封印されていたおじさん、500年後の世界で無双する

鶴井こう

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さっきから様子がおかしいと思っていたがこいつ……。

「やはりか」

信じられん。槍の方が耐えられなかったのか。完全に魔王の魔力を消失させるまでに。
そして俺が目覚めるより少し早く復活していたらしい。

「ふん、ばれちまったら仕方がない!」

少女は被っていたフードを勢いよく脱いだ。

「我が魔王ディアブロであるぞ! ひざまずけい!」

「……うーん」

俺は魔王を名乗る少女の姿を見た。

「……そんな小っちゃかったか? 声もなんか、軽い。威圧感も感じない」

「うるさい! 著しく魔力を失ったせいだ!」

ちんちくりんがイキっているようにしか見えん。本当にこいつが魔王なのか疑わしくなってくる。

「なんか角もないな」

「おいやめろ!」

俺は少女の頭をつかむ。いや、あった。ものすごく小さいが、角があった。しかし赤い髪に隠れて見えない。

俺が取り押さえたときは俺より大柄だったように思ったが……魔族って弱体化すると縮むのか。知らなんだ。

「無礼者が! 今すぐ殺してくれようぞ!」

「……500年前の続きでもするか?」

弱っているのなら、封印しなくとも俺の精霊剣で魔力を削り切れるかもしれん。

魔王が構え、俺も同じように構えたが、すぐに自分の中の異変に気づき、構えを解いた。

「待て魔王」

「なんだ!」

「まずは現状の把握から入ろうではないか」

精霊剣が――出てこない。

精霊剣とは精霊と契約し、特殊な剣を召喚できるようになる能力だ。その剣を使う者が《精霊剣使い》である。

俺の右腕には、現在四つの契約の紋章が刻まれている。

紋章はまだ残っているから、契約は有効だ。切り札である『精霊王の剣』を召喚できる五つ目の紋章は崩れて消えてしまったが、あと四振りの精霊剣はまだ残っている。

……長年の封印でさすがに力が衰えたか。精霊剣を召喚できるまでには、俺が回復していないらしい。
このような状態で魔王と戦うのはまずい。いくら魔王も魔力を消耗しているとはいえ、俺の今の状態で完全に殺せるかは謎だ。

「……把握だと? どうするのだ?」

「まずは現代人の言葉がわからねば何もできん。お前も困るはずだ。そうだろう?」

俺は道具屋を探して、とあるアイテムを手に入れる。

《言語疎通のマナ・クォーツ》である。
マナ・クォーツは魔法を宿せる水晶で、俺の生きた時代では主流の魔法アイテムだった。身につけているだけで効果が及ぶものである。

今もあってよかったが、少し形式が変わっている。
祠にあったお供えものの銭で、どうにかぎりぎり買えた。
ただし、グレードの一番低いものしか買えなかった。方言を矯正してくれるくらいの効果しかない。

「ありがとうございました~」

まあ多少マナ・クォーツの形式が変わってはいるが、使える。「ありさっさっしたー!」と聞こえていたのが、俺たちのわかる言語に認識してくれていた。逆も可能なはずで、こちらから喋ってもちゃんと相手に伝わるはずである。文字を読むときも同様だ。

「我のぶんは?」

魔王が見上げて聞いてきたので、俺は首を振った。

「ない」

「おい」

「一人分しか買えなかった」

「だったらその金でメシ食ったほうがよかったろうが! 我ははらへりぞ!」

「んなこといわれても、言葉が通じねば何もできまいよ」

「ふざけおってからに……ふざけ、おってからに!」

魔王は泣いていた。そこまではらへりだったのか。

「で? それを買ってどうするのだアホ剣士!?」

「まずは金を稼ぐしかなかろう。お前の言う通り、腹ごしらえには金がいる」

どうしたもんかと考えたとき、思い至る。

じつはこいつも、俺を殺し切るだけの魔力がまだないのではないだろうか。

山を歩いているとき、こいつは石の塊で俺を殴ろうとした。殴って殺そうとしたのだ。本来の魔王の力なら魔法を使えば事足りるにもかかわらず、である。本来なら《魔弾》一発で俺はあの世行きだ。

《封印の聖槍》は、魔王を消滅させるには至らなかったが、魔王の力を著しく削ぐことには成功している。それこそ、少女の力ほどしか出せないほどに。

そして回復には時間がかかる。
つまり、俺と同じく、魔王もまだ力が戻らないのだとしたら……?

俺が魔王を見ると、魔王も同じ表情で俺を見た。

魔王も俺と同じ結論に思い至ったらしい。

だが、お互い『力が戻っていない』などとは言えない。敵に弱みを晒すことになるからだ。手の内を晒すことなく、相手の力が戻る妨害をしながら、自分は力を戻していかねばならない。

「おお、魔王よ。ここは提案なんだが」

だから俺は、こう切り出した。

「なんだ? 我も思うところがあるぞ」

「こんな知らない世界で、お互い心細かろう。ならばお互い助け合って生きていかないか?」

「うむ、それはいい提案だな。我も同じことを思っていた。よきにはからえ」

寝首をかくには、相手にはあくまでニコニコしながらも、背中には常に刃物を隠し持っているような立ち回りが求められよう。
しかしそれはお互い、言うことではない。

俺たちは同じことを思ったはずだ。

――早く力を取り戻さねば。この宿敵が、力を取り戻す前に!

だがそれでいい。これはもう一つの、誰にも知られずに行われる、俺と魔王の戦争なのだから。
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