異世界には男しかいないカッコワライ

由紀

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アルフレッドとケール



「…お気楽で羨ましいことだ。っ失礼、酔いが回ってきたらしい。」

俯き咄嗟に口を押さえるケールに、使用人や従者の顔色も変わる。タチ同士では、クラスが重要視される。それと、フィッツ家は王家に代々仕えている。Sクラスに加えて、王弟の第一子デルヴォー伯爵であるファビアンの夫のアルフレッドへの不敬。
ファビアンが知れば、フィッツ騎士団自体を取り潰しても足りない無礼であった。

酒で頭の回らなくなったケールは自分の発言の迂闊さに気付かないが、周囲の従者は気が気では無い。ジレス・フィッツが離縁されるのではないか?ケール様が騎士団の職を解かれるのでは?此処に居る自分達の首が飛ぶのでは?デルヴォー家に報告した方が良いのか?

恐れ慄く室内の雰囲気とは違い、アルフレッドは自ら注いだ酒を煽る。身分の高すぎるタチ二人に対し、従者が口を挟める訳は無い。ケールの正室を呼ぼうかと話も出たが、此度はアルフレッドからの内々での対談で大袈裟に出来ない。

カタリ…とテーブルに手を付き、椅子から立ち上がるアルフレッドは変わらぬ顔色で笑う。ゆったりとした足取りで俯くケールの目の前のグラスに、乱雑な手付きでワインを注ぐ。

「ほら、グラスが空になっているが?」
「…あ、ああ。」

自らは片手に持つグラスに麦酒を注ぎ、空になった瓶を目の合った従者に差し出す。傍目には余裕そうにテーブルへ寄り掛かる少年と、虚な瞳の青年の酒宴は続く。

気分の悪さに額を覆うケールは思う。
(何故こいつは酔わないんだ?…潰してこの件を有耶無耶にしようと思ったのに。)

飄々と呑み続けるアルフレッドは思う。
(何か頭回んねーけど、これめっちゃ良い酒だわー。うまっ。…あれ?ケールが何か言ってたよな)

「…アンリは、俺と話した時には、学校を離れることに納得していなかった様に見えた。…それはそうだ、タチであり一族の惣領には逆らえないだろ…うん。きちんと、アンリの気持ちを考えて欲しい。それに、鞭打ちは必要無い。言葉の分からない家畜やペットじゃない、貴方の弟なんだから…。」

ケールは処理の追いつかぬ脳内で、必死に相手の言葉を整理しようと反芻する。ただ、アルフレッド・シュタルトの声には音には心が込められていた。

「…だからといって、貴方を否定したい訳では無い。タチの、抱えるものは…多すぎるから。俺だって………かもしれない。」

ケールは気付いて居なかったが、アルフレッドの口調もあまり定まらなくなっていた。アルフレッドのぼんやりとした視界の中で、俯き手元の震える相手の呟きは悲しく空気に溶けていった。

「…タチに、産まれたくて産まれたんじゃない。」

従者や使用人には聞こえない程の小さな声だった。そのまま動かなくなったケールから目を移し、心配そうに此方を伺っていた従者の一人に手招きする。

「どうやら体調を悪くされたらしい。介抱してやってくれ、俺もこのままお暇しよう。」
「っは。畏まりました。」

慌てて動き出す室内の使用人達と、案内を申し出た従者の後を付いて行く。使用人が「失礼致します」と目を閉じたままの青年を、丁寧に椅子から下ろす姿を一度見て移動紋へと向かう。
自分でも飲み過ぎたと思う。色々と言いたい事はあったのに、ほとんど言葉に出来なかった。ああ、気分も悪くなってきた。うわ、頭痛くなってきた。


✳︎


ぼうっとする視界の中で、護衛の者が何か問い掛けて来ていた。理解出来ていないのに何度か適当な返事をしていると、見慣れた寮が視界に映る。ああ、俺の部屋にはカードキーが無いと入れないけど、手元がおぼつかず上着の内ポケットをまさぐるだけになってしまう。

回らない頭で護衛の誘導のまま、何処かの部屋に通される。自分の部屋の雰囲気では無いと分かっていたが、誰かの声に返事も出来ず通された寝所の寝台に倒れる様に横になった。
…うっ頭いってえ。気持ちわりい。

ふと目蓋を開け、眠っていた場所から身体を起こす。明かりの消えた室内は、何となく見覚えがあった。上着は脱がされ、綺麗に掛けられていたらしい毛布を剥がして揺れる視界に抗い、寝台から足を下ろす。

誰の部屋だっけ?やべ、ファビ?あー、だったら護衛君達怒られたよな、フォローしないと。

ほのかな頭痛と吐き気を堪えて、なんとか地に足をつけて部屋から出ようと力を振り絞る。とりあえず水を貰って、シャワーをしようと思考に耽っていると、寝台の下から転がる物体に気付く。

「…ん?落とし物か?」

深く考えずに手にした物は、暗い室内でも分かる程艶めいて黒々として肌触りは滑らかである。大きさは両手に余り、よく知った形状だと察した。

…………………あー、見つけちゃった。うん、あれだよな。

目を凝らし理解する。紛れもなく、ネコ用性玩具であり、アルフレッドの前世で言うディルドだった。



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