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五月の戸惑い編 エピローグ

エピローグ 1

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 パンチラ統制委員会室に、明かりが灯っている。
 既に下校時間は大きく過ぎていたが、美麗、佳奈はその場を動かず、四月に見たような光景が、再び広がっていた。

「はあ、また負けてしまいましたわね‥‥‥」
 会長のぽつぽつとしたつぶやきが、その大きな部屋の中を漂う。
「‥‥‥この方法で、あってる?」
 無表情が、疑問を呈した。
「‥‥‥どういう意味ですの?」
「お互いが強くなっても、力のインフレで、生産性が、ない」
「‥‥‥では、どうしろと?」
 美麗にしては、珍しく苛ついているようだった。

「力比べはやめて‥‥‥例えば、あの人達がスカートめくりをしている所を、全校放送で流す、とか」
「‥‥‥は?」
 十分建設的な意見と思われた。

 だが。

「いやですわ、搦め手なんて」
「なんで?」
「卑怯臭いですもの」
 そう言われてしまった佳奈は、能面になるしかなかった。

「う~ん、かなかなの言うことも、一理あると思うけどなあ~」

 不意に二人の頭上から、艶やかな声が降ってきた。

「あ、あら、女神さま」
 見上げて美麗。
「や、今日は残念だったね」
「はい‥‥‥そ、それでどのようなご用件なのでしょうか?」
「ん? うん、ちょっとね」
「ま、まさかわたくしたち、クビ、ですの?」
「え? えーと、まあ、半分あってて、半分間違ってる、かな」
 その言葉に、美麗は卒倒しそうだった。
「会長、大丈夫?」
「だだだ、大丈夫ですわよ?」
 大丈夫ではなさそうだった‥‥‥。

「あのね、ちょーっと他の神様から釘刺されちゃってさ」
「は、はあ‥‥‥」
 どこか上の空な美麗が、曖昧に相槌を打つ。
「キミたちの能力がね、強くなりすぎちゃってて色々やばいのよ」
「やばい? どうやばいの?」
 佳奈が首を傾げる。
「キミたちがばかすか能力を使うとさ、その力が学校内のそこここに留まるんだわ」
「と、仰いますと?」
「四月頃はよかったんだけどさ、今、か~なり強くなってるでしょ?」
「まあ、はい」
 怪訝な表情で美麗は頷いた。

「キミたちが使ってるのって、一応、神の力なのね」
 ええーっ!? と美麗。佳奈は、ほー、と腕組み。
「その強力な力が必要以上に残留すると‥‥‥」
「「すると?」」

「どかーん!」

 恋ちゃんは、大げさに両腕を振りあげた。

「‥‥‥それで、わたくしたちは、どうすればよろしいのでしょうか?」
 ビクつきながら聞いた。
「うん、なるべくね、前くらいの力加減で使ってくれるかな? あ、ヤバイ時はフルパワーでいいよ」
「は、はあ‥‥‥でも、彼らはどうなさるのでしょうか?」
 どこか納得のいかない、そんな顔だった。
「もちろん、釘をさしておくよ。そこは平等にね」
 ぱちりとウインク。
「ま、彼らの能力はね、元々弱っちいからさーー」
「佐野ましろさんの、あの方の能力は?」
 鋭く美麗が遮る。

「ん? ましろん? 彼女のは自発能力だからな~」
 ぎり、と佳奈の口から、歯噛みする音が漏れた。
「ま、あんまり派手にやらないように、一応お願いしてみるよ」
「と、特訓はしてもよろしいでしょうか?」
「いいけど‥‥‥」

 女神さまはじっと美麗の顔を覗き込んだ。

「キミはまじめだけど、それが仇になって歯止めが利かなくなる事があるようだね」
「‥‥‥」
「やりすぎちゃったらリミッターをかけるけど、いいね?」
「‥‥‥はい」
「んじゃ、来月からは控えめでね! そりでは、さらば~」

 そのまま、すー、と虚空に消えていった。


「相馬さん‥‥‥あなたの案、少し考えてみますわ」
「‥‥‥ん」
 どこか悔しそうな美麗の言葉に、佳奈は静かにうなずいた。





 翌日。
 放課後の中庭に、SKMD全員が集まっていた。
 ベンチに女子二人が陣取っているという既視感あふれる光景に、男子三人は半ば諦めたような表情を提示していた。

「で、何でみどりはまたこねーの?」
「あ、お姉ちゃん部活だよ。そろそろ大会だから遊んでられないんだって」
「な!? こっちだって遊びじゃねえぞ!」
 叫ぶましろを、まあまあ、とあおいがなだめる。

「ふん、まあいいや。その大会が終わったら、埋め合わせしてもらうさ」
「わかった。お姉ちゃんに言っとくね」
「おう」
「ましろちゃんが遊んで欲しがってたって」
「言うなーっ!!」
 あおいの胸ぐらを掴もうとしたその時。

「はあい、女神さまですよん! って、あれ?」
 唐突に女子二人の間に現れた恋ちゃんの胸ぐらが、思いきり掴まれた。

「ぐ、ぐふぅう!?」

「あ、すまねえ」
 さすがのましろも慌てて開放する。

「ごほごほ‥‥‥って、危ないでしょう!?」
 ごもっともなご意見だった。
「ほんとにすまねえ」
 恐縮しきりのましろであった。

「で、今日はなんだ?」
 うー、と睨む女神さまに、話を逸らすように聞く。
「ん? あ、そうだった。じつはね‥‥‥」



「そうか‥‥‥ま、そういうことなら従うぜ」
「どっちみちぼくたちの能力って、微妙だし」
「俺たちにとっては、プラスしかないな」
「ですね」
「ほんと? ありがとね!」

 委員会の二人にもした話を聞いて、SKMDの面々はすんなりとその提案を受け入れた。

「じゃ、来月も新鮮なぱんつ、頼んだからね!」

 それさえなければまだまともなのに‥‥‥。

 消え去った後のベンチに向かい、五人はつぶやいた。


「さ、気を取り直して、続きいくよ」
 あおいが仕切った。
「ってことで、てめえら来月からはまた地味なゲリラ戦だな」
「だね。でも、あんなのと戦わなくていいなら、そっちの方がいいよ」
「俺たちはどうあがいても、佐野たちみたいにはなれないしな」
「はい。それに、あんな派手にやってたら、他の生徒に見つかってしまいますよ」
 その言葉に、野郎三人は震え上がった。

「スカートめくり魔、なんて言われたら、登校拒否もんだね」
「いや、退学ものだな」
「‥‥‥はい」

 はあ、とため息が重なる。

「で、今月はどんだけめくったんだ?」
 ましろは報告を求めた。

「‥‥‥え、ええと」

 歯切れの悪い報告だった。

「はあ? 三人? 三人て、あの三人?」
 三本指を立てるましろに、面目なさそうな男子たち。

「言ったよな。こつこつだって。オレがいねえ間、なにやってた?」

「「「すいませんでした」」」

 ヒロインからも極大なため息が一つ。

「まあまあ、ましろちゃん。こっちはこっちで色々あったのよ」
「けどなあ」
「大丈夫。来月は、みっちりやってもらうから‥‥‥」
「な、ならいいぜ‥‥‥」
 狂気に満ちたあおいの瞳に、ましろは口ごもった。
 三太たちも祈るように、青空を見つめている。

 と、ヒロインが、あれ? という表情をした。

「なんだ! 五月はまだ、今日と明日があるじゃねえか! おい、野郎ども、行くぞ!!」

 ましろに引きずられて行く情けない男三人であった。
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