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第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!
3-238.クトリア議会議長、レイフィアス・ケラー(93)「……いや、違うだろ!」
しおりを挟む「まただよ、ビージャ・ヤガ」
1人の男がそうもう一人へと話し掛ける。
その男は痩せてひょろ長い体躯をしていて細目。そして杖を突いていて明らかに片足を負傷している。それも、最近のものではなく、かなり古い。
話し掛けられた方は、背はややもう一人より低いが偉丈夫の筋肉質……だが、やや下腹も出ている。ボディビルダーのような逆三角形ではない、歴戦の日本人プロレスラーとでも言うかの体型で、薄くなった頭髪に毛深い体毛、分厚い唇に大きな鼻、に傷だらけの顔。その傷跡はまさに、若い頃に相当額を栓抜きで攻撃されたとでも言うかのような古傷。そして恐らくは隻眼で、片目は潰れている。
「また、置き土産か」
「ああ」
置き土産、とは、編み篭や土器の壺に入った果物、木の実、魚、小動物と諸々に、さらには一巻きの大蜘蛛糸。
「やはり、あのときの蜘蛛なのか……?」
「うぅ~む……」
まあそれ程ハズレた予想でもない。大蜘蛛そのものではなく、その召喚者である僕が、別の使い魔のインプを使って彼らの集落の備蓄と勝手に物々交換をしている、のが正解だけどもね。
その集落とは、所謂はぐれオークの集落だ。
細目のひょろりのっぽと、昭和プロレスラーっぽい薄毛ガチムチの2人ももちろんオーク。
彼らのこの集落は、僕の仮宿としてる洞窟からはざっくり2ミーレ、3キロメートルくらいは離れてる。例の廃村と“門”の広場はその中間からややこちら寄り。
山間の古い坑道を中心に、その周囲を頑丈そうな木の壁でぐるりと囲んでいて、物見櫓もあるなかなか物々しい集落だが、住んでいるのはおおよそ40人前後とそう多くはない。人口比はオークがほとんどだが何人か帝国人らしき者達もいて、オークの男女比は8対2くらいでかなり男が多い。
そしてその男たちも、半数は年老いてるか、先ほどのひょろりのっぽオークや薄毛レスラーのように、何らかの古い怪我を負っているか。
そう、「オークの集落」として考えると、「十分に戦えない者」がかなり多い。
僕が「山賊っぽい連中」と思っていたのは、オーク城塞からの追放者や、そこから逃げ出したか、あるいはそれよりも以前に城塞の外へと出て何世代か経過したはぐれオーク達の集落。そういうことだったのだ。
オークは“暴虐なる”オルクスを信奉している完全な暴力至上主義の集団だ。腕力、暴力に秀でてる者が偉い。弱いこと、戦いを忌避するのは臆病で情けなく唾棄すべきこと。そういう価値観、文化に染まりきっている。
だから、戦えなくなった者に対してはとてつもなく冷淡。このはぐれオーク集落のように、障害を持ったり、年老いて戦えない者が普通に暮らしているなんてことは有り得ない。
「戦えなくなる前に戦って死ぬこと」
それが、オーク戦士にとっての“誉れ”。
そしてもちろん、所謂山賊のアジトだったとしても当然それは有り得ない。はぐれオークの山賊団なら、そんな“役立たず”は、殺されるか奴隷扱いになるはずだか、彼らの集落ではそんなことはない。
インプに後を追跡させ突き止めた彼らの集落をしばらく観察して分かったことは、まずはそれ。少なくとも彼等は好戦的な集団ではないようだ。
そして例の廃村らしき場所との関係も彼らの会話などから分かったのだが、どうやら彼らは元々あの廃村に住んでいたらしい。だが、度重なる魔獣等の被害で住めなくなり、今の場所へと移転した。
実際、廃村の方が井戸や耕作出来る土地もあり、住むのには適している。けれどもその分土地は開けてるが周りを山に囲まれ、いざというときの逃げ場が少なく、守りはやや弱い。
戦える人口が多く、数的優位で防衛力をまかなえ、また広い耕作地による農作と、交通の便を利した交易が出来る……というので無ければ、確かにこの廃村跡より今の洞窟周りの方がトータルでは安全で住みやすい。まして、雪狼みたいな魔獣の群れが多い地域ならなおさらだ。
その辺をインプによる偵察で把握したあと、さらに集落を探っていてそれらを見つけてしまった。
「持っていったのはまた、塩か」
「ああ。あとは鹿肉の薫製と毛皮も少し」
毛皮と塩。鹿肉はおまけながら、この二つはどちらも今の僕に足りないもので、かつ非常に欲しいもの。
毛皮は狩りをしている彼らとしては結構備蓄が余剰気味だった。塩は、どうやらどこかに岩塩鉱床を確保しているらしく、これも倉庫にそこそこ積まれている。
これを見つけてインプに盗ませるのは簡単だったけど、さすがにただ盗むだけというのはよろしくない。僕の方で多めに確保出来てた、または加工が難しく処理出来てなかった食材、素材などをまとめて編み篭と土器の壷へと入れ、「取引」させてもらう。おそらくは、彼らの備蓄からすれば過分な返しだ。
そして、その後の反応を確かめつつ、取り過ぎずややこちらのお返しを多めに見積もった上でまた交換。
今回で三回目の無人取引になる。
「見張りは立てていたが、全く気配も感じられ無かったというぞ」
「害意が無さそうな事が救いだな」
「だが、確証はない」
「悩ましいところだ」
「しかも……蜘蛛の魔糸まであるんだからな」
いや、どーもスミマセン、てな話だけど、こちらとしても出来るだけ誰とも会わないようしなきゃならないのでねぇ。
なもんで、「おかしな大蜘蛛がモノを交換しにきている」、と解釈してくれているのはこちらとしては大助かり。
彼らの集落はほとんど外部と交流は無いようで、交換したものもすぐに大きな影響のあるものでもない。地理的にもはるか南のクトリアと関係はないし、そりゃあ理屈からすればバタフライエフェクト、地球の裏側で羽ばたいた蝶の起こした空気の揺らぎが、こちら側に何らかの変化をもたらす可能性は0ではないが、実際にはこれならほぼ0と見做して良いだろう。
そしてまあ、仮に何らかの変化、影響があっても、それが僕が元居た時間、つまりレフレクトルで“門”をくぐってしまったときよりも未来で起きるのなら、全然問題はないのだ。
そんなワケで、ひとまず塩と毛皮を確保して、料理の味付けも良くなったし、外へ行けるだけの防寒着も作れた。
生活水準が大幅向上である。やった、万歳!
「……いや、違うだろ!」
違う違う、そうじゃない!
間違えちゃあいけません! 僕がしなきゃならんのは、この極寒の地での生活水準の向上ではなく、“門”の近くに行くと勝手に転移させられてしまう“ぶっ壊れた鍵”を“直す”こと。
つまりは「転移しなくなる」か「転移を自分の意志で制御出来るようになること」だ。
安全な隠れ家も、食事も、防寒具も、それを成し遂げる為に必要なものの一部分でしかなく、それ自体は目的ではない。
隠れ家洞窟を拡張し、掘り炬燵だの風呂だのを作って満足してる場合じゃあ無いのだ。……無いのだ!
なもんで、毛皮の布団と、暖炉からの温風を床下から送り込む掘り炬燵で生活しながら、まあ色々と試行錯誤をしとるワケですよ。
“魔女の谷”にあった本はあらかた読んであるので、“再読の書”を使えばまた読み直す事が出来る。
詩集や小説もあれば、研究書に歴史書、旅行記に風説、低俗なゴシップ集もあり、また当然魔術や錬金術、付与術関係の本もあった。
エルフと人間、また様々な種族、人種、文化による魔術の違いやそれぞれの長所短所を比較した大学の研究書もあって、それは今まで大まかに把握していた、習っていた事を体系的にまとめ直すのに役にたった。
改めて。
やっぱ基本的にエルフの魔術は人間のそれに比べて雑で大雑把だ。
雑と言うか、なんというか感覚的、とでも言うか……、あまり“整って”ない。
よく言われる話だけど、天才的なアスリートは天才であるが故に「理屈で考えずとも難しい事が出来てしまう」ので、細かい理論や分析に向いていない、と言うのと似てる。
人間により研究され、再構築された術式の方が、より緻密で再現性も高く、またその分少ない魔力で使用できる。
それが、僕なんかからするとある意味数学的。
父が人間であること、また前世での記憶、経験もあることから、僕の中には人間的な思考、価値観と、ダークエルフ的な思考、価値観の双方が混在している。
エルフ的な魔術の行使や理解に乏しいのはそういう理由もあると言えばある。
だが改めて、その「エルフ特有の、感覚的な魔術」に寄せて行くことが必要らしい。
それでまあ、ここに来てからもなるべくそういうのを心掛けてはいるのだけど、も。
ん~……これが、なかなか……。
もどかしい。
やり方についてはヘルヴォラから学んではいるし指導も受けてる。ただ、やはり長い間に染み付いた癖と言うかなんというか、そういうのは簡単に抜けきれない。
いや……「より感覚的な術式の構築」と言うのを、理屈で考えてしまってるのがすでに良くないのか。
暖炉から床下を通って掘りこたつの中に来る暖かい空気に手をかざす。やはりこたつは偉大だし人を堕落させる。
暖かい。まあ遠赤外線のこたつと比べるとちょっと暖かさの質というか感じが違うのは否めない。その暖かさの違いを、僕は感覚的には分かる。
魔術、魔力を使って空気だけを暖めようとするときは、基本は火属性魔力と風属性魔力とを掛け合わせる。それらをどういう順番、割合、回数掛け合わせるかを表すのが術式であり、その術式は数式的に表される。
両手の間に、それぞれの魔力を纏わせ、コントロールしながら術式を組み上げる。呪文はそれらをより正確に形作る為のもの。手首のブレスレットは魔力コントロールをより正確にする為の補助術具。
数式的に編み上げた術式により、両手の間に暖められた空気が生まれる。前世で記憶にある、遠赤外線のこたつでの“暖かさ”だ。
数式を変えれば、クトリアの荒野での暑い空気や、サウナの中の熱気を作り出す事も出来る。ただその適切な術式を作り出すのが、なかなか難しい。
数式では、だ。
ほとんどの初級の術者は、過去に、または高度な術者の作り出した術式を丸暗記してそれを再現する。
そこから、魔力コントロールが安定化してきたら、自分独自のアレンジを加えたり、新たな術式を考え構築したりもする。
研究者気質のない、ただ「便利な道具」としての魔術を使いたいだけの術者は、そこまではしない。
僕もいくつかの魔術に関しては、自分独自のアレンジした術式を作りはしてる。召喚インプに熊猫インプの姿を付与したのもその一つだし、非殺傷でコンディション異常に特化させた【毒霧】も、ガヤン叔母との共同開発。まあ八割ガヤン叔母だけどね。
術式を改良、変えるというのはそれだけ難しいが、それだけではなく問題は、それがどう“鍵”と関係するか……。
ぶへぇ、と、こたつの天板へと突っ伏す。木製ではなく綺麗に整え加工した土製なのでけっこう硬い。
元々土魔法には適性が高く、こういうのは得意ではあったけど、ダンジョンバトルにクトリア、“魔女の谷”での生活を経て、さらに上達はしている。
例えば【土の壁】にしても、以前はただその場所の土をそのまま盛り上げて積み重ねただけの不細工なものだったが、最近ではそれこそクトリア様式の焼きレンガに漆喰塗りの土壁の様なモノも作り出せるし、【土の壁】の応用で大きさを変えれば、その焼き煉瓦そのものも作れる。
もちろんこれも、細かな術式の改良はしている。ただそれは……と、考えて、なんだか妙な気がしてきた。
いや、具体的にはどこまで数式的な改良をしたんだっけ、と。
で、そんな事を考えてると、蜘蛛糸センサーに異常が感知された。
場所は例の廃村近く。そしてほぼ間違いなく、戦闘の気配だ。
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