異世界には男しかいないカッコワライ

由紀

文字の大きさ
48 / 129

ケールとアルフレッド



うわっ…旨過ぎる。
フィッツ家秘蔵の酒を出され、あまりの口当たりの良さに暫し本題を忘れ掛けてしまったので、脳内でアンリに謝罪しておく。アルフレッドが度数の低い酒を水の様に呑んでいくのを見て、何を思ったのかケールが強い酒をテーブルに並べさせていた。
この世界で酔うまで飲んだ事が無い。記憶を飛ばしたり、吐いたり体調を悪くするなんて有り得ないと。

「…此方もお勧めです。西南の地方で見つけた物ですが…。」
「へえ?西南というと、麦酒が有名だと聞いたことが………コホン。」

厳しい正室ははの目も無く、普段学園では自然と酒から離れた生活だった為、つい流され掛けていたがアンリの姿を思い返し話しを戻そうと咳払いする。

「先程も説明した通り、ハレムの問題は主である俺が処分を下す事。アンリへの躾は、せめて行う前に正室つまにでも言伝頂きたかった。それに、退校処分も些か厳しいのでは無いだろうか?本人の気持ちもあるだろう。」

グラスの中身を全て煽ると、体内の温度が上がっていく気がした。正直言うと、此処まで飲んだのは初めてだった。自分がタチで、クラスが高いからこそ耐えられているのだと思う。
目の前に座るケールの顔色も変化が出ており、頬や首元にも赤みが差しており、口調も少々早くなってきていた。16歳の少年だと侮ったのか、アルフレッドが潰れる気配は未だ遠い。

「…不躾な質問となるが、良いでしょうか?」
「ああ、構わない。」

相手の騎士の瞳に僅かに力が宿る。お互いのグラスに、並々と新たな酒が注がれる。香り高い麦酒だ。

「…貴殿は、もしもある日父親が亡くなったら、どうされる?私は、フィッツ家の全てを背負う責務がある。長き歴史を汚さずに、家名を潰さぬ様に誇り高く生きなければならない。父からは、既に多くの物を譲り受けている、兄弟の躾も私の責務。アンリはフィッツの者として、恥ずべき行いをしてしまった。私の判断は正しかったし、アンリも納得し受け入れていた。
…失礼だが、貴殿はクラスも高く申し分無い人柄だが、未だ若く家を継ぐ覚悟や責任を知らぬ方。それにお優しいからこそ、見知った者に慈悲を持たれたのでは?」

淡々と告げられる内容は、その場の雰囲気で肯定してしまえば会話は此処までとなった筈だ。ただ、ケールにとって不幸な事に、アルフレッドの精神年齢は彼を上回ってしまっていたのだ。

グラスを見つめ、そこらのネコならその場で倒れ込んだり、胃の中の物を撒き散らしても良い代物を無言で飲み干した。一瞬額を押さえ俯くも、相手へと上げた顔色に大きな変化は無かった。
まるで初めて見つけた種族でも見つめるケールに、あくまでアルフレッドは笑みを深める。

「優しいからこそ、か。全然優しくは無いと思うけどなあ?仮に、見知らぬ人間が突然目の前で亡くなったとしても、驚きはするが悲しみはしないだろうし。今回は、アンリ・フィッツだからだよ。分かりやすく表情がころころ変わるのに必死で平静を務める可愛らしさや、誰よりも勤勉なのに自分以上にジレスを称賛する謙虚さ、堅苦しい護衛が付くのかと思った俺にとっては、日々の癒しだった。
だから、優しいんじゃない。」

おそるおそるグラスに注ぐ使用人に「もっと入れて」と微笑むと、たっぷり注がれた恐ろしい度数の酒を口に含みあっさり空にする。目配せする使用人達には既に気を配れないのは、本人も知らぬ内にアルコールが回っていたからだ。

「全部俺の我儘だ。気心知れた護衛に離れて欲しく無い、嫌な思いもして欲しく無い、学校を辞めて欲しく無い。あと…ああ、父が亡くなったら…だったか。」

第三者が見ていたなら、ケール・フィッツの額に浮かぶ油汗に気づいた事だろう。口元に手を添える仕草は、単純に飲み過ぎを示していた。それでも、相手の少年の話に必死に耳を傾けていた。自分以上に飲んでいた相手は、化け物じゃないか…と思いながら。

「全く問題無い。父親は既に、自分が何かあった時に備えて側室、妾、子どもに財産や土地を配分させている。面白いことに、父にとってはタチが産まれる想定など端からしていないし、家を継がせるなんて頭に無かったんだ。俺タチが居なくても、しっかりした正室が居るから問題無い。」

ケール・フィッツは家と父に縛られ、フィッツ家のタチとして家族の責任を負う。だからこそ、家族を大切にしなければならない。義務からハレムを持ち、父の仕事を継がなければならない。
アルフレッド・シュタルトには、家族からの愛情はあれど期待や責任は持たされなかった。だからこそ、家族を客観的に見ることが出来た。家族よりも、自分だけを愛してくれたハレムへの情が大きくなった。

アルフレッドの言葉に、ケールの唇が震えグラスを持つ手に力が籠る。



感想 65

あなたにおすすめの小説

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

王道学園のモブ

四季織
BL
王道学園に転生した俺が出会ったのは、寡黙書記の先輩だった。 私立白鳳学園。山の上のこの学園は、政財界、文化界を担う子息達が通う超名門校で、特に、有名なのは生徒会だった。 そう、俺、小坂威(おさかたける)は王道学園BLゲームの世界に転生してしまったんだ。もちろんゲームに登場しない、名前も見た目も平凡なモブとして。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。 そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ※第33話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

聞いてた話と何か違う!

きのこのこのこ
BL
春、新しい出会いに胸が高鳴る中、千紘はすべてを思い出した。俺様生徒会長、腹黒副会長、チャラ男会計にワンコな書記、庶務は双子の愉快な生徒会メンバーと送るドキドキな日常――前世で大人気だったBLゲームを。そしてそのゲームの舞台こそ、千紘が今日入学した名門鷹耀学院であった。 生徒会メンバーは変態ばかり!?ゲームには登場しない人気グループ!? 聞いてた話と何か違うんですけど! ※主人公総受けで過激な描写もありますが、固定カプで着地します。 他のサイトにも投稿しています。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

事なかれ主義の回廊

由紀菜
BL
大学生の藤咲啓嗣は通学中に事故に遭い、知らない世界で転生する。大貴族の次男ランバート=アルフレイドとして初等部入学前から人生をやり直し、学園で出会う無愛想で大人顔負けの魔法の実力者であるヨアゼルン=フィアラルドと親友になるが、彼に隠された力に翻弄され次々と襲ってくる災難に巻き込まれる。終いには、国家の存続を揺るがす大事件にまで発展することに・・・

転生したら乙女ゲームのモブキャラだったのでモブハーレム作ろうとしたら…BLな方向になるのだが

松林 松茸
BL
私は「南 明日香」という平凡な会社員だった。 ありふれた生活と隠していたオタク趣味。それだけで満足な生活だった。 あの日までは。 気が付くと大好きだった乙女ゲーム“ときめき魔法学院”のモブキャラ「レナンジェス=ハックマン子爵家長男」に転生していた。 (無いものがある!これは…モブキャラハーレムを作らなくては!!) その野望を実現すべく計画を練るが…アーな方向へ向かってしまう。 元日本人女性の異世界生活は如何に? ※カクヨム様、小説家になろう様で同時連載しております。 5月23日から毎日、昼12時更新します。