してきていたらしい。
 その度に、リディア率いる魔狩人達であるとか、この町の民兵とかがなんとか撃退してきてる。
 
 で……、
 
「……そこで何をされたか……。あたいのこの面を見りゃあ、説明しなくてもわかンだろう?」
 人を焼き殺し、時にはそれを食っちまうという異常者だったフランマ・クーク。確かにサリタの言う通りだ。
 
 何人かが殺され、また何人かは焼かれ、拷問を受け、さらに何人かは別のところへと移されたりもした。
 当時のフランマ・クーク達三悪の魔人ディモニウム達は密かに手を組み、兵力を集めてボーマ城塞を落とそうと計画をしてた。
 そのための兵力補充として奴隷兵に出来る男手も必要としてたが、そうでなくとも女の奴隷というのは奴らにとっちゃいつでも需要がある。
 さらには、このクトリアの外を勢力とも繋がって奴隷売買をしてたということだしな。
 
 これを幸運にもと言えるのかどうか───。
 何にせよ、サリタは拷問され、顔を火に焼かれ、無残な火傷の跡は残ったものの、その後も生きながらえた。そして、センティドゥ廃城塞の戦いだ。
 
 様々な成り行きから、俺達とボーマ城塞の金色の鬣こんじきのたてがみホルスト、そして城壁内の狩人、トムヨイ達。この三者が連合を組み魔人ディモニウム達と戦うことになる。
 そこに王国駐屯軍の“悪たれ部隊”のニコラウス隊長まで引っ張り出しての全面対決。
 結果はまぁご覧の通り。三悪全てを討ち果たし、センティドゥ廃城塞も占拠。俺たちの圧勝に終わった。
 
 サリタはその時俺達が解放した捕虜の中にいた一人だと言う。
  正直、あン時は戦いの最中だったし、また怪我の酷い奴は他にもたくさん居たから、サリタの事は特段印象には残っちゃいない。
 
 で、サリタは俺に改めてその時の礼が言いたくて声をかけたのか、ってーとそういう話じゃねえ。
 もちろん顔を覚えてはいるし、自分を助けてくれた奴らの一人だということも認識してて、その分信頼もしている。
 だから声をかけた。
 
 自分や他の娼婦たちを、薬を使って拐かし、フランマ・クークに売った奴隷商人、“聖人”ビエイムを何とかして欲しい……と言う理由で……だ。
 
 
「───なあ、そいつに確信はあるのか?
 ビエイムが犯人だっつー証拠とかよ?」
 別に何を疑ってるって訳じゃないが、それでもその辺の確認は必要だ。
「ない。正直な話ね」
「おいおい……」
 問われたサリタの返答は、いかにもそっけない。
「証拠はないけど根拠はあるさ。
 一つは臭い。攫われたときに嗅いだ体臭があいつの匂いにそっくりだった。それと、安っぽい香油か何かの匂いね。いつもつけてる」
 言われてみれば、確かにさっき路地裏で通せんぼ食らった時にも、なんだか妙な臭いをしてやがった。
 
「もう一つは、奴の金回りの状況からね。
 なあ、あんただって探索者やってたんだろ? 
 実際どうなんだ? 奴らが探索で見つけてきたって言う遺物は、大体が壺だの食器だの燭台だの、ドワーフ合金製とはいえだいたい日用品ばっかりだ。
  それってそんなに大金になるもんなのかい? どうも胡散臭くてしょうがないね」
 
 ドワーフ合金の一番の利点は腐食せず頑丈で魔法に耐性があるということだ。
  確かに金に近い輝きもあるが、本物の金に比べると見劣りがする。 ただ、モノによっちゃあ、古代ドワーフの名工の精緻な細工に関しては一見の価値がある。
  そして欠点は、何と言っても重いということ。つまり、腕力のあるドワーフならまだしも、普通の人間が日用品として使うにはちょっと問題がある。
 
 総じて言えば、 武器防具に関してはなかなか価値が高いと言える。
 日用品や装飾品は、精緻な細工を好む好事家の収集物としては、それなりのものもあるしそうでもないモノもある。
 そして、普段使いとしては重すぎで使いにくい。まぁごく小さな小瓶なんかは魔法薬容れとしては、割れない分重宝するけどな。

「……てなところだ。結局、モノによるぜ」
 
 だいたいそういったことを説明すると、サリタはベッドの脇のサイドテーブルの中から、布に包まれた一つの杯を持ちだす。もちろん古代ドワーフ合金製のものだ。
「ビエイムが前に見せびらかしていたお宝さ。どうだい、あんたから見てさ?」
 探索者家業をしてたとはいえ、そうそう目利きを自慢できるほどじゃねえ。
 が、その俺から見てもこいつの価値はそんなに高ェもんとは思えない。 
 合金の質が装飾向きでないから他のやつよりもくすんでるし、何より細工がお粗末。
 もしかしたらドワーフの魔鍛冶師見習いが習作で作ったもんかもしんねぇな。
  ま、その辺はイベンダーのおっさんに聞けばもっと詳しくわかるだろう。
 
「価値のあるモンを売っぱらった後の残りモン……とかじゃなくて、か?」
「奴が言ってた言葉が本当なら、違うね。それにさ、探索者ってなだいたい自分達で見つけた古代ドワーフ遺物の武器防具を装備したがるもんだろう?
 けどあいつらのはここらで手に入るの魔獣装備ばっかりだ。
 確かに魔獣装備としてはまあまあ上等だけどさ、古代ドワーフ遺物装備を持ってた方が、探索者としてハッタリになる……違うかい?」
 なるほど、それは確かにそうだ。
 このサリタって女、なかなか冴えてやがるぜ。
 
「……他には何かねえのか?」
 
「後はまあ色々細々とした状況だね。
 私や他の娼婦達がいなくなって、この娼婦街の主マルセロは収入がガクンと減った。
 そこにつけこんであいつらビエイム一派はマルセロに金を貸して、そのカタに区間の一部を買い取ってもいるんだよ。マルセロを助けてやる……てな口実でだが、かなり安く叩いたらしいね。
 それに、ビエイムお気に入りのカリ二ョンのことは、あたし等がずっと守ってたんだが、あたしの居ないウチにかなり乱暴な真似をしてつきまとってやがる。
 マルセロもマルセロで、奴らに借金があるし、助けてもらったってかたちだから強く言えない。
 とにかく、あたし等が居なくなったことで連中は得しかしてねえのさ」
 
 明確な物証は無いが動機はある。状況的にはかなり怪しい……ってなところか。
 
「……ま、言いてーことは分かったがよ。
 けどなぁサリタ、何でその話を俺にするんだ?
 確かに俺らはセンティドゥ廃城塞でフランマ・クークを倒した。けど、東地区住人からすりゃ俺はよそ者……違うか?」
 
「……だからこそさ。あんたなら“聖人”ビエイムと通じてる可能性はほとんどない。
 それに廃城塞のこと以外でもあんたの事を推してくる奴がいるんでね」
 
 この東地区で俺を……?
 ちょっと、嫌な予感しかしねえな……。
 
 ◇ ◆ ◇
 
「はぁ~、もう久しぶり~、会いたかった~」
 両手を上げてそう言いながら抱きついてくる南方人ラハイシュの男はジミス。背が高く細面でいわゆる筋肉質っていうのとは違うが、しなやかな体つきをしている。
 
「……ったく、すぐベタベタすんな!」
 ジミスを引き剥がしつつそう言うが、コイツのこういうウェットなところ、全く変わってねえな。
 
 ジミスはカラム同様に、俺と共にリカトリジオスから逃げて来た元奴隷の一人。
 性格気質もあるんだろうが、いわゆる戦闘には全く向いてない。 けれども長身でしなやかな体型で、踊りも上手く、リカトリジオスでは単純な肉体労働よりはお偉いさんの身の回りの世話や様々な雑務、慰安をやる奴隷だった。 
 俺がウルダ弾きをやらされ、こいつが踊る……みたいな宴の席も何度かあったくらいだ。
 
「先にカラムのところに行ったけど、お前のことはあんまり話さなかったぜ」
「もう、あんな奴の話はしないで!」
 クトリアに着くまでかなり数が減った俺達逃亡奴隷も、結局様々な 経緯でバラバラになっちまった。
 その中でも東地区に来たやつは結構多い。特にカラムがある種のリーダーみたいな感じで率いてた連中がここには居るはずだが、その時の関係が今でも続いてるようには見えねえ。
 
「何かあったンかよ?」
「カラムったら、店持って偉くなっちゃったもんだから、全然あとし達と付き合わないの」
 まあなんつーか、別の場所で成功者になると、昔の連れとはつるまなくなる……みたいなもんか。……俺もあんま人のことは言えねーがな。
 
「まあ良いけどよ。ジミスが俺の事を……?」
 ベッドサイドのカウチに腰を下ろしつつ、サリタに向き直り改めてそう聞く。
 
「───センティドゥで救出された後、王国軍の連中と一緒にここまで戻ってきた。
 あたいが生きてて戻って来たことに他の連中もみんな驚いてたけど、助けられた経緯を話していたら、ジミスがあんたのこと知ってたからね」
 
「何話したンだよ?」
「いやーね、変なことなんか話さないわよ? あんたが頼りになる男だっていうことだーけ!」
「……嘘くせえなあ」
「何よ~!? あたしほど正直な男はいないわよ!?」
 
 やかましいことこの上ないが、しかしままあ、サリタの表情を見るにその通りのようだ。
 
「だから、今回あのダークエルフのお供であんたがついてきたのを見た時は、本当に驚いたよ。その上どうやってあんたとコンタクト取ろうかと悩んでいたら、あんたの方からやってくるんだからね」
「……ああ」
 と、そこでようやく思い出す。俺がなぜこっちの裏通りの方へときたのか。
 
「ジミス、実はお前にも聞いておきたいことがあったんだ」
「あらやだ何、あたしにィ?」
「俺やカラムが加護の入れ墨を持ってるってのは知ってるだろう?
 で、 俺と同じシジュメルの加護の入れ墨持ちの奴を見かけてねえか……ってよ」
 そうそもそも俺がこの東地区に来たのも、一人で裏通りをうろついて居たのも、猫獣人バルーティのスナフスリーから聞いたシジュメルの加護持ち、リカトリジオスに滅ぼされた村の生き残り探しだ。
 
「シジュメルの入れ墨ってあんたがしてるヤツよねえ~? どんなんだっけ? ちょっと見せてみてよ」
「おい、無理やり脱がそうとするな! 今、見せるよ!!」
 イベンダーを特製のドワーフ合金金ピカ装備の“シジュメルの翼”は、外すのが結構面倒くさい。だからチュニックの袖部分だけをめくり、肩から腕の途中までにあるやつを見せる。
 
「成人して刺青が全部入ってるやつならもっと手首の方まで、脚も太ももから膝にかけて、同じように渦巻いたような 刺青が入ってるはずだ」
 
「う~ん、相変わらず良い筋肉してるわねぇ~。 あなたも踊りに向いてるわよ。
 それに、あの頃はまだまだガキだったけど、三年経っていい男になったし」
「だから入れ墨を見ろよ入れ墨をよ!」
 
「……うぅ~ん、そうねぇ~……覚えがあるような、無いような……」
 なんとも頼りないジミスの返事に、がっかりするかと言うと、まぁ元々そこまで期待しちゃいねぇ。
 
「ま、 覚えがなきゃそれでいいや。こっちもそんなにあてにしてたワケじゃねーしな」
 肩の付け根までまくり上げてた短い袖を元に戻しつつそう言うと、
「あ……待って」
 と、今度はサリタの声。
 改めて顔を近づけ、俺の入れ墨をまじまじと見るサリタ。
 それからしばらくして、ふぅ~、と深く長いため息をし、
「ごめん。記憶のどっかに引っかかってるような気がすんだけどさ……」
 と、申し訳なさそうに頭を振る。
 
「いいって。まぁ……そうだな。何にせよこれも何かの縁だ、さっきのお前の話に戻ろうぜ。
 その“聖人”ビエイムが本当に奴隷売買をしてンのか……その裏を取って欲しい……ていうことだよな?」
 
「……やってくれるの!? ね、悪いけどたいした礼なんか出来ないよ?」
「何、礼なら別のところからたんまりもらうさ。
 なぁ、おっさん」
 最後の呼びかけはもちろんジミスでもサリタにでもない。伝心の耳飾りを通じて俺の言葉を聞いていた、イベンダーのおっさんに向けてだ。
 
 
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