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ケールとアルフレッド
うわっ…旨過ぎる。
フィッツ家秘蔵の酒を出され、あまりの口当たりの良さに暫し本題を忘れ掛けてしまったので、脳内でアンリに謝罪しておく。アルフレッドが度数の低い酒を水の様に呑んでいくのを見て、何を思ったのかケールが強い酒をテーブルに並べさせていた。
この世界で酔うまで飲んだ事が無い。記憶を飛ばしたり、吐いたり体調を悪くするなんて有り得ないと。
「…此方もお勧めです。西南の地方で見つけた物ですが…。」
「へえ?西南というと、麦酒が有名だと聞いたことが………コホン。」
厳しい正室の目も無く、普段学園では自然と酒から離れた生活だった為、つい流され掛けていたがアンリの姿を思い返し話しを戻そうと咳払いする。
「先程も説明した通り、ハレムの問題は主である俺が処分を下す事。アンリへの躾は、せめて行う前に正室つまにでも言伝頂きたかった。それに、退校処分も些か厳しいのでは無いだろうか?本人の気持ちもあるだろう。」
グラスの中身を全て煽ると、体内の温度が上がっていく気がした。正直言うと、此処まで飲んだのは初めてだった。自分がタチで、クラスが高いからこそ耐えられているのだと思う。
目の前に座るケールの顔色も変化が出ており、頬や首元にも赤みが差しており、口調も少々早くなってきていた。16歳の少年だと侮ったのか、アルフレッドが潰れる気配は未だ遠い。
「…不躾な質問となるが、良いでしょうか?」
「ああ、構わない。」
相手の騎士の瞳に僅かに力が宿る。お互いのグラスに、並々と新たな酒が注がれる。香り高い麦酒だ。
「…貴殿は、もしもある日父親が亡くなったら、どうされる?私は、フィッツ家の全てを背負う責務がある。長き歴史を汚さずに、家名を潰さぬ様に誇り高く生きなければならない。父からは、既に多くの物を譲り受けている、兄弟の躾も私の責務。アンリはフィッツの者として、恥ずべき行いをしてしまった。私の判断は正しかったし、アンリも納得し受け入れていた。
…失礼だが、貴殿はクラスも高く申し分無い人柄だが、未だ若く家を継ぐ覚悟や責任を知らぬ方。それにお優しいからこそ、見知った者に慈悲を持たれたのでは?」
淡々と告げられる内容は、その場の雰囲気で肯定してしまえば会話は此処までとなった筈だ。ただ、ケールにとって不幸な事に、アルフレッドの精神年齢は彼を上回ってしまっていたのだ。
グラスを見つめ、そこらのネコならその場で倒れ込んだり、胃の中の物を撒き散らしても良い代物を無言で飲み干した。一瞬額を押さえ俯くも、相手へと上げた顔色に大きな変化は無かった。
まるで初めて見つけた種族でも見つめるケールに、あくまでアルフレッドは笑みを深める。
「優しいからこそ、か。全然優しくは無いと思うけどなあ?仮に、見知らぬ人間が突然目の前で亡くなったとしても、驚きはするが悲しみはしないだろうし。今回は、アンリ・フィッツだからだよ。分かりやすく表情がころころ変わるのに必死で平静を務める可愛らしさや、誰よりも勤勉なのに自分以上にジレスを称賛する謙虚さ、堅苦しい護衛が付くのかと思った俺にとっては、日々の癒しだった。
だから、優しいんじゃない。」
おそるおそるグラスに注ぐ使用人に「もっと入れて」と微笑むと、たっぷり注がれた恐ろしい度数の酒を口に含みあっさり空にする。目配せする使用人達には既に気を配れないのは、本人も知らぬ内にアルコールが回っていたからだ。
「全部俺の我儘だ。気心知れた護衛に離れて欲しく無い、嫌な思いもして欲しく無い、学校を辞めて欲しく無い。あと…ああ、父が亡くなったら…だったか。」
第三者が見ていたなら、ケール・フィッツの額に浮かぶ油汗に気づいた事だろう。口元に手を添える仕草は、単純に飲み過ぎを示していた。それでも、相手の少年の話に必死に耳を傾けていた。自分以上に飲んでいた相手は、化け物じゃないか…と思いながら。
「全く問題無い。父親は既に、自分が何かあった時に備えて側室、妾、子どもに財産や土地を配分させている。面白いことに、父にとってはタチが産まれる想定など端からしていないし、家を継がせるなんて頭に無かったんだ。俺タチが居なくても、しっかりした正室が居るから問題無い。」
ケール・フィッツは家と父に縛られ、フィッツ家のタチとして家族の責任を負う。だからこそ、家族を大切にしなければならない。義務からハレムを持ち、父の仕事を継がなければならない。
アルフレッド・シュタルトには、家族からの愛情はあれど期待や責任は持たされなかった。だからこそ、家族を客観的に見ることが出来た。家族よりも、自分だけを愛してくれたハレムへの情が大きくなった。
アルフレッドの言葉に、ケールの唇が震えグラスを持つ手に力が籠る。
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