胸に咲く二輪の花

なかの豹吏

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11, 決意の行動

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 夏風邪は長引くと聞いた事があるが、お陰様でテスト休みは自宅で安静にしてあっさりと終わった。

 今日から三日間はテストの返却日で、学校は午前中で終わり。まだ終業式が残っているものの、気分的にはもう半分夏休みみたいなものだ。

 この日、俺は心に決めた事がある。
 それを先ずは実行しようと思う。

 教室に入って全体を見渡すと、櫻も夏目さんも既にそれぞれの女友達と楽しそうに話しをしていた。
 雄也は相変わらず惚けた顔をして欠伸をしている。

 俺は鞄を自分の机に置き、目的の為行動を起こした。
 俺の席から大分離れたその席に向かう。


「ーーえ」

「おはよう。櫻」


 唖然とした顔をする櫻。その周りの女子達も同様の反応だ。
 別れてから、教室では全く接触の無かった俺達だったから無理もないが。そんな事は気にせず、俺は話し掛けた。

「お、おはよう。……孝輝」

「大分長引いたけど、やっと風邪治ったよ」

「う、うん。よかった、ね」


 取り敢えずは軽く話をして、俺は次の目的地に向かった。
 その相手は、俺と櫻の今の場面を見ていたのだろう。友達と話しをしてはいたが、どこか寂し気な表情に見えた。
 そして、櫻と俺が話しているのを見たくなかったのか、目線はこちらに向かずに、今俺が近付いているのに気付いていない。


「夏目さん、おはよう」

「ーーっ!?……え、わ、私?」

 クラスメイト達のいる前では、冷静で余裕のある印象の夏目さんだが、流石に大分狼狽えていた。


「この間はありがとう。本当に助かったよ。お陰で元気になった」

「う、ううん。全然……気にしないで」

 俺と目を合わせず、顔を赤らめて返事をしていた。

 それから俺は、惚けた友達の待つ、自分の席に戻り腰を下ろした。


「おはよう孝輝。どうした、狂ったか」

「俺は櫻とも夏目さんとも友達だ。休み中に世話にもなった。明けて挨拶するのは当然だろう」


 俺を気が触れたのかと言ってくる雄也に、堂々と返答をした。

 休み中、身体を休めながら考えて出した答えだ。
 クラスメイト全員が認識している櫻との破局。 それによるクラス内での疎遠、そしてその直後、夏目さんとの接触。

 これにより、二人との学校内でのコミニュケーションはやり辛かった。
 しかし、それは俺も望まないし、二人もそうだと思う。それなら、男である俺がその突破口を開き、周りにどう思われようが、自分達は教室で普通に話をする友達なんだと認識してもらう。

 その為の行動であり、いつも俺に気を掛けてくれている二人への感謝の気持ちだ。


「孝輝、カッコよかったぞ。だが」

「なんだ?」


 俺が聞き返すと、雄也は何故か机の下を覗き込んだ、それから顔を上げ、


「足、震えてるぞ」

「そこは、言わないでやってくれ……」


 友よ、お前はいつも一言多い。
 偶には格好つけさせてくれ……。



 それから、余り期待の出来ないテストの結果が戻ってきたが、何とか赤点は免れて一安心した。

 その合間には、夏目さんにメッセージを送る。

『今度ちゃんとお礼させて欲しいから、少し待って。ちょっと知識のない男だから、気にいる物を探せるか不安だけど』


 そう送った。これぐらいはしないと罰が当たる。
 ……ハンカチとかでいいのかな?
 分からないので、後で困った時の雄也先生に相談してみよう。そう考えていると、


『今朝はビックリしちゃった! でも、すごく嬉しかった。私にも話し掛けてくれて、ありがと。 お礼なんていいよ。それに、物なんていらないから、一緒にお出掛けしたい!』


 夏目さんからの返事が来た。正直向こうからリクエストをくれたのは有難い。今回はちゃんとした返事をしないと。そう思い、『分かった。じゃあまた連絡するから』そう返事を送ると、直ぐに返信が来た。


『ホント!?楽しみにしてるね!』

 そのメッセージの後には、喜び跳ね回る猫のスタンプが添えられていた。



 その日のテストの返却分が終わり、皆帰宅し始めた頃、俺も同じ様に教室を出た。
 今日はこれから大事な用事があるからだ。

 校門を抜けて、暫く歩いた所にある公園に向かった。
 他の生徒達も少しは通るかも知れない程度の場所だが、遭遇率はそんなに高くないだろう。

 その公園のベンチに、彼女はもう座って待っていた。
 俺が歩いて近付いていくと、途中で彼女は俺に気付き、立ち上がって微笑みながら声を掛けてくれた。


「孝輝! 良かった、来てくれたね」

「俺から誘ったのに来ない訳ないだろ」


 夏の日差しも、まるで彼女を更に輝かせる様にして、眩しく映る可憐な少女が立っている。


 思えば、櫻が学校に戻って来てから色々とばたついていて、やっと始まる筈の俺達は、何も始められずにいたと思う。

 少し遅くなったが、喜多川櫻とちゃんと始める第一歩として、俺は今日櫻を誘ったのだ。


 寧ろ俺が言わなくちゃな。


「来てくれて、ありがとう」


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