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しおりを挟む大広間を後にする来客達、リオネルは一つため息を吐き、
「まあしかし、ロベルトさんから手紙をもらった時は驚いたが、何とか上手くいったな」
「ええ、でも」
リオネルには本当に悪い事をした。 始まりはステラリアを誘い出し、わたし達が喧嘩別れしたと思わせる所から。 リオネルの妹への気持ちは本物で、婚約は罠ではないと欺く為に。
「……ごめんなさい」
余興を提案したり、プレゼントまで用意するのはさすがに能天気なステラリアでも違和感を感じるかもしれない。
絶対に失敗したくなかった。 ノームホルン家との縁を切り、大勢の前で真実を伝えリオネルの元へ。 でもそのせいでアインツマン様が、もちろんコリーン様もリオネルに失望して胸を痛めただろう。
「わたしのせいで……」
「痛かったなあ、あの平手打ち」
「ほっ、ホントにごめ――」
巻き込んだ罪悪感が弾けたわたしを、
「誰にも言わず、ずっと我慢してたんだな。 私なんかより、君の方が長い間辛かっただろう」
そう言って、抱きしめてくれた。
ステラリアとの婚約を受けて欲しい、そんな事、本当は言いたくなかった。
「……うん」
全てが報われ、許されたと涙が浮かびかけた時、帰って行く来客と逆に大広間へ入ってくる男が目に映る。
「――こっ、これは……!」
男は、石化したステラリアを見て目を見開く。
「なんてことだ、その女がやったんだな……」
「起きたのかロイド。 夜会はもう終わりだぞ、私達ももう引き上げるところだ」
「だ、だから言っただろうリオネル! その女は危険なんだ! このステラリア様の変わり果てた姿を見てわからないのか!?」
わたしを悪魔と言ったリオネルの友人は、どうしてその女の傍に居られると、悪意のある指をわたしに突きつける。
何も知らないくせに、と思う反面、彼の言う事も……
「顔を上げろ、ダリア」
「え」
思い悩む私の顔を上げた、彼の横顔は凛々しく迷いが無かった。
「ロイド、お前の言うようにダリアの力は危険だ」
「だったら――」
「だが私はこう思う、神は資格無き者に加護を授けるだろうか。 ステラリアはその資格を持たずに加護の力を振るい、そして石になった」
歪んだ石像に向けたリオネルの視線は、どこか哀しみを帯びている。
「私は選ばれたダリアを信じる。 そして、神どころか悪魔の力にもなりうるこの加護を、これから夫婦となる二人で真剣に向き合っていくつもりだ」
……そうね、これからは、二人で。
「扱いを誤ったその時は、一緒に地獄へ堕ちてやる」
「ダラビット家にそんな人間はいないわ」
「だから気が早いな」
友人は納得いかない様子だけど、わたし達に不安は無い。 そして、来客達が全て出払った頃―――
「いい加減にしろッ! 最もらしい言葉を並べおって! 所詮貴様も加護の力に目が眩んだだけだろうがッ! 大体ダリア、お前はここまで何不自由なく育ててもらった恩を感じないのかッ!」
「そうよっ! そっちに行ってもノームホルン家に恩返しなさい! これからも私の為に金は作るのよッ!」
「……リオネル、これはどう思う?」
「そうだな、私は、誤った使い方だと思う」
二人の意見は一致したみたいね。
それに、何不自由なく……ですって……?
「わたしは、この4年間………――――不自由でしたッ!!」
その年月で積もり積もった鬱憤を晴らすように両手を広げ、わたしはステラリアを通じて耐え抜いた粗悪な金達を石に作り変えた。
大広間にはこの屋敷の主夫婦の狂った悲鳴が響き、嫌味な金の装飾は光を失った。
加護はおそらく、個人の私益に使われるべき物ではないのだと思う。
でも……さすがにこれは殺風景かしら。
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