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51話 繋がる絆【現代編最終話】
ロンドンから西方へ向かう車の荷台に、ギルバートとウィリアムは座っていた。
漆黒の上下の服。
基盤となるのはカソックといわれる神父服だ。
ウィリアムの服の丈は短く、ボタンはないかわりに独特の形の留め具がついている。
ギルバートのカソックの丈は長く、やや古風である。
ボタンには何やら紋章が彫り込まれている。昔の名残りだとギルバートは言う。今となっては装飾に過ぎない紋章。
息を詰めていたユージーンは、ふうと息を吐きだし肩をぐるりと回した。
「緊張するな」
ギルバートに言われて、ユージーンは「してない」と答える。
だがギルバートの隣にいるウィリアムがくつくつと笑い出し、ユージーンは自分の緊張が隠しきれていないのだと知った。
ユージーンは自分の服の前を握る。2人と同じように漆黒の服だが、カソックとは程遠い。襟のついたジャケットに黒い細身のパンツは一見するとライダー服のようだ。
「しかしその法衣はどうなんだ?」
ギルバートがユージーンに言う。
「そんな時代錯誤の服、着れないだろ」
ユージーンが唇を尖らせながら言うと、ウィリアムが「今のマシューズは寛容だな」と肩を竦めた。
「それに、服の形なんかどうでもいいだろ?俺たちの仕事さえ完遂すれば問題ない」
ユージーンは胸を張り出してそう虚勢を張った。
だが二人を目の前に、そのポーズは長く続かない。なにせ二人はモノクルス全体にとって伝説のような存在なのだ。
「まぁ、、確かに少し緊張はしてる、けど、ヘマはしない」
ユージーンが素直にそう言うと、ギルバートは微笑んだ。
「緊張していると自覚するのは大事だが、度胸があるのは良い事だ」
するとウィリアムは
「お前のばあさんは、もっと図太かった」
と言った。
彼らは共に20代半ばに見える。
ウィリアムはもっと若く見える事も多い。
だがユージーンは知っている。
彼らの、見た目の年齢と実情が乖離していることを。
「俺のばあさんはどんな人だった?」
そう尋ねると「気の強い女だった」とギルバートが言い「けど、愛情深い女だった」とウィリアムが付け足した。
自分が幼い頃に亡くなった祖母のことを、ユージーンはあまり知らなかった。ユージーンシニア、一般企業のエンジニアだった自分の父も祖母の事を教えてくれなかったが、ユージーンは自分がモノクルスになってそれがどうしてかを理解した。
秘匿性の高い仕事だからだ。
そう、ユージーンの祖母であるルルもまた、モノクルスだった。
写真でしか記憶がない祖母。
その祖母と映っていた二人の写真は、今の二人と寸分違わぬ姿だった。
モノクルスは今もなお存在していた。
ディアバルは数を減らしつつも、しぶとく生き残っている。
討伐隊であるモノクルスは年々規模を拡大している。それでも、悪魔をすべて滅することは簡単ではない。
それにしても、一体いつからこの二人は存在するのか。
どこからも詳しく聞いた事はない。
気の遠くなるような昔だと、誰かが言っていた。
こうして目の前にいても、それは信じられないとユージーンは思う。
彼らは普通の人間にしか見えないのに。
車はやがて止まった。
ギルバートとウィリアムと共に、ユージーンも荷台から降りる。
「援護を頼む」
ギルバートの言葉にユージーンは頷いて、自身の武器であるクロスボウを肩に担いだ。祖母から引き継いだものだ。ユージーンは物の改造が得意で、より手に馴染むように改良してある。
風が吹いていた。
生臭い、生暖かい風が。
嫌な風だ。気持ちの悪い気配が充満する。
だがギルバートとウィリアムの二人が放つ圧倒的なものに、それはかき消されていく。
「行こう」
ギルバートが飛び、ウィリアムが続いた。
ユージーンは見つめた。
二つの風が夜空を切り裂く様を。
それはまるで、流星のように暗闇を駆けていった。
ユージーンは二人の後ろ姿をしばし茫然と眺め、やがて憧れをもって追いかけはじめた。
【番外編へつづく】
漆黒の上下の服。
基盤となるのはカソックといわれる神父服だ。
ウィリアムの服の丈は短く、ボタンはないかわりに独特の形の留め具がついている。
ギルバートのカソックの丈は長く、やや古風である。
ボタンには何やら紋章が彫り込まれている。昔の名残りだとギルバートは言う。今となっては装飾に過ぎない紋章。
息を詰めていたユージーンは、ふうと息を吐きだし肩をぐるりと回した。
「緊張するな」
ギルバートに言われて、ユージーンは「してない」と答える。
だがギルバートの隣にいるウィリアムがくつくつと笑い出し、ユージーンは自分の緊張が隠しきれていないのだと知った。
ユージーンは自分の服の前を握る。2人と同じように漆黒の服だが、カソックとは程遠い。襟のついたジャケットに黒い細身のパンツは一見するとライダー服のようだ。
「しかしその法衣はどうなんだ?」
ギルバートがユージーンに言う。
「そんな時代錯誤の服、着れないだろ」
ユージーンが唇を尖らせながら言うと、ウィリアムが「今のマシューズは寛容だな」と肩を竦めた。
「それに、服の形なんかどうでもいいだろ?俺たちの仕事さえ完遂すれば問題ない」
ユージーンは胸を張り出してそう虚勢を張った。
だが二人を目の前に、そのポーズは長く続かない。なにせ二人はモノクルス全体にとって伝説のような存在なのだ。
「まぁ、、確かに少し緊張はしてる、けど、ヘマはしない」
ユージーンが素直にそう言うと、ギルバートは微笑んだ。
「緊張していると自覚するのは大事だが、度胸があるのは良い事だ」
するとウィリアムは
「お前のばあさんは、もっと図太かった」
と言った。
彼らは共に20代半ばに見える。
ウィリアムはもっと若く見える事も多い。
だがユージーンは知っている。
彼らの、見た目の年齢と実情が乖離していることを。
「俺のばあさんはどんな人だった?」
そう尋ねると「気の強い女だった」とギルバートが言い「けど、愛情深い女だった」とウィリアムが付け足した。
自分が幼い頃に亡くなった祖母のことを、ユージーンはあまり知らなかった。ユージーンシニア、一般企業のエンジニアだった自分の父も祖母の事を教えてくれなかったが、ユージーンは自分がモノクルスになってそれがどうしてかを理解した。
秘匿性の高い仕事だからだ。
そう、ユージーンの祖母であるルルもまた、モノクルスだった。
写真でしか記憶がない祖母。
その祖母と映っていた二人の写真は、今の二人と寸分違わぬ姿だった。
モノクルスは今もなお存在していた。
ディアバルは数を減らしつつも、しぶとく生き残っている。
討伐隊であるモノクルスは年々規模を拡大している。それでも、悪魔をすべて滅することは簡単ではない。
それにしても、一体いつからこの二人は存在するのか。
どこからも詳しく聞いた事はない。
気の遠くなるような昔だと、誰かが言っていた。
こうして目の前にいても、それは信じられないとユージーンは思う。
彼らは普通の人間にしか見えないのに。
車はやがて止まった。
ギルバートとウィリアムと共に、ユージーンも荷台から降りる。
「援護を頼む」
ギルバートの言葉にユージーンは頷いて、自身の武器であるクロスボウを肩に担いだ。祖母から引き継いだものだ。ユージーンは物の改造が得意で、より手に馴染むように改良してある。
風が吹いていた。
生臭い、生暖かい風が。
嫌な風だ。気持ちの悪い気配が充満する。
だがギルバートとウィリアムの二人が放つ圧倒的なものに、それはかき消されていく。
「行こう」
ギルバートが飛び、ウィリアムが続いた。
ユージーンは見つめた。
二つの風が夜空を切り裂く様を。
それはまるで、流星のように暗闇を駆けていった。
ユージーンは二人の後ろ姿をしばし茫然と眺め、やがて憧れをもって追いかけはじめた。
【番外編へつづく】
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