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蛇神様と蜘蛛女
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むかーし、むかし、大きな御山に蛇神様がおりました。
御山の麓にはお里がありました。
お里は蛇神様のお陰で数々の恩恵を受けていました。
ですが蛇神様はいつもお里に恩恵を与えてくれるわけではありませんでした。
蛇神様はお腹が空くとお里に下りてきたのです。
蛇神様がお里へ下りると、地面は揺れ、御山からは火の粉が降りました。
そうなるとお里の家々は灰に飲まれ、火に焼かれ、人々はお腹が空いた蛇神様に食べられてしまいます。
それでも蛇神様がお腹いっぱいになって御山に帰ると、また豊穣の実りがお里に約束されていました。
お里の人々は考えました。
蛇神様は御山に居てくれるだけでいいのです。
「蛇神様が御山から動かないようにしてはどうだろう」
「お腹が空いたら御山で食べればいい」
「だがいつお腹が空くのかわかるまい」
「定期的に供えてはどうだろうか」
そうして、毎年決まった日に蛇神様のお食事を運ぶことにしたのです。
蛇神様のお食事は決まっていました。
お里の女性。
それも、穢れの無い若い女性を好んでおりました。
以前、お里へ下りてきた蛇神様は言っていました。
穢れの無い女性を食べるとすぐにお腹がいっぱいになり、眠くなるのだと。
その代わり、男性を食べると目が冴えて暴れたくなる。
老人はいくら食べても、腹の足しにもならない。
お里の人々は蛇神様の為に、若い乙女を御山に上らせました。
若い乙女は二度と帰ってきませんでした。
多くのお里の乙女が蛇神様に食べられました。
でも、たった一人だけ帰って来た者がおりました。
お里に一軒だけあった鍛冶屋の嫁でした。
それはお里の女性ではない、隣村から嫁にやってきた娘でした。
隣村からの嫁は珍しくありません。
まだ十五歳という若さで、婚姻を誓い合い、いざ祝言というその時に、蛇神様が御山からその娘を呼んだのです。
娘は一人、御山へと上りました。
一人で、蛇神様の元へ三日三晩掛けて向かいました。
蛇神様の居る御山の寝所まであと少し。
隣村にもお里の蛇神様ように神様が居りました。
それは八雲ノ神様というお名前でした。
八雲ノ神様は悪いことをする人間には厳しく、いいことをする人間には優しい神様で、お腹が空いたからと、悪戯に人々を苦しめる御山の蛇神様を嫌っておりました。
そして、蛇神様も八雲ノ神様を嫌っておりました。
蛇神様は鍛冶屋の嫁が隣村の娘だと知っていたのです。
知っていて、八雲ノ神様の恩寵を受けた娘を食らってやろうとしたのです。
過去にもそうして食べられた娘がおりました。
娘が蛇神様の寝所に着くと、蛇神様は眠っていました。
どうしたのだろうと、娘が蛇神様に近づくと、蛇神様は容赦なく大口を開け、娘を食べようとしました。
ところが、娘は簡単には食べられてはくれませんでした。
それどころか、蛇神様が娘を食べようとした途端、娘の背から肌を破って、大きな蜘蛛が現れ大量の糸を吐き出したのです。
蛇神様も抵抗したのですが、蜘蛛の糸はみるみる内に蛇神様の自由を奪ってゆきました。
ついに蛇神様は寝所に縛り付けられ、身動きが取れなくなりました。
それを確認すると、蜘蛛となった娘は御山を下りました。
娘は、お里に着く頃には人間に戻っていました。
多少の怪我はしていたものの、無事に帰って来たことを鍛冶屋の夫は喜び、
その日の内に祝言の宴が開かれ、晴れて二人は夫婦となったのです。
娘は明るく聡明な女子でした。
夫も人当たりの良い温厚で生真面目な男子でした。
これから家族を築き、互いに敬い懸命に働き、幸福に生きる努力をしていこう。
夫は八雲ノ神様に感謝しました。
御山の麓にはお里がありました。
お里は蛇神様のお陰で数々の恩恵を受けていました。
ですが蛇神様はいつもお里に恩恵を与えてくれるわけではありませんでした。
蛇神様はお腹が空くとお里に下りてきたのです。
蛇神様がお里へ下りると、地面は揺れ、御山からは火の粉が降りました。
そうなるとお里の家々は灰に飲まれ、火に焼かれ、人々はお腹が空いた蛇神様に食べられてしまいます。
それでも蛇神様がお腹いっぱいになって御山に帰ると、また豊穣の実りがお里に約束されていました。
お里の人々は考えました。
蛇神様は御山に居てくれるだけでいいのです。
「蛇神様が御山から動かないようにしてはどうだろう」
「お腹が空いたら御山で食べればいい」
「だがいつお腹が空くのかわかるまい」
「定期的に供えてはどうだろうか」
そうして、毎年決まった日に蛇神様のお食事を運ぶことにしたのです。
蛇神様のお食事は決まっていました。
お里の女性。
それも、穢れの無い若い女性を好んでおりました。
以前、お里へ下りてきた蛇神様は言っていました。
穢れの無い女性を食べるとすぐにお腹がいっぱいになり、眠くなるのだと。
その代わり、男性を食べると目が冴えて暴れたくなる。
老人はいくら食べても、腹の足しにもならない。
お里の人々は蛇神様の為に、若い乙女を御山に上らせました。
若い乙女は二度と帰ってきませんでした。
多くのお里の乙女が蛇神様に食べられました。
でも、たった一人だけ帰って来た者がおりました。
お里に一軒だけあった鍛冶屋の嫁でした。
それはお里の女性ではない、隣村から嫁にやってきた娘でした。
隣村からの嫁は珍しくありません。
まだ十五歳という若さで、婚姻を誓い合い、いざ祝言というその時に、蛇神様が御山からその娘を呼んだのです。
娘は一人、御山へと上りました。
一人で、蛇神様の元へ三日三晩掛けて向かいました。
蛇神様の居る御山の寝所まであと少し。
隣村にもお里の蛇神様ように神様が居りました。
それは八雲ノ神様というお名前でした。
八雲ノ神様は悪いことをする人間には厳しく、いいことをする人間には優しい神様で、お腹が空いたからと、悪戯に人々を苦しめる御山の蛇神様を嫌っておりました。
そして、蛇神様も八雲ノ神様を嫌っておりました。
蛇神様は鍛冶屋の嫁が隣村の娘だと知っていたのです。
知っていて、八雲ノ神様の恩寵を受けた娘を食らってやろうとしたのです。
過去にもそうして食べられた娘がおりました。
娘が蛇神様の寝所に着くと、蛇神様は眠っていました。
どうしたのだろうと、娘が蛇神様に近づくと、蛇神様は容赦なく大口を開け、娘を食べようとしました。
ところが、娘は簡単には食べられてはくれませんでした。
それどころか、蛇神様が娘を食べようとした途端、娘の背から肌を破って、大きな蜘蛛が現れ大量の糸を吐き出したのです。
蛇神様も抵抗したのですが、蜘蛛の糸はみるみる内に蛇神様の自由を奪ってゆきました。
ついに蛇神様は寝所に縛り付けられ、身動きが取れなくなりました。
それを確認すると、蜘蛛となった娘は御山を下りました。
娘は、お里に着く頃には人間に戻っていました。
多少の怪我はしていたものの、無事に帰って来たことを鍛冶屋の夫は喜び、
その日の内に祝言の宴が開かれ、晴れて二人は夫婦となったのです。
娘は明るく聡明な女子でした。
夫も人当たりの良い温厚で生真面目な男子でした。
これから家族を築き、互いに敬い懸命に働き、幸福に生きる努力をしていこう。
夫は八雲ノ神様に感謝しました。
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