遠くて近きルナプレール ~転生獣人と復讐ロードと~

ヘボラヤーナ・キョリンスキー

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第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!

3-201 J.B.(124)Rock Creek City(岩入江都市)

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「……ったく、何だッてんだよ、一体よ……」
 ぶつくさと悪態をつくアリックに、
「そりゃこっちのセリフだぜ」
 と返す俺。
 アリックを含めた5人と、タロッツィ商会から脱走した奴隷兵の29人。合計34人と俺を含めた集団は、今は襲撃地点からさらに3、4ミーレ(約4.5~6キロ弱)ほど離れた山間の洞窟に居る。ここは闇エルフ団が活動中の臨時の隠れ家として使ってる場所の一つだそうで、入り口は二重の偽装が施され見つかり難く、奥には簡単な寝床に保存食などがある。
 
 小さめの竈で湯を沸かし、温めた蜂蜜入り薬茶を淹れて人心地ついてからも、お互いなんとも気まずいと言うか、話し難いと言うか、まあとにかくそんな空気だ。
 
 もともと“シャーイダールの探索者”として活動していた頃から、アリックと俺はあまり交流がなかった。奴がジョス班で、俺がハコブ班だったから……っていうのもあるが、その上でもアリックはとび抜けて人付き合いの悪い、性格のひねくれた奴だったからだ。
 その上で、奴の本意じゃなかったし、またその真の目的は知らなかったとはいえ、結果的にアリックはハコブの企てに乗っかっていた。つまり、シャーイダールを暗殺し、探索者組織をまるまるヴァンノーニ・ファミリーの支配下に置くという企てに、だ。
 その事から、アリックは組織を再編してクトリア共和国遺跡調査団として再出発するってな流れの時に、そのまま探索者を引退し、餞別と僅かな貯金を持って故郷へ戻る……と言う流れになる。
 そしてそのアリックの故郷がまさにここ、ヴェーナ領のさらに田舎の村で、その流れから確か……。
 
「お前、疾風戦団の奴らにヴェーナ領内でのガイドとして雇われたんじゃなかったか?」
 
 と、そうだ。そのはずだ。
 
 そう言われてアリックは、がしがしと頭を掻きながら、
 
「あ~、そーだよ」
「んじゃ、なんで闇エルフ団とかやってんだ?」
「しゃーねえだろ、色々あンだよ、こっちにもよ。色々と」
 と、ひとまずはと掻い摘まんで経緯を説明し始める。
 
「───あー、つまり、何だ? その、疾風戦団の行方不明者の1人だったサッドってのが闇エルフ団の頭になってて、その流れでガンボンとラシードは奴隷闘士と奴隷商に扮して、もう1人の行方不明者……戦乙女のクリスティナとか言う奴を探し出す情報収集をしてて……闇エルフ団はそのバックアップもしてる……てことか?」
「まあ、そーゆー事だよ」
 一体ぜんたい、何が何でそんな事になってんだと呆れてくるような顛末だが、まあそれはそれでいい。だが、まだわからないのは、
「で、お前は何やってんだよ?」
 アリックがその闇エルフ団の一員みたいになってる事の理由だ。
 
 そう聞くとまたもやアリックは嫌そうに、
「こっちも成り行きだよ。
 まず……そもそも俺の故郷の村はもう無ぇしな」
「無くなった?」
 何があったのか……と言うと、
「それはさー、もう、まぁ~ったく、ね~」
 と、横合いからそう、別の闇エルフ団の一員、弓を持った赤毛の女が口を挟む。
 
「……コイツはベアルザッティっつってよ、まあ、同じ村の……幼なじみだ。
 俺と兄貴は両親無くしてからは、村長の家の畑仕事の手伝いしたり、ベアルザッティの親父の狩りに付いてったりしてなんとか食いつないでいたんだがよ、不作になったりするととたんに食えなくなってな。それで、余所の村からの出稼ぎ連中についてって、町で人足とかやって稼ぐようになってな。
 まあ次第によく連むようになった奴らと荒事仕事なんかもするようンなって、結局は王国領からクトリアまで流れてって、10年以上はこっちにゃ戻ってねぇんだよ」
 この辺、大まかな経緯はアリックから直接聞くのは初めてだが、その「街に出て知り合った連中」の1人であるニキからの話は聞いている。
 
「その間にさ~、色々あったりしたワケ~、コッチもさ~。今の“毒蛇”の代になってからはさ~、特に、税が払えなくなるとすぐ奴隷にされるようになってさ~。あーしの村も不作続きになって~、どんどん持ってかれちゃってさ~」
 
「まあ、ここの今の奴隷制のやべぇ話は、ちっとはフォンタナスからも聞いてるぜ。だけど……村が丸々奴隷にされるとかってほどの事にまでなるのか?」
 
 村ごと奴隷として連れてったら、そりゃ村は無くなるんだろうが、そんな事してどーすんだ? 作物育てる農民が居なくなっちまうだろうに。
 と、そう疑問に思うが、
「厳密には、よ。村そのものは残ってる。そして皆そこで暮らして、畑仕事も続けてる」
 と、アリックの回答に、さらに分からなくなる。
 
「ただ、村長は奴隷頭になってて、土地も作られた作物も全てヴェーナが派遣した商会のモンだ。
 つまり、村そのものをヴェーナと懇意にしている商会に村人ごと売って、農奴だらけの村に作り替えられちまったんだよ」
 
 ああ、なる程な……と、頭の中で納得する。
 言い換えりゃ、村がそのまま、「大量の農奴を抱える大農園主の管理する集団農場」に変えられっちまった、という事か。
 
「あーしンとこはさぁ~、狩人やってたから~、不作とかあんま関係無くてさ~。けど、だんだん商会の奴らがあの手この手の嫌がらせして、借金させようとして来てさ~。
 んで、親父が病気になったときの薬代でやべーことンなってさ~」
「どうなったんだ?」
「借金のカタに商会の手下のゴロツキがあーしを襲おうとしたから、親父が鉈で1人ぶっ殺して、もう1人はあーしが刺し殺してやったんだけど、1人に逃げられてさ~。
 しょーがねーから親父と2人で山に逃げてさ~。
 で~、色々あって闇エルフ団に拾われたんだよね~」
 
 間延びして気の抜けた話し方の癖に、出て来る証言はめっちゃハードバイオレンスヒストリーじゃねえかよ。
 
「……まあ、大筋としちゃ分かったぜ。
 じゃあ次は、何で今……あ~、さっき? まあつまり、俺たちがヤコポとやり合ってるタイミングで現れたんだ?」
「そこだよ、そこ。ていうかむしろ逆なんだよ、俺らからすりゃあよ。お前こそ何で俺達がヤコポの奴隷狩り部隊を見張ってる最中に、急に現れてあんなことになったんだ?」
 
 あー、そういう事か。
 こいつらが突然都合よく助けに来てくれたんじゃなく、むしろ俺こそが闖入者だったわけだ。
 今度は俺の方が、アリックと闇エルフ団の連中に、俺がクトリアくんだりからここまでやってきた大まかな経緯を説明する。
 アリックはまたも呆れたような表情で、
「……ったく、おめえもガンボンも似たようなことばっか言ってやがンな。見た目も何も、傍目にゃ似てっとこなんざちらともねーのに、なんでそういうとこだけ似てンだよ、おめーら」
「知るかよ」
 聞かれたところで俺には答えようもねぇ。
 
 何せよ、今現在のコイツらの動向、目的と、俺の目的は大まかに言えば被ってる。ガンボンとラシードの件もあるが、まあここは共闘路線がベストだろう。
 
 □ ■ □
 
 交代で見張りをしつつ一晩休み、闇エルフ団の数人は再び偵察任務のためここに残るが、アリックとベアルザッティは先導して奴隷兵を連れて進む。
 奴隷兵の【追跡】と【畏怖】の魔術印は既に全て無効化。イベンダーのオッサンから借りてきた魔術を無効化する魔導具は高度な魔術には効かないが、タロッツィ商会の使ってた魔術印はあんまり高度なもんじゃなく、問題なく解呪出来た。
 焼き印自体の方は簡単には消せないが、闇エルフ団はその辺を誤魔化す方法を幾つか持ってるそうだ。
 すぐ近くの別の洞窟に、草木でカモフラージュした馬車が二台、馬とともに隠してあった。
 頑丈な造りのそいつは、何でもタロッツィ商会とは別の奴隷商会が奴隷運搬用に使っていたものだそうだ。
 そしてその奴隷商会はアバッティーノ商会と言う名で、ラシードの奴はその商会を乗っ取って成り代わっている。
 なんだそりゃ? だ。
 いや、なんだそりゃ? だよな、こりゃあよ。むちゃくちゃだろ、どう考えても。
 
 ラシードってのとは顔合わせしたのが二回程度。クトリアに疾風戦団の何人かがやってきて、なんやかや挨拶だの何だので、確かレイフやイベンダーのオッサンも含め簡単な会食なんてのもした。
 その時の印象は……まあ、チャラい優男、と言った感じだったかな。
 やや童顔気味だが鼻筋も通ってパッチリしたたれ目に整えられた顎髭。
 プレイゼス辺りで赤のサーコートを着込んでいてもおかしくない洒落男だったが、それでも服の上からも感じとれる筋肉はなかなかに鍛えられたもの。
 
 だが……そのラシードが奴隷商会を乗っ取って……てな話は、まあずいぶんとむちゃな話しだよなあ。
 
 その話しを聞いたときの俺の顔に、まさに今考えてるような気持ちが現れていたのか、アリックもまた顰めっ面でため息をつく。
 
「あの髭男は知らないけど~、お頭の判断なら間違いはないってばさ~」
 
 お気楽にそう言うベアルザッティのサッドとか言うお頭への信頼感はかなりのもののようだ。
 それを受けて、アリックはさらにつまらなさそうに唾を吐く。
 
「だがよ、簡単に乗っ取った……って言うが、そんな楽なこっちゃねぇだろ? そもそも……その~、何だ。元々の奴隷商たちはどうしたンだよ?」
 乗っ取って成り代わる、となりゃ、まあ一番安易な手は、皆殺しにしちまう事なんだろうが……。
 
「……まあ、そこはうまいことやってるぜ。元の連中は今は闇エルフ団のアジトで、それこそ奴隷の焼き印押されて働かさせられてるしよ。ま、元奴隷商が奴隷にされてんだから、自業自得って奴だ」
「全員とっつかまえたのか?」
「いや。元の拠点には他にも下働きやらが居たから、そっちは残してる。
 もちろん、元の奴隷商の印章使って筆跡真似た証書とか手紙とか諸々作ってと、小細工はしてるけどな」
 思ってたより細かい細工してるな。
「あとは金主の方だけだが、まああっちはキチンと金を返し続けてれば、誰がその金を届けようと関心は無ぇみたいだしな」
「奴隷商会自体が借金抱えてんのか?」
「ああ、笑える話だろ? 借金抱えた奴隷商が、借金で首が回らなくなった貧乏人どもを追いかけ回して奴隷にして金を稼ぐ。そこで稼いだ金は富豪の金主に高利で返して、その富豪の金主は“毒蛇”ヴェーナへ税として収める……。
 結局奴隷商の連中も、金の奴隷なワケよ」
 
 いつもひねくれ嫌味ったらしいことばかり言うアリックだが、これに関しちゃ同意見だ。
 
 にしても、リカトリジオスから逃れ、廃墟同然のクトリアで長年はいずりまわって暮らして来た中、正直ニキやアリック、その他旧帝国領からの流民、難民は結構来ていて、そいつらの事を「なんでこんな廃墟同然のクソみてえな街に、わざわざ通行税なんざ払ってまでやってくるんだ?」と思っていたが、少なくともヴェーナ領に関しちゃあそうなる理由も良く分かる。
 そうだな。以前のクトリアも、確かに金や食いもんや権力といったものは、貴族街三大ファミリーを中心とした一部の連中が独占し、それ以外のほとんどは廃墟とゴミにまみれた最低の生活をしていた。だが、このヴェーナ領みてーにガチガチの身分格差が固定化してるわけでも無く、カオスではあったがある意味チャンスも転がってた。
 
 ここじゃそのチャンスは無い。いや、選択肢としてのチャンスが、奴隷商になって奴隷狩りやら何やらで成り上がるか、奴隷闘士、奴隷兵から武勲を上げ成り上がるか、のどちらかしかない。
 かつての、話に聞く帝国時代に比べても、階級、身分制度が支配層と奴隷とで固定化し広がっている。
 
 そりゃあ逃げたくもなるだろうぜ。そんで、廃墟同然のクトリアに期待もしたくなる。
 
 何にせよ、俺が思っている以上にラシードとサッドって奴らの偽装工作はうまいことやれているし、アリックは半ば不承不承ながらそれに加担している、てな事のようだ。
 
 馬車にまで行き、再びそのアバッティーノ商会とか言う奴隷商とその護衛に偽装して、脱走した元タロッツィ商会の奴隷兵たちそれぞれの今後を改める。
 
 既に【追跡】の印を解呪した際に、今後の身の振り方については聞きとって、戻りたい場所や行くあてのある者たちはすでに別れている。結構雑なやり方ではあるが焼き印は正式な作法に基づいて上から別の印で焼き消した。
 この消し方をしておけば、連中が元奴隷であることは分かるが、同時に現時点では奴隷でないということも分かる、と言う事になっているんだとか。
 だが、それでも再び奴隷にされる危険性は高い。だから、そいつらには闇エルフ団が現在ラシードらと共にアバッティーノ商会に偽装している事も、アジトの場所も知られてはマズい。情報は教えず、最低限の旅支度だけ与えてのお別れだ。
 まだ残ってる連中は、特に行く宛もなく、今後についても決められてないか、考えはあるが今すぐ行動には移せない者、既に闇エルフ団へ入団すると言う誓いを立てた者達だ。
 もちろんそれでもまだまだ完全には信頼は出来ないので、馬車に着く前に目隠しをして、さっきのアリックと俺との会話も聞かせず、傍目にはアバッティーノ商会が奴隷を運んでいるようにしかに見えないようにして移動する。
 俺はまあ、護衛兵のふり、だな。
  
 馬車に乗ってからは西へ西へと移動。
 マレイラ海へと面したあたりに来ると、南岸に城壁に囲まれた結構大きな町が見えてくる。そこが、プント・アテジオとか言う奴隷商の町らしい。
 今、ラシードやガンボンらが潜入して調査中だそうで、立ち寄って久しぶりにあの丸っこい呑気な面でも拝んで行こうかともうが、この馬車は補充だけしてすぐ先へ進む予定だと言う。まあ良い、いずれまた会えるだろう。
 既に先入りしたベアルザッティが連絡をつけ、必要なものは用意されていた。
 その物質等々の補充の際に、痩せぎすで細面の神経質そうな男が馬車へと乗り込んで来る。
 
 横に寄り添うベアルザッティが抱き付くように腕を絡めてくるのを、男はやや面倒くさそうにやんわりと退け俺たちを一瞥。
 それを苦々しげに横目に見るアリックも無視し、
「───そいつが、例のクトリアから来た南方人ラハイシュか?」
 と聞いてくる。
 
「ああ。オレと同じく元古代ドワーフ遺跡の探索者。今はガンボン同様、何だか奴隷にされたらしい人探しで来てンだとよ」
 と言う特に過不足は無いアリックの紹介に、
「JBだ。アンタが闇エルフ団の頭、サッドだな?」
 と続ける。
 
 帝国式敬礼の簡略版、よりフランクな場での挨拶としても使われる、右手で軽く自分の心臓の上を叩いて手を広げて見せる仕草をする俺に対し、サッドは返礼もせずに睨みながら、
「───なるほどな。それじゃあ、とりあえずマレイラ海に沈んでもらうとするか……」
 なんぞと言った。
 
 
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