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第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!
3-268. マジュヌーン(114)闇の月の夜に - 悲しみの果て
しおりを挟む記憶の隅に引っかかる。ああ、覚えがある、覚えがあるぜ。
“砂漠の咆哮”へと入団し、初めての仕事で商隊の護衛。その最中に出くわした薬師の部族の猫獣神が奪われたことから手助けを依頼されドニーシャの廃神殿まで探しに行くと、リカトリジオスの巡回部隊と死霊術士とがやりあってた。
だがその争いにさらに横槍をいれてるもう一つの勢力……「奪われた主の大切なもの」を取り返す為に、クトリアから逃げ出した邪術士、死霊術士を追っていたと言う黒ずくめで顔のみ半分を仮面で覆った術士達。
その中で恐らく最も地位、実力の高かっただろう術士がコイツだ。
「我が主へと害なす者は、一歩たりとも近づけさせませんぞ」
練り上げる闇の魔力。だがそれは攻撃の魔法を作り出すんじゃなく、2人の仕込み杖を持つ従者らしい連中への補助。
姿が朧気になり、闇夜に紛れていく。
こいつは俺が“災厄の美妃”、あるいはその複製を持ってることを知っている。つまり魔法で攻撃しても無駄だということを、だ。だから魔力を直接俺に対して向けるのではなく、2人の従者を補助することに回した。
もちろんその補助も、“災厄の美妃”で一撃与えりゃ吸い取れる。だがその一撃が与えられなきゃそりゃ無意味。
「待て、主ってのはあの女か? そんな奴ぁ知らねぇ。俺が用があるのはネフィルの方だ」
全神経を集中し、闇夜の暗がりへと消えた2人を探す。目じゃねぇ。匂い、音、あらゆる気配を追って。
「あの者を殺す為、ですか?」
俺の言葉にそう返す黒ずくめの術士。
「殺……」
……す為? いや、違う。そんな事は考えてねぇ。だが、じゃあ……。
「助ける為?」
助ける?
殺す? 助ける? いや違う、そうじゃねぇ、そうじゃねぇ。ただあのまま魔力飽和が続けば……いや……。
「───いかな目的であれ、手出しは無用」
瞬間、太ももに熱を感じる。僅かにそらせたものの、仕込み杖の鋭い刃が俺の太股を斬り、また反対の腕も斬られる。
相変わらず姿は闇に溶け、僅かな足音も聞こえはするが、それに紛れてやたらざわめきも聞こえてくる。
術士の奴、またいつの間にか別の術を使っていやがった。ただ風に紛れて小さな音を鳴らす簡単な術だ。人間相手なら気にもされない。だが猫獣人や犬獣人なんかの、優れた聴覚で音を拾って戦う種族にはかなり厄介。そのさざめきに紛れて、左右から矢継ぎ早に突き、また斬りつけてくる。
この2人も手練れってだけじゃねぇ。感心するほど見事なコンビネーション。まるで社交ダンスのパートナーみてぇに絶妙なタイミングで攻撃してくる。
あとは匂いでなんとか追えはするが、それだってこの動きじゃあんま正確じゃねぇ。匂いによる察知は、過去の痕跡や遠くの動かない相手、対象を見つけるのには向いてるが、こうやって近くを動き回る相手にゃちと効果が薄い。
「くそ……待てよ、俺は……」
そこまで口にしながらも、その続きが言えない。
俺は一体どうしたいんだ? 殺したいのか? 助けたいのか? ただ単に戦いを止めたいのか?
止めたとして……それでどうなる?
ネフィルがモロシタテムを襲撃したのは、やはりリカトリジオスの策の一環だ。“腐れ頭”の情報が正しきゃ、“黄金頭”アウレウム……つまりはジャンルカ・ヴァンノーニを中心にまとまった魔人連合でボーマ城塞の奪取を狙ってる。
以前にクークが単独でそれを狙った時同様、俺達の目的の為にはあそこをこいつらに取らせるのは絶対にまずい。
なら……もう奴らにゃ全員、死んでもらうしかねぇんじゃねぇのか?
その考えに至って、俺は全てがクリアになり、と同時に全てが濁って澱んだ水の中へと落ちて行った。
右手から突き出された仕込み杖の穂先を数センチでかわし、伸びた杖を掴んで引っ張る。そのまま体を半回転させながら反対側から来た刃を蹴り飛ばして、杖ごと掴んだ方の従者を反対側の従者とぶつけ合わせる。見事に合わせた動き。片方の位置が分かれば同時にもう片方の位置も分かる。
バランスを崩したところへそのまま回転しての回し蹴り。重なり合ってもつれるように地面へと転がったそいつらを後目に、黒ずくめの術士へと向き直る。
構える術士。だが恐らく白兵戦を従者2人に任せているコイツは、魔術以外に有効な反撃手段は持ってねぇ。あっても、何かしら魔力由来の力だ。
明らかに怯む術士へと、俺は特に力無く睨むように視線をやってから息をつき、奪い取った仕込み杖を地面へと投げ捨てて、
「テメーの言う通りだ。
俺はあいつらに関わってやるべき事もねえし……やる必要もねぇ」
と、そう吐き捨てる。
「ネフィルは───敵だ。俺の目的にとっちゃただの障害。アンタの主が仕損じたら……そん時ゃ俺がやる」
僅かな緊張。術士も、背後で既に立ち上がり機会を窺ってきる従者2人も、俺のその言葉の真偽を計りかねていたが、しばらくして術士からの無言の指示でそれぞれ杖をゆっくり拾い上げてから刃を仕舞う。
「───分かりました。ですが、まだここで貴方を監視をさせて頂きます」
と、そう言って居心地の悪い睨み合いは続く。
「けど、良いのか? アンタの主を助けなくてよ? 見た感じ、ヤバそうじゃねぇか?」
別に気にしちゃいねえが……とまで言うと嘘になる。ネフィルとの会話もあり、奴が前世で関係してる誰かじゃねぇかとの見当はつけてるが、それが誰かは分からねぇ。
だから出来りゃあそのヒントになる何かぐらいは欲しいもんだが、直接会って話をするってなぁ、あんまり賢い方法とも思えない。
「……我らもまた、手出し無用故」
つまりは、あの南方人の男は別として、仕えてる奴らには「自分とネフィルだけで決着を付ける」と明言していた、って事だろう。
それだけの、因縁……か。
「それに……もはやネフィルの勝ちはありますまい」
眉根を寄せてそう小さく言う黒ずくめ。
当たり前だが、奴にも分かっているようだ。
確かにネフィルは“反射の守り”を使い、致命的な一撃を跳ね返した。だがその結果、こいつの主とやらの膨大な魔力を許容量を超えて吸収してしまい、いずれは自滅するしかないということを。
その自滅までの時間を、あの“シジュメルの加護の入れ墨”をした南方人の男が凌ぎきれるかどうか。つまりはそこだけだ。
離れた場所でやり合っている2人。その音、声が、俺の耳には聞こえてくる。
魔力が増えたことで、ネフィルの力は数倍にも高まっている。土を両手ですくい上げながら、瞬時に鉄槍へと作り変えて投げつけているようだ。
女の声が微かに聞こえる。
「───深く、複雑な縁だ……。全てを話すには時間も無く、そして……話すつもりもない。
だが……そうだな。
鉄……ネフィルに、クーク、ヴィオレタ、そして“黄金頭”アウレウム……。
この四人は、ある意味わたしに特に近しい子のようなものだ……」
子……。それが何を意味するのか?
「血縁上の子……では無いぞ。
そうさな……わたしは5年前までは……邪術士達に捕らわれた実験動物……そんな存在だった。
もっと言えばさらに昔、クトリア最期の王、醜悪なるザルコディナス三世の虜囚。
彼らはわたしの芳醇な魔力を持つ血を使い、多くの魔人を生み出した。
最初は 半死人たち。それから様々な術式を埋め込む、ネフィル達の様な魔人……」
その言葉に、以前聞いた別の話が重なってくる。
ブランコ団、“光りし者”ハシントが言っていた、「吸血鬼から得た血晶玉の血」が、半死人他魔人を生み出すのに使われていたという話だ。
つまり、この主……アルバとか呼ばれてる女こそがその吸血鬼であり血晶玉とやらの持ち主、って事だ。
ドニーシャの廃神殿でコイツらが探してると言っていたのが、その血晶玉とかってもんだったのか……。
いや、いい。そんなことは俺にとっちゃ関係ねえ、どうでもいい話だ。
俺が知りてぇのはネフィルとあの女、アルバとかって奴との関係だったが、今話してる内容からすりゃ、前世からの繋がりかと思った俺の予想は外れていたかもしれねぇ。だが、さっきアルバの挙げた4人、ネフィル、ヴィオレト、クークにアウレウムは、全て“前世の縁”がある。その4人を敢えて“子のようなもの”と言うのは、偶然とも思えねぇ。
アルバの話は続き、それに対して南方人の男が何かを返す。しばらくして男は何らかの術で飛び去り、ネフィルと再び戦い始める。俺たちが予想したように、自滅までの時間稼ぎをしているようだ。
ネフィルは鉄槍を作っては投げつけしながら、これまでの事を叫び喚く。知っている事もあれば、俺が追えていなかった知らない時期の事もある。
アルゴードで話したときには、奴はシューの命令でカシュ・ケンへととどめを刺したと言っていた。だがアウレウムが死に、散り散りになる中で、それまではまだ周りの魔人や山賊連中からは軽んじられ、ただ「鉄製の武具を作り出せる便利屋」扱いもされていたのが、“三悪”と呼ばれる凶悪な魔人の頭と呼ばれるほどになるまでに、どれだけの事があったのかを俺は知らない。
奴が何人殺し、何人から殺されそうになったかを俺は知らないし、同じように俺があの後何人殺し、何人から殺されそうになったのかも奴は知らない。
「───もう俺達全員、イカレた糞な殺人鬼なんだよ!」
ああ、そうだな、その通りだぜ……金田。
俺たちゃもう、ただのイカれた糞殺人鬼でしかねぇ。
奴のその慟哭が響く闇夜の中、ただ俺は事が終わるのを待っていた。
ただ、終わることだけを待ち続けていた。
▽ ▲ ▽
翌日には俺は、例の廃城塞へと来ていた。以前偽者のアウレウムを追って行った、モロシタテムから東カロド河を遡った山あいにあるところだ。
既に多くの山賊連中が集まっていて、またネフィルの敗退と王国駐屯軍とその連合が迫って居ることは伝わっている。アウレウムは……というか、恐らくありゃチェルソだろう奴が山賊連中を煽り、焚き付け、盛り上げていた。
俺はそう言う騒ぎとは離れた場所にいる1人へとひっそり近付く。
大きな獣の毛皮を身にまとい、遠目にはまるで猛獣そのもの。だが今のその姿は猛り狂うでもなくただ数頭の毒蛇犬に囲まれた群れのボス、或いは母だ。
「───何しに来たの?」
背後から近づく俺のことを、見もせずにそう言う。
“猛獣”ヴィオレト。アルゴードの頃のような、まだおどおどと周りの顔色を窺うかの態度は微塵もない。
小柄で痩せた体格は変わらないが、やつれ衰えているのではなく、余計な肉が削ぎ落とされた、しなやかで鍛えられた筋肉質の身体。
「ネフィルの最期を見た」
簡潔にそう言う俺を、やはり振り返ることもなく反応もない。
「お前たちがシューの指示で動いてるのは分かってる。そしてシューは俺の敵だ。だから、シューに従う限りお前達も敵だ」
「わたしも殺す?」
「いや。殺しはしねぇ。だが……助けもしねぇ」
「そう……」
“腐れ頭”の見立てじゃあ、今回は王国駐屯軍が優位。恐らくはヴィオレト達が負けるだろうと言う。
「だが、シューから離れる……ってんなら、話は別だ」
シューを裏切り、こっちに着くなら……俺の敵じゃなくなる。
その言葉に、僅かだがヴィオレトは反応する。
だが……。
「仇を……とらなきゃ」
平易で感情のない声。
「ネフィル……彼を、殺した奴らを……殺さなきゃ……」
あぁ、そうか……そうだろうな。
俺はそのまま、ゆっくりとまた闇へと溶け込むようにして消える。
そして完全に消えて立ち去る前に、こう言葉を言い残す。
「ドワーフ合金装備の探索者のチームは、明日の攻勢時に遊軍で出るはずだ。リーダーは魔法剣士で顔に傷のある色黒の男。そいつが一番の実力者だ。真っ先にそいつを潰せば……勝算はあるかもしれねぇな……」
この言葉を役立てられるのか、それも虚しく敗れ去るのか。そいつはまだ……分からねぇ。
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