封印されていたおじさん、500年後の世界で無双する

鶴井こう

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1 最終決戦

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「せっかくここまでたどりつけたのに……」

「強すぎる。どれだけの魔力をため込んでいるんだ!?」

目の前には、俺たちの倒すべき対象――魔王ディアブロがいる。魔法や聖剣で傷をつけたはずが、たちどころに治癒し、逆に魔法の反撃を食らってしまった。

ただの《魔弾》だけで、苦戦を強いられるほどの威力。

「よく我が牙城にまでたどり着けたな。――だが」

魔王ディアブロは強大だった。魔獣の頭骨で作った兜をかぶり、黒いローブを羽織り、赤く長い髪をなびかせる様は、異様な威圧感を空間全体にはらませていた。

「貴様らはここで終りよ!」

どれほど強くても、魔王を倒す。
俺たちはそのために来たのだ。

魔王を倒す方法――魔王はただ攻撃をするだけでは倒せない。魔力のない通常の武器では傷一つつけられない。魔法などで攻撃しても、無尽蔵ともいえる魔力をその体内に宿しており、ダメージを与えてもすぐにその魔力で再生してしまう。

しかしその身に宿す魔力をすべて消失させれば魔王も消滅する。
魔力は肉体の維持にも費やされるため、供給していかなければ徐々に失われていく。

だから魔王そのものを封印し、長い年月をかけ魔王の中の魔力を失わせることで、魔王を消滅させる。それを可能にするのが《封印の聖槍》と呼ばれる、聖女が生み出した特殊な槍だ。魔王に《封印の聖槍》を突き立て、その身を封印する。一撃でも突き立てられれば、封印は完遂する。
それが、俺たちに課された使命だった。

「いくら攻撃しても無駄よ。この魔王ディアブロは倒せん」

勇者ラザレス・イースデイルが《封印の聖槍》を手に立ち上がった。

「敵わなくとも、槍さえ魔王に突き立てられれば勝てるのに!」

「これだけ隙がないのではな……」

魔法使いのロイ・グロースターも苦い顔をする。

「皆さん、頑張って下さい。こんなことしかできませんが……!」

聖女のネル・アッシュモアが魔法で傷ついた勇者たちを回復させる。

「俺が切り開く」

俺が前に出た。

「俺が魔王と戦い隙を作るから、その間にやってくれ」

「ゼノン、だめだ!」

さすが勇者ラザレス、勘がいい。
俺のやろうとすることがわかっていて、止めようとした。

けどな。

「俺がやるさ。やらせてもらう」

「やめろ!」

右腕の紋章が光り、精霊剣を召喚する。

「――《精霊剣使い》ゼノン・ウェンライト。五つの精霊剣を操る剣士か」

「知っているなら話が早いな魔王よ」

《第一精霊剣・ブーステッド》。

俺の右腕に刻まれている第一の紋章が光る。
身体機能を極限まで上げて、駆け抜け、魔王に肉迫する。

「おおおおっ!」

「たかが剣士風情が!」

魔法障壁を貼る魔王。かまわない。速度と力に任せた一閃で、障壁を破る。

だが破った衝撃か、俺の右腕に痛みが走る。
骨にヒビの一つでも入ったか。

「くっ!」

それでも、精霊剣を叩きこむ。

連撃。
矢継ぎ早に振るわれる刃は、魔王の体を傷つけるも、傷つけたそばから治癒していく。

「ちいっ!」

すかさず、腕に刻まれている五つ目の紋章が光り、新たな剣を召喚。

《第五精霊剣・精霊王の剣スピリットロード》。

実体と非実体が混ざり合った、『あらゆるもの』を切る剣だ。精霊王から賜った、五つ目の、最後の精霊剣。
それを左手で持ち、ブーステッドで強化した体で魔王に突き立てる。

――が、しかし。

「ふん、甘いわ!」

魔王の放った《魔弾》が、俺の体を貫いた。

腹に穴が空いたのがわかった。

「ぐっ、まだだあああ!」

俺はそのまま、踏み出して魔王を押さえつける。

「今だラザレス!」

「ゼノン!?」

まだ《ブーステッド》の強化は効いている。魔王を押さえつけられている。しかし、いつまで押さえつけておけるかはわからない。

「俺のことはいい! 一緒に貫け!」

「しかし……!」

「早くしろ! 魔王を押さえつけている今のうちに、俺ごとやれ!」

俺ごと《封印の聖槍》で封印しろ、とラザレスに言った。
ラザレスはまだ逡巡していた。

「だが、お前だけ犠牲になんて……!」

「ああ。だから、お前らにも背負ってもらうぞ。事後処理の面倒くさい仕事とかをな」

《封印の聖槍》がまばゆい光を放って、実体がなくなる。光の槍となったそれを構え――

「う、うああああっ!」

ラザレスは俺ごと魔王の体を貫いた。

「なっ」

「――っ!」

「なんだとおおおおっ!?」

魔王の表情は被り物のせいで見えないが、しかし声が上ずっている。相当狼狽しているに違いない。女のようなずいぶん高い声だ。ざまあない。

ラザレスは肉体ごと俺たちの魂が槍に封印されていくのを見ながら膝をつき、涙を流した。

《封印の聖槍》の光が収まってきて、槍という実体を取り戻していく。同時に、俺と魔王も光の粒子となって消えつつあった。

「すまない……! 本当にすまない……!」

いいんだ……。これで世界が平和になるのなら。
喜んで犠牲になる覚悟はできている。

俺たちはそういう旅をしてきて、そういう思いのもとに結束した仲間だったじゃないか。
誰かが犠牲になってでも魔王を止める。誰が言わなくても、みんなそれはわかっていたはずだ。

どうせ腹に穴が開いている。半死人のようなものだ。犠牲になろうとそのままだろうと、いずれ死ぬのには変わらん。

その後の平和な世界と、ラザレスとネルが幸せになるのを見届けられないのは、少し心残りではあるか。

しかしいい気分だ。
こんな気分で逝けるのなら悪くない――そう考えたのを皮切りに、俺の意識は途絶えた。
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