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19, 戦線布告
しおりを挟む「ちょっと、話がしたくて」
告白の場面を終え、気持ちを落ち着かせていた櫻の前に凛が現れ視線を向けている。
少し狼狽えながらも櫻は向かい合い、
「話……って?」
「先に言っておくけど、今の田嶋君との話は聞いたりしてないから」
「……そう」
話しながら凛は階段を上る。そして櫻を見据えて、
「週末偶然会った時、私が徳永君をこーくんて呼んでたのが気に障ったみたいだけど」
「…………」
凛は厳しい視線で言葉を放つ。櫻はその視線を何とか受けるだけで押し黙っていた。
「喜多川さんに言っても仕方ないけど、私は子供の頃に徳永君と一緒に遊んだ事があるの」
「え……そう」
「その時徳永君は私をりん、私はこーくんって呼び合ってたから、それをお互い思い出してそう呼んでいるだけ。 別に徳永君とあの日から付き合ったりして呼び方を変えた訳じゃないから」
「そうなんだ……でも」
「でも?」
凛の話を聞いて納得をしたかに見えたが、櫻は言葉尻を少し強め、凛の目を見据える。その反応に凛は小首を傾げて櫻を見ていた。
「やっぱり、嫌だった」
その瞳に力を込めて櫻は言い切る。櫻の言葉を正面から受けて、凛はたじろぐ事もなく、
「そう、私も嫌だった。 喜多川さんが前の彼氏と一緒にいる事に苛ついてる徳永君を見るのが」
「せ、先輩とは、今はなんにもないから……」
凛は櫻を睨みつけながら話し、その言葉には憎しみや怒りではなく、悔しさが乗っている様に感じる。
「喜多川さんは今誰と付き合ってる訳じゃないんだから、誰と会ってても私は何も悪いと思ってない。 でも、それは徳永君にも言える事でしょ?」
「それは、そうだけど……」
「私が彼女になったら、徳永君にあんな顔させない。 だから、喜多川さんにもう二度と徳永君を渡したくない、渡さない!」
決意の表情で櫻に宣戦布告を告げる。
櫻は一瞬気圧されたが、また凛を突き刺す様な視線を送り、
「私だって、一度振られた人にまた好きになってもらうなんて簡単じゃない事を本気でしてるの。 今度はきっと、離れない二人になるんだって!」
お互いの気持ちをぶつけ合い、どちらも引かない姿勢で向かい合う二人。
「これから夏休みだって言うのにそっちは徳永君とギクシャクしてるんだから、私のチャンスだけど?」
「ちゃんと……仲直りするから。 孝輝も言ってた、感情を出し合える方がいいって!」
凛の攻勢の言葉にも、櫻は自信を持って言葉を返している。 その言葉に凛は少し驚いた顔をしていたが、直ぐに気持ちを立て直して、
「きっとこの夏休みが勝負ね。 入学当初は勝負にもならなかったけど、今度は尻込みなんかしないから。 こーくんに、ちゃんと手を取ってもらう」
「こーくんて言うな! 私だって、この前孝輝に選んでもらった水着着て、孝輝に見てもらうんだから」
「なっ!? ……元彼に見せれば!?」
「な、なんでもないって言ったでしょ!? ……そっか、夏目さんはスクール水着しか着れないもんね」
「ーーッ!? ば、バカにして……アンタは貝殻でも付けときなさい!」
「いつのアイドルよ!?」
…………二人の戦いは切って落とされた。
夏の熱気を凌駕する二人の闘気に、階段が溶けるような熱さが周囲を覆っていた。
◆
「はぁ……」
「また溜息か、お前といると気が滅入るな」
櫻と凛が全面戦争をしているとも知らずに、孝輝は雄也と教室を出て帰宅しようとしていた。
「なあ雄也、今からお前の家行っていいか?」
「なんだ突然」
「ちょっと話そうぜ、友達だろ? 俺にはお前が必要だ」
「そういう台詞は女に言え」
病み気味の孝輝が雄也に救いを求めるが、雄也はいつも通り飄々と受け答えている。
「まあ別にいいけどな」
「おっ、マジか。 そういや雄也の家行った事ないしな」
話もまとまり、孝輝は心のリハビリに雄也の家に向かう事になった。
最寄りの駅から電車に乗り、雄也の実家の前まで歩いて来た二人。そして、
「こ、ここか?」
「ああ」
表札には『久保』と書かれている。 久保雄也、間違いなく雄也の実家の前で孝輝は呆然と佇んでいる。
「お前、ボンボンなんだな」
「よく分からんが、親父はやり手だからな」
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「成る程な。 雄也の親父さんなら顔も良いんだろうし、これだけの財力があれば……」
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「なにをブツブツ言ってるんだ? 来いよ」
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雄也に促されて、初めての久保邸訪問を迎えた孝輝。
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