遠くて近きルナプレール ~転生獣人と復讐ロードと~

ヘボラヤーナ・キョリンスキー

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第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!

3-183.追放者のオーク、ガンボン(71)「衝撃の展開である」

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 道中の旅の道連れと思いきや、夜営中にコッソリ俺たちを取り囲み、騙し討ちで襲ってきた隊商の護衛兵たちのリーダーを、見事な技で絡め取り羽交い絞めにして人質としたラシードらにより、さてひとまずこの戦闘は決着か……と思いきや、どうもそういう雲行きでもなさそうだ。
 
 まずは注目されるのは隊商主だが、やや小柄で小太り、そこそこ華美な服を着た隊商主は、さらに困ったように慌てて、この状況に適切な指示を出すことが出来ていない。ただ周りの顔色を伺うように視線を泳がせるばかりだ。
 
「くそったれ、構うな、一気にかかれ!」
 
 逆にそう叫んで指示を出すのは、ラシードに捕まえられた大柄な警護兵。
 
「おお? 意外に根性あるねぇ、あんた」
「うるせぇ!」
 後ろから腕を首に回して自分を拘束しているラシードに対し、もがきながらも肘打ちで脇腹を攻撃する警護兵の男。だが、装備の性能もあり、あまりうまく攻撃が入ってる様子はない。お互いに組み合い揉み合い体勢を変えるが、ラシードの拘束からは逃れられない。
 
 それでもその2人に向かって他の警護兵が殺到する。それを防ぐのは、アリックさんに連れられた弱々しい者達とセロン、そして───。
 
「ぐぁッ!?」
「な……痛ッ!!」
 何かが勢いよくぶつかって、彼ら警警護兵を打ちのめす。何だ? 一瞬だけ目に入ったのは、わずかな光の反射、揺らめき。
 
「がっ……ゴブァ!?」
 むせる、と言うか、吐き出す、というか、とにかくそんな嗚咽を漏らしてのた打つ数人の警護兵。
 彼らを襲ったのは水だ。だが、レイフの使い魔となった水の聖霊獣ケルッピさんの【水の奔流】ほど大きなものじゃあない。おそらくは、ピンポン玉かせいぜい野球ボール大ぐらいの水の塊。
 だがそれがものすごい速度、勢いでぶつかってくれば、水鉄砲のようなお遊びじゃすまない。ウォーターカッターのように切断するほどの威力じゃないが、投石のような強い衝撃が与えられる。加えて、口や鼻に入れば、咽せもするし呼吸も苦しくなるだろう。
 その、水弾に撃たれ倒れた兵に、よれよれの服を着たやつれた面々が、手にした棒で殴りかかる。いきなりの衝撃に面くらい、口や鼻に水が入り込んで咽せてるところを、集団でボコ殴りにされてはたまったもんじゃない。
 まだ水弾の洗練を受けてない数人が、手にした武器でそれらを追い払おうと振り回すと……またもヒット!
 その魔術による攻撃をしているのは、アリックさんにより解放された奴隷の一人のようだった。
 
 明らかに他の奴隷達よりも厳重な拘束で、手枷、足枷に首枷と、さらには顔のみならず身体全体を覆うような布袋を被せられた上に拘束されて猿轡という、かなり厳重な拘束がされている。だがその猿轡はアリックさんにより既に外されていた。
 
 その水使いの奴隷による水弾攻撃を避け、また耐えたツワモノには、セロンからの追撃がお見舞いされる。
 
 俺の周りに来ていた数人、最初の攻防で倒れたが起き上がり始めていた者達も含め、慌ててそちらへ加勢に行こうとする。
 逃げ出さないのは立派なのかどうか。だがその背後を、タカギさんと俺とのブーブータッグが追い討ちし合流はさせない。
 
 半数以上が戦闘不能、立ち上がれもしない状況になった頃には、ラシードも護衛兵のリーダーらしき大柄の男を完全に地面へと押し付け制圧し、残った者達は今度こそ「お手上げ」状態で降参する。
 
「な、言ったろ? 重要なのはここからだ、ってよ」
 制圧し終えた護衛兵リーダーの上に座り込んで、ラシードがそう言う。
 苦々しげに上を見上げるも、既に精根尽きてる護衛兵リーダーは荒く息を吐くだけで返事もない。
 
「あ……」
 てのは、そこからやや離れた位置に居た俺の声。
 倒れていた者達の中から数人が、そろりと立ち上がりこの場から抜け出そうとしていた。
 その中心には、ひとりやや華美な服装の小太り隊商主の姿もある。
 この戦闘の成り行きに関していまいち理解が追いついてない俺は、そこですかさず逃がさないよう動くべきかどうかを躊躇してしまう。その俺に少し遅れて気づいたセロンは、短弓に矢をつがえて追い討ちを仕掛けようとするが……。
「いや、良い」
 と、ラシードに止められる。
「何故だ?」
「どうせ逃げられないからさ」
 セロンの問いにラシードはそう返す。
 
 暫くして、遠くから聞こえるのは悲鳴。そして周りからざわついた気配が集まり出す。
 
「……おい、どうなってんだよ?」
 緊張気味にアリックさんがラシードへとそう詰め寄るが、
「……まぁ~~~……七割大丈夫でしょ?」
 と、何の根拠からかそう答える。 
 
 集まり出した多くの気配は、焚き火のもたらす灯りの範囲の外側をぐるりと囲むようにして止まる。
 
「さて……こっからが“取引”の時間だ。
 あちらさんがお前たちを“幾らで”買ってくれるのか……と言う、か……」
 そこで、ラシードは踏みつけていた護衛兵リーダーから、視線を上げて周りの山間、木々の生い茂る斜面の方へと向ける。
 
「俺たちのこの腕をいくらで買ってくれるのか……どうだい、オタクら?」
 
 しばしの沈黙、静寂。それから、まずはゆっくりと大柄で革の鎧甲を身に付けた戦士と、軽装にフード付きのトーガを身に着けた男が現れる。
 その後ろに垣間見える新たな武装集団。
 その数……ざっと見でも30人は居るのか? 解放された奴隷を含めても、数ではやや負けている。
 
「随分と自信があるようだな」
 背の高い黒革鎧の戦士の一歩後ろに居るフード付きトーガの男がそう聞くと、
「そりゃそうだ。あんたら、ずっと見てただろ? まあ、あんたらが狙ってた獲物を先に食っちまったことに関して謝る気はないけどな」
 
 なぬなぬ? と思うのは、つまりラシードは「この隊商の連中が何やら怪しい」ということだけではなく、それを狙う集団が周りを囲んでいる、ということも把握していたという事だ。
 え、いつ? どのタイミングでそれ知ってたの?
 
「……何が望みだ?」
 フードの男がそう聞いてくる。
 ラシードはそれにそのままシンプルに、
「情報だ。俺たちゃ人探しをしてる。探してる相手がどうもこの辺で奴隷として買われた可能性が高いって言うんでね、遠路はるばるやってきた」
 と返す。
 
 それを受け、フードの男の後方にいる集団の中から、一人がすっと歩み出て耳打ち。
 
「……よかろう。我が“闇エルフ団”は、お前の申し出を受けよう。そして、お頭が直接お前達と話をしたいと言っている」
 
 そう告げた。
 
 ◆ ◆ ◆
 
 こっから、衝撃の展開である。
 
 驚いた驚かないのと言えばそれはとても驚いた。現れ、兜を取ったその“お頭”は、確かに耳の先が少し尖ったエルフのとんがり耳。けれども肌の色はダークエルフの青黒いそれではなく、やや黄色みのある白で、ウッドエルフのそれに近い。
 その“闇エルフ団”のお頭に、俺たちは見覚えがある。厳密には、俺とラシードは、だ。
 
「お、おま……!?」
「何だ? 知ってるのか?」
「知り合いも何も……」
 そう、知り合いも何も……だ。
 
「サッド、おまえ何やってンだ、こんなところでよ?」
 
 チーフスカウトのサッド。
 クリスティナ、タルボットらと共に闇の森で行方不明になった疾風戦団の1人。つまりは俺たちの「人捜し」の目的の1人……ではある。
 
「おい、ラシード、あんまデカい声出すな!」
「出るわ、こんなん。
 いや、とにかく何がなんだってんだお前?」
 事情のあまり分かっていないアリックさんとセロンは、何やら怪訝そうな、不審そうな顔でこちらのやり取りを見ているが、この疑問は俺やラシードからすれば当然のもの。なにせ、行方不明になってからすでに半年以上は過ぎている。無事でいたのならば本部に帰還するには十分な時間だ。
 
「……くそッ! こっちにも色々あるんだよ、めんどくせえ事や厄介な事やら色々色々色々とよォ!」
 勢いはあるがやや声をひそめるような調子で、やや遠ざけている革鎧の戦士他の“闇エルフ団”の団員たちをちら見する。
 
 ふぅむ、とラシードは一呼吸。それから折り畳みの簡易椅子に座り直してから、
「まだ夜は時間がある。長話になるなら付き合うぜ」
 と、そう言いつつ、置いてあった(そしてさっきの乱戦ても無事なままだった)酒瓶から安物のワインを木のマグへ注いで、自分とサッドそれぞれの前へと置く。
 それを軽く一嗅ぎして顔をしかめたサッドは、ラシードが口をつけるのを確認してからちびりと舐める。
 
「……分かったよ。全部話すぜ、面倒臭ぇ事をよ」
 
 そう言ってから唾とともに安物のワインを吐き捨てて、
「おい、どっか……こいつらの荷物の中に、上物の酒があるかもしんねぇから、探して持って来い」
 と、団員たちへと指示を出した。
 
 
 
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