異世界超能力だより!~魔法は使えませんが超能力なら使えます~

Mikura

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9話 彼の色と、魔石

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 ユーリは柔らかく笑いながら言葉を探していた。子供の自尊心を傷つけない言葉選びをしているのが伝わってくるのがいたたまれない。精神感応で丸わかりなので、彼の優しさが無駄になってしまっている。……まあ、私は子供ではないから傷つくことはないのだが。


「子供というほど幼くはなさそうだが……まだまだ若いだろうな、と思っていた。違うのか?」

『……分かりません。この世界ではどのくらいで成人扱いですか』


 ここは異世界だ。色判定を受けていた子たちは若く見えたが、実はあれでも成人に近い年齢だったのかもしれないし、そもそも見た目通りの年齢でもないのかもしれない。私の常識は、こちらの世界の非常識だ。まずは確認する必要がある。


「成人は十八歳だ。でも、十六歳までには色判定を受けて仕事に就く。ゆとりのない家の子は十歳前後で判定を受けることもあるが……君はいくつだ?」

『私は十八歳ですから、この世界では成人になりますね』


 元の世界では二十歳が成人の年齢であったが、こちらでは私も成人扱いになるだろう。ユーリからは驚きと『十四、五くらいにしか見えない』という意思が伝わってきて、広場に集まっていた少年少女の姿を思い出した。
 あの場にいたのは十歳から十六歳の子供ということになるのだが、それよりは少し年齢が上であるように思えた。この世界の人間は人種的に、日本人よりも体が大きいというか、成長も早くて大人っぽいのではないだろうか。


『人種の差、ってところでしょう。私はこれ以上背が伸びることありませんからね』

「そうか。……すまない、それなら子ども扱いをしていたな」

『いえ。見た目が違うのでしかたありません。……ユーリさんはいくつですか?』

「私は二十三になった。髪色で老けて見えるだろう?」


 この世界の人間は年を取ると白髪になるのではなく、元々の髪色が薄くなっていくらしい。ユーリは自分の髪色がコンプレックスであるようで、自嘲気味に笑った。
 たしかに元の世界でも老人は白髪になっていくが、彼の髪色とは質が違うように見える。二十代前半の若々しい青年にしか見えないので、首を振って否定した。


『綺麗な白髪なので老けて見えたりはしないですよ。艶々じゃないですか』

「……本当にこの色に対して何とも思っていないのが分かるから、不思議だ。君の世界では白髪は珍しくないのか?」

『いや、そもそも髪色の仕組みが全然違いますからね。魔力もないし、地毛が青や赤の人なんていませんよ。私の国では黒か焦げ茶がほとんどです』

「……君みたいな人ばかりなのか。それは、とてつもないな」


 私からすればこちらの世界の方が驚きなのだけれど、ユーリからすれば黒髪や茶髪だらけの世界が信じられないらしい。それほどに、黒に近い色というのは珍しいのだそうだ。
 そして、白髪というのはそれ以上に珍しい。それこそ“透明”でなければこの色にはならないはずだから、とユーリは言った。


「私も、生まれた時は濃い赤茶系の色だったんだが……一度死にかけてな。それから色が抜けてしまったんだ」

『私の世界でも強いショックを受けると白髪になる、みたいな噂はありましたが……』


 彼の白髪は生まれついてのものではなかった。しかし、そんなことはきっと関係ないのだろう。元々の髪色は濃かったのだからと期待される中で受けた「色判定」の結果は、元の髪色には程遠い橙色だった。王族として、その色は薄すぎる。そして、彼は“なかった”ことにされた。


「魔力も少なく、髪の色も戻らない。……王族としての資格がないんだ」

『うーん……でもユーリさんは、私が今まで見た人の中で一番魔力が多いですよ。ただ、ほとんどが体の外に出られないようになってるだけで』

「…………うん? 待ってくれ、どういうことだ?」


 改めて見ても、彼の体の様子は少し変なのだ。魔力の流れを塞き止めるような塊が体の中にいくつもあって、そのせいでうまく魔力が流れていない。体内にたまっている魔力がかなり濃いのに、外に放出される量が少ない。


『ユーリさんは魔力の流れが悪いんです。体の中に魔力の塊ができていて、それが邪魔をしてるように見えます。……魔力放出障害、でしたっけ? それじゃないんですか?』

「…………いや。放出障害の人間は、君みたいに透明という結果が出る。生まれつき、体の外に魔力を出す機能が壊れているからだ」


 話を聞けば、この世界の人間には魔力を作る器官と魔力を放出する機能が体に備わっている。この時点で形は似ているが地球人と同じ人間でない、ということがよく分かった。
 ちなみに魔力を作る器官は「クウィヤ」と発音されている。だが元の世界に存在しないものなので上手く翻訳出来ず、その単語が出る度「魔力を作り出す器官」という言葉が浮かんでくるのだ。心臓や肝臓のような、いわゆる内臓器官であるらしい。言葉を作るなら「魔臓」と称するのが適当だろう。


「魔臓は死ぬまで魔力を作り続けるから、放出障害でも魔法自体は使っている」

(……あ、魔臓で理解できるようになった)


 造語でも私が理解していればそれでいいのか。精神感応について一つ新たな事実を知った。とそんなこと気を取られている間にもユーリの説明は続く。

 魔力放出障害という魔力を外に出せない人間は、魔臓が機能していても外に出す能力がないため、作られた魔力は体内を巡ることしかできない。しかし魔臓が活動をやめるのは死ぬ時だ。たとえ外に出せなくても魔力が作り続けられてしまう。
 そこで体の防衛本能が働くのだという。外に出せないのだから中を、つまり身体を強化する魔法となって魔力を消費しながら常時発現し、人の限界を超えた身体能力を得ることになる。


「私は橙色、という判定が出ている。放出障害というのはありえないが……塊ができている、というのはどういうことなんだ? 言葉の読み違いか?」

『いえ……これは……魔石に見えますね。それがユーリさんの体のあちこちにあって、そういう場所で魔力がかなり塞き止められています。道を細くして通りづらくしている、みたいな……』


 彼の纏う魔力の流れが悪く見える原因を見ようと、その体を透視した。ちょっと一瞬、服の下の筋肉質でよく引き締まった体を見てしまい、覗きをやったようで悪い気がしたが許してほしい。不可抗力である。
 そんな透視の結果、体の中に魔石が埋まっているのが分かった。とても小さく一つ一つは小指の爪ほどの大きさしかないのだが、そのせいで魔力が流れなくなっているのだ。……血管の中にもう一本管が通っていて、心臓のすぐそばにある見たことのない臓器から魔力が送られ、その管を通っていく仕組みらしい。やっぱり生物としての構造が別である。


『というか、何故体の中に魔石が?』

「…………私が死にかけたせいかもしれない」


 この世界の魔力を多く含む生き物は、死ぬと魔石になる。魔臓は真っ先に魔石化し、そのあと体のあちこちが結晶化していくのだと。だから火山猪の肉も普通なら一日と持たない。氷の魔石がなければすでに魔石化が始まっているはずだ、と言われた。
 ユーリは一度、暗殺されそうになったのだという。心臓も止まって本当に死ぬ寸前だった。それでも一命をとりとめ、息を吹き返すことができたのだが――。


『魔臓って心臓の近くにありますか? 一番大きい塊がそこにあります』

「……ああ、そうだ」

『なら、やっぱりユーリさんは魔力が多いんじゃないでしょうか。今、外に出せているのは二割くらいですよ』

「…………そう、だったのか」


 その時流れ込んできた感情は、なんと表現したらいいか分からない。悲しみ、喜び、空しさ、期待、諦め、悔しさ。そのすべてがぐちゃぐちゃに混ざった、あまりにも重たい気持ちに驚いて肩が跳ねた。……私は、こんな感情を経験したことがない。驚いて精神感応を切ってしまうくらいには、酷いものだった。


「……――――……」


 精神感応を完全に切ってしまったので、彼が零した言葉を正確には読み取れない。ただ、それでも、空を仰ぐその表情と声色から――彼が、どこかほっとしていることだけは、何となく分かった。


「ハルカ」

『あ、はい』

「……ありがとう。何だか、心の整理がついた。自分のせいではない、と思えたから……諦められる」


 名前を呼ばれて慌てながら再び精神感応を使う。言葉の通り、あきらめの滲んだ柔らかい笑顔を浮かべる彼の顔を見ていると、少しだけ胸を押さえられたような心地になった。……苦しい、と思う。普段、あまり感じない種類の感情に戸惑いを覚えた。
 これは、嫌だ。あまり感じていたいものではない。だから、ユーリにはそんな顔をしないでほしい。


『ええと、まあ、その魔石壊せば多分魔力も出せるようになりますから、元気を出してください』

「…………………………なんだって?」


 だって、魔力を塞き止めている原因は明白なのだから取り除けばいいだけじゃないか。……単純な話では?
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