乙女ゲームの悪役兄様、冷徹神王騎士団長の寵愛に囲われる

高無

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暗闇の中に存在感があり、人を飲み込むほど大きな満月。

銀色に輝く髪のこの世の者とは思えないほど美しい顔が見える。
地面に座り込んだ俺は、茫然とその人を見つめる事しか出来なかった。

真っ赤に染まる瞳に俺の姿を映し、笑みを浮かべた。
天使のように花開く、誰もが心を奪われるほど魅了される。

ゆっくりと口を開き、言い聞かせるように耳心地がいい凛とした声で口にした。

ーやっと見つけた、迎えに来たよー








ーーー
ーー


「花咲く乙女の神の巫女」というゲームのパッケージの裏に大きく描かれていた。
黒髪の青年がこちらに手を差し伸ばしてきていた。

乙女ゲームと呼ばれる女性向けのゲームを手に持っていた。

主人公は田舎の村に住む普通の少女で16歳の誕生日を迎えた。
平和に暮らしていた村の中に似つかわしくない豪華な馬車がやって来た。

少女は神に仕える巫女として帝国に招待された。

帝国にいたのは、神王と呼ばれるとても美しい青年が迎えた。

そこから始まる少女と少女の周りにいる男達との恋愛ストーリー。
嫉妬や憎悪を向けられても、少女は彼らに守られながら真実の愛を育んでいく。

これは妹が持っているゲームで、兄の俺を沼らせるためにゲームを借りた。
今人気のゲームでシリーズも三部作にまでなっている。

妹の推しは満月の中、手を差し伸ばしていた神王と呼ばれる騎士団長。
少女の一番近くにいて、少女以外に興味がない。

魔法がない人間の世界で唯一の魔法を使える存在。
最強の人外キャラクターで、三部作全てにメインキャラクターとして扱われている。

最新の携帯ゲーム機を手にして、電源を入れると画面が明るくなった。

オープニングが始まり、少女達の人生が始まる。

攻略キャラクターは五人いるから、一日では終わらず数日掛かった。

「お兄ちゃん!終わったら感想教えてよ!」

妹がゲームをしている俺の顔を覗き込んで聞いてきた。
どう思うのか気になるのか、ゲームをしている俺をチラチラ見ていた。

女性向けだけど恋愛物語として楽しむ事が出来て面白かった。
メインだけあって神王騎士団長は他とは明らかに違うオーラを感じた。
最初に騎士団長を攻略したが、全てのエンディングを終わらせてから再び攻略するとトゥルーエンディングが見える。

最後に結婚式のイラストで終わり、辛い事があっても主人公の幸せな顔で全てが報われた。

ゲームが終わり、机の上にゲームを置いて背伸びをする。

今日は休日で妹は友達と遊びに行って家にはいない。

少し腹が空いたから近くのコンビニに行こうと立ち上がった。
その時、軽く眩暈がしたがゲーム画面をずっと見ていたからかと思った。

コートと机の上に置いてある財布を手に取り、コートを着た。
財布をコートのポケットに入れて、玄関のドアを開ける。

冷たい風に顔が冷たくなり、白い息を吐き出す。
昨日降った吹雪でこんもりと積もった雪を踏みながら歩き出す。

いつもと違うザクザクと足音が聞こえて、足跡が出来る。

早く春にならないかなと思いながら、信号機の前で足を止める。
視界がぐにゃりと歪み、体が揺れて地面に座り込む。

これはちょっとマズいな、風邪を引いたかもしれない。

信号が赤から青に変わったが、先に進むのは頭が痛くて無理そうだ。

一度家に帰ろうと思い、ゆっくりと立ち上がると横から自転車が俺に向かって突っ込んできた。
溶けかけた雪のせいで止められないのか、速度は落ちない。

避けようとして道路に一歩踏み出すと自転車に乗っている人はそのまま転けた。
積もった雪がクッションになって、怪我はなさそうだ。

それは良かったとホッと胸を撫で下ろしたが、すぐに視界が激しくブレた。
体が浮いて、地面に全身が叩きつけられて視界がぼんやりとした。
視界に映る信号は青のままだったのに、俺の前を車が猛スピードで走り去っていった。

まさか、これが俺の人生の終わりなのか?まだ高校生なのに…

視界がだんだん見えなくなり、二度と目が開けられないと思うと怖かった。
その恐怖も、意識がなくなると何も考えられなくなる。








ーーー
ーー


耳に聞こえるのは、記憶に新しいあのゲームのオープニングだった。
何も見えない、聞こえない状態だったのにどうして音が聞こえるんだろう。

『小さな田舎村に働き者の少女が住んでいました』

プロローグのナレーションが聞こえてくると、だんだん目の前が明るくなってきた。

大きな産声が聞こえて、目蓋がくっついていて開かない。

誰かが「元気な男の子です」と言っていて、俺の体は温かなもので包まれた。

この産声は俺の声だ、俺は生まれ変わって新しい人生が始まるんだ。
わくわくした気持ちはなく、心の中は不安でいっぱいになる。

何故俺は、生まれ変わる前の記憶をはっきりと覚えているんだろう。
記憶が残ると、新しい人生に馴染めるか分からない。

他の人も皆こんな気持ちなのかな、時間が経てば残った記憶はいつか忘れるのかもしれない。

その記憶を抱いて、俺は戸惑いつつも新しい人生の幕を開けた。

そして六年後、俺は昔の記憶を持ったまま成長した。
いつ記憶がなくなるんだろう、六年も経てばもうそのままなんじゃないかと思い始めていた。

俺がこの世界で記憶を持っている事になにか理由があると思っていた。

「我々は神に仕える巫女の一族よ、お分かり?ローラ」

「はい!お母様!」

元気よく母さんの声に返事をするのは、俺の一つ下の妹のローラ。
腰まで長い茶髪を揺らして母さんは髪を巻いた同じ茶髪のローラに言い聞かせるように言いながら歩いて行った。

俺はそれを目で追いかける事しか出来ず、部屋に戻った。

用事がなければ母さんに話しかけてはいけないと言われている。
俺のこの家での役割は、未来の巫女になるローラの世話だ。

ローラにも兄としては見られてはいなくて、使用人の一人として扱われている。

新しいローラのドレスを買うために二人は出かけていて、俺は帰ってくるまでローラの部屋を埃なく掃除をする。
部屋に置いてある掃除道具を掴んで、ローラの部屋に急いだ。

嫌な予感がする、その予感は俺が記憶を残している事に関係している。

ローラの部屋にある本棚に「神聖と巫女」という本の表紙が見えた。

この本は幼少期の頃、誰もが読み聞かせられる有名な本だ。
俺がこの本を初めて見たのは生まれ変わる前だった。

この世界はもしかしたら、乙女ゲームの世界なのか?
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