遠くて近きルナプレール ~転生獣人と復讐ロードと~

ヘボラヤーナ・キョリンスキー

文字の大きさ
55 / 496
第二章 迷宮都市の救世主たち ~ドキ!? 転生者だらけの迷宮都市では、奴隷ハーレムも最強チート無双も何でもアリの大運動会!? ~

2-10.コボルトのナップル

しおりを挟む

 
 ナップルはそのとき、物凄く慌ててたのね。
 何故って、いつも外さないで居たお面が外れていたから。
 あのお面は、すっごく凄いの。
 あれを被っていると、ナップルはすごく頭がスッキリして、錬金術とかも上手になるし、周りのおっきい奴らとかがナップルのことをすごく怖がって、平伏してくれる。
 だからナップルは、ずっとずぅーっと、あのお面を着けてたの。
 
 でも今、哀れなナップルはお面を着けてないの。
 だから、物凄く慌ててるの。
 ナップルはとても賢いコボルトなのね。けど、お面をしているときは、もっともっと賢いの。
 それに……ナップルはお面をしているときは、ナップルではないの。ナップルはナップルじゃなくて、シャーイダールになってるの。
 
 ◆ ◇ ◆
 
「何だ、そいつは……?」
 少し離れたところに居るちっちゃいのがそう言ったの。
 それはブルとかいう呼ばれ方をしている、ナップルより少し小さいくらいの奴で、お金のやりとりが巧い奴なのね。
 ナップルはとても頭の良いコボルトだけど、コボルトはたいてい、お金のやりとりは巧くないの。
 お金は沢山欲しいけど、それをモノに代えて、モノをお金に代えて、とかしていると、お金が増えたり減ったりする、というのがよく分からないの。
 だからナップル……じゃなくて、シャーイダールは、そういうよく分からないことはこのブルとかいう奴にやらせていたのね。
 
犬獣人リカート……か?」
 肌が黒くて頭の毛がチリチリしている奴が、ナップルのことを覗き込んで言うの。
 全然違うもの。このチリチリはあんまり頭が良くないけど、とてもシャーイダールを怖がってるから、便利に使ってあげてたのね。
 そしてやっぱり頭が良くないから、ナップルのことを犬獣人リカートと間違えてるのね。おバカなのね、チリチリは。
 
「バカねー、違うわよ、チリチリ!
 これは、コボルト!
 のめーっ、とした鼻面で、むめーっとしたぶよぶよの肌してるでしょ?
 コボルトは地下の穴ぐらに住んでて、コソコソ隠れて盗みを働くセコい奴らよ! セコセコのセコビッチなのよ!」
 
 むむ、籠に閉じ込めてたピクシーが、凄く失礼なことを言うの!
 
「ナップルは確かにコボルトだけど、盗みなんてしないの!
 このピクシーはとっても失礼でおバカなのね!」
 とうとうナップルは、我慢できなくてそう言ってやったの。
「ナップルはとても賢いコボルトなの! おバカなピクシーなんか比べものにならないの!
 だってナップルは、ずっとシャーイダールの“相棒”をしてたの!
 おバカなピクシーには絶対に出来ないことなの!」
 ふふん、みんな目を丸くして驚いてるの。ナップルは凄いんだからね!
 
 少しの間、こいつらはしんとしてたのね。驚いて声も出ないでいたの。
 だからナップルは、落ちているお面を手にとって、シャーイダールの“相棒”としてきちんとこいつらを指揮してやらないといけないなー、と思ったの。
 けど、チリチリの後ろに居たひげおとこがナップルより先にお面を拾い上げてしまったの。
「あーん! 返して! それはナップルのお面なの!
 ナップルはそれを被らないと、シャーイダールの“相棒”になれないの!
 シャーイダールが居ないと、みんな困るでしょ?
 みんなの為にも、ナップルはそのお面を被る必要があるの!」
 
 ナップルはぴょんぴょん飛び跳ねてお面を取り返そうとするけど、チリチリがそれを邪魔して、お面に全然届かないの。
 ひげおとこは「ふーーんむ」とか唸りながら、シャーイダールのお面を裏にしたり表にしたりしながら観ていて、最後にそれを勝手に被ったの!
 
 ナップルは「だめ!」と大声で言ったの。
 でも誰も聞いてくれないの。まるで昔のコボルトの洞窟に居たときのようで、ナップルは凄く嫌な気持ちになるの。
 
「おおわっ!?」
 ひげおとこは突然そう叫んで、お面を慌てて外したの。
「おい、オッサン、何だ?」
 チリチリがひげおとこに聞いてるの。ふふん、おバカなのね、チリチリもひげおとこも。
 きっとひげおとこはシャーイダールに怒られてるの。シャーイダールは怒りんぼだからね。ナップルだってよく怒られてたもの。
 
「……いやー、コイツはヤバい」
「何が?」
「んー……こりゃあちょっとしたのろいの仮面だわ」
 そうだよ! あのお面は、スッゴく強いまじないのお面なの!
 
「はァ? 呪いィ!?」
「うむ……。
 意図的に作り出された呪い……じゃあねえな。
 多分、元々これを使って居たシャーイダールの念が強く籠もってしまい、結果的にそうなっちまったンだろう……」
「マジか。
 リアルに呪いの仮面じゃねェかよ」
 そう言いながら、チリチリと他の奴らは、ナップルを見つめてくるの。
 ナップル、そんなに注目されるとちょっと照れてしまうのね。
 
「こいつを被ると、シャーイダールの残留思念みてーなもんに意識を少し持ってかれるようだな。
 その分、錬金術や闇魔法の能力が高まるが……使い続けてると……多分、いずれその残留思念に全てが乗っ取られる」
「……ドーピングと引き替えに、残りの人生を棄てるワケだ」
「お、おい、ちょっとよく分からんぞ。どーゆー事だ?」
「んー……。
 コレを被ってると頭は良くなるがシャーイダールにとりつかれる。
 ずーっと被り続けてると、シャーイダール本人になっちまう」
『……ツマリ、コイツは……?』
 おっきな犬頭がナップルを指さすと、ひげおとこがナップルを見てこう言うの。
「本物のシャーイダールじゃあない」
 
 何だか変な話をしているの。
 シャーイダールはシャーイダールだし、ナップルはナップルだよ?
 ナップルがシャーイダールなわけないのにね。本当、みんなおバカだね。
 
「くそ、じゃあアタシら全員、コイツに騙されてたッてことか!?」
 ブルとか呼ばれてるのが、何故か怒ってナップルにつかみかかるの。
 ナップルは驚いて、「キャン!」って悲鳴を上げちゃった。へへ、ちょっと恥ずかしいね。
 大きい犬頭の奴と、チリチリが二人してそのブルとか言うのを止めて、ナップルは一安心。
「ナップルは何も騙して無いよ! それよりお面を早く返すの!」
 ああ、やっぱりお面が無いと、誰も言うこと聞いてくれないの。
 
「いや、そいつの言ってる通りだ。
 別にそいつはシャーイダールのふりをして俺たちを騙してたワケじゃなかろう。
 まあむしろ……仮面に操られていた、という方が適切だろうな」
 ひけおとこがそんなことを言うの。
 ナップルの言うことを認めてるようだけど、でもちょっと間違ってるの。
「違うの! ナップルは操られてなんかないの!
 ナップルはシャーイダールの“相棒”なんだからね!」
 えへん、と威張ってやったのに、こいつらは何かむにゃむにゃした変な顔をするばかりなの。
 
 ◆ ◇ ◆
 
 しばらくの間、ナップルはひげおとこの部屋で居ることになったの。
 ナップルはシャーイダールと一緒じゃないから、ちょっとばかしは不安だったの。
 周りに居るのは、昔ナップルが居た洞窟のコボルト達じゃないから、ナップルのことを貧弱なへろへろ坊や、なんて言っていじめてきたりはしないかもしれない。
 けど、ナップルはシャーイダールが居ない状態で他の手下達と接したことが殆ど無いから、奴らがナップルに酷いことをするかもしれないと思って居たの。
 けど、小さな羽虫はいつもうるさいし、チリチリは何だか態度が悪いしで、時々嫌な気持ちにもなるけれど、全体としてはそんなにひどいことも無かったの。
 特にひげおとこはナップルの話を色々と聞きたがるから、ナップルはたくさんシャーイダールのことや昔のことを話してあげたの。
 
 それから、ひげおとことチリチリと、ブルとかいうちびとうるさい羽虫に、ひょろひょろのっぽの犬頭の奴とが、改めて集まってきてナップルにお面を渡して来たの。
 それは黒くて怖くて格好良い、シャーイダールのお面……に、良く似たお面だったの。
 ナップルはひげおとこたちがなんでそんなものを持ってきたのか分からなくて、そしてやっぱりナップルにあのステキなシャーイダールのお面を返す気がないんだと思って、むぅっと睨み付けてやったの。
「これはニセモノ! シャーイダールのお面じゃないの!」
 そう言うと、こいつらは驚いたみたいな顔してくるの。ふふん、おバカなのね。ナップルは賢いコボルトだから、そんなものには騙されないもの!

「さすがだな、ナップル。
 シャーイダールの言った通り、この大事な役はお前にしか任せられない」
 ひげおとこが突然、そんなことを言うの。
 ナップルがむむう? と顔をしかめると、ひげおとこは真面目くさった顔でこう言うの。
「シャーイダールは理由があって、暫く此処を離れなきゃいけないことになってな。
 だが留守の間が心配だろ?
 それでシャーイダールはこの偽の仮面を用意させたんだ。
 つまり、シャーイダールが居ない間、その代役を出来る唯一の相手に被って貰うためにな」
 
 ナップルは驚いて、そしてちょっと悲しくなったの。
 シャーイダールがナップルを置いて居なくなる事も、そんな大事なことを、“相棒”であるナップルを差し置いて、こんなひげおとこに話していることも。
 少しうつむいてうじうじとしていると、チリチリの奴がその偽のお面を乱暴に手にとって、ナップルの顔に押し付けてこう言ったの。
「あーー、もう、面倒くせえな!
 良いか? よーーーーするに、お前は今まで通り……じゃねえか?
 いや、何にせよ、この偽の仮面を被って、シャーイダールのふりをしてりゃ良いんだよ!」
 ナップルは首を傾げるの。ナップルは今までシャーイダールのふり、なんてしたことないもの。
 
「あー、つまりな。
 シャーイダールが、“相棒”であるナップルこそ、シャーイダールの代役を務めるのに相応しい、と判断したんだよ」
 
 ひげおとこがそう言ったので、しばらくしてからだんだん意味が分かって来たの。
 ナップルは少し……ウーン、けっこう、だいぶ? 喜んで、こう聞いたの。
 
「それじゃあナップルは、シャーイダールと居るときみたいに、たくさんオオネズミのスープを食べても良いの?」
 
 これはとっても大切なことだよ。オオネズミのスープはすごくおいしいからね!
 
 それを聞いたチリチリは、何かすごーく嫌そうな顔をしてたのね。ふふん、おまえにはちょっとしかあげないよ?
 新しいお面を被ると、前ほどではないけど、頭がすっきりしてきたの。
 でも、やっぱりシャーイダールの声は聞こえてこない。
 ナップルは、ちょっと寂しいなって、そう思ったの。
 
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】

きたーの(旧名:せんせい)
ファンタジー
【毎週火木土更新】 自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。 その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ! 約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。 ――― 当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。 なお、投稿規約に基づき既存作品に関しては非公開としておりますためご理解のほどよろしくお願いいたします。

『三度目の滅びを阻止せよ ―サラリーマン係長の異世界再建記―』

KAORUwithAI
ファンタジー
45歳、胃薬が手放せない大手総合商社営業部係長・佐藤悠真。 ある日、横断歩道で子供を助け、トラックに轢かれて死んでしまう。 目を覚ますと、目の前に現れたのは“おじさんっぽい神”。 「この世界を何とかしてほしい」と頼まれるが、悠真は「ただのサラリーマンに何ができる」と拒否。 しかし神は、「ならこの世界は三度目の滅びで終わりだな」と冷徹に突き放す。 結局、悠真は渋々承諾。 与えられたのは“現実知識”と“ワールドサーチ”――地球の知識すら検索できる探索魔法。 さらに肉体は20歳に若返り、滅びかけの異世界に送り込まれた。 衛生観念もなく、食糧も乏しく、二度の滅びで人々は絶望の淵にある。 だが、係長として培った経験と知識を武器に、悠真は人々をまとめ、再び世界を立て直そうと奮闘する。 ――これは、“三度目の滅び”を阻止するために挑む、ひとりの中年係長の異世界再建記である。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

処理中です...