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第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!
3-223.クトリア議会議長、レイフィアス・ケラー(78)「やることはあるのである」
しおりを挟むレフレクトルは第二期クトリア王朝の初期には交易の拠点として栄えていた。西カロド河の河口にあるその町の規模が大きくなるにつれて、河を渡る、又、河を遡上し移動や運搬をする舟の渡し場と、外洋からの交易船とがぶつかり合わないよう場所を分ける為に、やや北上した位置にアルゴードの渡し場が作られる。
いずれにせよ、レフレクトルとアルゴードの渡し場は相互に密接な関係で発展してきた場所だ。
クトリア王朝末期、ザルコディナス三世の時代にると、交易よりも古代ドワーフ遺物の発掘や、魔力溜まりから得られる魔晶石などを主産業とし初め、交易港としての勢いは無くなり始める。そこには、母ナナイにヴォルタス家も関わった南海諸島の海賊による被害も、また、アルバの生家、オクローネ家がそうであったように、ザルコディナス三世が力のある大貴族の勢力を削ぎたいとする権力争いの影響もあった。
そのレフレクトルが邪術士専横時代に壊滅させられたのは、それらの経緯もあって“滅びの七日間”からのザルコディナス三世崩御後の混乱期に、当時残っていた大貴族派が集まり拠点としたからだ。
ザルコディナス三世、またその子飼いの邪術士たちにも最も敵対的な者たちがレフレクトルに集まり巻き返しを図ったのだが、結果は彼らが誰を盟主とするか……つまり、ザルコディナス三世亡き後のクトリアの支配権を誰が握るかと言う分かり易い主導権争いをしているウチに、素早く攻勢に出た邪術士側が勝利。そしてその勝利こそが、その後の邪術士専横時代の幕開けだったとも言える。
その時はアルゴードの渡し場の方は崩壊を免れ、そのまま邪術士達の支配地域となった。西カロド河の渡河点と言う事もあり防衛線でもあったから、と言うのも理由ではあるのだろうけど、東のモロシタテムを放置していたのに対してこちらは拠点化するというのはなんとなく不自然にも思えもするが、曰わく、当時は渡河しても小さな村々と敗残する東方軍の齎す混乱しかなかった東方は、少なくとも王家が健在なボバーシオ方面の西よりも警戒度が低かったのだろうとされてる。それは結果から言えば半分正解で半分は取り越し苦労。
西も東も“滅びの七日間”による混乱からクトリアへ攻め入ろうなどという勢力は現れず、せいぜいが西の“残り火砂漠”から侵入してくる“砂漠の咆哮”かリカトリジオス軍の斥候、間者くらい。そしてほどなくアルゴードの渡し場は、それら含めた獣人種を捕らえ、奴隷にする為の前線基地と化した。
ティフツデイル王国軍のクトリア解放以降も、アルゴードの渡し場は邪術士の手下や残党の拠点となっていた。
構図としてはまさにザルコディナス三世のクトリア王朝崩壊後の再現で、ティフツデイル王国駐屯軍への抵抗勢力がアルゴードの渡し場に集まっていった状態だ。
そこへ、ニコラウス・コンティーニの前任であるクトリア邪術士残党討伐隊のアウグスト隊長が大規模な討伐戦を仕掛け、当時そこに集まっていたならず者や邪術士、魔人らに壊滅的ダメージを与えたのだが、そこで反撃をしたある魔人が、レフレクトルに残されていた邪術士の魔力汚染を引き起こす魔導具を使用したため、討伐隊含めた殆どが死ぬか動く死体になるか……と言う大惨事を齎したのだそうだ。
これは、王国側にも“アルゴードの惨劇”として知られ、またその惨劇をも生き残った“黄金頭”アウレウムや、“三悪”等の魔人残党への討伐に消極的になってしまう原因でもあったという。
なので、現在はレフレクトルもアルゴードの渡し場も、どちらも魔力汚染により人の住めない、そして魔獣や動く死体のうろつく土地になっている。
で、それらをじゃあどうするか、と言う問題が、まー、ずーっと先送り状態の負債と化している。
大きく分けると方法は二つになる。一つは、その両方の魔力汚染を完全に浄化し、町として再生、西カロド河の防衛拠点とする。
もう一つは、ひとまず魔力汚染の浄化は後回しにして、その両者をつなぐように防壁と防御拠点を築く。
最終的には浄化し再び人の住めるような地へと変えて行くのは大前提だが、浄化と拠点化のどちらを優先するかという違いだ。そしてぶっちゃけ、前者はもう時間的猶予がない。
一番最悪なのは、ある程度以上に浄化が進み拠点化が可能な段階でリカトリジオス軍に渡河をされ、奪われることだからね。
なので僕も当然、防壁と砦を新しく作って防御拠点とし、時間をかけて両者の浄化、魔獣や動く死体退治を進める……てな方向で考えてる。けれどもダンジョンバトルをやってた時のように、パネルをタップしてポンポンポーンと部屋を作れるような能力は今の僕にはない。ある程度の基礎作りや魔力中継点の設置などは出来るけれども、残りは人力。つまりここでもクルス家に頼る事になる。
まずは程よく離れた見晴らしの良い場所に野営地を築く。
やはり日射しの厳しい夏に入りつつあるこの時期は、午前中に半分まで作業したら、昼には休憩。
ただ今回は水馬ケルッピさんが居る。そう、ふんわりミストの冷却効果で作業はかなりはかどっている。
天幕はそれぞれのグループ毎に四つ。
一つはクルス家と労働者。人数も多く大きいし、やはり一番手際も良い。
次が元王の守護者である衛兵隊。率いるのはあまり僕は知らないけども、そこそこ古参だと言うティモテオと言う男性で、メンバーには若手からも数人、ダグマさんとヤーン君も含まれてるが、死と闇の使徒であるヤマー君とそのフレンズは、先日のやらかしから、「どうやら体力を持て余してるようだな」と、またもボーマ城塞での訓練中。
それから、郊外での案内人兼飛び道具担当として狩人ギルドから数人。
そしてデジリー・クルスとお付きのミレイア・ヴィリー他。
黎明の使徒からも一人と、『ブルの驚嘆すべき秘法店』のルーズ氏も来ている。
彼はボーマ城塞での査定で光属性の魔力適性があることが判明し、店の仕事をしつつ、“黎明の使徒”で光魔法の指導を受け、僅かながら浄化を使えるようになった。
今回はある意味指導員付きでの実施訓練。実際に浄化を始めるとしたら、光魔法の使い手である“黎明の使徒”の協力は必須なので、そこも含めて検分してもらう。
天幕に関しては、デジリーやダグマさん、黎明の使徒の女司祭さんたち女性陣は一つの天幕を使ってもらい、ルーズ氏には衛兵隊の天幕を間借りして貰う。
最後に、作戦本部の天幕を建てて完了。
僕らは天幕ではなく、土魔法を併用して、魔力中継点の土台に作った簡単な土の家を使う。
と言うワケで、到着初日は設営と現地調達の出来る資材集め。
夜にはお疲れ様と今後の英気を養う為の軽い酒宴。
ヤマー君一派が居ないのもあってか、元王の守護者達もエヴリンド絡みの変なノリがあまり表に出ず、それなりに穏やかに終わる。
さて、翌日からはなかなか大変な仕事になるかな。
◇ ◆ ◇
なんという事でしょう……。
いや、別に意図的にこの構成を狙ったわけではない。ないのだ。ないのだ、が……そうなってしまった。
まず、僕とエヴリンドだ。僕らがいなけりゃ始まらない。
そして、デジリーさんとミレイアさん。デジリーは弟のガエル君同様、特に戦闘訓練などはしてないので、最低限自分の身を守るのも難しいけど、ミレイアさんはクルス家に古くから仕える家系の中でもけっこう武闘派揃いのヴィリー家、という事らしく、たれ目で温和そうな見た目に反し、護衛の任務も兼ねていると言う。
衛兵隊からダグマさん。彼女はまあ衛兵隊としてはまだ見習い扱いだけど、どうやらデジリーらとはそこそこ付き合いがあるとかで加わった。
で、狩人達からは、短弓と投げナイフ、東方仕込みの肉厚で湾曲した山刀を得意とするティーシェさんと、妖と方術を使うカリーナさん。
で、最後に“黎明の使徒”の指導員の女司祭ミカさんに……、
「……あ~、お腹痛い、お腹痛いです。お腹が痛くて動けないです、俺、今日もう駄目です、動けないです」
天幕の簡易ベッドの寝床から、一向に出てこようとしないルーズ氏。
「あらあら、そうですか。昨日食べ過ぎちゃったんですかね~」
ニコニコと微笑みながらそう言うミカさんだが、実際多分彼女以外の誰もが思っている。
仮病だな……と。
このルーズ氏、体型だけで言うならばかなりでかい。上背もあるしけっこうな肥満体で、遠目にはオークなんじゃないの、とも思える。
目は比較的小さく垂れ目気味だが黒目も小さくて、無表情でいると「なに睨みつけてんだよ?」と言われちゃうタイプの強面。
とにかくガタイの良さは生まれつきながら、以前はこれほどの肥満体ではなかったらしい。共和国建国から食料事情も良くなり、また職場がヴァンノーニ家の『銀の閃き』から『ブルの驚嘆すべき秘法店』へと変わって彼の懐も潤った。で、もともと慢性的食糧不足だったクトリアの食糧事情にストレスの溜まっていた彼は、それを機に一気に食欲を爆発。あれよという間にかなりの巨漢になってしまったそうだ。
その上……、
「じゃあ、治癒魔法かけてあげますね~」
「あー! 治った! 治った、治っちゃった! なんか今、急にお腹治った! もう大丈夫、全然平気! いや、全然ってほどでもないけど治った気がする! けど行くのは無理!」
彼が治癒魔法を拒否したのは、貧民ではない以上治療費を請求されるから。ミカさん、見た目はふんわりおっとり系でにこやかだけど、その辺結構厳しいらしい。
「ありゃ、そーとービビってンな~」
「聞いてた通りだね~……」
そうボヤくティーシェさんとカリーナ、そして僕の情報源は、同じ『ブルの驚嘆すべき秘法店』のお仲間、シモンやプリニオから。
曰く、『銀の閃き』の下っ端、現地採用組の中でももっとも体格が良かったものの一番の小心者で、当然戦闘技術も一番下。ただ、見た目のハッタリだけはめちゃめちゃ効いたのと、その体格なりの力仕事はできた方なので採用されていた……ということらしい。
JBに言わせると、そのシモンもなかなかのビビり屋だそうで、そのシモンにも「俺より小心者」と言われるのだから、かなりのものなのだろう。
あとは屁理屈が多いがしゃべりも上手く、休息時間などには小咄なんぞをしたりもして、上役の本家組からもそこそこ受けが良かった……とかなんとか。
まあつまり、この状況……何故かたまたま彼以外全員女性という編成になってしまった調査隊の中で、一番今回の調査任務に向いてないのが、彼なのだ。
よくあるラノベ主人公だったら、「やれやれ」とか言いながらも出てくるとこだけどもね。
「あー、もしもし、ルーズ氏?」
「やだ! 無理! だって動く死体とか魔獣とかこんな居るとか、超こえーもん! 絶対、食われる! 絶対、食われるもん! 俺、食うのは好きだけど食われるのはお断りだもん!」
オオウ、正直!
「大丈夫ですよ。今回はあくまで周辺調査で、そんなに奥の方までは入っていきませんし、守りの術も十分以上に用意しています」
「誰が保証してくれるんですか!? 誰もまだここの調査とかしてないんですよね!? 安全確認されてるんですか!?」
まあ、まだしてないけどねぇ。
「うわ~、面倒くせぇ!」
「どうします? 無理やり引っ張り出します?」
呆れるティーシェさんに、弟たちを見るときのような目になって実力行使を提案するダグマさん。
まあ、しかしねー。
彼の言い分は彼の言い分で実際正しい。安全確認は確かに出来てないし、あくまで幾らかの伝聞情報をもとに、まあこのぐらいの守りがあれば大丈夫だろう、という目算で調査隊を編成してるだけだ。
それに、あくまで今回は奥まで入らずに様子を見るだけのつもりではあるけれども、実際にレフレクトルやアルゴードの渡し場にどのような脅威があるかを知ってる者は誰もいない。腕利きの狩人達だって、基本的にここには近寄らないことにしているそうだしね。
「そうですね、分かりました。とにかくさっきも言った通り、あくまで今回は周りから様子を伺う程度に留めるつもりです。それでまた内部のある程度の安全確認が出来てから、改めて同行をお願いします」
僕はそう言って、天幕の前から立ち去る。
「ふへ?」
「いいの?」
ふへ、は天幕の中から。その後の問いはカリーナさん。
「まあ、無理に連れてっても仕方ないですね」
今回は浄化には進まず、ミカさんにはこちらで待機してもらって引き続きルーズ氏の指導などをしてもらい、残りの面子で調査へ向かう。
他の衛兵隊には野営地の防衛、クルス家の皆さんにはまずは簡単な柵などの設備を設営してもらいつつ、周辺の地形から本格的な防御砦作りの図面などを作ってもらう。狩人の皆さんには狩りと共に周囲の警戒、斥候、河からの水くみや、あとは食事の準備等々。
まあそれぞれ色々、やることはあるのである。
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