遠くて近きルナプレール ~転生獣人と復讐ロードと~

ヘボラヤーナ・キョリンスキー

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第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!

3-257. マジュヌーン(103)魔法使いの弟子 - 失敗がいっぱい

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 アニチェト・ヴォルタスは知らなかった。クークの能力が「炎を生み出すこと」ではなく、「あらゆる魔力による炎を操ること」だと。
 いや、アニチェトに限らず、それを知ってる奴は殆ど居ないはずだ。クークは常にペデルナ、巨大な炎を生み出せる【発火】の魔人ディモニウムと行動をしていたからだ。
 
 最大の攻撃力を持っていただろう四匹の炎の竜を破られ、貴重な“反射の守り”で打ち返されたクークとペデルナ達が、その混乱と被害から立ち直れて居ないそのタイミングで、素早く追い討ちをかけようとするのは当然だし、そこに至るアニチェトの判断には誤りは無かった。
 そしてその手段として、長い呪文も必要なく、最も早く追い討ち出来る魔導具の“複写の指輪”……これまた貴重な魔装具の、自ら受けた魔術の効果を一回だけ再生して使えると言うそれを使って、直前に受けたクークの炎をそのままうずくまり立ち直れてない2人に打ち返したのもまた、間違った判断とは言えなかった。その前の“反射”のダメージがある以上、クーク達が自分達の使う炎の魔術による攻撃を防ぐ術を持って居ないのも明らかだったからだ。
 
 ただ、知らなかっただけだ。
 
 そしてだからアニチェトは、クークへの追撃のとして放った炎を再びクークに操られて、今度こそは“反射の守り”も【魔法の盾】も使う間も無く、全身にその炎を浴びてしまった。
 
 △ ▼ △
 
 撤退はあっという間だった。ハシントが“血晶髑髏の冠”でクークに操られていた“狂える半死人”たちを引き上げさせる。数はずいぶん減ったが、怪我をした者には手を貸し肩を貸し、ボーマ勢が呆気にとられる程の見事な退き際だ。
 それと同じくして、クークへと留めを刺そうとしたアニチェトが炎にまみれて絶叫する。
 敵の撤退と、リーダーの不可解な炎上に、ボーマ勢はさらに混乱する。
 その隙に、残っていたクークとその配下達もまた、慌てて逃げ出す。
 クーク側の勝算はクークとペデルナの強力な炎の魔術に、“血晶髑髏の冠”で操られる“狂える半死人”たちの戦力。その二つが共に失われた今、例え敵のリーダーを打ち破れたとしても勝ち目はない。数でも戦力でも、圧倒的に不利だ。
 満天の星空に浮かぶ月の光を浴びて、クーク達は満身創痍となり去って行った。
 
 その撤退ルートからは外れた谷間に、ハシントと“狂える半死人”の“ブランコ団”、そしてフォルトナと俺が集まっている。
 なんとも言えず押し黙る俺に、ハシントは遠慮がちながら礼を言う。
 
「……多くの仲間は失われたが、それでも最悪は免れた。全て、あなた方のおかげだ」
 ハシントの言葉は本心だろう。だが俺の耳には空々しさしか残らねぇ。
 
 アニチェトも、ペデルナも死んだ。他にも大勢が死んで、それでもボーマ城塞は守られ、俺にとっての最低限の目標は達成された。
 ああ、そりゃメデテーぜ、万々歳だ。
 
「そうだな、祝杯でもあげるか?」
 
 口をでたその自分の言葉に、口の中の粘着いた唾を吐きかける。
 
「───まあ、美しさには欠けますが、決して悪い結果ではないでしょう」
 
 フォルトナがそう言うとほぼときを同じくして、闇からぬうっと現れるのはアルアジルとムスタ。
 
「これはこれは、やや遅くなりましたかな?」
 
 クークの動向、目的が分かり、その後を追うと決めた後、フォルトナの灰砂の落とし子アッシュサンド・スポーンを使ってアルアジル達にも言伝をした。もちろん援軍としてだったが、それには間に合わなかった。
 
「ふん、だから言ったのだ。最速で行かねば間に合わぬだろうと」
 戦いに参加出来なかった事への不満からか、ムスタがそう言うが、
「何か手間取ったのか?」
 と聞くと、
「いえ、ただ集団戦に有用な術具などを用意してはみたのですが……まあ、無用でしたな」
 と言う。
 
「して、こちらの方は?」
 ハシントへと向き直ってそう聞くアルアジルに、フォルトナが改めて経緯を説明。
「……なる程、あなた方がブランコ家の……」
 と、やや考えこむかに顎へと手を当てる。
「知ってるのか?」
 フォルトナのその問いに、
「いえ、私は専門外なので大まかなあらまししか知りません。ただまあ……デジモ・カナーリオがその様な研究をしていたとは、やや驚きまして」
「やや?」
「ええ。とるに足らぬ小物でしたから」
 と、アルアジルからするとかなり評価は低いようだ。

 再び考え込むかのようなアルアジル。そこでまた話が途切れて暫くの沈黙。業を煮やしたムスタが、
「それで、どうする? 魔人ディモニウム共を追って殲滅するか?」
 と言うが、
「必要ねぇ。むしろまだ生かしておいた方が良い。……だろ?」
 と俺が返す。
 クークも含め、クトリアに潜入させられている魔人ディモニウムの一部はリカトリジオス軍の尖兵。完全に潰したらそれはそれで問題になる。
 
「あの……」
 
 そこに、再びおずおずと口を挟むのはハシント。まだ居たのか、とも思うが、とりあえずはまだ4、50人ほどの“半死人”が居る以上、そう簡単にさあ解散、てなワケにもいかない。
 
 △ ▼ △
 
 ハシントとブランコ団は、ひとまずレフレクトルの地下に隠れる事になった。その後何らかの方法で別の場所を探し、いずれはクトリアを離れるつもりだと言う。
 クトリアと言う地への執着。それこそが今回の悲劇を生んだのだと、ハシントはそう言う。
 
「新たな地への便宜は我らがはかりましょう。必要な手助けもします。
 ですがそれは……」
「“災厄の美妃”への貢献を前提に……だな。ああ、分かっている」
 アルアジルの言葉に頷いて返すハシント。つまりは、新たな“闇の手の外部協力者”だ。
 エリクサールみたいな変わり者を除けば、“闇の手”の外部協力者はこういう事の中から増やされる。何のことはねぇ。ただ相手の弱みにつけ込んで、恩を売ってるだけの話。
 
 暫くして、ペデルナとアニチェトの死がはっきりとした。あの状況からは明白だったが、この世界じゃ錬金魔法薬だの治癒術だのがあるから、まるでゲームみたい……とまで言わなくても、やはり“奇跡的回復”は有り得なくもない。
 俺が目標とすること。その為に動き続ければ、俺自身が直接手を下さずとも誰かが死に、誰かが生き残る。それはこの世界で知り合った誰かかもしれねぇし、前世での知り合いかもしれねぇ。
 行き着く先に、どれほどの死体が積み重なっているのかは、神のみぞ……いや、“災厄の美妃”のみが知ることだ。
 
 そして……。
 
「さーって、新情報な」
 クトリアでの活動拠点であるレフレクトルの地下。ムスタの他新たな労働力となったハシント率いる半死人たちのお陰で、結構な居住性もあるようになったそこの円卓の広間で、エリクサールが呑気にそう述べる。
 
「クークと他の“三悪”の動向は今んとこはっきりとしてねーんだけど、あの、“黄金頭”な」
 “黄金頭”アウレウム。世間では「自らの肉体をドワーフ合金さながらの強度と性質を持つ鎧へと変えられる魔人ディモニウム」と思われているが、その実ドワーフ合金化そのものはあくまで奴の被っている魔装具の兜による能力で、アウレウム自身の持つ能力は「魔導具や魔装具の能力を倍増して使える」と言うもの。
 そして、前世では俺たちのクラスの担任であり、アルゴードの渡し場を“滴る悪夢の杖”と言う魔導具により、広範囲魔力汚染を引き起こして使えない廃墟へとしてしまった男。
 
 俺はアルゴードで奴の腹を刺し、殺したと思っていた。だが奴はそれを生き延びて、変わらずに山賊稼業に精を出してると伝わってくる。
 
「アウレウムがどうした?」
 
 死んだ、殺したと思ったのが生きていた、ってのは据わりの悪い話だが、とは言えクークのとき同様、俺は幻術込みの隠密で隠れ潜みながら周りに居て、隙を見て一撃を加えて去る、と言うやり方でしかその場には居なかった。少なくとも俺がそこでやったことは、“闇の手”と協力者連中以外には知られて居ない。
 だからまあ、生きていたからって警戒する必要も、追い討ちにかける必要も特にはないが……。
 
「どーもね、やっこさんの復活劇。その背後には、クトリア市街地に店を構える魔導具、魔装具の専門店“銀の輝き”を経営してる、ヴァンノーニ商会が居るっぽいぜ」
 
 ヴァンノーニ? ……ふん、知らねぇ名前だな。
 
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