異世界超能力だより!~魔法は使えませんが超能力なら使えます~

Mikura

文字の大きさ
21 / 39

20話 ようやく、ひとつ(前)

しおりを挟む


『なんだよこれ! 離せよ!』


 念動力の中でもがく火龍が段々可哀相になってきた。しかしこれを離したら危険な生き物を解き放つことにもなりそうで、悩ましい。私に状況を説明してくれるだろうユーリはまだ思考がまとまっておらず、断片的な情報しか入ってこないのでこの生き物の対処についてはまだ判断しかねる。ここは、とりあえず。


『大人しくここに居てくれるなら離しますよ』

『え? ……人間がなんで俺としゃべれんの?』


 こんな反応どこかで見たな、と思いながら『かくかくしかじかの超能力者なので』と返しておいた。そしてやっぱり『気持ち悪!?』とどこかの妖精と似た反応をされた。……肉体を持っているが、何故だろう、反応だけではなくあの妖精と似た何かを感じる。


『これお前の力なのかよ……落とし子にしても変な奴だな。とりあえず降ろしてくれよ、俺はこの土地を管理しなきゃいけないんだよ』

『土地の管理、ですか?』

『そ。俺が居なかったからこの土地、すっげぇ痩せちゃってるだろ』


 火龍が移動する気がないのも、その言葉が事実なのも伝わってきたのでひとまず彼を地面に降ろした。途端に火龍の触れた土へと魔力が流れていくのが分かって、少し驚く。暫くここから動けないらしいので、そのまま話を聞いた。

 火龍曰く、この国の土地にはあちこちに管理者がいる。龍や妖精などはそれにあたり、土地に魔力を満たす役割を担っているのだという。国によって姿や形、管理の仕方は変わるがこういう特殊な神の遣いが世界中にいるのだそうだ。
 そしてこの土地は管理者である彼が暫くいなかったので、魔力が枯渇気味になっている。何故いなかったのかという話を聞こうとしたところで「ハルカ」と名前を呼ばれ、そちらに顔を向けた。


「火龍と見つめあって何をしているんだ?」

『ああ、落ち着いたんですねユーリさん。今、この龍と話をしてて』

「そうか、話を…………火龍と話ができるのか!?」


 ユーリがまたもや固まってしまった。精神感応でコミュニケーションをとるなら言語は必要ない。つまり、ある一定以上の知性を持った相手なら何であっても話せるのである。
 さすがに動物には人間ほどの知能はないが「すき」「きらい」「ごはん」「ねむい」のような単純な意思や感情なら読み取れるし、この火龍や妖精のようなはっきりとした意思を持つ存在なら、会話は出来て当然だ。そしてそんな説明を目の前にいるユーリと火龍に同時にすることも精神感応なら当然可能である。


「当然、なのか……?」

『いや、特殊だと思うぜ俺は』


 人間は龍と話せないようだが、少なくともこの火龍は人間の言葉を理解しているらしい。グルグルと喉を鳴らしてユーリの言葉に返事をしている。まあ、ユーリには伝わらないのだが。


「火龍は危険な存在のはずなんだが……この子は大人しいな」

『この龍、自分は土地の管理者だって言ってますけど……』

「……詳しく聞きたい。龍という生き物の認識が間違っているのかもしれない」


 ユーリの話では「龍」と名がつく生物は三種存在する。火龍、水龍、土龍。どれも人が相対すれば蹂躙されるだけの強大な自然災害レベルの化け物で、魔物とは一線を画す。しかしそれらは一体ずつしか存在せず、ほとんど人里に姿を見せることはない。しかも五十年ほど前に火龍の死骸が発見され、危険の一つが消えたことを人々は喜んでいた――はずだった。


『ふーん、人間にはそんな風に思われてるんだな』

『……人間を襲うんですか?』

『襲ってる訳じゃねーよ。お前らだって虫に集られたら払うだろ?』


 どうやら龍に怯えた人間が攻撃を仕掛けて返り討ちにあっているだけのようだ。それは仕方がない。妖精だって宝物を盗られたら激怒するし、龍だって煩わされたら怒るのだろう。彼らは“神”に通じる不思議な存在のようだが、しっかりと感情もあるのだから。
 火龍の言い分を伝えると、ユーリはほっとしたようで小さく笑った。


「そうか。ならこの子を討伐しなくて済むんだな」


 ユーリは生まれたばかりの子供を殺さずによかったと思っている。育てば大災害になるなら今のうちにその芽を摘むべきなのか、と悩んでいたようだ。
 しかし卵から孵ったばかりであるはずのこの龍は、知識も豊富にあってどうも子供ではなさそうなのだけれど。そのあたりの事情を尋ねてみた。


『龍は肉の体を持ってるから生まれ変わるんだよ。記憶は引き継いでるけどな。……卵が溶岩の中に落ちちまって焦ったぜ』


 龍が生まれ変わるための卵は他の生物に見つからないような場所にできるのだが、今回は火口の中でありつつ溶岩の届かない安全地帯に卵があったのだそうだ。
 卵自体は丈夫なので溶岩の熱にも耐えうるが、生まれたての龍はひ弱で溶岩の熱に敵わない。それが地震でころりと溶岩の中に落ちてしまった。おかげで五十年復活できなかったと言われ、首を傾げる。


『それは世界の構造としてどうなんですか?』

『これも神様の与える試練ってやつなんだよなぁ。一応、あと二十年くらい魔力を溜めれば出られただろうけど、その時にはこの土地はもっとひどいことになってたと思うぜ』


 こういう卵から出られなくなった場合の対処法として卵内部で育つ機能も備わってはいるらしい。ただし時間がかかるし、魔力も土地から集めているのでどんどん土地が痩せていく。
 システムの設計ミスではないかと思うレベルの話だが、そうなっているという。何もない穏やかすぎる世界では生き物も停滞するので、神が試練として度々こういうことを起こすのだそうだ。地震で卵が溶岩に落ちたのは神の意思なのでこれは定められた運命であり、本来ならあと二十年この土地の魔力が減り続けるところだったけれど、私の存在がそれを止めた。


『私、異世界人なんですけど干渉してよかったんですかね?』

『お前をこの世界に呼んだのはここの人間だろ? だからいいんだよ、この世界の生物の行動で変わったんだから』


 この世界の生き物が打開策を打ち出したようなものだからいいと言われた。火龍自身も何年も動けないのは退屈で困っていたところで、出られたことを喜んでいる。そして『俺の土地を試練の場所に選ぶなんて酷いぜ』と神に対して愚痴を零していた。……この世界の神は、一体どんな存在なんだろうか。
 元の世界に神という存在はいなかった。幽霊は見たことがあったし、神社や寺に“何か”が居ると感じたことはあるものの、それらはこうやって生活に干渉するものではなかったから不思議だ。さすが異世界である。


『これから回復させるのには時間かかるけどよ……それでも二十年分は楽になった。だからお前には感謝してる。礼にこれやるよ』


 火龍がペッと何かを吐き出した。手のひらサイズの真っ黒な玉で、妖精にもらった魔石とよく似た濃密な魔力の籠ったものだ。それを拾い上げて、ユーリの方を見てみる。これこれこういう理由でお礼として貰った、と精神感応で説明しながら。


「……実際に傍で見ていても訳が分からない……」


 妖精の時と同じような反応をしている。私もこの世界の謎が深まったので、頷いた。妖精も火龍も訳が分からない存在である。でも、とりあえずこの土地の魔力はこれから回復していくようなので結果的に良かったのではないだろうか。


「まさか火龍の宝玉をこの目で見ることができるとはな」

『これも特殊なアイテムですか?』

「それを持っているだけで魔法妨害ができる。魔法による攻撃や干渉を跳ねのけるものだ。妖精の瞳と同じように魔石としても使えるだろうが……」


 さすがにその使い方はもったいない、とユーリは思っている。しかしそれ以外の使い方が思い浮かばない。妖精の瞳があればこちらを使う機会はない気がするので、部屋の机の引き出しにでもしまっておこうと思う。
 私は元から念動力の壁を張っているから、魔法妨害を常時展開しているようなものなのだ。神からの加護ですら受け取れないバリアである。人間の魔法が効くとも思えない。……いつか使い道を思いつくといいのだけれど。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~

サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。 ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。 木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。 そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。 もう一度言う。 手違いだったのだ。もしくは事故。 出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた! そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて―― ※本作は他サイトでも掲載しています

【完結】そして異世界の迷い子は、浄化の聖女となりまして。

和島逆
ファンタジー
七年前、私は異世界に転移した。 黒髪黒眼が忌避されるという、日本人にはなんとも生きにくいこの世界。 私の願いはただひとつ。目立たず、騒がず、ひっそり平和に暮らすこと! 薬師助手として過ごした静かな日々は、ある日突然終わりを告げてしまう。 そうして私は自分の居場所を探すため、ちょっぴり残念なイケメンと旅に出る。 目指すは平和で平凡なハッピーライフ! 連れのイケメンをしばいたり、トラブルに巻き込まれたりと忙しい毎日だけれど。 この異世界で笑って生きるため、今日も私は奮闘します。 *他サイトでの初投稿作品を改稿したものです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

聖女なんかじゃありません!~異世界で介護始めたらなぜか伯爵様に愛でられてます~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
川で溺れていた猫を助けようとして飛び込屋敷に連れていかれる。それから私は、魔物と戦い手足を失った寝たきりの伯爵様の世話人になることに。気難しい伯爵様に手を焼きつつもQOLを上げるために努力する私。 そんな私に伯爵様の主治医がプロポーズしてきたりと、突然のモテ期が到来? エブリスタ、小説家になろうにも掲載しています。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...