素直になれない私は一人で夜を紡ぐ〔僕の可愛い閨棲虫スピンオフ〕【BL】

高牧 まき

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短編

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 僕は眠っていた。

 地下牢は寒いし、お仕置きのため2日もご飯が食べられなかった。

 折檻の後の絶食は辛い。

 どちらにしろ体は痛みで動かないし、僕はすることもなく暗闇の中で眠っていた。

 すると、久しぶりに扉が開いて、僕は目覚めた。

 今回は、長かったな……。

 僕が縛られるのを嫌がったから、いつもよりお仕置きが長かった。

 ご主人様は、僕らを痛めつけるのが好きだ。

 でも縛られると、それだけじゃすまない。

 僕はそれが嫌で、縛られるを嫌がってしまった。

 だけど、もっとひどいことが待っていた。

 だからもう、次は縛られても、我慢しなきゃ。

 もうお仕置きは終わったのかな? と、すこしだけまぶたを開けた。

 扉から差し込む光が、長いこと暗闇の中にいた僕には眩しすぎる。

 うっ、と、息を飲む声が聞こえてきた。

「………大丈夫か?」

 僕は困ったように首をかたむけた。

「誰?」

 ご主人様じゃなくて、全然違う人。

 この人、カッコよくて優しそう。

 こんな人が僕のご主人様だったらよかったな。

 僕はそう思いながら、また目をつぶった。

 その後も何か声が聞こえてきたけど、僕はそのまま気を失った。

 その日から、僕の運命は回り始めた。






「テルヘ様ぁ。

 まだですかぁ」

 僕は髪を切るのが嫌いだ。

 ハサミが嫌いないせいもあるけど、カミソリで襟足を整えられるのがとてつもなく嫌だ。

 それは僕が子供の頃、虐待されていたからなんだけど……。

 僕は多分、今年で15歳くらい。

 テルヘ様が7年前僕を引き取ってくれた時、年恰好からだいたい8歳くらいだろうと、年と誕生日、それから名前を与えてくれた。

  僕には名前がなかった。

 もの心ついた時には、僕は商人らしい男の自宅に、監禁されていた。

 他にも男の子は何人もいたけど、男は特別僕がお気に入りだった。

 その理由は、ここに引き取られてから分かったんだけど、僕は、貴双体シュウダートって呼ばれる珍しい人間だった。

 僕の体は雌雄同体で、僕は男の子でもあり、女の子でもある。

 そんな人はあんまり生まれてこないので、たまに人身売買の対象になってしまうそうだ。

 僕は生まれてすぐに売られた貴双体シュウダートだった。

 その頃のことはあまり思い出したくはないけど、確かに男に言われたことがある。

 お前を手に入れるために、随分金を払った、と。

 とにかく僕は子供の頃、そこから助け出された。

 一緒にいた他の子供たちと違って僕が王宮に引き取られたのは、たぶん僕が貴双体シュウダートだったからだ。

 それから僕は、テルヘ様をお母さん、カイ国王をお父さんみたいに育ててもらった。

 二人には5人子供がいて、その全員が嵩秀種ビーリアンだ。

 カイ国王もそうだけど、嵩秀種ビーリアン達は皆美しくて、ぞっとするくらい頭がいい。

 僕たち貴双体シュウダートは、嵩秀種ビーリアンを産むことが出来る特別な存在だった。

 特にその中でも、テルヘ様は神双躯オーフェルガルっていう、特別な貴双体シュウダートらしくって、国中の人から崇められているらしい。

 でもそういうことは関係なく、テルヘ様はとても優しくて綺麗な人だから、僕は大好きだ。

 テルへ様に育てられて、僕は幸せだった。

 だけどもうすぐ僕は、選びの塔に入らなければならない。

 王族の嵩秀種ビーリアンが、集められた貴双体シュウダートのなかから伴侶をえらぶ、その場所に。

 だから、テルヘ様は今日お忙しい公務の中、僕の髪を整えてくれている。

 召使に頼むとかじゃなくて、テルヘ様のその手で切ってくれるのだ。

 他の人だと僕が、怖がるから。

「リカール。

 もう少しだから」

 テルヘ様は、僕の伸びすぎた髪をザクザクと切り落としていく。

 さすがに、3年も切っていないから、僕の髪は腰より長くなってしまった。

「テルヘ様……やっぱり僕、選びの塔に行かなければなりませんか?」

 僕は切り落とされた髪の束を見つめながら言った。

「僕の昔のことはみんな知ってるでしょう?

 選びの塔に行っても、誰にも選ばれるはずはありません。

 だから、このままここで過ごしてはいけませんか?」

「リカール……。

 好きな人はいないの?」

 他の貴双体シュウダートと違って、僕は宮殿に住んでいるから、子供の頃から王族の嵩秀種ビーリアン達を、よく知っている。

「そ、そんな人、いませんよ!!」

 僕はあわてて否定した。

「私はてっきり、ルネのことを好いているのかと思っていましたよ?」

「ルネ様ですか?」

 僕はテルへ様の言葉に戸惑った。

 ルネ様は、地下牢から僕を助けてくれた人だ。

 僕たちを閉じ込めていた商人は、他の犯罪で逮捕され、取り調べを受けているときに僕たちのことを自白した。

 貴双体シュウダートを一人飼っているという話を聞いて、慌てて調べに来たのが、ルネ様の率いる騎士隊だった。

 ルネ様は、裸で地下牢に放置された僕を見て、驚いたことだろう。

 暴行以外に、僕が何をされていたか、分からないはずはない。

 僕が目覚めると、僕は体を綺麗に洗わていて、温かい部屋に寝かされていた。

 その後僕は、処遇が決まるまでの短い間、ルネ様たちのもとで暮らしていた。

 ルネ様と、ルネ様の伴侶のラーション様は、僕に優しくしてくれた。

 二人の間に子供はいなかったけど、とても仲がよくて、一昨年にラーション様がご病気で亡くなられた時のルネ様のお嘆きは、相当なものだった。

「ルネ様も、選びの塔にいらっしゃるんですね?」

 不思議な気がした。

 ルネ様が、ラーション様以外の伴侶を迎えられるなんて。

「だから、リカール。

 お前は選びの塔に行くのを楽しみにしているとばかり……」

「まさか!

 まさかテルヘ様。

 ルネ様が、僕を選ぶなんて思っていらっしゃらないでしょう?」

「それは、何故?」

 僕は、口ごもってしまった。

 それは、とても、自分では言い出せないことだから。

 でも、僕には分かっている。

「リカール……。

 お前はとてもいい子……。

 ちゃんと、ルネは見ていますよ」

 そういうと、テルヘ様は、僕の肩に落ちた髪をはたき落とした。

「終わりましたよ。

 リカール」

「ありがとうございます」

 僕はテルヘ様に丁寧にお礼を述べ、退室した。

 ルネ様は優しいけど、それは僕が可哀想だから、なんだ。

 僕があの商人の男の慰み者になっていたのが、気の毒だからだ。

 それにルネ様だけじゃない。

 皆、僕の過去を知っている。

 僕は、選ばれない。

 そしてとうとう、僕が選びの塔に入る日が来た。

 テルヘ様とカイ様は、僕を見送りに来てくれた。

「テルヘ様、カイ様。

 今までお世話になりました。

 僕、この御恩は、どこに行っても、忘れません」

「リカール……元気で」

 テルヘ様は、僕のために涙を流してくれた。

 僕は、精一杯笑顔を浮かべ、選びの塔へ続く回廊へと進んだ。







 ルネは久しぶりに選びの塔へと足を延ばした。

 このところは多忙を理由に、ほとんど選びの塔に立ち入ることはなかった。

 そもそもルネは、ラーション以外の伴侶を持つつもりがない。

 なのに、カイがそれを許さなかった。

 ルネに子供がいないという理由で、次の伴侶を選ぶように命じられたのだ。

 なぜ、陛下は分かってくださらないのか。

 私に伴侶を持つ資格はない。

 持ってはならないのだ。
  
 しかしそんなルネが、今日に限って選びの塔に足を延ばしたのには理由がある。

 今日はリカールが選びの塔に入る日だ。

 不安な気持ちでいるかもしれない、と思うといたたまれず、自然と足を向けたのだ。

 ラーションという伴侶を失ったせいで、ルネは軽々しく年頃の貴双体シュウダートであるリカールに会うことが出来なくなってしまった。

 最後に会ったのは、ラーションの葬儀の時だ。

 あの頃はまだ幼さが残っていたというのに、あのリカールがもう成人とは、不思議な気がした。

「ルネ殿。

 これはお久しい」

 回廊の中で声をかけてきたのは、ルネの次に年長者の嵩秀種ビーリアン、オルヴェだ。

「オルヴェ。

 元気そうだな」

「今日はリカールが参りますからね。

 ルネ様も気が気でないでしょうね?」

「本当に子供の成長は早いな。

 グッと自分が老け込んだ気がするよ」

「また、そんなことをおっしゃって。

 まだまだお若いのに」

「30を過ぎたら十分におじさんだよ。

 私を気にせず、早く伴侶を選んで報告に参るがいい」

「それが、リカールでも、ですか?」

 私はすぐに返事が出来なかった。

 それは、リカールのことを思えば、こそだ。

 伴侶に選ばれるということが、リカールにどう影響するだろうか。

 過去のことを思いだし、苦しむのではないか、という思いが、返答をためらわせた。

 伴侶となることが、リカールの幸せになるのだろうかと。

 そして、わずかな沈黙の後、私はオルヴェにこう答えた。

「無論だ。

 ただ……生半可な気持ちでは、選んでほしくないな。

 リカールのことを幸せにすると、私の前で誓ってもらうぞ」

「それは………。

 なるほど、リカールは大変だ」

「それは、どういう意味だ?」

「……何でもありません。

 なに、そのうちきちんとお願いに参ります。

 ………リカールではありませんよ。

 ご安心ください」

 オルヴェはそれだけ言うと、さっさと先に歩き出した。

 ルネは憮然とした表情で歩き出した。
  
 テルヘ様もそうだ。

 なんだって、無理矢理私とリカールを結び付けようとする?    

 こんな10歳以上年の離れた私なぞ、リカールにとっては父親のようなものだ。

 リカールには、もっと優しく、もっと若く、誰よりもリカールを愛する者でなければ………。

 そう思いながら塔へ足を踏み入れた時、私は、私を見つめる一人の貴双体シュウダートに目を奪われた。

 その貴双体シュウダートこそ、成長したリカールなのだと気付いた時には、私は初めて感じる恋情に狼狽えた。

 ダメだ……!

 この気持ちは、ダメだ!!!

 私は、生まれたばかりのその感情を無理矢理胸の奥へと押しこんだ。

 私は誰かを好きなる資格など、とうに無くしているのだから。






 
 私は国境近くの砦にいた。

 すでに王宮に2ヶ月、戻っていない。

 いやむしろ、私は自ら進んで、国境へとやってきていた。

 リカールは、間もなく18になる。

 選びの塔に入り、3年。

 だがまだ選ばれていなかった。

 それはある意味、私のせいだった。

 私は恐れていた。

 いつか誰かが、リカールを選ぶと言い出すのではないかと、それを恐れ、仕事へと邁進し、自然と選びの塔へと足を延ばすことがほとんどなくなった。

 リカールが幸せになるのであれば、それでいいではないかと思うのだが、私の中のリカールを思う気持ちは、消そうとすればするほど日増しに強くなり、私を苦しめた。

 ダメだ。

 忘れろ。

 私は自分に言い聞かせるように空を見上げながら、今は亡きラーシェルを思い浮かべた。

「ルネ様、準備が整いました」

 私は部下からの報告を受け、兵とともに砦を出発した。

 内乱を起こした国境の士族たちを、囲い込むように進撃した私たちの勝利は目の前だった。

 もうまもなく平定される、そう思った時であった。

 流れ矢が私の馬に命中し、私は馬から投げ出された。

 目の前が、暗くなった。

「ルネ。

 いつまで眠ってるの?」

 私はラーションの声に目を覚ました。

「ラーション!!

 ………私は、死んだのか??」

 ラーションは笑ってそれを否定した。

「違うよ。ルネ。

 あまりにルネが不甲斐ないから、思わず来てしまったよ。 

 ねえ、ルネ……僕を伴侶にしたこと、後悔してるの?」

「そんなことない……!!!

 絶対に!!!!」

 それは偽りのない気持ちだ。

 もしこうなることが分かっていても、私は迷わずそうしていた。

 両親に先立たれた私はラーションの両親に引き取られ、幼少期を過ごした。

 だから同い年のラーションは、私にとって友であり兄弟だったのだ。

 15歳になったラーションは、選びの塔に入り、私たちは離れ離れになった。

 その日の朝、ラーションが嫌がって泣いていたのを覚えている。

 もちろん私にできることなど、何ひとつなかった。

 ただラーションを励まし、見送った。

 別れの時、ラーションは思いつめた表情で、私に言った。

「待ってても、いい?」

 むろん、他の嵩秀種ビーリアンに選ばれてしまえば、ラーションに拒否権はない。

 だが私は、ラーションを励ましたくて、頷いた。

 私はまだ、子供だったのだ。

 そして私が18になり、選びの塔に向かう日が来た。

 再会したラーションは、別人のようにやつれていた。

 選びの塔は、ラーションには向かなかった。

「本当に迎えに来てくれたの?」

 ラーションの言葉に、私はドキリ、とした。

 私は忘れていた。

 ラーションはずっと、私を待っていたというのに。

 私は罪悪感に打ちひしがれた。

 それに加えて、ラーションの衰弱は日に日にまして、これ以上選びの塔で過ごせば死んでしまいそうだった。

 当時、まだ王太子だったカイ殿下の提言で、年長の者の了承があれば、年下のものでも伴侶を選ぶことが出来るようになっていた。

 私はその後、決意し、ラーションを伴侶に迎えたいと願い出て、それが許された。

「ごめんね。

 ルネ。

 僕は分かってたよ。

 だけど、僕はルネが、ルネのことが好きだったから、それでも嬉しかったんだ。

 ルネが僕を助けるためにそうしたんだってことは、分かってたけど」

「ラー……ション……」

「………僕が最期に言った言葉、気にしてたんだね?」

「…………私のせいで、苦しめた」

『僕のこと、愛してた?』

 何故、あの時迷わず、愛していると、答えられなかったんだろう。

 最期にその一言を求めていたのに。

「ルネ。

 もう、いいよ。

 許してあげる。

 だから、これ以上、自分の気持ちに嘘をつかないで。

 ………早くしないと、リカールがいなくなってしまうよ?」

 ラーションが姿を消すと同時に、私は現実へと引き戻された。

 すでに勝敗は決し、事態は収束へと向かっていた。

 リカールが、いなくなる?

 どういうことだろう?

 私は焦る気持ちを抑え、後始末を部下に任せられるほどに国境が安定した2週間後、王都へと帰還した。


     
 


「リカール!

 待ってくれ!」

 僕は呼び止められ振り向くと、ルネ様が立っていた。

 僕がルネ様に会うのは久しぶりだ。

 国境で小さい紛争があり、ルネ様も派遣されていると思っていたのだが、いつの間にか帰ってきていたらしい。

「はい」

 僕はもう、選びの塔にやってきて3年が過ぎていた。

 僕はまた、すっかり髪が長くなってしまった。

 ルネ様はずっと誰も選ばなかったけど、年下の者が二人、ルネ様の同意を得て先に伴侶を選んだ。

 この3年の選びの塔の生活は、僕が思った以上に厳しいものだった。

 親しい人が誰もいないというだけじゃない。

 僕は他の貴双体シュウダートたちから、蔑まれていた。

 無理はない。

 僕は小さい時に親から売られた貴双体シュウダートで、純潔ですらない。

 だけど……蔑まれても、選ばれなくてもいいのだ。

 僕が選びの塔で3年もの間我慢したのは、僕を分け隔てなく愛してくれたテルヘ様とカイ様の為だった。

 二人は僕が誰かに選ばれると思ってくれていた。

 僕を、愛してくださったから、疑い無く。

 だけど、もう許して下さるだろう。

 僕が終わりの谷に行ったとしても。

 終わりの谷では、伴侶のいない年老いた貴双体シュウダートが集団で暮らしている。

 世俗から隔絶された場所で亡くなった伴侶を思い、静かに余生を過ごすための場所だ。

 だけど100年くらい前に、僕みたいに誰にも選ばれなかった貴双体シュウダートが、自ら望んで終りの谷に入った。

 だから、選びの塔にきてちょうど3年になる今日、僕はテルヘ様に伝えた。

 終わりの谷に行きたいと。

 僕は、3年前から決めていた。

 3年がまんして、終わりの塔に行くと、最初から。

「リカール。

 本当か。

 終わりの谷に行くなどと!」

 ルネ様は怒っていた。

「申し訳ありません。

 ルネ様。

 しかし……私のようなものが、いつまでも選びの塔にいる訳には……」

「リカール!

 何を言っている!」

「いいえ、ルネ様。

 私のような、けがれた者がこの選びの塔に居続ければ、テルヘ様やカイ様にもご迷惑を……」

「なにを!

 お前は穢れてなど、いない!」

「ルネ様……」

 僕は目頭が熱くなったけど、ぐっと涙をこらえた。

「リカール………私が。

 ………私が選ぶ!」

「ルネ様?

 何をおっしゃって……!!!」

「私が、そなたを、選ぶ。

 もっと早くにそうするべきだった!」

 それは、僕が一番恐れていたことだった。

 可哀想だからって、僕を選ぶなんて、間違っている。

 ルネ様は優しすぎる。

「おやめください。

 ルネ様。

 私は望んで終わりの谷に行くのです。

 私に同情など………お止めください」

「同情では……同情などではない!」

 と、ルネ様は、私の静止も聞かず立ち去ってしまった。

 そして、そのまま、ルネ様は皆の前で、宣言してしまわれた。

 私を伴侶に選ぶと。







 僕は泣きながらルネ様を待っていた。

 気心の知れた召使にしか世話を許していなかったから、僕の準備は時間がかかった。

 傷のある自分の体を、誰にも見せたくなかったのだ。

 だけどそれと同時に、時間をかけている間にルネ様の心が変わるのを待っていたというのに。

 すでに選びの塔の私の部屋は片付けられ、ルネ様の住む場所に移されている。

 僕と同じようにルネ様が身支度を整え、部屋に入ってきた。

「…………泣いているのか」

 ルネ様は驚いた様に私に尋ねた。

 僕は我慢が出来なくて、ルネ様を攻め立てた。

「…………どうしてです?

 どうしてこんなことを?

 こんなこと、ラーション様が悲しまれます!!」

「ラーションは、関係ない!

 …………お前は私が、嫌か?」

 ルネ様は私の肩を両手でつかみ、泣き続ける僕の正面で、私の瞳を覗き込んだ。 

「何を言って……!!!」

 僕は唇をわなわなと震わせた。

「嫌なら、はっきりそう言ってくれ。

 そうなら………私は部屋を出ていく」

 ルネ様はなんとひどいことを言うのだろう。

 僕に嫌いと、そんなこと!!!! 

「…………言えるはず、ない………!!!

 私はそんなこと、言えません!!!!!」

 僕は感極まって、ルネ様の胸を叩いた。

 そう。

 僕はルネ様が好きだった。

 助けられた時から、ずっと。

 でもだからこそ、同情で選ばれるのだけは嫌だった。

 ルネ様は僕が胸を叩くのも構わず、抱き寄せた。

 そして驚く僕の唇に、深く口付けた。

「うぅ……」

 その時のことを、僕はなんと言っていいのか、分からない。

 僕はそんなキスをされたことがなかった。

 僕を無理矢理犯したあの男はキスなんてしなかったし、テルヘ様やカイ様は、優しく頬にキスは下さったけど。

 こんな、唇を貪られるような、心をすべて持っていかれるようなキスは、僕は知らなかった。

 だからルネ様の唇が離れた時、僕は体が震えていた。
 
「リカール。

 私は……お前を、愛している……。

 ずっと自分の気持ちを偽ってきたが……。

 断じて、同情などではない」

「う……、そ………」

「リカール。

 私はお前が子供の頃を知っている。

 お前が何をされたのかも。

 それなのに、大人になったお前に、こんな劣情を抱いてしまった。

 お前は……私に抱かれるのが……怖いか?」

 僕は混乱した。

 だって!!

 ルネ様、僕を愛していると………愛していると、そう言った!!    

 だから僕は、呆然と、こうつぶやいた。

「ルネ様……!!

 僕は……僕はルネ様を。

 好きに……。

 僕は、………好きになっても、いいんですか?

 ………愛しても?」

 その言葉を聞いたルネ様は、嬉しそうに微笑んだ。

 そして僕を抱きかかえ、薔薇の花びらの散るベットへと連れて行った。

「ル、ルネ様……」

 ルネ様は、僕の長い髪に口づけ、慣れた手つきで僕の衣装の紐をほどくと、僕の耳元に顔を近づけた。

「今夜は、寝かさぬから覚悟をしろ」

 そう囁くと、ルネ様は首筋に舌を這わせた。

 いつかの晩、僕を虐待していた男が放った言葉と、まったく同じものだったけど。

 今は、こんなにも甘く聞こえるなんて!!!!

 ルネ様は、僕の服の前を開いた。

「リカール………綺麗だ」

 ルネ様はそう囁いてくれたけれど、僕の肌には、商人の男に与えられた無数の傷跡が走っている。

 綺麗なはずなんて、ない。

 なのに。

「リカール………お前は、誰よりも、美しい」

 ルネ様は僕の胸に残り皮膚の薄くなった傷跡をなぞるように、愛おしく口付けた。

「はぁぁん。

 ルネ……様……」

 ルネ様からの快感を受けて、ゆるゆると僕のペニスが立ち上がる。

 だけどルネ様がそこに顔を近づけたので、僕は慌ててしまった。

「そんなっ!!

 ルネ様、汚い、から……!!!!」

 僕の静止も聞かず、ルネ様は僕のペニスを口に頬張ると、舌を使いながら吸い付いた。

「あぁぁぁぁ!!

 だ……め……!」

 僕はたまらなくなって、ルネ様の髪に指を絡ませた。

 こんな、快感も、知らない。

 僕はただ、涙をにじませながら、ルネ様の愛撫に身を任せた。

 しかしその快感がとどめようもなく高まり、僕はルネ様に懇願した。

「ル、ネ様!!!

 もう、はな……して。

 はあぁぁ……もう、出ちゃい、ます。

 はぁぁぁん、あぁん!!!

 ほんとに、だめだからぁ………!!!

 ああああ!!! ル、ネ様ああぁぁぁぁぁ!!!」

 だけど僕は、我慢が出来ずにルネ様の口の中に、精を放ってしまった。

「……………甘い、な」

 ルネ様は、顔を上げて、そう言った。

 僕は唇を舐めるルネ様をに見惚れていた。
 
 僕はこんな色っぽいルネ様を見たことがなかった。

 いつも穏やかで、優しいルネ様しか。
 
 だけど今のルネ様から、僕は目を反らすことが出来なかった。

 ルネ様が僕の後孔に手を伸ばされたとき、僕は怖くてルネ様の腕をキュッと握ってしまった。

 だけどルネ様はただ優しく僕を見つめていた。

 僕はすこし落ち着いて、体から力を少しだけ抜くことが出来た。

 ルネ様は僕に合わせて、無理をしなかった。

 怖がらせないように、ゆっくりと愛撫を続けてくれたおかげで、僕の後孔は、ルネ様を受け入れられるほどにほぐされた。

 それでも、ルネ様のペニスが僕の中にゆっくりと入ってきたとき、僕は思わず恐怖で両目を閉じてしまった。

「リカール!

 大丈夫か?」

 緊張で体を固くした僕を気遣い、ルネ様は動きを止めた。

 僕は、ほんの少し、勇気を振り絞った。

 閉じていた瞼を開き、ルネ様を見つめた。

「ルネ様。

 やめないで!!

 僕を………僕をあなたのものに、してください。

 すこし、怖いけど。

 僕も………僕はルネ様のことが、好きだから!!」

 ルネ様は頷いた。
 
 僕の苦痛を少しでも減らすように、僕のペニスを手で愛撫しながら、ルネ様は少しずつ僕の中に入ってきた。

「あああ………ル、ネ……さ……ま。
 
 ルネ様ぁぁぁぁ。

 うぅぅ!!

 はぁぁぁん!!」

「リ……カール。

 分かる、か?」

 ルネ様は僕の頭を撫でた。

 僕の中に、ルネ様がいる。

 ルネ様のペニスは熱くたぎり、ドクドクと強く脈打っていた。

「入って……る!!!

 ルネ、様!!!」

 僕が耐えられるか、ルネ様は確かめるようにゆっくりとペニスを抜き始めた。

 いっぱいに広げられた僕の肉壁は、ルネ様のペニスにぐぐぐ……とこすられ、痺れるような快感をもたらした。

 切なさが体に伝わったその瞬間、また奥へと突き立てられる。

「はぁぁ……やぁん!!

 イ……ヤ…!」

 舌足らずに甘えた声が、僕の口から漏らされた。

 後孔からは、いつしか蜜液が溢れルネ様の腰の動きをより滑らかにしている。

 リズミカルな肌と肌のぶつかる音や、蜜液の濡れた音が、僕をより一層乱れさせた。
 
 実を言うと僕は、ルネ様に翻弄ほんろうされるばかりで、何もできなかった。

 まるで誰の体も受け入れたことがない初心うぶな人のように顔を赤らめ、身をよじってルネ様の抽挿を受け入れている。

 いろいろとあの男に教え込まれていたはずなのに、僕はルネ様の与える体の奥から湧き上がる快感に、なすすべがなかった。

「うぅ………ルネ様……ルネ様……」

 ルネ様を受け入れてうごめく僕の肉壁は、ルネ様に攻め立てられ、熱くとろけてしまった。

 再び熱を増した僕のペニスも、これ以上はないほどに張りつめている。

「リカール!

 ………いいか?」

 ルネ様は僕のペニスの愛撫の手を止めると、僕の右足を自分の肩に軽くかけて、後孔に深く差し入れた。

 そのまま激しく突き立てられたので、僕はいままで出したことのない甘い喘ぎ声を上げながら、今まで以上の快楽に引きずり込まれていった。

「リカール!!!」

「ル、ルネ……さま!!!」
  
 僕たちは名前を呼び合い、同時に精を放った。

 僕は、はぁはぁと荒い息を漏らしながら、ぼんやりとルネ様を見つめていた。

「リカール。

 お前に聞いておきたいのだが?」 

 ルネ様は囁きながら、僕の耳を噛んで、なぶった。

「お前はいつから、私のことを??」

 僕は恥ずかしくて黙り込んだ。

 まさか初めて会った時からお慕いしていたなどと、言えるはずがない。
  
「それは……いいではありませんか」

 僕はごまかすように、再び勢いを帯びはじめたルネ様のペニスに手を差し伸べた。

 でも結局、それに嫌というほどかされ、僕は白状してしまった。

「お前が、早く素直になっておれば、私はこんなに長く一人寝をしなくて良かったのだぞ?」

 ルネ様が私のことを攻め立てるので、私はすこしイジワルに、お返しした。

「ルネ様が早く素直になってくださらなかったので、私は毎夜、ルネ様を思って切ない夜を過ごしておりましたのに」と。  

 それから私たちは、心ゆくまでお互いの体を堪能した。

 それから3か月ほど後のこと。

 僕の髪は、ルネ様がそのままの私の長い髪が好きだというので、切らずにいる。

 結んだだけだと長すぎるので編み込まれてはいるけれど。

 僕はルネ様の耳に唇を寄せた。

 僕から嬉しい報告を聞いたルネ様は、僕の体を持ち上げ、くるくると回った。

 楽しそうに、いつまでも。 





☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

読者様へ

「素直になれない私は一人で夜を紡ぐ」をお読みいただきましてありがとうございます。

 実は今月末を持ちまして、この小説の削除を予定しています。

 詳しくは近況ボードをお読みくださいませ。

 長らくご愛顧いただいた感謝に「僕のかわいい閨棲虫」の末尾に短いですが番外編を掲載しています。

 お楽しみいただくと幸いです。

 これまでの応援、本当にありがとうございました。     

                            高牧まき

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
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「パックの中、僕の形になっちゃったね」 夢か現か。耳元で囁かれる甘い声と、内側を執拗に掻き回す熱。翌朝、自室で目覚めたパックに、昨夜の記憶はない。ただ、疼くような下腹部の熱だけが残っていた。 相談しようと向かった相手こそが、自分を侵食している張本人だとも知らずに、パックは父の部屋の扉を開く。 このお話はムーンライトでも投稿してます〜

アプリで元カノを気にしなくなるくらい魅力的になろうとした結果、彼氏がフリーズしました

あと
BL
「目指せ!!魅力的な彼氏!!」 誰にでも優しいように見えて重い…?攻め×天然な受け ⚠️攻めの元カノが出て来ます。 ⚠️強い執着・ストーカー的表現があります。 ⚠️細かいことが気になる人には向いてません。 合わないと感じた方は自衛をお願いします。 受けは、恋人が元カノと同級生と過去の付き合いについて話している場面に出くわしてしまう。失意の中、人生相談アプリの存在を知る。実は、なぜか苗字呼び、家に入れてもらえない、手を出さないといった不思議がある。こうして、元カノなんか気にしなくなるほど魅力的になろうとするための受けの戦いが始まった…。 攻め:進藤郁也 受け:天野翔 ※誤字脱字・表現の修正はサイレントで行う場合があります。 ※タグは定期的に整理します。 ※批判・中傷コメントはご遠慮ください。

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