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58 フード太郎とチート野郎
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フード太郎改め謎の人物が俺たちの前に姿を現す。
ややつり目がちで、淡い青色の髪は長く腰に届きそうなくらいであった。男なのか女なのかわからない中性的な顔立ちの人物である。黒いコートを身に着け、側頭部に狐面をつけいた。
「嘘!?」
幽霊になっているりんが驚きの声を上げる。
「クランランキング一位『ハイパーノヴァ』のクランリーダー、ルーン・キャロル!?」
現時点で最強の名を冠するクランのリーダー――それがフード太郎の正体であった。
「やー、バレちゃったね、やっぱり。キャロルでいいよ」
謎の人物改めキャロルは、おどけた調子で頭をかいた。
「あわわわ……ボク、雲の上の人とダンスバトルしちゃったの」
りんが出会った時のことを思い出して声を震わせた。
ランク一位のクランリーダーと初対面でダンスバトルしたのはたぶんお前が初めてだと思うぞ。
「有名クランが集まっている目的は、不正行為――チートの摘発か」
俺が言うと、キャロルは不敵に笑った。正解らしい。
「ホノホムラが初心者に注意喚起していたのはそのためだな」
本来なら、PKなどの悪質なプレイをする冒険者は、賞金稼ぎに狩られることでゲーム内は平和に保たれる。
どころかシステムに組み込まれている以上、無遠慮に他プレイヤーを襲う盗賊としてのプレイスタイルが公式に認められている。盗賊プレイは悪質ではない。もちろん賞金稼ぎもだ。
だが最近、狩って狩られての均衡が崩れてきているのだ。正確には、盗賊側の勢力が賞金稼ぎ側を上回ってきているのだろう。
その原因は、不正行為――チートの横行だ。
「きみの思っている通り、ここ最近不正行為が後を絶たなくてね。とくにレベル30になったばかりの初心者狩りが多く見受けられる。運営も現状把握を優先していて、重い腰を上げようとしないんだ。それでランク上位のクランたちが、チートの撲滅を目指して団結したわけよ。つまり、ランカーの強さでチート野郎をねじ伏せちゃおうってこと」
キャロルは通常通りの軽薄そうな口調で話した。
「そう簡単に」
槍を持ったチート使いの男は、
「倒せるわきゃねえだろ!」
キャロルへ急接近して槍を振るった。
ぎいん、と剣戟が響く。
「!」
キャロルは、左手に逆手に持った溝付きの短剣で男の槍を防いでいた。
右手には緑色の装飾がきれいな、細身のショートソードを構えている。
「ほう、双剣か?」
「そうじゃないのだ。あれは……」
パヴロヴァが言いかけて、俺も合点がいった。
「そうか、あれはソードブレイカー――峰に入ったいくつもの溝で剣を受け止める盾のような役割を持つあれは、種類としてはシールドソードの分類か」
「なのだ。でもキャロルが自らこんな場所まで来るなんて、どんな事情なのだ? おじさんずっとアサギ村周辺にいたからわからなかったのだ」
男は槍を引き戻して、突きを放つ。
それをソードブレイカーで防ぎながら、キャロルは笑った。
「簡単に言うと、チート潰すためにランカーで手を組んだわけよ。私もゲームを愛する者として、不正行為は許しがたいからね。その気持ちはみんな同じなわけ。だからバトルランキングの制覇では手を取り合えなくても、不正撲滅では手を組めるの」
相手を倒すのは正々堂々と、というわけだろう。
「公に言わないのは、不正行為者を警戒させないためか?」
「そうだね。今はグランニット王国地域が狙われているけれど、狩場をほかに移されても困るから。まあ勘づいているのはいそうだけど……りんちゃんみたいに注意深く町を見ていれば気づくことはあるでしょ」
そしてバレたらバレたらで、抑止力になるだろうからいいという考えだろう。
しかし抑止力として存在するだけなら、チートを撲滅するまではできない。
「だがキャロルよ」
俺は言った。
「不正行為者は――」
「そう、ぶっ潰さなきゃすっきりしないでしょ。完膚なきまでにさ」
フード太郎は微笑しながら鋭い口調で答えた。
ややつり目がちで、淡い青色の髪は長く腰に届きそうなくらいであった。男なのか女なのかわからない中性的な顔立ちの人物である。黒いコートを身に着け、側頭部に狐面をつけいた。
「嘘!?」
幽霊になっているりんが驚きの声を上げる。
「クランランキング一位『ハイパーノヴァ』のクランリーダー、ルーン・キャロル!?」
現時点で最強の名を冠するクランのリーダー――それがフード太郎の正体であった。
「やー、バレちゃったね、やっぱり。キャロルでいいよ」
謎の人物改めキャロルは、おどけた調子で頭をかいた。
「あわわわ……ボク、雲の上の人とダンスバトルしちゃったの」
りんが出会った時のことを思い出して声を震わせた。
ランク一位のクランリーダーと初対面でダンスバトルしたのはたぶんお前が初めてだと思うぞ。
「有名クランが集まっている目的は、不正行為――チートの摘発か」
俺が言うと、キャロルは不敵に笑った。正解らしい。
「ホノホムラが初心者に注意喚起していたのはそのためだな」
本来なら、PKなどの悪質なプレイをする冒険者は、賞金稼ぎに狩られることでゲーム内は平和に保たれる。
どころかシステムに組み込まれている以上、無遠慮に他プレイヤーを襲う盗賊としてのプレイスタイルが公式に認められている。盗賊プレイは悪質ではない。もちろん賞金稼ぎもだ。
だが最近、狩って狩られての均衡が崩れてきているのだ。正確には、盗賊側の勢力が賞金稼ぎ側を上回ってきているのだろう。
その原因は、不正行為――チートの横行だ。
「きみの思っている通り、ここ最近不正行為が後を絶たなくてね。とくにレベル30になったばかりの初心者狩りが多く見受けられる。運営も現状把握を優先していて、重い腰を上げようとしないんだ。それでランク上位のクランたちが、チートの撲滅を目指して団結したわけよ。つまり、ランカーの強さでチート野郎をねじ伏せちゃおうってこと」
キャロルは通常通りの軽薄そうな口調で話した。
「そう簡単に」
槍を持ったチート使いの男は、
「倒せるわきゃねえだろ!」
キャロルへ急接近して槍を振るった。
ぎいん、と剣戟が響く。
「!」
キャロルは、左手に逆手に持った溝付きの短剣で男の槍を防いでいた。
右手には緑色の装飾がきれいな、細身のショートソードを構えている。
「ほう、双剣か?」
「そうじゃないのだ。あれは……」
パヴロヴァが言いかけて、俺も合点がいった。
「そうか、あれはソードブレイカー――峰に入ったいくつもの溝で剣を受け止める盾のような役割を持つあれは、種類としてはシールドソードの分類か」
「なのだ。でもキャロルが自らこんな場所まで来るなんて、どんな事情なのだ? おじさんずっとアサギ村周辺にいたからわからなかったのだ」
男は槍を引き戻して、突きを放つ。
それをソードブレイカーで防ぎながら、キャロルは笑った。
「簡単に言うと、チート潰すためにランカーで手を組んだわけよ。私もゲームを愛する者として、不正行為は許しがたいからね。その気持ちはみんな同じなわけ。だからバトルランキングの制覇では手を取り合えなくても、不正撲滅では手を組めるの」
相手を倒すのは正々堂々と、というわけだろう。
「公に言わないのは、不正行為者を警戒させないためか?」
「そうだね。今はグランニット王国地域が狙われているけれど、狩場をほかに移されても困るから。まあ勘づいているのはいそうだけど……りんちゃんみたいに注意深く町を見ていれば気づくことはあるでしょ」
そしてバレたらバレたらで、抑止力になるだろうからいいという考えだろう。
しかし抑止力として存在するだけなら、チートを撲滅するまではできない。
「だがキャロルよ」
俺は言った。
「不正行為者は――」
「そう、ぶっ潰さなきゃすっきりしないでしょ。完膚なきまでにさ」
フード太郎は微笑しながら鋭い口調で答えた。
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