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第一章 今週、気付いたこと。あのね、異世界転生とかよく言うけどさ。そんーなに楽でもねぇし!? そんなに都合良く無敵モードとかならねえから!?

1-37.戦の始末「何言ってんだよ、バカ」

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「や、元気?」
 目が覚めてすぐにそう声をかけて来たのは、まるでそれが当然だよ、と言わんばかりの態度のレイフだった。
 天井を見て、右を見て、左を見ると、そこには俺が寝かされていたのと同じ様なベッドに横たわる声の主。
「ん」
 少しばかし混乱して、またややぼんやりとして寝ぼけ気味ではあるが、身体に関して特に異常は無いようで───いや、痛たただだだだ!!!
 痛い、痛い、痛い! 全身メチャクチャに痛いッ!!!
 のぐわー、と悶絶するが、この痛みが何かは多分分かる。
 そう、筋肉痛だ。
 一体あの後どうなったのか。どれほど寝ていたのか。
 
 そんなことを考えつつ、俺の悶絶っぷりにクスリと笑うレイフに、恥ずかしさ紛れの愛想笑いを返そうとして、気が付いた。
 身体に掛けられていた毛布の上からでもはっきりと分かる。
 レイフの足の先が、どちらも完全に無くなっていることに。
 
『この世界の回復魔法は、万能じゃないんだよ』
 
 幾度となく聞かされていたその言葉。その意味を如実に現す、現実。
 ゲームみたいに、ヒットポイントが1でも残っていれば問題なく歩き回り飛び跳ね戦闘をこなし、回復魔法を掛け続ければまたピンピンしている……なんてこともない。
 突き付けられたその現実に、多分俺の顔は随分と酷い顔をしたのだろう。
 レイフはまた、上体を起こしながらこちらへと向き直り、
「これでさ───」
 ちょと思案するような顔を見せてから、
「頭完全にスキンヘッドにして車椅子に乗ったら、プロフェッサーXみたいじゃね?」
 と、そう言う。
「……いや、耳ちげーし、肌もちげーし」
 二人してまた、ふはっと笑った。
 
 また少しの沈黙。
 時間としては午後の入り始め、くらいだろうか。明かり取りの天窓からは穏やかな光。
 野営地跡での戦いは正午過ぎに始まっている。
 その後郷に連れて行かれ寝かされたとしても、そんなに大差ない時間に目が覚めたのならば、最低でも丸1日は寝ていたのだろう。
 
 最初にこの郷へ来たときと同じ療養所の、同じ部屋。
 俺が目覚めたことは部屋の外で見張りに立っていたセロンが既に気付いていたらしく、程なくして例の治療士の老ダークエルフ他数名が入って来る。
 セロンはまだ本調子とまでは行かないものの、ゴブリン達との野営地跡での戦闘では特に大きな怪我は負っておらず、本人の強い希望で俺達の警護を申し出たらしい。
 
 老治療士の診察でも、俺の身体に関しては激しい筋肉痛以外特に問題は見つからなかった。
 最初の襲撃で怪我をしていたマノンは既に自宅に戻っての療養中。
 エヴリンドにエイミも大きな怪我はない。
 肩に大けがをした護衛の一人は、この療養所の別の大部屋で治療済みで、他、野営地跡での戦闘で怪我を負った者達もそれぞれに応じた治療を受けたらしい。
 あれだけの乱戦状態になった以上、死者が居ないという程の奇跡は起きない。
 けれども、
 
「死者五名……これは、戦闘の規模と相手方の損害からすれば、物凄く少ないよ」
 
 そう言うレイフだが、俺は複雑な心境だ。そしてレイフ自身もそうだろう。
 
「君を救おうとしようがしまいが、いずれユリウス達とはぶつかっていた。
 今回の成り行きでそれは早まったけれども、彼等の勢力が大きくなり過ぎる前に十全の対策を持って戦えたのだから、これ以上は望むべくもない」
 
 しかし───。俺はどうしても、ちらりと視線を向けてしまう。レイフの失われた両足へと。
 
「お前が居なきゃ、アタシもレイフも多分死んでた」
 
 そう言いつつ部屋に入って来たのは、氏族長でありレイフの母でもあるナナイさん。
 こちらも叉、あのユリウスさんとの死闘でかなりの重傷を負っている。
 竜骨へ変化をしたユリウスさんの爪の攻撃により貫かれた左腕はズタズタに引き裂かれ、右肩にも怪我を負った。
 その両腕には添え木がされて包帯ぐるぐる巻き。
 付き従っているエヴリンドの顰めっ面からして、多分『絶対安静! 動くべからず!』との指示を無視してここに来たッポイ。
 
「ガンボン───」
 ベッド脇の椅子に座るときに僅かに痛みに顔をしかめ、それからいつになく真剣な面持ちで改まる。
 
「お前は、我等ケルアディード郷の救い主で、英雄だ」
 
 ……え、え、何て? 今、何て?
 
「襲撃の際にはその身を挺し我が妹マノンを守り、野営地でもレイフへの致命傷を防いだ。
 また戦場を縦横にかけてゴブリン達を無力化し、最後には敵将をも打ち倒し、アタシの命も救った。
 お前が居なければ、死者も重傷者もこの倍……いや、十倍以上は居ただろう。
 我々はお前に、返し切れぬほどの恩が出来た」
 
 俺は……物凄くあわあわとした。
 正直、そんな風に言われるほどのことをした覚えはない。
 戦場を縦横に駆け巡り、等と言うが、それは俺の力と言うより“人狼化の呪い”によって引き起こされた“現象”に過ぎない。
 自分の意志や力で彼等を助けた、とは言えないし、そもそも下手をすれば人狼化で正気を失って、あの場の全員を殺したり傷つけたりしていた可能性すらあったのだ。
 さらには最初の襲撃でマノンを庇った、なんて話は全く身に覚えもないし、誰かと間違えてるんじゃないか? とも思うんだが、エヴリンド含め彼らの中では既にそういう共通認識が出来上がっているっぽい。
 一体───何がどうしてこうなった?
 
 そんな疑問で顔にハテナマークを並べていると、突然ナナイが立ち上がりつつ前のめりに倒れ込むようにして顔を寄せ、
「不名誉も名誉も、所詮は単なる荷物にすぎねーよ。今は大人しくそれを背負っておけ。
 重すぎて身動きがとれなくなったンなら、そんときゃ捨てりゃあいいさ」
 と、耳元で囁く。
 
 何か、物凄くストンと腑に落ちた。
 そしてナナイはぐっと下半身に力を入れると、俺の頬にキスをしてから身を起こす。
 暫し間を置いてから、俺はぶわっと赤面。
 それを見てからガハハと豪快に笑いつつ、ナナイはエヴリンド等を連れて部屋を出て行った。
 
 ◆ ◇ ◆
 
 再び、部屋の中は俺とレイフの二人きりになる。
 捕らわれていた間、戦いの間、寝ている間。
 話したいこと、言いたいこと、聞きたいことがたくさんあった。
 ユリウスさんのこと、レイフのこと、俺のこと。
 ダークエルフのこと、ゴブリンのこと、人間……疾風戦団のこと。
 追放者のこと、人狼の呪いのこと、この指輪のこと。
 心の底から一気に溢れてくる様々な思いや考え。
 けれども言葉が堰を切ることはなく、切れ切れのままぽとりと落ちて有耶無耶になる。
 
 何から伝えれば良いのか、分からないまま時が少し流れ、その静寂の中でやはり最初に口を開いたのはレイフ。
 
「リタとカイーラは解放されたよ。他の捕虜達もね」
 あのとき……野営地跡で俺やレイフ、ナナイ達が、ユリウスさんと配下のゴブリン兵を相手どっていたとき、実は並列して彼等のアジトへ秘密裏に部隊を送っていたのだ、という。
 アランディ率いるレンジャー部隊と、エリス・ウォーラー率いる疾風戦団の合同部隊だ。
 闇の森からさほど離れていない位置に仮拠点を作り、消息不明の団員の捜索を続けていたエリス・ウォーラー達は、俺とリタを含む捜索隊のチームだけ帰還、連絡が遅れていることで、二次被害の拡大を危惧していた。
 どうするべきか。次の手筈を考えていたそのときに、ガヤンと二人闇の馬に乗ってそこを訪れたのが、誰あろうケルアディード郷氏族長のナナイだ。
 ナナイはそこで、その時点で分かっている事を全て話して、兵団の協力を取り付ける。
 
 何故? 何故そんなに両者の協力関係が素早く築けたのか? というもっともな疑問には、さらに意外な答えがあった。
 
 実はナナイ。この疾風戦団の創設メンバーの一人、だったのだ。
 80年近く前、まだ帝国健在のその頃に、郷を出て自由気ままに旅をしていたナナイが出会った“仲間”たち。その彼等と共に立ち上げたのが疾風戦団。
 竜兵団にしろ砂漠の咆哮にしろ、有名で力のある戦士団の多くは、拠点地域に住む種族民族の地元密着型の互助会組織だ。
 しかし疾風戦団は珍しいことに、確かに帝国版図内に拠点を持つにも関わらず、その構成員は種族民族出自を一切問わない。
 エルフもオークも獣人も居る。人間だって東方人南方人と、帝国人以外も普通にいる。その理由は、まさにその設立の経緯、メンバーに起因するのだ、と。
 
 ただ、ナナイが設立メンバーだということは、一部の者しか知らない。
 ダークエルフにとっては一昔。しかし人間にとってみれば80年も前の事など半ば伝説。設立して程なく闇の森へと帰ったナナイのことは、俺を含めて新しく入って来た者達には殆ど知られていなかった。
 ただ彼等も理由は知らされて居ないながらも、「闇の森のダークエルフ達とはやり合うな」とは言われ続けていたのだ。
 
 そしてその、「伝説の設立メンバー、神弓の射手ナナイ」のことを知っている数少ない一人が、エリス・ウォーラーだった。
 彼の父もまた戦団の一員で、エリスは幼いときから戦団本部に出入りしていた。そこで、旅にでてからも時折本部を訪れていたナナイ本人と何度か会っているのだという。
 その上しかも付け加えれば、当時思春期に入ったばかりのエリスにとっては、短い間の交流であったもののナナイは憧れと尊敬の対象であったらしい。
 
 そんなわけで、戦団との合同作戦自体はすんなり決まった。
 アランディ率いるレンジャー部隊と戦団員達は、密やかにユリウスさん達が出発した後のアジトへと忍び込み、捕虜達を解放。その後残っていた防衛戦力を急襲して多くを捕縛した。
 
「ダークエルフやエルフの捕虜達は、それぞれの故郷へと戻されたよ。
 ゴブリン達に協力してた人間の女性達は、一応戦団預かりになって戻ることの出来る場所があるのか探しているけど……まあ、ちょっと分からないね。
 彼女達も被害者ではあるけれど……ユリウスに洗脳され彼等に協力していた。
 洗脳を解くのも、人間達の社会に戻るのも、なかなか難しいだろうね」
 
 俺は直接にはユリウスさんの“夫人”であるとされていた、人間の女性の捕虜達とは関わりを持つ機会は無かった。たまたまの成り行きなのか、ユリウスさんがあえてそうし向けたのかは分からない。
 ただ前世の、「向こうの世界」の記憶、で言うところの「カルト組織に洗脳されてしまった人たち」のようなものなのだろうと考えると、レイフの言う難しさというのも分かる気がする。
 
 それから、気になっていたことの中でも最も重くない話題……スキルというものについての話。
 少なくともレイフの言った固有スキル、【忘れ得ぬ世界記憶】とやらは全くのデタラメだし、知る限りユリウスさんの言うゲームみたいなスキルなんてのはこの世界にはないという。
 ただ一つ。
「ステイタス画面が見れる……って話がさ」
「うん、それ、ね」
 
 ガヤンの魔法の“蛇”の力とお守りとで、俺がゴブリンのアジトで見聞きしたことや何かがこちらに伝わっていたことや、それこそが【忘れ得ぬ世界記憶】という「あらゆる既知の出来事を知ることが出来る」能力を持っているというハッタリ……まあ、有り体に言えば嘘……のネタ元であるという事は既に聞いた。
 ガヤンに知られていたことを思うと、ゴブリンの女性達にお酌なんぞされてたときによからぬこととかをせんで良かった、とも思ったが、まあその件はここでは置いておく。
 
 ともあれ、そのユリウスさんのステイタス画面を見れるスキルの話は、というと、
「多分だけど、アレは基本的にはただの鑑定、感知系統の魔法なんだと思う」
「と?」
「鑑定系統の魔法には、その結果を知る、認知するのに色々なパターンがあるんだ。
 特に意識していないとしても、細かい部分を含めれば、10人いれば10通りの違いが現れる」
 例えば、とレイフは続ける。
「一番一般的なのは、鑑定結果が言葉として脳裏に“聞こえて”くる、というもの。
 次に多いのは文字として読める。けど術者によっては、匂い、色、音等々で認知されたりもするんだ」
 匂いや色で、何をどう鑑定出来るのか?
「ま、分かりやすいのは匂いによる鑑定認識だね。
 これは嗅覚の鋭い獣人の術者による鑑定魔法で起こるらしい」
 むむ、成る程。納得顔でうんうん頷く。
「事ほど左様に、鑑定魔法等による情報認識は、何よりもその術者が世界というモノそのものをどう認知、認識しているか、向き合って居るかにより変わってくる。
 ユリウスの場合は───」
 ああ、そう言うことか……。
「この世界を、“ゲームみたいな世界”と、そう認識していた」
 
 スキル、ステータスウィンドウ、モブキャラ……。
 ユリウスさんの使う「ゲームっぽい言葉」や「ゲームっぽい思考」。
 それらが、彼の使う鑑定魔法の効果にも影響を与えた。
 
「よくさ。青少年の犯罪が起きたりすると、訳知り顔のコメンテイターや、学会の鼻つまみ者のタレント学者とかか『最近の若い連中はゲームと現実の区別がついてない』───なーんて、言うだろ?」
 ゲーム脳だの、フィギュア萌え族だの、その手の言葉はやたらとある。
「けど、そんなのは『最近の連中』に限った話じゃないんだよね。
 元都知事の書いた残虐な犯罪小説の真似をして実際の犯行を行った奴、なんてのもいる。
 近現代の例に限らず、神話、宗教、伝説に、演劇、講談、戯曲その他、昔々のその昔から、人間の行動思想価値観なんてのは、フィクションにすぐ影響されるもんさ。
 そもそも、人間は世界というモノを“物語”という枠組みの中でしか捉えることは出来ない。
 君と僕の間のことは、『君と僕の“物語”』でしかないし、そこにユリウスも加えれば、『闇の森の転生者の“物語”』だ」
 呪われた人狼であり、同時にケルアディード郷のダークエルフ達を救った英雄……それもまた一つの“物語”。
 
 ◆ ◆ ◆
 
「史上最悪の心理実験と呼ばれるものがあるんだ」
 不意に、レイフがそう話を変えてきた。
「1971年に行われた『スタンフォード監獄実験』とも呼ばれるそれでは、スタンフォード大学のごく普通の男子生徒21名を被験者とし、無作為に11名を看守役、10名を囚人役と振り分けて、閉鎖空間で擬似的な監獄を作りロールプレイさせた」
 聞いたことあるようなないような話。
 
「看守役には直接的な暴力は禁止された。実験開始時に主催した教授は囚人役に本物の囚人以上の屈辱感を与える。
 
 開始して間もなく、両者の言動には目に見えた変化が現れる。
 囚人役には粗暴、無気力、怯えが見られ、看守役は横柄で高圧的になる。
 
 それから次第に、看守役は何の指示も受けていないのに自主的に囚人役への虐待を始めた。
 独房代わりの倉庫へ一部囚人役を閉じ込める。排便をバケツにさせ、監房に放置。囚人役は悪臭に延々悩まされる。
 
 精神に異常を来す囚人役が出るも、実験は継続。
 看守役の囚人役への拷問はエスカレートし、禁止されていた暴力も振るうようになる。
 
 実験開始6日目にして、被験者家族による弁護士を通じた訴えにより実験は中止になるが、看守役は実験の継続を希望した───」
 
 何とも───嫌な話だが、さてそれが今どう関係するのか?

「この実験の被験者に選ばれた男子学生たちは、当時の社会的に見れば何れも平均的で“ごく普通の”メンタリティを持っていた。
 だから、看守役に特別加虐嗜好の強い被験者が集まったわけでも、囚人役に元々卑屈で臆病な被験者が集まったわけでもない。
 それぞれに、“ごく普通で平均的な、どこにでも居るような男子学生たち”が、たった数日の実験で拷問を率先して行う暴君となり、また精神を病んだ。
 
 実験の行われた当時、人間の性質気質の多くは生来的なもので、環境により人の性質が一変するなんてことはまるで想定されて無かった。
 善人は生まれつき善人で、悪人は生まれつきの悪人で、高貴な者は生まれつき高潔で、賤しい者は生まれつき賤しい……とね。
 史上最悪と呼ばれるこの心理実験は、まさにその定説は違うということ───人は状況によっていくらでも残酷な悪魔になり得るものだと言うことを証明したんだ」
 
 これは、俺もまた考えていたことでもある。
 俺がユリウスさんの立場でこの世界に転生していたら? 或いは、レイフ達に助けられず、何度も死ぬ思いをして闇の森を這いずり回った後に、ユリウスさんと出会っていたら───?
 
「“ごく普通の人”は、“誰か他者に対して絶対的な強者である”という立場、役割、環境に置かれると、容易く暴虐さを露わにする」
 
 ユリウスさんが「向こうの世界の前世」から、暴力に忌避感のない、戦争や拷問や、監禁に虐殺を当たり前に行えるような人間だったのかどうか?
 それは分からない。分からないけれども、多分そんなことは無いように思える。
 
「加えて、これは僕の私見なんだけれども、その場合の“強者としての立場、役割、環境”が、自分の研鑽や努力ではなく、不意に、または誰かに“与えられた”ものであった場合には、より容易くその力に溺れてしまう───そんな風に思うよ」
 
 だから───多分きっと、ユリウスさんは元々は、ごくふつうの男子だったんだろう。
 ゲームが好きで、英雄譚や、ヒーロー、主人公が格好良く活躍し無双するような“物語”が好きなだけの、ごくふつうの男子───。
 
 
「ナチスドイツのアウシュビッツに収容されていたヴィクトール・フランクルは、そのときの過酷な体験から、人が生きる事には大きく3つの価値がある、と、著作『夜と霧』の中で記している。
 それは、『創造価値』、『体験価値』、『態度価値』の3つ。
 
『創造価値』───仕事や芸術を通じて、何かを生み出すこと。
『体験価値』───感動、愛情、他者貢献等の体験をして心を満たすこと。
 
 そして収容所のように、それら二つの価値が得られないような環境においても尚、生きる価値として存在するのが───、
『態度価値』───。
 自分に与えられた環境、状況、運命に対して、どのような態度を示し、向き合うか」
 
 そこでまた、レイフはやや口ごもるように少し間を置く。
 それから深く息を吸って、こう続けた。
 
「君は───一見すると勇猛でも無いし、分かり易く格好良いわけでもない。
 けど、どんな状況でも、君自身の本質的な優しさが簡単には変わらないというそのことは───本当に素晴らしいことだよ」
 
 ───何言ってんだよ、バカ。
 それはレイフ、君のことだ。
 
 
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