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23, 前進の実感
しおりを挟むその公園に一つしかないベンチに座り、櫻を待った。 相変わらず人気のない公園だ。
櫻は今回も大分時間が掛かっているな、女の子は色々あるらしいから仕方ないが。
それから暫くして櫻はやって来た。
「ご、ごめん。 お待たせしました」
いやまあ、別に待つのはいいんだが、その服装を見てちょっと揶揄ってみたくなってしまう。
「着替えたな?」
「え、ううん、着替えてないよ」
俺に訊かれて目を逸らしながら答える櫻。 彼女はチェック柄のノースリーブのシャツにデニムのスカートを着ていた。 部屋着と言うには無理があるのは男の俺でも解る。
「そうか、櫻は部屋着にデニムのスカートを履くのか」
「い、意識高いから私!」
下手な嘘を吐きながら、慌しく櫻は座った。 後ろめたそうに見えるのは嘘をついているからなのか、今俺達が喧嘩中だからかは判断出来ないが。
そんな櫻をじっと見ていると俺の視線に気付き、
「な、なに?」
「いや、櫻はこの格好で寝るんだなと思って」
「も、もういいでしょ!……ムカつく」
「それ、前もここで言われたな」
前にここで同じ台詞を言った櫻を思い出してつい笑ってしまう。
「それで、話って何だ?」
「うん。 えと……そちらから、どうぞ」
話を切り出しにくそうな顔をして俺に先手を譲ってくる。そこで俺は、
「レディーファーストで」
「え、ありがとう。……なんか使い方違くない?」
流石に違和感を感じたらしく眉を寄せて見てくる。 咄嗟に礼を言ったのは櫻らしい反応で面白かったな。 俺は笑いながら、
「気付いたか、成長したな」
「馬鹿にして……」
呟く様に言うと、視線を外して不満そうな顔をしている。
「この前は嫌な言い方をして悪かった。 自分を棚に上げて言いたい事言っちゃって」
「うん。 私もごめん」
「今彼氏でもないのに、俺に文句言う資格ないのにな」
「……そう言う言い方は、なんか淋しいからヤダ」
そう言えば、前も似た様な事を言われた様な……。
「難しいな、櫻は」
「だって、それを言っちゃったら私も何も言えないもん」
確かに、別れているけれどお互いどこか束縛している様な、微妙な関係ではある。
「あと、子供の頃に何があったか知らないけど、こーくんがヤダ」
「それは……呼び方だから気にしないでくれると助かるな……」
「だって、孝輝と夏目さんの距離が急に近づいた気がする……その呼び方はなんだか怖いよ」
そんな事ない、と言えない自分がいる。 だからと言ってりんにやめてくれとは言えないし……。
「十年前にそう呼んでいいって言ったからな」
「……じゃあ、私はきーくんて言う」
「語尾取るかな? チョイスおかしいって」
強引な櫻の対抗心に待ったをかける。 きーくんと言われても多分俺は反応しないぞ?
「めんどくさいと思ってる?」
「いや」
「ホントに?」
「……ちょっと」
二度も訊いてくると、つい甘えて答えを変えてしまった。 櫻は怒るかなと思って見ていると、何故か嬉しそうに微笑んで俺を見てくる。
「どうした?」
「私が前と変われば、孝輝だって変わるもん。 本音を聞けると、嬉しいよ」
「……そうか、そうだな。 相手が変われば俺も変わるよな」
これは盲点だったな、確かに櫻の言う通りだ。 俺は櫻だけが変わったと勘違いしていたのかも知れない。
「でも、孝輝がそうして欲しいって言ったんだから付き合ってもらうよ?」
「ああ、まだ始まったばかりだからな」
「うん。 前の私達だったらお互いに言い合う事なんてなかったもんね」
そうだよな、何でも言う通りに聞く以前の櫻とじゃ喧嘩なんかできない。
別れた時も一方的に俺が不満を言っただけだった。
櫻と別れた時の事を思い出していると、後ろの通りから男女の言い合いをする声が聴こえて来た。
「まぁたあの屁理屈女と会ってたのか! 二年になってクラスも離れて安心してたら!」
「誤解だ! これには子供用プール程の理由がある」
「浅いわっ! 今日のディナーは大事なゲーム機の鍋にするからね!」
「真夏に鍋っ!?」
……よく分からないが、揉めているらしい。 その声が遠去かり、俺は考えが纏まってきた。 そうだよな、喧嘩も出来ない関係じゃ駄目だ。
「つまり、お互い言いたい事も言えない様じゃまた付き合っても上手くいかない、よな」
「うん。 もし今度付き合えたら、もう離れたくないもん」
前よりもちゃんと話し合えている、そう実感した。 思っている事を溜め込むのは良くない、言い合える関係は大事だよな。
そんな事を思っていると、櫻が身体を寄せて顔を近づけてきて、
「でも前と違って、私には手強いライバルがいるからね、ゆっくりもしてられないの」
「そ、それは……」
櫻との距離の近さと言われた内容に、胸の高鳴りと後ろめたさが混ざり合い、身動きが取れなくなった。
「だから、先制攻撃しちゃう」
頬を染めて俺を見上げる櫻は、蕩ける様な瞳をしている。 その櫻から視線を外せずに、俺は固まったまま、また縮まっていく櫻との距離に無抵抗だった。
そして、櫻の柔らかい唇の感触が……頬に伝わる。
温かくて、優しい感触がゆっくりと離れていった……。
櫻はまた元の距離に離れて、まだ顔を赤らめたまま俺に、
「初めてのキスは、ちゃんと付き合ったら……今度は孝輝からしてね。 それまでとっておくから」
「ん、ああ……そう、だな」
俺は目を泳がせ、動揺している。 櫻もそうだが、俺もきっと今顔が真っ赤だろうな……。
「孝輝は最近気が多いから心配だけど……」
やや不貞腐れた声色で呟かれる。 俺は気持ちを落ち着かせながら、
「櫻の方が色々声が掛かってるんじゃないか?」
「先輩の事? ホントにやましい事はありません」
「まあ、櫻がそう言うなら」
「そう、何だかあっさりだね。 もっと気にしてるのかと思った」
「嘘苦手そうだからな、櫻は」
「んー? なんか、変」
疑いの眼差しで見てくる櫻。 実は先輩から事情を聞いていると言う事は言わなかった。 あの先輩も、わざわざ櫻に俺達の話を伝えて欲しい訳じゃないと思うしな。
「夏休みは今日始まったばかりだしな」
少し強引に話を切り替えたが、櫻は前を向いて、顔を引き締めて言い放つ。
「そう、戦闘開始だ。 先制攻撃は決めたから!」
何やら満足気だな。
「……どう言う事だ?」
「孝輝には内緒!」
櫻は悪戯っぽく笑う。
良く分からないが、そうだな。 兎に角夏休みは始まった。 この夏何があるかは分からないが、後悔のない様にしないとな。
そう言えば、この前選んだ櫻の水着姿もまだ見てないし、夏のイベントはまだまだこれからだ。
そう思って櫻を見ると、ついあの水着を着た櫻を想像してしまった。
「どうしたの?」
「いや、何でもない」
不思議そうな顔をする櫻。 気にしないでくれ、俺だって健康な高校生なだけなんだ……。
色々悩んだりと苦労もあるが、夏のご褒美もきっとあると信じよう。
珍しく前向きな姿勢になれた自分がいた。 やはり悩むより行動、これは大事なんだな。
しかし勘違いするなよ孝輝、真剣に向き合わなければただ取り残されるだけだぞ。
相手が本気なら、本気で向き合わなければ答えは出ない。
そうですよね、雄也……。
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