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閑話 ハルマ王子の憂い

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 凄く眩しい光……。

 真っ白で、何もない光の中。

 僕は目を覚ました。

 ………あれ?

 僕……どうしてこんなところに……。

 い………。

 ????

 ここは……どこ。

 なんだか、懐かしい……。

 僕はゆっくりと手を伸ばし……。

 そして不意に僕は悟った。

 僕は、ずっと昔、ここに来たことがある……。

 そうだ……僕は昔……オオカミだった。

 正確なことを言えば、神のいとし子と呼ばれた特別なオオカミだった。

 だけど僕は……神の治める場所で起きた・・・に巻き込まれて……。

 僕は遠くに弾き飛ばされた。

 自分では戻れないほど遠くの場所に。

 だけど僕は無くならずにその場所で……何かにすーっと、吸い込まれていった。

 そうだ確か僕は……その場所で……その世界で別の生き物として生まれた。

 しかしその生き物である間……僕は覚醒しなかった。

 オオカミだったことも、昔居た場所のことも思い出さず……。

 ただ凡庸な存在として、僕はいた。

 だけど結局、僕の魂は、その体に馴染まなかった……。

 小さい頃は何ともなかったのに。

 成長するにつれ、僕の体はゆっくりと壊れ続けた。

 そして……その場所で16年という歳月を過ごしたころ。

 僕の体は完全に壊れた。

 原因不明の病気……。

 徐々に体が壊死していく病気。

 あの頃僕は、死ぬことを怯えていた。

 死んじゃう。

 僕が無くなっちゃう。

 そんな恐怖を覚えながら、僕は毎日を戦っていた。

 そして僕の周りには、いつも家族がいた。

 僕の望むようなありふれた家族ではなかったけれど、とても優しい家族。

 でも僕は何故か、いつも孤独を感じていた。

 寂しい……。

 会いたい……。

 会いたい? でも誰に??

 その不思議な感覚は、生涯拭い去ることが出来なかった。

 それから……僕は死んだ。

 それは、ある意味すべての解放となった。

 僕の寂しさの意味も分かった。

 僕の持ってる寂しさは、別離の記憶。

 小さい頃、頭を撫でてくれた、優しい手。

 その手のぬくもりが短い生涯、ずっと僕の心を支配していたということを。

 それから僕は、また戻ってきた。

 僕を慈しんだ神は……ずっと僕を探していたようだ。

 僕が死んだ、解放されたその時に、神はようやく長く探し続けた僕を見つけた。

 ……僕はどうなるの???

 僕は、神に語り掛けた。

 頭の中に流れ込んできたのは、再会を喜ぶ気持ちと、別離を悲しむ心。

 どうやら僕は、別の世界で他の生き物として生まれたせいで、魂が少し変わってしまったらしく、神の元にはいられなくなってしまった。

 そして……神が心話を通じて伝えてきたことによると、僕はどうやら神の治める領域で、別の生き物として生まれ変わるらしい。

 僕は神のいる場所を離れる瞬間、ほんの少しだけ、考えた。

 ああ……願うことなら、あの手。

 あの優しい手のもとに生まれたい。

 そして完全に意識が途切れる刹那、「心得た、いとし子よ」という声を聴いたような気がした。

 
 

 
「いいですか?

 ローデリア様。

 ブレスナイト様。

 ハルマ様。

 と・く・にカルコフィア様!

 王妃様は体調がまだ万全ではございませんので、ご注意くださいませ」

 ヒツジ族メリノ種の召使セッカートが、一人一人に注意を始めた。

 だけどカルコフィアは聞いてない。

 絶対。

 でも全然心配はいらないよ。

 僕たちは母上が大好きだもん。

「はりゅまたん!

 いよいよ母上と会えるニャ!!

 うれちー!!!」

 僕はローディの、その言葉に微笑んだ。

「うん!

 うれちーね!!」

 僕の隣で、兄上が答える。

 ナイトはいつも、僕の通訳をしてくれる。

 僕はこのところいつも、ぼんやりしている。

 なぜなら、僕はずっと考えている。

 母上なら、何か分かるかな???

 僕の、産まれる前の記憶のことを。

 だけどすごくぼんやりしていて、すごくよく思い出せる日もあれば、すっかり忘れてしまっている日もある。

 僕は白い神様のところにいた。

 だけど、僕はここに行きなさいって神様に言われてやってきたけど、神様が約束してくれたような、優しい手がここにはない。

 愛されてはいるんだ。

 それは、前の時と一緒。

 だけど、優しい手がない。

 あ……れ? 前の時って、いつのこと???

 さっきまでよく覚えていたのに、もう思い出せなくなった。

 僕たちは広い部屋で、母上の到着を、首を長くして待った。

 そして父上に抱っこされて現れたのは……。

 すごく綺麗で、優しくて……懐かしい。

 どうして???

 ナンデココニイルノ???

 にーちゃ!!

 にーちゃ!!

 僕のにーちゃ!!

 神が約束してくれた、優しい手。

 夢みたいだ!!

「ハルマもおいで?」

 にーちゃが、僕を呼ぶ。

「……うちょ!!! 

 にーちゃ、母上なの? うれちー!!!!!」

 僕は嬉しくて、母上になったにーちゃに駆け寄った。

 昔と変わらず、僕を「春馬」と呼ぶ優しい手。

 そして、僕の頭を撫でる手は、今もとても優しかった。






毎夏様:名前募集に、早速の応募ありがとうございます(*´▽`*)
    ヒツジ族♂ セッカート また登場します!
    種別は一番スタンダード(でもカワイイ)メリノ種にいたしました。
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