遠くて近きルナプレール ~転生獣人と復讐ロードと~

ヘボラヤーナ・キョリンスキー

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第一章 今週、気付いたこと。あのね、異世界転生とかよく言うけどさ。そんーなに楽でもねぇし!? そんなに都合良く無敵モードとかならねえから!?

1-25.「てめェ、こンな所で何やってやがるッ…………!?」

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 先程までの喧騒と、大量に焚かれた篝火の明かりから離れた、別の洞窟の入口。
 ここには既に来たことがある。というより、入れられていたことがある。
 最初に俺が入れられていた竪穴式の独房があった区画で、その奥にはさらに幾つかの木枠で作られた檻がある。
 捕虜を捕らえておくための牢獄、だ。
 
「人間の女を紹介してやる」というユリウスさんの言葉にやや色めき立ち、ノコノコと着いてきた先がここと分かって、俺は急激に気持ちが沈んで行く。
 そんな俺の様子にユリウスさんはというと、
 
「おいおい、そんなに緊張するなって。
 別に今すぐどーこーせい、って話じゃねえんだぜ?
 まあ、顔合わせだよ、顔合わせ」
 
 気楽に行けよ、とばかりに背中を叩く。

「あ、そうだ。
 前にも言ったけど、無理矢理とか禁止だからな。
 ウチはそーゆーの無しだから。ヤるならちゃーんと合意のもとでヤること。
 俺ら文明人なんだからよ」
 
 そう言えば、と思い出す。
 元々のリーダーホブゴブリンと“決闘”することになった切っ掛けというのが、そもそもは捕虜の女性への処遇によるものだった。
 それ以降この群れでは、女性捕虜への暴行等々は禁止になったのだとか。
 その話を思い出し、やや安心する。
 良かった。オークだからって姫騎士陵辱とかやらなくて良いんだ。元々そんな義務ないけど。
 
「今捕虜になってる人間の女は、右側の一番奥の牢に居る。
 二人とも戦士だ。そして一人はかなり活きが良いぜ」
 腕を組んでそう楽しげに言うユリウスさん。
 活きが良い、というのがどういう意味か。どういう意味かは分からないが、あまり良い予感はしない。
 
 正直、ユリウスさん流の「勝者へのご褒美」である、「ゴブリンの群れの捕虜になってる人間の女性達とのワクワクドキドキトークタイム」は、俺からするとどう考えても罰ゲームだ。
 どっからどう見ても気まずい事にしかならない。
 だいたいどんな話をすれば良いのか?
 
『いい天気ですね』
『ずっと牢屋だから、天気なんか見れてねーよ!』
『元気? 髪切った?』
『なワケねーだろ!?』
『趣味は何かな?』
『強いて言うなら脱獄プラン練ることかな!』
『最近興味あることって何?』
『だから脱獄だよ!!』
 
 出来るかっ……そんな話っ……!
 
 ……と、本人に直接言えれば良いのだけれども、正直それは無理な話だ。
 結局のところ俺は、ただ単に「同じ転生者で元日本人同士」という奇縁で特別扱いされているだけで、本質的には「捕虜の一人」でしかない。
 ユリウスさんの機嫌が良い限りにおいては身の安全は保証されるだろうが、それだっていつどう転ぶのかなんて分かりっこないのだ。
 なので、とりあえずは彼の「御厚意」を無碍にはせず、少なくともこの洞窟の奥へとは入らなければならない。
 
 俺はそろりそろりと洞窟の奥へと向かう。
 季節は秋に入り、ただでさえ夜になると冷え込みだしている。洞窟の中であれば尚更だろう、と思っていたが、存外そうでもない。
 見るとそこかしこで火が焚かれていて、洞窟内が寒くなりすぎないようにしているらしい。
 と、同時に、その火の辺りから何か独特の匂いがしているようだった。
 ダークエルフの療養所で嗅いだアロマにも似ている様だが、それとも少し違う。
 落ち着く香りであったそれとは異なり、こちらはなんというか寧ろ逆にある種の気持ちの高ぶりのようなものを感じる。
 
 ふらふらと、決して確としたものとも言えぬ足取り。
 転びそうになりながら、少しずつ進んでいく。
 天井も高くなかなか広い空間の洞窟内に建ち並ぶ木枠の牢内にはそれぞれに数人の捕虜が居て、エルフだけの牢や、ダークエルフだけの牢、また、男だけの牢と女だけの牢とで別れていた。
 服装には統一感はない。しかし当然それらはかなり破られ汚れ、結果多くが半裸に近い状態だった。
 既に寝ている者も多数居る。寝床は俺の部屋同様に寝藁と毛皮で、確かにこれなら凍えることにはならないだろう。
 まだ起きている者も数人居たが、俺に対して特別に興味を持つそぶりも見せなかった。
 そんな中を歩き程なくして、俺はこの牢屋のある洞窟の最奥へと辿り着く。
 
 薄暗い洞窟内に、ゆらりと白い肌が浮かび上がる。
 他の捕虜達同様に、薄汚れ所々破けた服を着ており、一人は横になり寝ているようで、もう一人は岩壁に背をもたれてぼんやりとしているようだった。
 二人とも、黒に近い濃い茶色の髪をしていたが、岩壁に背をもたせかけている方は髪が長く、色合いもやや薄い。その向こうで横になっている方は、光が届かずにあまりよく見えないが、肩にも届かない程度の短さに切られているようだったが、パッと見でも長いこと手入れもされていないのが分かるくらいにボサボサと荒れている。
 一見して閉じこめられている虜囚なのだということが明確に分かる。
 そしてそれは、本来なら俺もそうなるハズだったのだ……ということも。
 
 顔合わせをして何かを話せ、と言われても、何も話せることなんかない。
 どうするか。すぐに引き返せば何か言われる気がする。
 かと言ってここで捕虜の人達を漫然と眺めていてもどうにもならないし何も出来ない。
 そんなこんなで暫くただそこに立っていると、洞窟の入り口から大きな声で、
「おーい。悪ィけど、俺、ちょっと先帰ってるわ。あとはテキトーにヨロシクなーーー」
 と、ユリウスさん。微かに女達の嬌声も聞こえてくる。
 それを聞いて、俺はやや安堵する。ユリウスさんの本人的には厚意による見守り、即ち監視の目が無くなるだけでも、俺としてはかなり気が楽になった。
 もう少しだけ時間を潰したらさっさと部屋に戻って寝てしまいたい。そう考えているところで、別の誰かの声がした。
 
「───して……くだ……。
 ……がい……です……、……とには………を、出さ……いで……さい」
 髪の長い方の女性が、聞き取れるか聞き取れないかというほどの声で、そうぶつぶつと呟いて居た。
 うなされているのか、或いは寝言か何かか。
 しかしその声は熱に浮かされたかのようで、次第に大きくはっきりとしてきた。
 
 不意に、彼女はゆらりと身体を浮かせ、膝立ちになってからまるで倒れ込むかのようにして囲いの木枠の側へと来て、今度は俺の存在を見定めると一層大きな声で叫ぶ。
「お願いです……、いも……うとには、手を……出さない……で!
 私が……身代……なり……!」
 びくりと数歩、跳ね飛ぶように後退する俺。
 両手で太い丸太の木枠を持ち、縋るように懇願するようにそう繰り返す。
 
 よく見ると、彼女達は両手両足が縄で縛られ、開けるのはせいぜい拳二つ分の幅くらい。そして首にも皮の首輪が嵌められていて、その首輪には小さな光る石がはめ込まれていた。
 熱っぽく粘ついた彼女の声は、半ば半狂乱と言っても良い取り乱し方で、僅かなりとも会話が成立しそうには無かった。
 俺が落ち着け、だの、安心しろ、だのとの気休めを言ったところで、どうにかなるとも思えない。
 
 それに……俺は自分の中の小さな変化に困惑していた。
 彼女に話しかけられてから、もぞもぞとして熱っぽく、落ち着かない感じがしてきたのだ。
 普通に考えて、たとえどんなにきわどい露出の多い格好だとしても、こんな状態の女性に性的な欲求なんか湧くわけがない。
 女性を苦しめ辱めれば興奮する変質者であるとか、たとえそれがいついかなるどんな環境どんな状況でも、女性の肌や下着姿を見れば性的な興奮をする異常者とかでも無い限り、こんな風にとり乱した女性を性的にどうこうしたいとは思うわけが無い。
 しかし今俺の中にわずかながら沸いている衝動は、明らかにこの女性への性的な欲求だ。
 どうしてだ? その衝動に俺は戸惑い慌てる。
 オークだからか? まさかオークと言う種族にには、そういう加虐性癖や異常性欲などの特徴があるというのか? いやしかし……。
 
 俺のその戸惑いをよそに、女性の悲痛なまでの懇願の声は奥で横になっていたもう一人をも反応させる。
 もぞもぞと動いてから顔を上げた彼女は、こちらを確認すると暫くして、何故か聞き慣れた気のする帝国語で鋭く叫んで詰め寄って来た。

「てめェ、こンな所で何やってやがるッ…………!?」
 
 ◆ ◆ ◆
 
「糞……!! 
 リタ、リタ、落ち着け……!
 大丈夫だ、リタ。アイツじゃねえ。ここにいるのはアイツじゃねえ!」
 
 小さく、だがしっかりとした声で囁きながら、髪の短い女性は木枠に縋りついていた長髪の女性の両肩を抱き抱えながらそう言う。
 リタ───。俺の、“追放者グラー・ノロッドのオーク、ガンボン”であるところの俺の記憶が、その名前に反応する。
 脳裏に浮かび出すいくつもの場面、記憶───。

『───大丈夫だ。妹さんはきっと見つかる』
『まだ死んだと決まったわけじゃない』
『彼等はしぶといさ。そう簡単にくたばるタマじゃない。そうだろ───』
 
 リタ・ウォーラー。
 俺は彼女と他数人と共にこの森へと来た。
 そして野営を始めたところで、何者か……いや、違う。『この群れのゴブリン達』に急襲されて死に……死に瀕し、俺だけはうっすらとした前世の記憶を伴って蘇生した。
 そしてリタは───つまりはそういうことなのだろう。彼女だけは捕虜として連れ去られた。

「リ……タ……?」
 意図せずに口をつく。
 そして、もう一人の髪の短い方の女性は、カイーラ……そうだ、カイーラだ。リタの妹であり、やはり俺と同じく疾風戦団の一員。
 リタ、そしてカイーラと出会ったことで俺の中にある“追放者グラー・ノロッドのオーク、ガンボン”の記憶の一部が、怒濤のように溢れ出て脳内を掻き回す。
 呆けた様に口を広げ、俺はその苦痛とも言える記憶の渦に囚われて身動きできずに居た。その意識を再び引き戻したのはカイーラの声。
「おい、料理番! こっちへ来い、このバカが!」
 語調は荒いが、声はボソボソとして精彩を欠き、彼女もまた疲れ果てていることは明らかだった。
 
 俺はふらりとよろめくような動きで牢屋の木枠へ近づき、なんとか耳に意識を集中させる。
「何でてめェ一人だ……?
 戦団の、他の連中は来ているのか……?」
 居ない。居るわけがない。そもそも俺は一度(二つの人生で言えば二度?)死んでいて、ここにも戦団の一員として来ているワケじゃない。
 ダークエルフ使節団にたまたま紛れていた風変わりなオーク。そういう立場で、流されるままにここにいる。
 
 どう答えれば良いものか。言葉に窮した俺は、しかし一つの明確な回答として首を左右にふるふると動かす。
 
「救援は…無し……か」
 
 うなだれる様に返すカイーラだが、再びこちらへ視線を向けると、
 
「……じゃ、てめェは何なんだ? ここで何してる?」
 
 ごもっともな疑問。俺は言葉少なに、「捕まって、解放された」と答える。
 俺はオーク語とエルフ語と帝国語が使えるが、その中でも帝国語の習熟度が一番低い。聞く方はそこそこ出来るが、話せるのは単語単位の片言。複雑な言い回しは不可能だ。
 なので、元より饒舌ではないのに加えて、さらに意志疎通が難しい。
 
「……“試合”をしたのか……?」
 したのか、と問われれば、した。
 成り行きで、ダークエルフの若者、レンジャー見習いのセロンを助ける為に、雄牛兜との泥仕合を繰り広げている。
 こくり、と俺は頷く。
 するとカイーラはあからさまに嫌悪と警戒の表情を表して、抱えていたリタをより強く引き寄せ木枠から離れる。
「……じゃあ、てめェはもう奴らの仲間かッ……!?」
 
 違う!
 
 いや、確かに状況も関係性も複雑で説明しがたいが、ユリウスさんとゴブリン達の「仲間」になったかと問われれば、それは明確に違う。
 ぶるぶるぶる、と、勢い良く首を横に振る。
 カイーラは暫し訝しげに俺を睨みつつも一呼吸置くと、
「……まあ、てめェはこう言うとき嘘がつけるほど器用じゃねえか……」
 信頼されてると言えるのか、そう評された。
 
「……仕方ねえ、もうてめェしか居ねぇからな……。
 いいか、料理番。とにかく此処を逃げ出して連絡を付けろ。
 位置は闇の森外周部西南方面、牙岳と黒竜河の間だ。
 群全体の総数は少なくとも300以上で、コボルトなどを手下にしているし、死霊術や土魔法の使い手もいる。
 何より……ゴブリンロードを名乗る群のボスとその側近連中は……異常だ。
 あんなの、ゴブリンじゃねえよ。有り得ねえ。むしろありゃ……“魔人ディモニウム”か何かだ……」
 絶望的、とも言える表情を見せるが、すぐにそれを引っ込め言葉を続ける。
 
「とにかく、親父でも良いし、ラシードでもジョーイでも良い。
 上の誰かに伝えてくれ。
 こいつらを壊滅させるには、並みの戦力じゃ駄目だ……総力戦でなきゃ、太刀打ちは出来ねぇ……!!」
 吐き出すようにそう言うカイーラ。
 それに対し、俺はどう答えれば良いのか分からない。
 リタとカイーラの事は思い出した。しかし他の部分はまだ曖昧なままだし、戦団と連絡を付ける方法が分からない。
 それに何より、壊滅させるというカイーラの言葉に動揺を隠せない。
 
 壊滅。それはつまり、ここのゴブリンやそれに従う事を選んだ人たちを殺す、ということだ。
 ユリウスさんはハッキリ言って怖い。
 捕虜を闘わせ、負けたら処刑するということを常習的に行っているらしいし、そもそもユリウスさんは覇権を唱え、手始めにとダークエルフ達を攻撃している。
 ユリウスさんの覇権主義が推し進められれば、戦団もいずれは戦うか従うかの選択を突きつけられることになるだろう。
 そしてそれは、俺自身にも突きつけられる選択の筈だ───。

「ここに居る限り、アタシらはいつかはイカレちまう……。
 アイツは得意面で『従うかどうかはお前達の自由意志に任せる』だなんだと言いやがるが、こんな所に閉じ込めて、“服従の首輪”なんざはめた上、おかしな薬や香やらを使って、アタシらの頭をブッ壊そうとしてやがんだ」
 服従の首輪……。それは恐らくここにいる捕虜達にはめられた革製で小さな光る石の付いた首輪のことなのだろう。
 そして薬、香……と聞いて、ようやくこの牢屋のある洞窟に入ってから感じていた違和感の正体が分かった。
 焚かれている火は単に寒さを防ぐためだけのものでは無かったのだ。
 ある種の催眠効果…・内なる欲望を刺激して、「自主的に」彼等がユリウスさんに応じるように促す為の特殊な効果のある香りで、洞窟内を満たすためだったのだ。
 その上、捕虜の彼女等に対しては、飲み物か食べ物に混ぜて、直接口径で薬を与えている……ということか。
「俺たちは文明人だから、無理矢理はダメだ」と言っていた。
 しかし監禁し自由と選択肢を奪い、薬や魔導具を使った上の「相手の自由意志」とは、いったい何だ?
 そんなもの───。

「クズがよく言う、ただの幼稚な詭弁だよ」
 
 俺の中の脳内レイフが、そうハッキリと断言した。
 
「アタシら二人がまだ生かされているのは、単に女だからだ。
 アイツは女───いや、“女の身体”に対しては異常なまでに執着している。だから殺されていない……。
 だからダヴォンは……とっくに殺されちまッた」
 
 ダヴォン・マッカーシー。
 また記憶がうっすらと蘇る。しかしあまり明確にならないのは、リタやカイーラの様に直接会っていないからか、それとも元々関係性が薄かったからか。
「試合に勝てば、命の保証をする───とか言ってな。
 だが、あの組み合わせに条件は、明らかに最初からダヴォンを殺そうと仕組んで居たんだろうよ。
 さんざんなぶった挙げ句に、仕舞いには生きたまま腹を裂いて、他のゴブリン共にヒトの殺し方のレクチャーなんぞしていやがった。
 アイツは能力がどうこう以前に、異常過ぎるんだよ……」
 その様を想像してしまい、胃の中から食ったものが込み上げて来る。
 
「あんな奴───生かしておいちゃあダメだ───」
 
 生かしておいちゃあダメだ───。
 
 カイーラの言葉が、俺の混乱した脳に痛烈な一撃を加える。
 その言葉は、余りに違和感なくしっくりとしている。
 
 チートレベルの特殊な【スキル】で、誰かに死か服従かを平然と突きつける。
 覇権を唱え、周りの全てを敵に回し、戦争を起こそうと目論む。
 捕虜を闘わせ、なぶりものにし、生きたまま腹を割いて殺す。
 女を無理矢理従わせるのは良くないとうそぶきながら、薬や魔導具で支配し屈伏させようとする。
 
 並べ立てれば、一つも擁護出来るところはない。
 だが───。
 
 俺と居るときのユリウスさんは、ある意味とても無邪気で楽しそうでもあった。
 やっていることは明らかに異常者のそれだ。
 けれども俺に対しての振る舞いは、なんというか「強引だが世話好きの気の良い兄貴分」のようで、正直怖いし迷惑なことばかりだが、それ自体を憎むことも出来ない。
 勿論それが、俺とユリウスさんが共に元日本人の生まれ変わりだから、という共通点があるからでしかないのも分かっている。
 そう、俺たち二人の───と、そこで、気がついた。
 
 ユリウスさんにとっての俺の存在は、俺にとってのレイフの存在とよく似ているのだ……と。
 
 一度死ぬという体験をし、見知らぬ異世界で蘇生し放り出される。
「向こうの世界の自分」の目線では、全く勝手も分からぬ、文明レベルも何もかも違う場所で、誰とも通じ合え無いかに思える孤独。
 俺は、転生して翌日にはレイフと会うことが出来た。
 同じ様な経緯を辿ってこの世界に放り出された先達として、俺を支え、教え、導いてくれた。
 しかしユリウスさんは、ゴブリンの群の中で、しかも立場の弱い若いゴブリンとしての生まれ変わりだ。
 食べること、生き抜くことに必死になり、争いたく無い相手とも争わなければならない環境。
 殺さなければ殺される。弱肉強食の世界。
 そんな中で、ユリウスさんは今まで生き抜いてきたのだ。
 それは、俺の場合の転生とも、レイフの場合の転生とも、まるで違う。
 
 俺のような巡り合わせと幸運に恵まれて今ここにいる甘ったれた奴に、彼を断罪する権利、資格などあるのか?
 俺がもし、ユリウスさんの立場で転生して居たら?
 或いはレイフに出会うことなく、この森をさまよい歩き、飢え疲れ果て何度も死の淵を見てから、ユリウスさんに“助けられて”ここに来ていたのであれば?
 ───分からない。
 現実に、そうでは無かった。
 そんなのは「たら、れば」の話でしかない。
 だがそれでも───。
 
 ユリウスさんにとって、俺はこの世界で初めて会った───巡り会えた、「転生する前の自分」で居られる相手、だ。
 俺にとってのレイフ、レイフにとっての俺がそうであるように。
 
 ダークエルフも助けたい。リタやカイーラ達戦団の者、ゴブリン達の捕虜になっている者も助けたいし、戦争も止めたい。
 レイフとも、ユリウスさんとも、出来るなら友達のように馬鹿話をしながら語り合える関係になりたい。
 そんな望みは───余りに、身の丈に合って居なさすぎる。
 
 
「───おい、聞いてんのか?」
 再び迷妄から引き戻されたのは、カイーラの発した次の言葉によるものだった。
「それで、お前は───“クリスティナを見つけること”は出来たのか?」
 
 ───クリスティナ。
 我が、戦乙女───。
 
 思い出した。
 俺は彼女を探すために、この森へと来た。


 
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