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最終話 最期の願い
しおりを挟む制圧したレクイエス王国の城で、ジスランはルシエルの私室に入った。
王族とは思えないほど、彼の部屋は質素だった。
社交会で来ていた下品なほど華美な装飾がついたあの礼服と彼の私室を比べ、胸が痛くなる。
「あれは、道化を演じるためだったのだな……」
『僕は……!僕はレクイエス王国の王子だ!お前達に指図される謂れは無い!!』
あれは最期に漏れ出た彼の誇りだったのだろう。
ジスランは城門の前で男が渡した小さな鍵を使って、引き出しを開ける。
そこには一通の手紙が入っていた。
『この手紙を読んでいるのが、ジスランであることを祈る。』
手紙の書き出しにはそう書いてあった。
ジスランは震える手で続きを読んでいく。
『この手紙を読んでいるということは、クレスは君に鍵を渡してくれたということなのだろうね。』
『侵略をさせてしまって申し訳なかった。後世で君がどんな風に語られるか、考えただけでも胸が痛くなる。でも、民を救うにはこうするしかなかったんだ。』
『君も見てきただろう?この国の惨状を。民は飢え、明日をも知れぬ生活をしているのに、貴族は重税を課すだけでなく、民を売り贅沢三昧の日々を送っている。』
『王族の力は衰え、政に口を出す隙すらない。だから僕はこの国を終わらせて、相応しい者に民を託すことにしたんだ。』
『それが君だよ、ジスラン』
『自分本位なお願いだった、だけど心優しくて強い君ならきっとやり遂げてくれたと信じている。』
『最後に、愚鈍な王子のことなど忘れて幸せに生きてほしい。きっと相応しい相手がいるから。』
『さようなら、どうか元気で』
ジスランの涙が手紙に染みを作っていく。
「本当に愚かなのは……俺だ……」
ジスランは手紙を握りつぶさぬよう優しく抱きしめる。
微かにルシエルの香りがする。
「こんなに愛しいのに、触れることすらできない……」
――――――――――――
その後王国はアストレイア神聖王国と合併され、ルシエルの望み通り王国は滅んだ。
横領や人身売買を行っていた貴族は、全員斬首刑となり、ジスランは「処刑王子」として国内外から恐れられた。
レクイエス王国は後にレクイエス領となり、田畑の回復や建物の修繕、そして税の大部分を民に返還し、豊かさをゆっくりとではあるが取り戻していった。
共同墓地で眠っていたルシエルは、ジスランの指示の元、王城の庭園に墓石ごと移された。
ジスランは時間さえあればルシエルの元を訪れ、普段見せない朗らかな笑顔で墓石に語りかけていたという。
ジスランが王となった後は、妃を迎え入れず生涯独身を貫いた。
常に国家の健全化を目指し、一切の不正を許さなかった。
ジスランの死後、遺言に基づきルシエルと同じ墓石に埋葬された。
墓石にはこう刻まれている。
『賢王、愛しのルシエルと永遠に眠る』
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