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忍れど、五月雨編 第四章
17 開戦
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「忍さん‥‥‥」
孝明が、忍を見据える。
「あ、おお、藤代?」
だが、当の本人は目の前に座り込む美麗な康司と、何故かみるくちゃんと一緒にベンチに座っている本人とを見比べるように視線を往復させていた。
「くっ、私はどうすればいいのだ‥‥‥」
苦渋に満ちた表情の彼女に、孝明は困惑していた。
いや、山瀬を無視して俺と戦えばいいんですよ。そう何度も口にしようとしたような、佇まいだった。
「牛原、システムを解除してくれ」
「え? いいのかい?」
突然の申し出に、浩太も戸惑いを隠せない。
「ああ。やっぱりこんな忍さんに勝ったところで、なんか違う気がする」
「‥‥‥わかったよ」
「おまえにもあおいちゃんにも悪いが、許してくれ」
男の決意を感じた浩太は、プロポを操作して映像を切った。途端に現れるむさい男子高校生。
「な!? 貴様は誰だ? お嬢様、お嬢様ーっ!?」
「さっきまで戦っていた山瀬ですけど‥‥‥」
ずーん、と表情を曇らせた康司が、背を向ける。
「藤代さん、拳も能力も使えない自分は、撤退します」
そして寂しそうに微笑むと、トボトボと戦場を後にした。
「忍ーっ! わたくしはここです!」
目の前の美麗が消え去ったことに動転していたのか、すっかりベンチの本人を失念していたらしい忍の表情が、ぱあ、と輝いた。
「お嬢様! ご無事で何よりです、って、その隣のちびっこは!?」
「今からティータイムなんだよ!」
「はあ?」
みるくちゃんの声に、盛大に『?』を浮かべる彼女。
「とりあえずそうなってしまいました。優雅にお茶をいたしますので、あなたも優雅に彼を叩きのめして差し上げなさい」
「は、はい!?」
そうは言われても、いまいち納得できない様子の忍であった。
「と、言うわけだ藤代!」
「いや、どういうわけですか?」
そんな事は自分が一番わかっている! とばかりに目を泳がせる忍だが、主人の命令は絶対なのだ。
「やかましい! いざ尋常に勝負だ!!」
すらり、と模造刀を抜き放つと、正眼に構えた。
「わかりましたよ、忍さん」
孝明もため息をつきつつ、身構える。
ふふふ、と互いに不敵な笑みが口もとに浮かぶ。
「参る!」
「行くぜ!」
ざん、とほぼ同時に地面を蹴った。
孝明が、忍を見据える。
「あ、おお、藤代?」
だが、当の本人は目の前に座り込む美麗な康司と、何故かみるくちゃんと一緒にベンチに座っている本人とを見比べるように視線を往復させていた。
「くっ、私はどうすればいいのだ‥‥‥」
苦渋に満ちた表情の彼女に、孝明は困惑していた。
いや、山瀬を無視して俺と戦えばいいんですよ。そう何度も口にしようとしたような、佇まいだった。
「牛原、システムを解除してくれ」
「え? いいのかい?」
突然の申し出に、浩太も戸惑いを隠せない。
「ああ。やっぱりこんな忍さんに勝ったところで、なんか違う気がする」
「‥‥‥わかったよ」
「おまえにもあおいちゃんにも悪いが、許してくれ」
男の決意を感じた浩太は、プロポを操作して映像を切った。途端に現れるむさい男子高校生。
「な!? 貴様は誰だ? お嬢様、お嬢様ーっ!?」
「さっきまで戦っていた山瀬ですけど‥‥‥」
ずーん、と表情を曇らせた康司が、背を向ける。
「藤代さん、拳も能力も使えない自分は、撤退します」
そして寂しそうに微笑むと、トボトボと戦場を後にした。
「忍ーっ! わたくしはここです!」
目の前の美麗が消え去ったことに動転していたのか、すっかりベンチの本人を失念していたらしい忍の表情が、ぱあ、と輝いた。
「お嬢様! ご無事で何よりです、って、その隣のちびっこは!?」
「今からティータイムなんだよ!」
「はあ?」
みるくちゃんの声に、盛大に『?』を浮かべる彼女。
「とりあえずそうなってしまいました。優雅にお茶をいたしますので、あなたも優雅に彼を叩きのめして差し上げなさい」
「は、はい!?」
そうは言われても、いまいち納得できない様子の忍であった。
「と、言うわけだ藤代!」
「いや、どういうわけですか?」
そんな事は自分が一番わかっている! とばかりに目を泳がせる忍だが、主人の命令は絶対なのだ。
「やかましい! いざ尋常に勝負だ!!」
すらり、と模造刀を抜き放つと、正眼に構えた。
「わかりましたよ、忍さん」
孝明もため息をつきつつ、身構える。
ふふふ、と互いに不敵な笑みが口もとに浮かぶ。
「参る!」
「行くぜ!」
ざん、とほぼ同時に地面を蹴った。
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