悪役は、誰だ!?

かぜかおる

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ゲームの始まり

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セイント・ルサンチマン学園、14歳から18歳の貴族の子女を中心に優秀な平民や魔力を持つ者たちが学業を修め、切磋琢磨しながら成長する場。
今日は希望に満ちた新入生達が初めて門をくぐる日である。


青々と茂った植物も、雲ひとつない空ですら、まるで新入生達の門出を祝っているようなムードの中、正門が見える植木の裏の一角ではそこだけ緊迫した空気が張り巡らされていた。

「ちょっと早く来すぎたかしらね。」

その場違いな緊迫した空間で体の緊張を抜くことなく、そう言ったのは金髪縦ロールにキツイつり目の緑の瞳の迫力美人で一見キツイ印象を与える、ボンキュッボンなナイスバディを制服に包んだ娘であった。
彼女はマドレーヌ、この国の筆頭公爵家の令嬢である。

「そうだね、このままだとちょっと疲れるし少し気を抜こうか。」

朗らかな空気を出そうとしているのは、白髪に赤い目を持ち目を引く中性的な容姿に、細く高い背を持つ青年。
この国の皇太子の双子の弟のディルク、存在を隠されたはずの人間であった。

「ええ、まだ十分時間はありますし。」

苦笑気味に応えるのは、ストレートの銀髪に薄い紫の目が冷たい印象を与え、すらりとした四肢を持つ少女。
スヴェトラーナは侯爵家の娘である。

「ちょっと気合が入りすぎちゃったねぇ。」

軽い伸びをして緊張を解しているのは、少し癖のある赤毛に緑色の瞳を持ち甘いマスクを惜しげもなく晒し、細身ながらもしっかりした体躯を持っている。
伯爵家の嫡男、ビーレクである。

「あのっ、甘いものいかがですか?」

そう言いながらクッキーの包みを開けるのは、この国では忌み色として忌避される黒目黒髪で日本人形のような容姿を持ち、少し低めの身長の少女。
子爵家の令嬢アリスである。

「ありがとうございます、いただきますね。」

丁寧な動作でクッキーを口に運ぶのは、茶髪に茶色い瞳どこにでもいる人の良さそうな顔で中肉中背の青年。
男爵家の令息ボルストであった。
この場にいるのは以上の6名。

「はあ、アリスのクッキーは相変わらず美味しいわねぇ。・・・これ何か入ってる?」

すっかり緩んだ空気の中、マドレーヌはアリスの持ってきたクッキーを幸せそうに頬張っている。

「はい、ドライハーブを練り込んであります。試作段階なんですけど、変な味しました?」

「いいえ、ちょっと独特の風味だけど美味しいわ。」

「マドレーヌが言うなら安心ね、舌だけは確かだから。」

そう言いながらスヴェトラーナがクッキーに手を伸ばす。

「スヴェトラーナ、舌だけはとはどういう意味かしら?」

「あら、そのまんまの意味よ。」

マドレーヌが不機嫌そうにするも、どこ吹く風と飄々としているスヴェトラーナ。

「これもしかして、ウチと共同開発?」

「はい、スヴェトラーナさんの家と協力して作ってます。」

アリスがにこやかに肯く。

「あれ、スヴェトラーナのところなんだ。」

ビーレクが不思議そうに首を傾げる。
というのも、スヴェトラーナの家は代々薬師をしているのでお菓子などの商品開発などにはあまり参加してこないのだ。

「この間、医食同源ってわかる?・・・えーと、中国の方の考え方でとりあえず、食事で健康になろうみたいな?とか薬膳についてとかお兄さまに話したらなんかやる気出してたのよ、そういうのできないかって。だから、そっち系狙いで作ってるんでしょ。」

「あー、なるほど、漢方とかそっち系か。」

「そうなんですね、ハーブを渡されて、これでお菓子を作って欲しいとしか言われなかったので・・・。日本にいた頃にスパイスを使ったお菓子を作ったことはあったんですけど、ハーブを使ったことはなくて新鮮でした。」

「よかったね、アリス。」

楽しかったと笑みを溢すアリスを、これまた可愛くて仕方がないと笑みを溢すボルスト。

「リア充爆ぜればいいのに。」

二人のほのぼのとした空気にディルクが思わずといった風にこぼす。

さて、この辺りでもうお気づきだろうが、彼らは転生者である。

「男の嫉妬は醜いぞ?」

ビーレクがディルクに揶揄うような笑みを向ける。

「うっせぇよ。」

ディルクは拗ねたように顔を背ける。

「それにしても、どのお話が始まるのかしらね?」

マドレーヌが片手を頬に添え首を傾げる。
ほのぼのとしていた空気に緊張が混じる。

そもそも、彼らがこうやって集まっていたのはそれを確認するためであった。

とある誰とも知れない人物が無料配布していたゲームの世界に彼らは転生していた。
問題なのは、無料配布されていたゲームは複数あり、手間を省いたのか背景の絵や舞台設定が同じでどのゲームの話が始まるのかがわからないことであった。
そしてゲームの作者の趣味だったのだろうか、全てのゲームには悪役が用意されており、悲惨な末路を辿ることになるのだ。登場人物は髪と目の色を変えただけ、名前も下手すれば友人Aなどという適当っぷりに比べて、悪役はきちんと毎回オリジナルの絵であるところからもこだわりが透けて見える。

ここにいる6人はゲームの悪役で、悲惨なラストを遂げたくないために協力体勢を築いていた。

ちなみに、一応悪役になるのを避けようとはしたが強制力があるようだった。
例えば、マドレーヌは乙女ゲームの悪役令嬢なのだが、王太子との婚約を避けることができず、髪型も縦ロールから変えることができない。ボルストもストラテジーゲームの悪役でとある組織、ゲーム中では悪事を働く組織、の親玉になることを避けることができなかった。

そして、作者の適当な設定により全てのゲームが入学式の日、正門でのイベントからゲームが始まる。それゆえに、正門が見えるこの場所に陣取り最初のイベントを確認しようとしているのだった。

「できれば俺のじゃないのを願っているよ。」

ディルクが真っ先に言い出す。

「私もいやよ。」

そういったスヴェトラーナの顔は嫌そうに歪んでいた。

「みんな嫌に決まってるわ、でもまあ、私が一番嫌よ。なんで好きでもない男のためにいじめとかしなくちゃならないのよ。」

言い出したマドレーヌも顔から嫌悪感が滲み出ている。

「みんなは良いじゃないか、アリスは闇の魔術に囚われて救う方法が無いんだよ。それだったら、国外追放とか処刑ならどうにかしようがあるしそっちにしようよ。」

「ボルスト・・・。」

ボルストがアリスを庇うように発言する。

「まあ、それも一理あるけど、ぼくらに選択権は無いしねぇ。」

ビーレクが一見呑気そうに言う。


ザワっ

正門の方の空気が変わる。
全員が正門の方に注目する。


さて、始まったのはどのゲームなのか?

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