人外の集う宿屋看板息子はキツネ目くん

由紀

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楽しい日常

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「本当に人間が居る…」
「うわあああ~!可愛い可愛いかわいいいいいい!」
「…コッチミタ。」
「はあはあ…すき。」
「俺はチップを3倍出す!俺!俺!」

年齢21歳身長173㎝、黒髪黒目ザ・平凡顔。
他の人間より釣り目だが、ごく普通の人間の男。

とある城下町の小さな宿屋は、連日大盛況である。城下町にある他の安宿にも高級宿にも、ここまでの賑わいは見られない。それもその筈、獣人及び亜人区で人間に会えるのはこの場所だけだった。

決して広くない宿屋のカウンターには、不形態のスライムらしき生き物がウネウネと蠢いていた。

「…はい、皆様~お触りは禁止です!チップは直接お渡し下さい、席に着いていない方には{ノア}はお相手できません。ご注文された方から順番が参ります…少々お待ち下さい。」
「みんな待ってて下さいねー。」

何処から声を出しているか分からないスライムの説明の中でも、客からの熱気も喧騒も止まない。
だというのに、カウンター裏から出て来た人間の姿に揃って目が釘付けになる。人間もといノアは、釣り上がった目を更に細めて各方面に手を振って愛嬌を振りまいておく。

さーて、今日の収穫は…おっと魔王子様はっけーん。いつもサンクス!ん?…霊族さん来てるなーどっちにするか迷うわー。

人間以外で賑わう宿屋の中で、現世のアイドルさながら笑顔で客を物色する。宿屋で働き出して早半年て客のあしらいも慣れたものだった。

まあ、初めてこの世界に来た時は驚いたものだが。

…此処は人間が激減して、人間保護法が出来た世界。
獣人と亜人が人間好きすぎて、捕獲しまくったり人間園を作ったが飼い方が分からず無駄に死なせてしまっていたらしい。
人間種は、男女問わずどの生き物の種も受け付けられるので繁殖種とも言われる。現在、人間は保護区と呼ばれる村に住んでいた。

ノア…白井希空しらいのあは、ある日突然現代日本から転移してきた男子中学生だった。元々SF物が好きだったので、亜人種を怖いとは思わなかった。獣人についても、そういうアニメ流行ったよなーと軽く考えた程度。

世界の様子を知った後は、20歳になってから保護区を出て宿屋で住み込みをしている。たんまりお金を貯めて、田舎でのんびり暮らす予定だ。

てか楽じゃん?人間ってだけでお金くれんのよ?
元の世界は貧乏な家だったからバイトしてスマホ代稼いでたけど、結局親に取られてスマホ解約するわ、お風呂も一週間に一回入れれば良い方で。ご飯も給食が命綱。

今はマジで天国です。
保護区の人らはビビり散らかして亜人に怯えるのが普通らしいので、俺みたいなのはレアらしい。
宿屋に来た時は下働きで良いと言ったのだが、雑用をさせてくれないので自然と接客?専門となっていた。

「おはようございまーす。今日は朝から来てくれたの?お仕事は大丈夫?」

こくりと頷く動作を見せる相手を見上げる。最も奥のソファ席に座って待機していた相手は、薄透明で背後が透ける美形紳士。時折ボディタッチをかましてみるが、体温は氷の様に冷たい。
紳士の種族は霊族と言って、不老不死の無敵生命体らしい。会話は人間と出来ないものの、表情や仕草で好意を表してくれる。

あと何と言っても太客の1人。よく分からないが王様の様な存在で、大陸一つ支配していると言う。…あくまで他の種族客からの情報だが。
紳士の名前は不明なので「レイさん」と呼んでいるが、特に拒否されていないのでそのまま。

あと楽なのは、一緒に居ると他の客から絡まれない常連5名の1人なのだ。一般客だと複数人の相手をしないとならないので大助かりだったりする。
何か不思議と近付いて来ないんだよな。

「この前レイさんがくれた蜂蜜美味しかったです。あと、前貰った白砂糖終わっちゃったんだけど、また手に入るかなー?…あー。今度雨降るんだって、久しぶりだよね。」

ソファに肩肘を着いてニコニコと頷く紳士に、ただ適当に話を続ける。此方は無教養な庶民出身なのだが、相手は本当に嬉しそうに聞いてくれるものでつい甘えてしまう。

半分透明なので何歳か分からないけど、大人の貫禄?を感じる。さり気無くテーブルに積まれていく金貨や宝石に最初は戸惑ったものだが、今では話しながら懐に有り難く頂いている。
深い意味無く相手の手に触れると、ひやりと冷たい感触。それでも冷たく感じるだけで、氷と違い凍傷の心配は無い。人間に好意的な相手へのお返しとして、手を握ったり肩に触れるのはサービス心からだ。

触れてみた時には決まって此方を見つめ、何か言いたげに口の場所が動くのが印象的だ。それから、細められた目。壊れ物に触れるように優しく手を取られ、指先に唇を落とされる。

「ふふ。もー、それ恥ずかしいですって。…俺もレイさん大好きだよー。」

軽い口調でのリップサービスは、相手の動揺を誘う。半透明の身体が大きく揺れて、近くの客達が一層距離を取る。
1番最初に「大好き」と言った際、同じ状況になった時は驚いたものだが、今は慣れてしまい震えが収まるまでニコニコ笑顔で待つだけだ。

今日も稼がせてくれてあざーっす。





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