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179 接近戦の間合い
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一瞬で、リンゴが再生した。
――ように見えた。
はじめにそう思ったが、確認したらヘタの部分はもう片方の手にあった。食べたリンゴの方も残っているから、元に戻ったわけではないようだ。
とすると、何らかの魔法で同じものを増やしたか?
でも魔法陣は見えなかった。俺が見逃した可能性もあるけど……
「うーん……」
立ち止まって首をひねる俺を見て、アールカも同じように首を傾けた。
本人もわかっていないのだろうか?
「おいそこの!」
この現象についてどう聞いていいだろうかと思案していると、目の前に一人の少女が現れた。
「!」
少し癖のある金髪をボブカットにした釣り目がちの少女だった。腕に魔法石付きの籠手をはめている。魔法道具かな。だとしたら見たことがない魔法道具だ。
とっさに俺はアールカをかばうように少女に向き直った。
「さっきラズリーズの魔法工房から出てきたな?」
「……何を言ってるかわからないな。人違いじゃないか?」
少女は、明らかに敵対する意思があった。アールカを狙っている敵か。少女は魔法石付きの籠手を前に出すような構え方だ。武器はあの籠手だけだろうか。
「アールカ、俺から離れないでね」
「う、うん……」
後ろから俺の服をつかむ感触がする。不安そうな声が背中をなでた。
「おとなしくその少女を渡してもらおうか」
少女は言った。
「人さらいか。さっそくこの紋章の助けを借りる時が来たな……」
たしか逮捕権ももらえているはずだ。拘束して城塞伯軍の兵に引き渡そう。
「もう接近戦の間合いに入っているのに、余裕そうね!」
少女は突進するように距離を詰めてくる。
「そうか、この距離、本来魔法使いが戦うような間合いじゃないんだ……」
つぶやいて、俺は無詠唱で魔法陣を展開する。
俺だって、この一年でさらに修練を詰んでいる。具体的には、ザイン・ジオールという、百歳を過ぎた魔法使いのくせにすさまじい筋肉を蓄えた老翁に頼んで、定期的に手合わせしてもらっていた。俺は敬意をこめて老師と呼んでいる。
正直ザイン老師の間合いは近接戦闘寄りだ。
ウィンターと戦ったときも結局接近戦だったし、俺はもはや剣士と同じか、もっと近いような間合いの方が正直なれてしまった感がある。
剣士の後ろで魔法を撃っているより剣士と並んで敵と対峙している方が性に合っているのかもしれない。
だから、この間合いは俺の最も得意とする距離だ。
少女が右腕を振りかぶった。籠手の魔法石が光り輝いている。
だが、遅い。老師の《エア・ブレード》による斬撃に比べたら、子どもの遊びのようなものだ。
俺はアールカを守りながら、少女の振り下ろされる拳を半身をそらすことでかわす。
勢い余った拳は少女の体を持ち上げながら地面にたたきつけられる。
「!」
衝撃が走り、地面が拳の形に砕けてひび割れた。
「強化系の魔法道具か!?」
俺のポーションと同じ、術者の身体を強化する魔法なのかもしれない。
「まだまだ!」
ボブカットの少女は、追撃でさらに拳を振り上げる。
だが、少女はまだ魔法道具に慣れていないのだろうか、振るう拳に振り回されているように見える。
俺は少女が腕を振り下ろすタイミングに合わせて、俺の固有魔法である《炎の杭》を一本召喚して飛ばした。
「なっ!?」
炎の杭は少女の籠手についている魔法石を貫いて破壊する。
「詠唱する時間も魔法石を取り出す時間もなかったはずなのに!」
少女が目を見張っている間に、さらに二本の杭が籠手の装甲を貫いて砕いた。
「くっ!?」
少女が籠手を破壊された拍子にひるんだ。
瞬間、疾風のようなものが通り抜けた。
「!」
後ろで服をつかんでいた感覚が消え、とっさに後ろを向いた。
「しまっ!?」
両足に魔法石のついた脛当てを装着した少女が、アールカを抱えて走り抜けていた。
「はじめから二人組だったか!」
脛当てをつけているのは、長い茶色い髪をリボンで縛っている少女だった。
初めに出てきた籠手の少女はおとりだった。
あからさまな敵意を持った人物が前にいるなら、誰だってアールカを守るように位置取るだろう。そこを見透かされ、後から出てきた少女にアールカを掻っ攫われた。
しかも、速い。一直線だが、商店街からみるみるうちに離れていく。
籠手を破壊され尻餅をついていたボブカットの少女は、
「よしっ、『強化鎧装』が破壊されたのは想定外だったけど、あれにはもう追いつけない……!」
つぶやいて満足げに微笑した。
「確かに速い」
俺は『収納の魔法石』からポーション――統合強化ポーション『マリオン』を取り出して飲み干した。
「でもあれくらいなら――追いつける」
――ように見えた。
はじめにそう思ったが、確認したらヘタの部分はもう片方の手にあった。食べたリンゴの方も残っているから、元に戻ったわけではないようだ。
とすると、何らかの魔法で同じものを増やしたか?
でも魔法陣は見えなかった。俺が見逃した可能性もあるけど……
「うーん……」
立ち止まって首をひねる俺を見て、アールカも同じように首を傾けた。
本人もわかっていないのだろうか?
「おいそこの!」
この現象についてどう聞いていいだろうかと思案していると、目の前に一人の少女が現れた。
「!」
少し癖のある金髪をボブカットにした釣り目がちの少女だった。腕に魔法石付きの籠手をはめている。魔法道具かな。だとしたら見たことがない魔法道具だ。
とっさに俺はアールカをかばうように少女に向き直った。
「さっきラズリーズの魔法工房から出てきたな?」
「……何を言ってるかわからないな。人違いじゃないか?」
少女は、明らかに敵対する意思があった。アールカを狙っている敵か。少女は魔法石付きの籠手を前に出すような構え方だ。武器はあの籠手だけだろうか。
「アールカ、俺から離れないでね」
「う、うん……」
後ろから俺の服をつかむ感触がする。不安そうな声が背中をなでた。
「おとなしくその少女を渡してもらおうか」
少女は言った。
「人さらいか。さっそくこの紋章の助けを借りる時が来たな……」
たしか逮捕権ももらえているはずだ。拘束して城塞伯軍の兵に引き渡そう。
「もう接近戦の間合いに入っているのに、余裕そうね!」
少女は突進するように距離を詰めてくる。
「そうか、この距離、本来魔法使いが戦うような間合いじゃないんだ……」
つぶやいて、俺は無詠唱で魔法陣を展開する。
俺だって、この一年でさらに修練を詰んでいる。具体的には、ザイン・ジオールという、百歳を過ぎた魔法使いのくせにすさまじい筋肉を蓄えた老翁に頼んで、定期的に手合わせしてもらっていた。俺は敬意をこめて老師と呼んでいる。
正直ザイン老師の間合いは近接戦闘寄りだ。
ウィンターと戦ったときも結局接近戦だったし、俺はもはや剣士と同じか、もっと近いような間合いの方が正直なれてしまった感がある。
剣士の後ろで魔法を撃っているより剣士と並んで敵と対峙している方が性に合っているのかもしれない。
だから、この間合いは俺の最も得意とする距離だ。
少女が右腕を振りかぶった。籠手の魔法石が光り輝いている。
だが、遅い。老師の《エア・ブレード》による斬撃に比べたら、子どもの遊びのようなものだ。
俺はアールカを守りながら、少女の振り下ろされる拳を半身をそらすことでかわす。
勢い余った拳は少女の体を持ち上げながら地面にたたきつけられる。
「!」
衝撃が走り、地面が拳の形に砕けてひび割れた。
「強化系の魔法道具か!?」
俺のポーションと同じ、術者の身体を強化する魔法なのかもしれない。
「まだまだ!」
ボブカットの少女は、追撃でさらに拳を振り上げる。
だが、少女はまだ魔法道具に慣れていないのだろうか、振るう拳に振り回されているように見える。
俺は少女が腕を振り下ろすタイミングに合わせて、俺の固有魔法である《炎の杭》を一本召喚して飛ばした。
「なっ!?」
炎の杭は少女の籠手についている魔法石を貫いて破壊する。
「詠唱する時間も魔法石を取り出す時間もなかったはずなのに!」
少女が目を見張っている間に、さらに二本の杭が籠手の装甲を貫いて砕いた。
「くっ!?」
少女が籠手を破壊された拍子にひるんだ。
瞬間、疾風のようなものが通り抜けた。
「!」
後ろで服をつかんでいた感覚が消え、とっさに後ろを向いた。
「しまっ!?」
両足に魔法石のついた脛当てを装着した少女が、アールカを抱えて走り抜けていた。
「はじめから二人組だったか!」
脛当てをつけているのは、長い茶色い髪をリボンで縛っている少女だった。
初めに出てきた籠手の少女はおとりだった。
あからさまな敵意を持った人物が前にいるなら、誰だってアールカを守るように位置取るだろう。そこを見透かされ、後から出てきた少女にアールカを掻っ攫われた。
しかも、速い。一直線だが、商店街からみるみるうちに離れていく。
籠手を破壊され尻餅をついていたボブカットの少女は、
「よしっ、『強化鎧装』が破壊されたのは想定外だったけど、あれにはもう追いつけない……!」
つぶやいて満足げに微笑した。
「確かに速い」
俺は『収納の魔法石』からポーション――統合強化ポーション『マリオン』を取り出して飲み干した。
「でもあれくらいなら――追いつける」
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