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第二章

魔女と狼、世界を壊す

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 ミシャの治癒魔法により回復した二人だったが、其々胸に思う事があるようだ。

(自分で壊して自分で治す……俺たちゃオモチャか?)
(久しぶりにしばかれたなーわし。 ちょっと逝きそうだったわい)


 ―――は自業自得なので捨て置き、話を聞けばアンジェは半年程前に森で迷っている所を村人が保護し、それ以来一人暮らしのラケシスと暮らしているらしい。
 誰と森に来たのか、家族はどうしているのか尋ねても「わかんなーい」の一点張り。 だがその愛らしさを気に入ったラケシスが「俺んとこ来ないか」、というふざけた誘い文句で引き取るに至った。

「村の案内はこのアンジェが致しますので、どうか命だけは……じゃなくて、ご安心くだされ」

「はーい! アンジェにおまかせっ♪」


(( 大丈夫かいな…… ))


 ミシャとノエルは不安しかない顔をしているが、とりあえずここは呑み込む事にした。

「おおそうじゃ、失礼したお詫びに、若き冒険者のお二人に面白い物をお見せしましょうじゃ」

「じじい、 “じゃ” の使い方おかしくねーか? そのキャラも作ってんならおめぇの本当はどこにあんだよ」
「こちらに取り出したる水晶なんですが」
「おい」

 ラケシスが取り出したのは、直径30センチ程の丸い透明な水晶。

「これが、なんなの?」

 白いローブに付いた返り血を拭きながらミシャが訊くと、

「この水晶は、いわゆる相性占いが出来ますのじゃ」
「なんだそれ、つまんねー」

 期待外れの水晶に興味を失うノエル。
 ラケシスは構わず続ける。

「うっさいボケ「あ?」この水晶はですな、『世界』を表していると言われておりましてな、二人の男女が手を置くと、この世界でその二人がどれ程良い相性なのか、水晶が教えてくれますのじゃ」

「へ、へぇ……本当かしら、ねぇノエル」
「あ? こんなイカレじじいの言う事てきとーに決まってんだろ?」

「ほっほっほ、確かにわしはクレイジー、そしてスパイシーなじじいじゃが、この水晶は村の結婚前の男女は必ず試す程の信頼度じゃよ」

「そ、そうなんだ」

 ノエルとは違い、明らかにミシャは興味を持っている様子。 元々占いだろうが何だろうが縋り付いてしまう彼女が、つい数時間前までノエルとの将来を話していたのだ、その食い付きはちょっと引く程の表情をしている。

「試しにやってみましょうよっ」

「えー、やだよめんどく―――」

 その時、嫌がっていたノエルの脳裏に浮かんだのは……


( ……まてよ? この女はこういう下らないものを信じる性質がありそうだ。 それなら、既に逃げ道ゼロの俺からしてみれば相性の結果が良ければ “あっそ” 、悪けりゃ “俺達、他に相手いるんじゃねぇか” ……ってな具合で活路が見えるかも知れねぇ! )


「長老」
「は?」

 言われ慣れない呼ばれ方に呆けた顔をするラケシス。 呼ばれたいんじゃなかったのか。

「俺達の未来……みてくれよ」

 急に水晶の価値を上げる彼の職業は冒険者逃亡者。 急に乗り気になったノエルにラケシスは訝しげな表情をしているが、

「それではまず、ノエルさんが水晶に手を置いてくだされ」
「ああ、この偉大な水晶を信じるぜ」
「どしたん自分」
「いいから進めろ」

 相方がおかしくなったと勘ぐるボケ担当だったが、突っ込み担当は邪魔するなじじいと言った塩対応だ。

「わ、私はどうしたらいいの?」

 乙女モードのミシャは、顔を赤らめてアクアマリンの瞳を輝かせている。 ……が、ローブにはまだ二人の返り血が残っている。

「ノエルさんの手の上にミシャさんの手を添えるだけ、すると水晶に色が付き、その相性が良い程濃い桃色に染まるのですじゃ」

「へぇ……なんだか、素敵ね……」

 うっとりと蕩けた目をするミシャ。 床にはまだ血飛沫が……もういいか。


「さぁミシャ。 手を添えてくれ」

 ノエルの薄汚れた琥珀色の目がミシャを見つめる。

「う、うん」

 そして、恐る恐る魔女の血塗られた手がノエルと重なり、二人の運命が水晶に映し出される……


「さぁ、始まりますぞぉ!」

「あ、色が……」

 ミシャが呟き、ノエルは……


( 真っ黒になっちまえ……っ!! )


 と心中で叫ぶ。


 二人の未来は、果たしてどんな色に染まるのか――――




「「――は?」」


「なっ! なぁぁっ!?」




 ミシャとノエルが、そしてラケシスが驚愕したその結果とは!?




「……おい、じじい」
「………ちす」




「これは………どういう結果だ?」
「これは………っすねぇ……」




 二人の手は今―――


 それはどういう事かと言うと、二人の手が重なり水晶が色付き出した時、切り裂くようなひび割れる音が聞こえ、突然水晶は粉々に砕けてしまったのだ……。



「この水晶、『世界』……なんだよな?」

「えっ……うん」




「壊れたぞ………『世界』」



「ね」



 ぼそぼそと話し合うノエル&ラケシス。

 ミシャは俯き、垂れ下がった金髪が顔を隠している。

 こんな事があるのか、さすがに乙女はショックを受けているのだろう。 


 だが、まさに今が絶好の好機と牙を見せる男がいた。



「ミシャ………どうやら俺達が一緒になると……世界が――」


 自分達は不吉過ぎる、そうノエルが言いかけた時、


「―――うんっ! ノエル、やっぱり私達が世界を作り直すんだねっ!!」


「は?」


 ハニワのような顔になった狼。
 あまりに予想外な満面の笑みに、彼は今理解不能になっている様子。


「これで確信した、世界は一度壊す必要がある」
「ち、違くない? 壊さなくても……」
「破壊と創造………ってやつね!!」


 危険な決心を固める “続・痛い女” 。


 そしてノエルは、いや世界は絶望の色に染められる。





「お前――――壊し専門だろ………」




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