遠くて近きルナプレール ~転生獣人と復讐ロードと~

ヘボラヤーナ・キョリンスキー

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第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!

3-244.マジュヌーン(90)混沌の渦 - 幻のドラゴン

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 ギラギラと照りつけるような太陽……てのもちょっと違う。
 日本のじめっとした湿気のない、乾いた空気の雲一つない青空は、その見た目も含めて爽快感をも感じさせるが、それでも日射しそのものの強さはハンパなく、文字通りに「焼けるような」痛みにすら感じられるほどだ。
 そうだな、まるで太陽の光にブン殴られてるみてーなもんだ。
 ただ、今の俺は実際にはそれ程の暑さを感じては居ない。
 本来なら感じるはずであろう暑さの半分くれーは、俺が身につけた“闇の手”製の革鎧により和らげられている。
 暑さだけじゃなく、寒さも湿度も乾燥も、周囲の環境による様々なダメージを緩和させる特別な魔力の効果や付呪。それがあるからだ。
 
 その灼熱の砂漠で何をやっているか?
 
 周囲の砂、地面の一部がボコリと膨らむ。いくつかの膨らみがそのまま動き回りのたうちまわるかに俺の周りを旋回。その膨らみの一つがより大きく膨らむと、まるで破裂するかに砂をまき散らして現れる大きな影。
 高く伸び上がるそいつは、太さ50センチぐらい。長さは……ああ、こりゃあ測るのも面倒くせぇ。
 言うなりゃ巨大な砂ミミズサンドワーム。ただ一般的には砂竜とか呼ばれ、主に残り火砂漠の真ん中辺り、砂流海とか言う名の流砂の海の近くに生息してる。ヒトや普通の生き物が足を踏み入れると、あまりの砂の細かさにまともに立つ事もできず、自重でハマっては沈み抜け出せなくなると言われる底なしの砂砂漠の中を“泳いで”いる化け物だ。
 
 そいつの巨大な丸い口の中、タテヨコさらにその奥の奥までみっしりと生えた小さな牙は、言うなりゃ円筒状のおろし金ってところか。
 想像するだけでケツの周りがむずむずするような気味の悪いそいつの攻撃を、俺は余裕で屈んでかわす。
 水面を跳ねるトビウオみてぇに俺の頭上を通り過ぎるそれを、手にした山刀で一直線に切り裂くくと、ちょうど、開いた魚みてーになってドサリ。
 次々現れるそいつらの、何体かを切り、何体かをかわす。
 フットワーク軽く動き回って逃げるのは無理。何せ砂流海の中じゃ、突き出してる硬い岩場以外にゃ動けねぇ。
 俺が立ってる1メートルもない丸い島の周りは、さらに小さな杭みてぇな岩以外全て流砂。
 ここで切り、またかわし続けても、後から後から現れる砂竜相手じゃきりがない。
 だが……10体目か11体目かの砂竜の攻撃に、俺は全く反応せずにそのまま立って居る。
 勢い良く飛び上がってくるそいつは、下ろし金みてぇな牙のみっしり生えた大口を開けたまま俺を一飲みにしようとし……そのまま、通り抜ける。
 
 その次の奴へと再び山刀を振るい切り捨て、また数体を処理してから、同様の攻撃を無視すると、そいつは同じ様に俺をすり抜けて消える。
 
 幻───幻惑術だ。
 
「あーあ、なんだよ、もう全部嗅ぎ分けられてんじゃ~ん。つぅ~まんねぇ~!」
 不意にそう言って現れるのは、子どもっぽい拗ねた高い声の男。この「現れる」も、歩いたりとか飛んできたりとかってな意味じゃない。
 数メートルは先の流砂の上に、三角帆のついた二連のボートのような砂船が、空間からぼわっと滲み出るように現れた。そこに居た3人のうち1人のセリフ。
「やはり、もはやこの程度の幻惑術では、我らが“持ち手”には通用しないですな」
 独特の嗄れた声でそんな事を言うのは蜥蜴人シャハーリヤの術士であり、組織“闇の手”の“聞き手”であるアルアジル。俺の心臓に巣くう邪悪な神の作った、闇そのもののような歪で曲がりくねった武器、“災厄の美妃”の信奉者であり、その預言の声を聞く者だ。
 同じくその横には“闇の手”の一員で、見た目は巨体のゴリラそのものに見える猿獣人シマシーマ、アールゴーラ族のムスタ。
 そして、三角帆のマストのてっぺんに座っているのは……ボサボサでとっちらかった長い銀髪を後ろに縛り、やや汚れた白くゆったりとした砂漠の民の服を着た、耳の尖った男。
 名は、エリクサールと言う、本人曰わく「最高の幻術士」だ。
 
 △ ▼ △
 
 砂流海は砂船と呼ばれる船でないと移動も出来ないくらいに砂が細かい。だからと言って普通の水面のように滑らかに滑る訳でもなく、当然水よりは摩擦がある。なのでこの砂船は、ある種の魔術で流砂の上に浮き、流砂の上を移動する。
 その魔術を創り出したのは誰か、と言うと、砂エルフ達だ。
 砂流海の奥にあると言う砂エルフの国。砂に浮かぶ動く島だと言う話だが、それを実際に見たものは居ないと言う。その砂エルフ達以外には。
 ムーチャの部族は、砂流海の砂エルフに仕える術士の部族だったと言うが、彼らも特定の祠に貢ぎ物を納めるだけで、直接砂エルフの国に出入りしてたワケじゃないらしい。そう言う間接的な形で砂エルフに仕える、交流する者たちはいくらか居るそうだが、砂エルフ達自体はやはり連中の国から出てくることはまず無い。
 
「おぉ~っと、その腸詰め俺んだかんな~!」
 
 フライパンで炒めてる羊のハーブ入りソーセージを串で刺しながらそう言う間抜けなコイツみてーな、超レアケースを除いては……の、話だがな。
 
 一区切りついての砂船の上で、日差し除けの天幕を張ったマストの下で、昼食作りの簡易コンロを囲んでのひとときだが、傷顔の猫獣人バルーティ猿獣人シマシーマの大男、蜥蜴人シャハーリヤの術士に砂エルフ……或いは沙鬼サーキーと呼ばれる四人連れと言うのは、絵面的なだけでなくなんとも奇妙な取り合わせだ。
 
「さて、しかしどうでしょう、エリクサール殿。我らが主、“持ち手”の幻術への対応力は、いかほどか……」
 蜥蜴人シャハーリヤのアルアジルが、相変わらず表情の読めない顔でエリクサールへと聞く。
「ん~……そうね~、ま、悪かぁねぇ……ふぁな~」
 粒マスタードをたんまり付けて、焼きたてのハーブ入りソーセージを八重歯の尖った口でガブリと噛みちぎり頬張るエリクサール。
 種族としちゃ間違いなく砂エルフ。肌はやや黄色がかった褐色に近く、微妙に輝いてもいるように見えるエリクサールは、砂エルフ社会のはみ出し者……端的に言えば犯罪者で、そのため故郷から逃げてきたと言う。
 何をやって犯罪者となったかと言えば窃盗。これまた本人曰わく、最高の幻術士であり最高の盗賊であるエリクサールは、「あんな狭っくるしくて、誰もがゆっくり死んでくみてーな退屈な浮島」では納まりきらないから、機会をみて自ら抜け出したと言う。
 各地を旅し、冒険と盗みを満喫し自由に生きていると言うエリクサールだが、ふとした折りにアルアジルと知り合い意気投合。“闇の手”の一員にはなっていないが、最も重要な外部協力者の1人なのだと言う。
 “闇の手”は、“災厄の美妃”の信奉者による秘密結社だが、その信奉者たちも多くは各地に散って各々の生活を送っている。アルアジルや、毒薬大好き錬金薬師の蛙人ウェラナみたいに、“聖域”を住処としている、ほぼ常駐してるなんてのは全体からすりゃごく一部。“闇の手”の怖いところは、まさに普通に暮らしている隣の誰かが“闇の手”の一員、“災厄の美妃”の信奉者かもしれない……、てな所にもある。全く、マジでキモいカルト集団だぜ。
 
 で、このエリクサールはどうかってーと、外部協力者だが信奉者じゃない。“災厄の美妃”のことも「ただのめちゃヤベー武器」程度にしか思ってないし、その“持ち手”である俺にも敬意も糞もねぇ。
 俺たちに協力してんのも、ただ単にアルアジルとたまたま親交が出来たからってのと、それなりの謝礼が出てるから。
 砂エルフの中ではタチの悪いはみ出し者、暴れ者を現す侮蔑の呼び方、砂鬼サーキーを喜んで名乗るような奴だ。
 
「間違えて幻術に攻撃したのは三割くらいだな。まあ最初の頃よかかなり精度は上がってるぜ。
 アジル程度の幻術だったらもっと精度も上がるだろうけどよ」
「お褒めいただき恐縮です」
 誉めてねぇだろ、とは思うが別につっこまない。
 術士としてどっちが上か、てのは俺にゃ分からねぇが、少なくとも幻惑術に限って言えば、アルアジルよりもエリクサールの方が格段に上、てことらしい。幻惑術自体はアルアジルも使える。俺からすりゃかなりのもんにも思える。だが、さっきみたいないわゆる「実在しない幻を作り出す」みたいな術は、その術士の腕によりまるっきし精度が変わる。
 そして俺は今、それらを見破る感覚を鍛える修行中……てことになる。
 
「全ての魔術を破壊し、魔力を奪い取る“災厄の美妃”ですが、かといってあらゆる魔術に対して無敵な訳ではありません」
 とは、俺と奴ら……“闇の手”の連中とが一つの目標で手を組むと言うのがハッキリとして最初の段階で言われたこと。
 
「そりゃ、何でだ?」
「その力はあくまで“災厄の美妃”の力であり、あなた自身の力ではないからです」
 改めていうまでもない当たり前な事を言われて、俺は鼻を啜り肩をすくめる。

「“災厄の美妃”は、魔術による攻撃、攻撃的な意志に強く反応します。
 ですが……“攻撃的でない魔術”にはどうでしょうか?」
 
 攻撃的でない魔術? と言われ、まずアタマに浮かんだのは治癒術や補助系統の魔術。
 傷や病を回復させる魔術や、力や素早さを高めてくれるような魔術にまで反応しそれらを打ち破ってしまってたら、そりゃ無敵と言うより孤立無援だ。
 
「治癒術や補助、それら以外にも“攻撃的意志のない魔術”はあります。
 例えば……」
 
 そこでアルアジルは手をひらりと動かし何事か呪文を唱え、その手から小さな蜥蜴を生み出す。
 
「幻惑術……。この蜥蜴はいま、何ら攻撃的意志無く生み出されました。なので、“災厄の美妃”が反応する事はありません」
 まあ……そりゃ確かにそうだ。
「けどよ、攻撃的じゃねぇんだったら別に問題ねぇんじゃねぇか?」
 攻撃してこねぇなら無視すりゃ良いだけの話だ。
 
「ですが、例えばこれはどうです?」
 
 次にアルアジルが出したのは……床だ。
 
 ここ、“闇の手の聖域”は、かなり複雑な構造をしているが、基本的には自然洞を長年かけて改築して作られたものだ。だから床面もほとんどはただの岩肌か、多少歩きやすいように板を敷いたり、ある程度削ったりした後に粘土や砂利でなだらかにしたりしてる程度。だから、ここまできちんとした石組みの床面なんてほとんどない。
 その幻惑術で作られたきれいな床面を眺め、眉根を寄せアルアジルを見返す。
「歩けますか?」
「かなり歩きやすそうだがよ。けど幻なんだから、いつも通りの床だろ?」
「はい。幻の床がどれほど整えられていても、実際に歩く床はいつも通りです」
 そこで、再び呪文を唱え新しい幻を作り出す。
 綺麗に整えられた石造りの床の真ん中に、深い穴とその底に見え隠れする鋭い刃の山、ひっかかった古い白骨を。
 ひやりとする。幻だと分かっていても、まるで本当にそこに突如として穴が開いたかのようにリアルに感じられる幻。
 
「この幻が本物で、先ほどの床面が幻だったとしたら? その幻は敵意も無く攻撃してきませんが、幻だと気付かず歩けば……主どのは死にます」
 生唾を飲み込んで唇を舐める。
 なるほど、確かにそうだ。“災厄の美妃”があるから魔法、魔術には無敵だ、なんぞと甘く考えて行動してれば、俺自身の判断で死んじまう可能性は高い。
 
「攻撃してくる破壊魔法、あるいは直接的に主どのに作用する幻惑術……あなたを怯えさせたり魅了したり、または激昂させ判断を誤らせたり……そう言うものであれば、“災厄の美妃”はそれらを打ち破り、防いでもくれます。しかし害意のない幻は、主どの自身の感覚で見極め、見破らねば、“災厄の美妃”での対処も出来ません」
 危険を危険と見抜けなかったり、逆に安全なのに幻に怯え決断を誤ったり……。
「ふん……。確かにな」
 不承不承にも認める俺へ、アルアジルは再び慇懃に頭を下げ、
「幻惑術への対処も含め、主どのの大望を果たすためには、まだ幾つか学ばねばならぬこと、やらねばならぬこと、そしてまあ……無理にとは言いませんが、やっておいた方がよいことなど、多々ありますれば、我ら一同、そのため十分尽力いたします」
 何とも持って回った言いまわしだが、要するにこりゃ次のステージへ進むための修行モードPart2……ってところか。
 
 △ ▼ △
 
 エリクサールによる対幻惑術の修行は既に一月を越えて続けてる。気まぐれなのか計画通りなのか、内容は日々変わるし、1日、また何日間か留守にして居なくなることもある。修行する場所もコロコロ変わり、砂流海の他にも様々な“危険地帯”でやることもあった。

「幻惑術には大別すると二種類ある。
 心に作用する幻惑術と、知覚、感覚に作用する幻術だ。
 心に作用するものは相手を催眠状態にしたり感情を操ったり、もっとすげぇのは記憶まで操ったりもする。
 だが、その辺のもんはお前だったら“災厄の美妃”の力で防ぐ事ができる。
 けど、知覚、感覚に作用するやつは、たいていは害意がない。て言うか、お前個人に対する害意がない。
 ただ、そこにないものあるように知覚させたり、あるものないように勘違いさせたりするワケだ。
 これはまあ……言い換えりゃ、“特定の誰かの心を操る”か、“不特定多数の知覚を操る”か……てな違いでもあるな」
 
 魔法だ何だってなぁ、前世からしても俺の得意分野じゃねぇ。そんなにやり込んでるわけでもねぇが、まあゲームだとか漫画、またはもっとガキの頃に読んだ児童小説ぐらいの、いわゆる、「おとぎ話の魔法使い」程度のぼんやりしたイメージ。
 こっちの世界での魔法、魔術ってのは、そういうのに比べるとなんつーかある種の特殊技能、学問に近いところがある。だから、アルアジルにしろフォルトナにしろ、もちろんこのエリクサールにしろ、いわば前世で言う学者やエンジニアみてーな知的エリートになるワケだ。態度性格を見てると、なかなかそうは思えないとしても、な。
 だから俺なんかからすりゃ、言ってることの根本的原理なんかをキチッと理解出来てるかッてーとそうじゃねぇ。けどまあ俺なりになんとなくは……掴めなくもない。
 
「つっーワケで、そろそろ次のステージに進んでみっか~?」
 
 相変わらずのお調子者の声で、エリクサールがそう言う。
 しかし、いつまで続くんだかな。
 
 
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