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第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!
3-115.マジュヌーン(67)砂漠の砂嵐 -刀狩りは突然に
しおりを挟むいつの間にやらと言うか当然ながら、天幕の中に残されていた楽隊や踊り子、給仕の奴隷たちもとっくに逃げ出しいなくなっている。
そして南西の方角からは、アラークブたちが誘導してきた変異食屍鬼の群れと、そいつらの襲撃に対し防戦するリカトリジオスの兵士。その上陣の各所からは、混乱に乗じて暴れまくる奴隷たち。
状況は混乱に混乱を重ねてさらに混沌としてきた。手筈通りならボルマデフに扮していたカリブルは、その妻子を連れて逃げ出して、マハやレイシルド達と合流すべく動いてる。
俺も本来ならそっちと合流し、さっさとここからオサラバしているところだが、この廃都アンディル攻略部隊の司令官、“不死身”のタファカーリが俺の正体を知り、かつ、利用しようと目論んでいたことから状況は変わっちまった。
奴の目論見通りに動くのも、動くかのふりをしてその実のらりくらりとやり過ごすのも、いずれにせよ奴に取り込まれズブズブと深みにはまる。
となりゃここで決着つけるしかねぇが、流石に真正面からリカトリジオスの一軍の司令官とその屈強な親衛隊十人ばかしを一人で相手取るのには無理がある。
親衛隊達の囲みを破った俺はそのままトンズラ……するかに見せかけて、ぐるり旋回しつつ、低い姿勢で奴らの足元を背後から斬りつける。
二人ほどのすねを斬り機動力を奪った辺りで、別の一人が天幕を跳ね除けながら剣を突き出してきた。
俺が別の近くの親衛隊へと肩からぶつかりそいつを押すと、よろけたそいつは突き出された剣先に体をぶつけて二人もろとも倒れ、逆に俺からの山刀の洗礼。
さっきの一瞬で天幕を切り裂き、半数以上の親衛隊を目隠しし、わずかながらも動き自由を奪ったのはでかい。
お得意の規律だった集団戦を封じ込め、乱戦状態へと持ち込めた。
足を止めずに動き回りながら、手や脚などの末端に集中して攻撃を重ねる。こういう時に一撃で仕留めようなんて欲をかくもんじゃねえ。足を止める、手を潰す。それだけで戦力は激減する。
だが、そうして半分程を地に這わせうずくまらせた辺りで足元を掬われる。
足を斬られ這いつくばった一人の手が俺の足首を掴もうとする。危うくそれは逃れるが、さらに同じように次々と腕が迫る。中には文字通りに、食らいつこうと口を開き這い寄って来る奴も居る。
バランスを崩しつつも踏みとどまるが、その先には一人の偉丈夫。
「我らリカトリジオスの精兵は、手脚もがれ武器を奪われようとも、敵に食らいつきその喉笛を噛み千切り、死ぬまで戦い続けるのだ!」
振りかざす山刀は俺のものの二倍以上はある幅広で分厚い刃。刀というより斧とでも呼べそうな重厚さだ。
そいつがぶん、と振り回されて俺の顔先を掠める。
ぶん、ぶん、ぶん、と、風切り音が立て続けに聞こえるかに、袈裟懸け、返しての胴薙ぎ、さらに振りかぶっての大上段。
モーションはデカい。起こりからの軌道も読める。だが武器の大きさ重さからすれば尋常じゃなく鋭く早く、何より威力が半端ない。
当たりゃ一大事……どころじゃ済まねえわ。当たったところがそのまま吹き飛ぶ剛の剣。腕に当たれば腕が吹き飛び、頭に当たれば頭が吹き飛ぶ破壊力。
「さすがに素早いな! だが……」
かわした大刀が地面をえぐる……いや、すでに倒れ地を這っていた一人の親衛隊の背を両断し、臓物を跳ね上げ飛び散らかし、俺へとぶちまけられる。
「いつまで逃げられる!?」
跳ね飛ばされた血と臓物が俺の顔面を赤黒く染め上げ、まずは鼻、そして視力を奪う。
いつもならタファカーリの大刀を避けるのはそう難しくない。
体格も良いしパワーはあるが、刀裁きが取り立てて上手いッてほどじゃねえ。力任せで武器頼みだ。
だが……。
「クソっ……!」
背後をとられて組み付かれるところを、右の肘で鼻面にかましてから横に避ける。
避けた先の足元を這っているのは、すでに後ろ脛を切って歩けなくさせた別の親衛隊。
動く死体の不死身さとは又違う、何とも言えねぇ執念みたいなモンが、べったりと俺に張り付いてきやがる。
この親衛隊どももタファカーリに負けず劣らず体格もいいし筋肉もついてる。戦闘技術も飛び抜けちゃあいねぇがそれなりにある。
フィジカル、テクニックどちらも水準以上ではあるが、おそらく親衛隊として選んだ一番の基準はこの不屈の精神……あるいは、タファカーリへの忠誠心か。
ワン・フォア・オール、オール・フォア・ワン……一人は皆のため、皆は一人のため……ならぬ、全ては一人、タファカーリのため……だな。
執念深い親衛隊の、そのまとわりつくような切っ先、腕、そして牙を何度となく避けながら、さらにはタファカーリの暴風のような強烈な大刀の連撃を幾度と無く捌く。
その俺の背に当たる固いもの。
すでに一部が切り裂かれたがまだ全体としてはその姿を保っている、大きな天幕を真ん中で支える太い支柱だ。
「逃げ場はない……」
タファカーリが言いつつ大刀を振りかぶるが、背に直径30センチ以上の大柱、左右も親衛隊に囲まれて、前から詰め寄るのは大刀を構えたタファカーリ。
まるでスローモーションみてえに良く見える大刀の、吸い込まれていく様をまじまじと見ながら、俺は腰を落とす。
ガシン、と食い込んだのは天幕の太い支柱。さすがのタファカーリでもこのぶっとい柱を両断……なんて芸当は無理。瞬時に沈み込むように腰を下ろし、そのままアスバルのオーバーヘッドキックよろしく足で奴の腕を蹴り軌道を支柱へと逸らした。
「ぬぐッ……!?」
力がある分、支柱への食い込み方も強い。そう簡単には抜けないだろう隙をついて、俺はそのままタファカーリの股を潜り包囲の外へ……と行きたいが、まだまだ親衛隊が多すぎた。
勢いよく滑り出す、とは簡単に行かず、数人の手や足を払うように斬り、又突き出された剣先を受けて弾く。
その最後の一人の刀が下を滑る俺の腕を打つ。
刃は立ってねえから斬れてはいねえが、要は鉄の棒でぶっ叩かれたのと同じこと。骨まで影響はねえがかなりの痛み。
今は戦闘中のテンションで痛みは誤魔化せる。それでも左腕の性能はガツンと落ちた。乱戦じゃ必ずしも一撃必殺は必要ねえ。
立ち上がりの遅れた俺に、数人のまだ無傷の親衛隊が、今度こそはと打ちかかってくる。
反転、かわし際に脚で一人の腕を蹴り上げ武器を落とさせる。
そいつをさらに蹴り飛ばし、別の一人にぶつける。
さらに反転し四つ這いになってから、飛び上がって奴らの頭の上を飛び越える。二人程を踏みつけにして包囲を抜けると、目の前にはようやく天幕の出口。
出るか? 逃げるか?
今後の事を踏まえんなら、出来れば今、ケリをつけたい。だが、とは言えリカトリジオスの一司令官とその親衛隊を全員相手するのはやっぱキツい。
その逡巡の隙に、背中を打たれた。
かなりの重さて俺を打ったのは……倒れてただろう親衛隊の一人。
そいつが、勢いよく飛んできて俺の背に叩きつけられる。
重なり倒れて膝をつく。
出来るだけ素早くはねのけようとするが、投げつけられたコイツは既に意識もなく血まみれで半死半生。腕を含めて骨も折れているっぽい。鎧の重さもあり簡単にゃどかせない。
どしん、と地響きするかに思える勢いで、タファカーリが足を踏み鳴らす。
今まで座った姿勢ばかり見ていたから印象に残ってなかった。改めて見ると長身で体格の良いタファカーリだが、中でも脚の太さは半端ない。と言うか、下半身の筋肉が上半身のそれより一回りか二回りは分厚くデカい。
恐らくこの親衛隊は、ふらついていたところをタファカーリに蹴り飛ばされ、文字通りに生きた砲弾みてーに俺へと“発射”された。
「捕らえよ」
響くその声に数人の親衛隊が反応し再び囲まれる。
まだ意識のない親衛隊の身体を押しのけられずにいる俺は、ここを脱するのに二手は遅い。
呼吸を合わせて間合いを詰める四人の親衛隊たち。
なんとか抜け出て一呼吸。
奴らが寸前に迫り一呼吸。
そして、新たな悲鳴と血飛沫。
足元を薙ぎ払われ倒れる二人に、切り裂かれた喉元から血を噴き出させたのが二人。
その間に、天幕の外へと引っ張り出される俺が、匂いで分かるのは三人の援軍。
やや短い薙刀に似た特徴的な武器での脚薙ぎを得意とするムーチャに、正に舞のような華麗さで双刀を振るうマハ。
そして長身痩躯だが筋肉質な痩せた犬獣人のルゴイが、その長い腕で俺を引っ張り出し、担ぎ上げている。
「おい、たいした怪我なんざしてねえ、自分で歩ける!」
「……そうですか? でもまあ、急ぐんで」
相変わらずの表情の読めないとぼけた調子でそう続けて、ルゴイが走り出すのとほぼ同時に、背後では陶器の割れる音とあの強烈な臭い匂い。
「マジュ、遅いー!」
「ノロマ、助けに来てやった」
恐らく爆発食屍鬼のゲロ瓶をタファカーリたちへと投げつけただろうムーチャとマハが、続いて天幕から出てくる。
中からは色んな意味での悲鳴と嗚咽。実際あのゲロは、単純に匂いだけで言っても臭すぎる。それだけでも犬獣人への攻撃としちゃ効果あるぜ。
「急いで逃げますよ」
「……何を焦ってンだ?」
「作戦は上手く行ってます。けど、思ってた以上の大物がかかったので」
「あの糞デカい重戦車食屍鬼よりもか?」
「重戦車食屍鬼? 変な呼び方ですね」
「気にすンな。で、何なんだ?」
「分かった。とにかく……マジュヌーンも一度会ってますよね? あの死霊術師……あいつも来ています。ゲロを使って食屍鬼たちを誘導したあと、それをさらに追って来ました。
リカトリジオスにとってだけではなく、俺たちにとっても厄介です」
混乱状態のリカトリジオス陣内を走りながら聞くルゴイからの知らせは、確かにある意味朗報で、ある意味難問。
あの死霊術師がどこまでこちらの状況を把握してるかは分からねーが、そうだな、奴とやりあった俺がリカトリジオスの一員だと、そう“誤解”しててくれりゃあ助かるがな。
「それとレイシルド先輩によると、その死霊術師の周りを何やら別の闇の魔物がうろついているらしく、それもちょっと不穏だと言うんです」
「別の魔物?」
「正確にはわからないけど、どうも砂か灰の塊みたいな、渦みたいな……そういうものらしい」
と、これは俺にとっては明らかな朗報。
「いや、そいつに関しちゃ大丈夫だ……多分な」
「マジュ、知ってるノー?」
「あー……まあ、知ってるっつーか、廃都アンディルでもちょいちょい見かけてた。
やつはどうやら食屍鬼や死霊術師とは敵対してるっぽい。少なくとも俺たちの敵ではなさそうだ」
実際にはそいつは、“災厄の美妃”の持ち手である俺に仕えるカルト集団“闇の手”の一員で、妙に芝居がかった話し方をする闇エルフ、フォルトナ・ガルナハルの使役する灰砂の落とし子だ。
奴には念のために死霊術師の監視と対応を頼んでいた。
奴が着いてるなら死霊術師のことはそう気にする必要はない。むしろ上手いことタファカーリとぶつけ合うよう誘導してくれるだろう。
ここでケリを付けないことで先に禍根は残すかもしれねーが、本来の目的を優先だ。
「おい、いい加減降ろせ。てめえの脚で歩けるぜ」
後ろ頭をひっぱたきそう言うと、ルゴイはまた妙に丁寧な所作で俺のことを降ろす。
「行きましょう。レイシルド先輩のところにはこれが案内してくれます」
首から下げてる革紐の先にある小さなアクセサリー。うさぎか何かを模してあるように見える革製のそれは、ルゴイを引っ張ろうとするかのようにある方向へと反応している。
「道案内はまかせるぜ」
駆けつつ周りの気配を探ると、騒乱はすでにこの陣営全体に広がっていて、南の方の食屍鬼達に、さらにあらゆる場所から沸き起こっている奴隷たちの反乱。
奴隷達の方はと言うと、なるほど確かに俺の読み通り、何人かの手枷手鎖の奴隷達ですら、蹴りを巧みに使ったアクロバティックな動きで善戦している。
おそらく前々から計画自体は練られていて、機を見てこの状況に持ち込めるだけの準備をしてたのは間違いねぇ。だが、明確に指揮する人間のいない反乱だから、どうしても混沌としてくる。中には奴隷同士で争ってる奴らも出ているし、ときおり俺たちへと突っかかってくる奴らもいる。そういう連中のことは軽くいなして走り抜けるが、中にはそれだけじゃ済ませられねー強者も混じってるから厄介だ。
「寄ってくんじゃねえバカども! お前らの相手は俺たちじゃねぇ! さっさと逃げ出せ!」
興奮し血走った目で殴りかかってきた南方人奴隷の一人を蹴り飛ばしつつ叫ぶ。
「うざい。脚を斬ってやりたい」
「やめとけやめとけ。俺たちにとってもこいつらは敵じゃねえんだからよ」
奴隷達を助けること自体が目的じゃねえが、かと言って奴隷たちを殺すのが目的でもねえ。こいつらが暴れてくれた方が俺たちにとって都合がいいし、そういう意味じゃ奴らを利用してるんだからそうそう文句も言えたもんじゃねえ。
だが、駆け抜け様に各所に目をやると、やっぱりこの反乱自体がうまくいってるようには見えねーのも確か。
あそこの天幕の裏手でうずくまっている若い南方人は、多分さっきのタファカーリの本陣で楽器を弾いていた奴だ。両腕に恐らくはもう息をしてないだろう若い女……いや、子どもの南方人を抱えている。
かすかに見えるその肌には、濃い青の入れ墨がしてあるようにも見える。
そのうずくまる背に向かって、リカトリジオス兵の小集団が武器を手にして近付いてるが、野郎はそれに気付いてる風もねぇ。
「……ちっ。悪いなちょっとばかし寄り道するぜ」
俺はそう告げるとそのうずくまっている南方人奴隷の方へと近付いて行く。
だが、俺が近付くより早くリカトリジオス兵の小集団は、手にした小さめな投げ槍をその南方人奴隷へと投げつけようとする。
距離的に俺では間に合わない。走りだしても防げはしない。その刹那の間に、それこそまさに旋風、砂を舞上げ渦を巻くようにして蹴りが一閃、飛来する投げ槍を叩き落としたかと思うと、そのまま跳躍し迫り来るリカトリジオス兵たちへ躍り掛かる。
「ワァ、スゴいね、彼!」
マハが横でそうはしゃいだように感嘆の声を上げる。
その動き、当然思い当たるのは奴と同じく南方人で、かつて故郷の村をリカトリジオスに襲われた生き残りのルチアだ。
うっすらと見えていた入れ墨も、確かにルチアのそれと似てはいる。
勢いはあるが多勢に無勢、俺はそいつを助けようとさらに歩を進めるが……、
「頭下げろ!」
ムーチャの声と同時に、例の薙刀みてーな武器の背で後ろから膝を払われ、倒れたところに大岩が飛来。
見ずとも分かる、厄介な連中との再会遭遇。だが今回はそれだけじゃねぇ。
続けて、アメフトみてーにタックルしてくる突進食屍鬼の攻撃をかわし、上空高くから急降下してルゴイへとのしかかった狩人食屍鬼をマハが素早く斬りつけ、ムーチャの短薙刀が煙たい食屍鬼の長い舌を切り払う。
タイミングを合わせた同時攻撃。
群れの真ん中に居るのは、そいつらの二倍、三倍の体格はある巨体の重戦車食屍鬼。そしてその肩に乗って居るのが、あの仮面の死霊術師だ。
重戦車食屍鬼を含めたこの群れを、コイツが操ってるのは明白だ。爆発食屍鬼のゲロでただ誘導されただけの食屍鬼たちとは動きが違う。そう、群れと言うより軍隊だ。
無秩序でデタラメな変異食屍鬼の群れだとしても、それぞれ一発で戦況をひっくり返されかねない特殊な攻撃は厄介だったが、そこに司令官が付き戦術が加わるとなりゃ……その厄介度は倍以上だ。
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