あなたを、守りたかった

かぜかおる

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3、アンジェリカの覚悟

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「わたくしはここにおります。」

そう言いながら、兵が止めようとするのも構わずにドアを潜る。
ドアを潜った先には半円状のバルコニーの様な空間があり、会場で一番高いこの場所は、会場中を一望できる。その左右には螺旋状の階段があり、下りきった場所は会場から成人男性一人分高い位置にあり、一般の客が入場する入り口になっている。そこから階段が放射線状に広がっている。

アンジェリカはその半円状の一番出っ張った所まで歩を進めると会場を見渡す。
会場中の視線が集まっているのに気付きながらも堂々とした佇まいのアンジェリカは、主要な賓客の位置と自分の父兄の場所を把握し、自分のことを呼んでいた人物を探す。
真下であったがゆえに最後になったがその人物を見つけた。
幼い頃から慣れ親しんだ婚約者ローランドの姿だ。ローランドは第二王子として、このパーティーの主役として、そして着飾ったアンジェリカの隣にたつに相応しい衣装をまといアンジェリカに厳しい目線を向けている、その側にはアンジェリカではない少女が寄り添い、ローランドはの少女の腰を抱いていた。

アンジェリカは流石に王妃となるべく育てられただけあり、表情には出さなかったが、あまりにも想定外の事態に唖然としてしまった。そして、会場中が困惑した空気なのも、兵が中途半端な態度であったのも納得した。

「来たなアンジェリカ!やっと逃げても無駄だということが分かったか。」

何言ってんだこいつ?あなたが迎えに来ないからギリギリまで待っていたんでしょうが。
と口に出すのはなんとか堪えたアンジェリカは会場を見渡した。
ローランドの言葉は会場中をさらなる混乱に叩き落とした。ということが分かった。
来たばかりだからアンジェリカには話が分からないのかとも思ったが、先ほど見渡した時よりも人々の困惑は深まっていた。ローランドだけ、もしくはそのそばに侍る少女、うるうると目を潤ませローランドに縋り付いている、の二人にだけ話が通じている様だ。

現国王と父である公爵、隣国の国王夫妻に目線で続ける様に合図されたので、話を進めることにした。

「あら、逃げるとはどういうことかしら?わたくしに逃げる理由などありませんわ。
むしろ、恥ずべきはローランド殿下では?今の自分の振舞いを振り返ってはいかが?」

それもそうだ、何しろこれは実質婚姻披露パーティー、妻となるアンジェリカ以外の女を側に侍らせ、そもそもアンジェリカと会場に入場しなかった時点で非常識極まりない。

「ふんっ、そうやってシラを切っていられるのも今のうちだ!
お前の、引いては公爵家の罪ここで暴いて見せる!いつまでその鉄仮面が保てるか見ものだな。」

意味のわからぬ正義に酔っているのか、ローランドは自身の振舞いを省みることはないようだ。
そもそも、公爵家の罪とはなんだ?父や兄たちに目を向けるが、皆、一様に心当たりがない様子。
しかし、そんなことが招待客にわかるはずもなく、招待客たちの目に少しばかりの疑心が浮かぶ。

「あら、公爵家の罪とはなんのことでしょう?心当たりがございませんわ。」

多少の疑心など、吹き飛ばすように堂々と言い、心外だとばかりに扇で口元を隠す。

「まったく、素直に罪を告白すれば多少の温情もかけられたものを。心が薄汚れている貴様らには、そんな私の心遣いも分からぬと見える。」

残念だという風態でローランドは言った。
何言ってんだこいつ?再び。我が国のほとんどの貴族の当主夫妻と隣国の国王夫妻に主だった役職についている者が招待されているこのパーティーで、もしあったとして罪など暴かれれば公爵家は再起不能になるに決まっている。何が温情だ、何が心遣いだ。
ローランドはこんなことすら分からない馬鹿だったか。

「お心遣いには感謝いたしますが、罪を告白しろと言われましても、無いものを有ると言うわけにはまいりませんわ。」

「いけしゃあしゃあと、貴様らは随分とこの場で罪を明らかにして欲しいと見える。
そちらがその気なら、こちらも遠慮はしない。」

そう言うとローランドは、こちらに向けていた厳しい視線とは打って変わって、蕩けるような視線を傍らの少女に向け、二人で励ますように覚悟を決めるように視線を交わすと、そっと少女を招待客の方へ押し出した。
そこでようやく、アンジェリカは少女をしっかりと目に入れた。とはいえ、少女はアンジェリカに背を向けているため顔などは見えないが、豊かな黒髪とこの会場では少々浮いてしまう位質素なパステルピンクのドレス、そしてそれに包まれている華奢な体。

ローランドに押し出された少女は一呼吸おくと、突如その豊かな黒髪を引っ張った。そして、その下から出てきたのは、美しいピンクゴールドの髪の毛。

「貴様らの罪は、我が愛しき娘キャロラインの身分を偽り虐げたことだ!」

少女の動きに合わせて、ローランドがそう宣言した。
ざわついた会場の中息を飲む音がやけに大きく聞こえる。何に反応しているのか気になる所だが、それよりも嫌な予感が、いやもう予感ではなく確信が胸を占める。

カツンカツンッとわざと音を立てて、アンジェリカはローランドたちが居るのと逆側の階段を下る。
その様子に会場がしんっと静まりかえった。アンジェリカのその芸術的な姿に堂々とした佇まいに、会場中が空気を忘れて見惚れた。
しかし、アンジェリカの胸中は大荒れだった。なぜ彼女がここに居るのか、どうやってこの難局を切り抜ければいいのか。
長く感じた道中は、されどもあっという間に終わりを迎え、答えを見出せぬままにローランドとピンクゴールドの髪の少女と向かい合うことになった。その少女は、アンジェリカが思った通りの娘であった。

「お姉さま。」

ぽつりとアンジェリカに向けて呟かれた言葉に、会場中がざわめきを取り戻す。
公爵家に娘はアンジェリカ一人しかいない。アンジェリカを産んだ時に公爵夫人は肥立ちが悪く亡くなった、後継として男子が二人いたこともあり公爵は再び妻を迎えることはなかった。さらに、このような公の場でアンジェリカを姉と呼べるような関係性の娘でピンクゴールドの髪の娘などはいない。
それでは、アンジェリカを姉と呼ぶこの娘は誰なのか?身分を偽り虐げたこととは?
醜聞の気配に場の空気が変わっていく。

アンジェリカはどんどん分が悪くなって行くのを感じていた。
彼らは何をどこまで知っているのか、どのようにこの場を切り抜ければいいのか、焦りで考えが空回るばかりで答えが出てこない。上手く立ち回らねば、大切なモノを失ってしまうと言うのに。

「ふっ、真実を言い当てられて言葉も出ないか?」

ローランドの挑発するような言葉に、注目がアンジェリカに集まる。
アンジェリカは覚悟を決めざるを得なかった。大切なモノを守るために最後まで足掻く、そしていざと言うときに切り捨てなければならないモノを、賽は投げられた、もう後戻りはできない。
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