45 / 496
第一章 今週、気付いたこと。あのね、異世界転生とかよく言うけどさ。そんーなに楽でもねぇし!? そんなに都合良く無敵モードとかならねえから!?
40 怪物の誕生4
しおりを挟む“それ”、は、初めはぶよぶよとした粘液状ともゲル状とも言えるモノだった。
“それ”、は生物とも無生物とも言えるモノだった。
“それ”、は、あるときその場所から逃げ出し、地下を這いずり、多くの命を捕食し、様々な能力を得て行った。
“それ”は、幾度か分裂し、また集合しながら変化を続けていった。
“それ”には知性のようなものは芽生えておらず、ただひたすら一つの本能のような意志のような衝動に突き動かされているようだった。
“それ”は、多くのものを噛み、砕き、咀嚼し、飲み込んだ。
“それ”は、あらゆるものを突き、叩き、切り裂き、壊し、粉砕した。
“それ”は、その先に新たな生命と出会った。出会い、そしていつものようにそれを喰らい、我がものとしようとした。
───が、しかし。
そのとき初めて、“それ”はある種の抵抗を感じた。
肉体は既に生命活動を終わらせているに等しく、“それ”が捕食し吸収するのに何ら問題は無いかに思えた。
しかし肉体とは別の、形を持たぬ何かが、“それ”による捕食を妨げ、抗っていた。
“それ”は、捕食対象の身体的、または魔力に依る様々な情報、能力に触れ、それを吸収する事が出来た。
と同時に、そこにある“記憶”にも触れることが出来、また吸収することが出来た。
しかしそのとき“それ”が感じたのは、その緑で小さく矮小な二足歩行の生き物の記憶のみならず、全く異なる異質な世界における記憶であった。
“それ”はそのとき、その記憶がこの世界の基準からは異質で異常なものである、ということを理解は出来なかった。
ただ分かるのは、その“記憶”───そしてそれに伴う“人格”こそが、自らの捕食吸収を妨げ、抵抗するものの正体である、ということだけだ。
“それ”の中には大きな強い衝動がある。
喰らい、奪い、生き延びよ───。
緑の小さな生き物の中に降りてきた、別の異なる記憶、人格と、ここで主導権争いをすることには意味が無かった。
そこで、“それ”はやり方を変えることにした。
その緑の小さな生き物の体の中に入り込み、同化し、けれどもその主導権、人格は明け渡すことにしたのだ。
“それ”はそのときから、寄生生物として生きる事を選んだのだ。
“それ”にとって、それからはかなり居心地の良い状態が続いた。
はじめは、緑の小さな生き物は、異なる二つの記憶に混乱していた。
しかし四つ脚の毛の長い生き物に襲われたとき、“それ”がそれまでに吸収した他の生き物の力を使い撃退すると、緑の生き物は歓喜した。
緑の生き物は、自らが特別に選ばれた存在なのだと確信した。
それから緑の生き物は、如何にすれば上手く“それ”の持つ能力を使いこなせるか。どうやれば効率的に“敵”を倒し、屈服させ、支配できるのかを研究していった。
緑の生き物は自らの属する群れに戻り、手近な者達に知識や道具を与えて支配下においた。
群れの上位にあたる個体を倒し、支配権をより強固に確立し、次々と敵を倒し、喰らい、吸収した。
ユリウスと名乗りだした緑の生き物は、“進化”を望み、“それ”はその望みに応えた。
緑の生き物は、自らの属する種族、ゴブリンと呼ばれるそれであることを嫌がっており、人間やエルフと呼ばれる者達の様な肉体、外見を欲していたため、“それ”はその様な外見を作り出した。
ユリウスはその進化に喜び、それを自らの腹心たちにも起こしたいと考えたため、“それ”はユリウスの親しい者達に、自らの力の一部を分け与え、ユリウスに与えた“進化”に似た効果を彼等に起こした。
“それ”は、ユリウスを通じて様々な知識を得ていった。
そして知識のみならず、様々な感情、願望、欲望等も得ていった。
他者を支配し屈服させる喜び。
女───異なる性を持つ類似個体への執着。
勝利への強い渇望。
自らが絶対強者として振る舞い、周囲から尊敬と賞賛を勝ち取り、またそれに刃向かう者、意に添わぬ反応を示す者を蹂躙し虐殺する快感。
それらの“人格”をもまた、ユリウスから得た。
ユリウスと名乗った緑の生き物は、“それ”の持つ力を存分に使い、一つの勢力を形成していった。
その状況は“それ”にとっては居心地の良いもので、“それ”はその状況が長く続くようユリウスを手伝った。
しかし、あるときにその関係に破綻を来す出来事が起きる。
はじめは、一人の小さく丸い生き物への執着であった。
この世界でオークと呼ばれるその個体に、ユリウスは特別な関心を示した。
ユリウスは他のどの個体にも示したことのない同胞意識をその個体に向け、その者が自らの意に反した振る舞いをしたことに激しく動揺した。
その動揺は、ユリウスの判断に影響を与えた。
自ら時期尚早だと判断していた“ダークエルフとの戦争”を、あまりに早くに決断をした。
それも、そうしてダークエルフ達を屈服し支配することで、その特別なオークの個体への自らの影響力、支配力を強化したいという願望からであった。
広い野営地跡にて、足の悪いダークエルフの個体との問答で、ユリウスはまた別の方針を考え出したが、それはまたすぐに潰えてしまう。
ユリウスは───端的に言えば、絶望をした。
自らが“出来損ないの怪物”であると自己認識したユリウスは、“それ”の持つ力を十分に使うことも出来なくなり、消耗に消耗を重ねていく。
このままではユリウスという個体が生命活動を停止してしまう───それは、全く望ましくない状況であった。
“それ”は長らくしていなかった“判断”をする必要に迫られた。
自らが生存本能に従い、ユリウスを名乗る個体を完全に喰らい尽くし、主導権を得るか、或いは───。
“それ”は、結果として異なる決断を下した。
ユリウスを名乗る個体に“寄生”することを止め、自らを小さくしてそのまま陥没した地面の隙間を抜けて、その場を去る。
あの個体は消耗が激しく、主導権を得てもあの場に居合わせた“敵”に勝のは難しいと、そう判断した。
“それ”の中には、ユリウスという個体に寄生していたときに得た様々なものが残されていた。
捕食吸収した生き物の能力や記憶。そして知識や経験に───人格。
それらを保ちつつ、地面深くへと逃れた“それ”は、しかし消耗した生命力を癒すのには、まだ時間が必要であるとも分かっていた。
そして“それ”は、しばしの間休眠状態へとなった。
そのまどろみの揺りかごの中で───“ユリウスであった怪物”は、穏やかな夢を見た。
0
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
『三度目の滅びを阻止せよ ―サラリーマン係長の異世界再建記―』
KAORUwithAI
ファンタジー
45歳、胃薬が手放せない大手総合商社営業部係長・佐藤悠真。
ある日、横断歩道で子供を助け、トラックに轢かれて死んでしまう。
目を覚ますと、目の前に現れたのは“おじさんっぽい神”。
「この世界を何とかしてほしい」と頼まれるが、悠真は「ただのサラリーマンに何ができる」と拒否。
しかし神は、「ならこの世界は三度目の滅びで終わりだな」と冷徹に突き放す。
結局、悠真は渋々承諾。
与えられたのは“現実知識”と“ワールドサーチ”――地球の知識すら検索できる探索魔法。
さらに肉体は20歳に若返り、滅びかけの異世界に送り込まれた。
衛生観念もなく、食糧も乏しく、二度の滅びで人々は絶望の淵にある。
だが、係長として培った経験と知識を武器に、悠真は人々をまとめ、再び世界を立て直そうと奮闘する。
――これは、“三度目の滅び”を阻止するために挑む、ひとりの中年係長の異世界再建記である。
異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】
きたーの(旧名:せんせい)
ファンタジー
【毎週火木土更新】
自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。
その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ!
約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。
―――
当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。
なお、投稿規約に基づき既存作品に関しては非公開としておりますためご理解のほどよろしくお願いいたします。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生
西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。
彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。
精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。
晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。
死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。
「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」
晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる