遠くて近きルナプレール ~転生獣人と復讐ロードと~

ヘボラヤーナ・キョリンスキー

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第二章 迷宮都市の救世主たち ~ドキ!? 転生者だらけの迷宮都市では、奴隷ハーレムも最強チート無双も何でもアリの大運動会!? ~

2-5.J.B.(3)Birds of a feather flock together. (類友)

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 クトリアの都市部に幾つもある陥没、倒壊した建物地盤の多くは、近寄るだけでも危険な状態のまま未だに放置されている。
 滅びの七日間による被害に、その後の邪術士達による支配での劣化等々。王都解放から五年も経つのに、未だにこの都をきちんと復興させようと言う勢力は出て来てない。
 旧商業地区は実際のところその半分はまだ瓦礫の山で、残っていた建物の中でも頑強で状態の良いものを、言わば「力のある者達順」で占拠して行った結果が、今の状況。
 そして偶に、それらの居住権が「入れ替わる」事がある。
 野生の獣と同じだ。
 強い奴が、より住み心地の良い寝床を、弱い奴から奪う。
 
 ヴァンノーニファミリーが旧商業地区に居を構えたのは、王都解放間もない頃。
 ある日まではチンケな賭けの胴元が開いていた賭場が、翌日にはすっかりと入れ替わっていた。元の住人の行方は未だ不明。
 元々辺境四卿の誰だかの領内に拠点のあるヴァンノーニ家は、魔法武器や魔術具、魔装具を中心にした専門商会だ。
 表向きはエルフのミスリル武器やらドワーフ武器、魔術師協会謹製の魔術具や魔晶石というモノを扱っているが、裏向きではもっとヤバい品も扱ってたりもする。
 それこそ例えば、ティフツデイル王国内では取引に制限のある隷属の首輪やら、暗殺謀殺向きのヤバい薬や禁呪、死霊術に要り用な触媒に魔術具、さらには特別な死体やらなんかもそうだと言う。
 
 で、そのヴァンノーニファミリーはウチの大得意。
 シャーイダールは基本的に小売りはやらず、主にティフツデイル王国駐屯軍かヴァンノーニファミリーへ纏めて卸して居る。
 小売りの方が利ざやは稼げるかもしんねえが、上に店を構えなきゃなんねえし人手や在庫管理やらの手間もかかる。
 まあその点のコストを踏まえると、自分たちで探索から小売りまで全部やる、ってーのはパフォーマンスが悪い、ということらしい。
 
「毎度ー」
 と、これはハーフリングのブル。これでも営業用のお愛想だ。
「注文の品、明細と合わせてよろしく」
 懇切丁寧でも無く必要最低限に毛の生えた程度しか話さないが、かと言って普段のぶっきらぼうな態度に比べりゃかなりマシ。
 この街じゃあ少しでも舐められたら足元を救われる。迂闊に揉み手擦り手の愛想笑いを続けてれば、たちまち喰いものにされるのがオチだからな。
 俺と他3人の手下達は、お愛想も振りまかずに黙々と背負った箱を床に下ろす。
 
 ヴァンノーニファミリーの店は客よりも番兵の方が多いくらいで、ブルを含めて5人の俺達も既に寡勢。
 しかも番兵達は全員強力な魔法の武器防具で身を固めて居るから、この店で盗みを働こうなんて馬鹿はまず居ない。

「あら、珍しいね、アンタが荷卸に来るなんて」
 ヴァンノーニファミリーの“頭脳”、グレタがそう俺に声をかける。
 三十路に近い年増だが、豊満な肉体と漂う色香。そいつにうつつを抜かして、不利な取引を受けてしまうアホ男は後を絶たないというのだが、その手の手練手管にハメられるほどには俺もウブじゃあない。
 そして何より、この街に来てシャールダールの手下に収まる前に、喰うに困って数回ほどこいつらの元で日払いの仕事をしたことがある。
 そのときにどうもグレタには気に入られたらしいのだが、同時にこいつらがどんだけヤバいかも嫌と言うほどに体験した。
 
「ジョスの代理でね。お陰様で久し振りに日光浴出来るぜ」
 変に深入りするとロクなことが無い理由の一つは、その奥にいる戦鎚を背負った大男、ジャンルカの存在もある。
 ジャンルカはグレタの“出来の悪い弟”で、オツムは弱いがとんでもない怪力。その上残忍で姉の忠犬とくる。
 つまり、下手な真似をしてグレタのご機嫌を損ねれば、すぐさまこの処刑執行人に追い回される。
 巨大な戦鎚、頭を粉砕……となるわけだ。
 とにかく全てにビジネスライク。付かず離れずで付き合うしかねえ連中だ。
 
 グレタが部下に指示を出し、ブルと卸荷の確認をしているのを、俺らはじっと見ている。
 ここで馬鹿みたいにぼんやりしてたらダメだ。
 相手方が荷物の数をちょろまかしたり、こっそり明細の数字や金貨の数を誤魔化したりしないかも見張らなきゃならねェ。
 この街では信用取引なんてなァ通用ねしェ。常に、誰かが誰かを騙し、陥れ、少しでも利益を上得ようと虎視眈々と狙って居るからな。
  
 で、そンとき、だ。
 俺達が背にしていた店の入り口で、何やらちょっとした騒ぎが起きる。
 この店は客であっても入り口でボディーチェックを受ける。
 偶にそれを嫌がり騒ぎだす輩が居るンだが、またその類かね……と思ったらそうじゃあ無かった。
 
「おい、いいからグレタを出せよ。パスクーレ様が会いに来てやってんだぞ?」
 ……あー、馬鹿のパスクーレが、また酔っ払ってやがるな。
 
 パスクーレは旧商業地区の自警団、別名「王の守護者ガーディアン・オブ・キングス」を名乗っている……まあ、チンピラ集団の一員だ。
 王不在のこの街で、何故「王の守護者ガーディアン・オブ・キングス」を名乗っているのか、とか、色々と疑問はあるが、少なくともこの旧商業地区の治安維持の役には立っている。
 連中が目を光らせている所では迂闊に悪事は働けない。
 ただ、どんな組織でも内部の目の届かないところにトラブルの種は蒔かれるもので、このパスクーレが典型的な例。
 グレタの軽いたぶらかしにまんまとハマったパスクーレは、こうして酒に酔っては押し掛けて一悶着を起こしている。
 それだけなら可愛いもんだが、相手はヴァンノーニファミリーだ。
 今はまだ、王の守護者ガーディアン・オブ・キングスと揉めたくないから控え目な対応ではあるが、あまり調子に乗っていると……血を見ることになるわな。
 
「おうコラ、どけよどチンピラ! 俺様を誰だと思ってんだ?
 王の守護者ガーディアン・オブ・キングスのナンバー2、パスクーレ様だぞ? あぁ?」
 
 魔法の装備に身を固めたヴァンノーニファミリーの番兵相手に、皮の鎧と短剣程度の装備でここまでの態度をとれるのだから、度胸があるのか馬鹿なのか。
 間違い無く後者だろうが、にしてもあまりといえばあまりのどチンピラっぷり。逆に清々しいくらいだわな。
 絡まれてる番兵も完全にブチギレ寸前で、グレタのゴーサインさえ出れば間違いなく血の雨が降る。
 
 仕方ない、と俺はすっと静かにその揉めてる二人のそばに寄る。
 そしてパスクーレの脇から滑り込むようにして密着して、ごく自然な動きで腕を取りそのまま羽交い締めにした。
「痛ててて、な、何だてめぇ、誰だっ……!?」
「旦那、ちぃとばかし飲みすぎですぜ」
 俺が目でブルに合図を送ると、ブルが腰の小袋から一本の小さな薬瓶を取り出し、俺に手渡す。
 片手で暴れる男を制しながら、もう片手で器用に薬瓶の封を開け、無理矢理パスクーレの口へと注ぎ込んで飲ませてやる。

「お、おげぇ!? 何だこりゃ、く、くっそ苦ェ!?
 てめェ、な、何飲ませやがッた!?」
「味はくっそ苦ェけど、効果は抜群の解毒薬ですよ。
 暫くすりゃあその悪酔いも収まりますわな」
 
 シャーイダールがピクシーの魔法の粉と他様々な薬草素材から作り出した解毒薬は、悪酔いのみならずたいていの低レベルの毒ならほぼ完治する。
 こんな奴に使ってしまうのは勿体ないが、取引中に乱入してきたチンピラが目の前で肉塊に変えられるのを見たいとも思わねぇし、そんな面倒ごとは俺らの居ないときにやって欲しい。
 俺はそのまま、パスクーレの頸動脈をぐっと締め上げて気絶させる。
 そして後始末は番兵に任せて元の配置へと戻った。
 
 戻ると、グレタの奴が薄ら笑いを浮かべてニヤニヤとこちらを見ている。
 間違いなく、あのとき一切反応せずに居たのは、俺に処理を任せるつもりだったのだろう。
「ふふ、相変わらず優しいのねェ、アナタ」
「よせやい、趣味悪ィぜ。面倒ごとは御免だからな、俺は」
 俺がその手の揉め事を嫌うのも知ってて、俺が動くことを見越してそう仕向けてる。全く、掌の上で転がさせられている様で胸くそが悪い。
「本当、あのとき直ぐにでもウチに取り込んでればねえ。
 勿体ないことをしたわ」
 まあ、俺が関わりたくなくて逃げ出したのだからそりゃ仕方がない。
 言いつつ、すぅっと目を細めるその表情は、言葉とは裏腹の底冷えするかのような冷たさで、俺はぶるりと怖気を震った。
 
 そんなこんなで、取引そのものはつつがなく終了。
 今回はオッサンが修理改修したブツもあるので、品質も良く交渉役のブルが粘って取引価格も大幅に上がった。
「なんだか随分、質の良いブツが増えてるじゃないのさ? どうしたんだい?」
「そりゃ、ウチ等の運と腕よ。
 余所のフリーの探索者とは経験も装備も知識も違うからね」
 探りを入れてくるグレタに、さらりと返すブル。オッサンが修理改修をしていることは秘密にすべしと厳命されてる。
 何せピクシーと並んで、今の俺らの虎の子だ。何かあって攫われたりでもしたら一大事。
 まあ見目麗しきお姫様ではなく、前世の記憶を持つ狂的科学者マッドサイエンティストならぬ狂的魔学者マッドマジコロジストなドワーフのオッサン、という辺りで、実に絵面が良くない。
 
 帰りに路上を見ると、気絶したパスクーレはまだ転がされたままで、既に幾つかの装備品や持ち物は盗まれているようだった。
 まあだれもわざわざこんな往来で王の守護者ガーディアン・オブ・キングスのメンバーを殺したりはしないだろうから、命まで奪われることは無いだろう。
 道すがら、王の守護者ガーディアン・オブ・キングスのメンバーを見かけたら、おたくの仲間が酔いつぶれてたぜ、とでも教えてやるか。
 
 ◆ ◇ ◆
 
 取引が終わり正午が過ぎた辺りに、俺達は一旦食事にする。
 この後には食料や酒、シャーイダールが薬作りに必要な素材に日用品の補充もしなきゃならないし、魔法装備以外の発掘品、古代ドワーフの合金製の皿や壺、なンてのも卸先があるから、そんなにのんびりもしてられない。
 かと言って、せっかく地上に出たのに露天でネズミ肉の串焼きなんて食いたくもないし、ちっとは落ち着いた店に入りたい。
 で、となると必然、シャロンの店へと向かうことになる。
 
 シャロンの店『牛追い酒場』も、ヴァンノーニ同様のファミリー経営だが、こちらは飲食及びギャンブル他ちょっとしたお楽しみを提供する店。
 二階は一応宿屋にもなってるんだが、これは別に旅人を泊めるのが主目的ではなく、一晩のお楽しみのために貸し出している。
 とは言え、この辺りに店舗を構える中では一番まともな酒と飯を出せる店でもあるので、旧商業地区に出入りする中でそれなりの金がある奴は、たいていここにくる。
 
「あら、何だい珍しいね、JB」
 薄暗い店内に入りカウンターに着くなりそう声をかけて来るのはマランダ・シャロン。
 ビッグマムことメアリー・シャロンの娘で、一応実質的に店を取り仕切っている。
 シャロンファミリーは元々クトリアの豪商の家系で、王朝時代はかなりの富豪だったらしい。
 国が崩壊し、邪術士達が支配者になってからは、手勢を引き連れて近隣を逃げ回る生活をしていた。
 それでティフツデイル王国の駐屯軍が来てから、かつての栄華を取り戻そうと戻って来たものの、勢力争いに敗れ、旧貴族街へは入れず、またかつての家も無くなっており、なんとか使えるこの拠点を得て今に至る。
 
 マランダはまだ18歳で、この世界では成人して間もない、と言った年頃であり、俺と同年代。
 ダークブラウンでやや癖のあるウェーブした髪は襟足程度に短く切られており、そばかすの残る顔は一見すると健康的な田舎娘を彷彿とさせるが、中身はとんでもないビッチ……生意気で気の強いワガママ女だ。
 俺はその辺りの気質に関しては嫌いじゃあない。
 正直に言うと、世のヘタレ男どもが好む、「健気で、献身的で、従順」なんていう、奴隷同然の振る舞いをする、させられている女よりかは遥かに好きだ。
 ただマランダはそれだけではなく、他人の苦しむ顔を見るのが何よりも好き、という面倒くさい性分を持っている。
 俗に言うドSだ。
 そういう趣味の人間にとってはむしろご褒美なんだろうが、残念ながら俺は違う。
  
 俺達は人数分の飯と飲み物を注文すると、隅のテーブル席に陣取る。
 店内はそこそこの客入りで、奥では単純なサイコロ遊びに興じている輩もいる。
 そいつらを後目に、俺達は久し振りのマトモな食事と酒を堪能。
 地下暮らしではこうしてちょくちょく上に買い出しに行けるわけでもないので、食材の多くは保存食。
 シャーイダールは食事の“質”に関しては全くの無頓着で、それこそ大ネズミの丸焼きでも平然と食べる。
 いや、郊外じゃ食用に大ネズミを飼育している牧場もあるらしく、そう言うところのはマシらしいンだが、ぶっちゃけ地下で捕まえられる野良の大ネズミなんてのは、筋張っている上に脂が臭くて、俺としては出来るだけ食いたく無い。
 美食三枚なんて贅沢は言わないが、少しでもマシな食い物を食いたいものだ。
 
 少しばかりここらの食料事情についてまとめると、まず基本的に常に需要過多で食料不足。
 食料を得るには大きく分けて3つのルートがある。
 ティフツデイル王国駐屯軍の管理する牧場や農園。
 またそれらを含めた隊商による交易品。
 最後に都市部又は郊外での自給自足品。
 
 自給自足品にもランクがあり、俺達地下遺跡の探索者と並んで、ここいらでは腕頼りの仕事である狩人たちによる獲物から、主に東地区で栽培されている農作物、なんかはマシな食材。
 旧商業地区や地下遺跡に宿無しでうろついてる奴らは、虫やら大ネズミを捕まえてなんとか凌いでる。
 とにかく、旧商業地区には貧民の類には事欠かない。
 東地区へ行けば食料事情はマシになる。しかしあそこは基本的に城壁の守りが無いから魔獣や野盗山賊ならず者達にちょいちょい襲われる。
 危険が多いがそんなに飢えはしない東地区か、少なくとも城壁には守られ山賊や魔獣には襲われないが常に腹ぺこの旧商業地区や地下街か、というのが、貧民の選べる選択肢だ。
 
 それらを踏まえれば、「大ネズミなんて食いたくねえぜ」とか言えてる時点で、俺なんかはかなりの贅沢をしているとも言える。
 ま、それでもやっぱり、大ネズミなんかは食いたくはねーんだけどな。
 
 飯が終わり、今後の予定をすり合わせて居ると、マランダが話に割り込んで来た。
「ねえ、JB。アンタ、ちょっとした小遣い稼ぎでもしない?」
「おいおい、俺は遊びで上に来てんじゃねえのよ。
 これからも仕事あるんだからよ」
「けど、ヴァンノーニとの取引はもう終わってるんでしょ?
 後はそんなに大人数は必要ないじゃない」
 
 俺はブル他の仲間と顔を見合わせる。
 確かにそうで、高額な魔法装備などの取引と違い、日用品や食料の取引なら別に5人も雁首揃えてる必要はない。
 かと言って、俺だけが1人仕事を抜けて小遣い稼ぎというのは具合がわるい。
 で、実はこういうときの為の秘密の取り決め、というのが俺らにはある。
 小遣い稼ぎで別行動をするのなら、稼いだ分の半分を残りのメンバーに渡す、という取り決めだ。
 要は口止め料なんだが、これなら残りのメンバーは実質何もしないで金が手に入る。
 
「仕事の中身は何なのさ?」
 ブルが皆を代表してそう聞くと、
「単なる借金の取り立てよ。
 いつもの取り立て人が今居ないから、その代役。
 どんな手を使っても良いから、指定額を指定した相手から取り立てて来てくれれば、一割をアンタにあげる」
「……三割だな。一割じゃ少なすぎる」
「二割。それ以上は無理よ」
 俺は周りの奴らを見回す。それぞれその額で納得した顔でこちらに合図を送る。
「OK、じゃあリストをくれ。居場所が分からない奴は無視するからな」
 
 さて、久し振りの外出が、そのまま久し振りの単独行動になったか。
 
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