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エドウィン・キャベンディッシュ視点III
第五皇子の存在に会場内は落ち着かない雰囲気となっていたが、フォルクマー皇后からの挨拶が始まると静寂を取り戻した。
皇帝主催の第一会場とは異なり、人数の多い第ニ会場では立食パーティーで会話や食事を楽しみながら交流が出来る様に考慮されていた。勿論控え室も用意され、自由に休憩も出来るようになっている。
フォルクマー皇后の挨拶が終わると、楽団の曲も明るい物となり楽しげな会話が所々から聞こえてくる。
皇后への挨拶に向かおう…と足を向けようとすると、視界に入る人物に気が付き自然な動作で方向転換をした。
「ライヒテントリット子爵閣下…ご機嫌麗しく存じ上げます。」
「…おや、キャベンディッシュさん。そっか、一緒の会場だったんだね。会えて嬉しいよ、今夜はよろしくね。」
「はい。私は第2正室までのハレムでの参加だったので
1人でしたが、閣下はどなたかとのご参加でしたか?」
軽く質問を投げ掛けると「我が家からの代表として来たんだけど、僕はハレムに入っていないからね。」と簡単に返してくる。セリアル国の者は他国との交流に積極的では無いので、少人数での参加は不思議では無い。
風紀指導委員会委員長であり、セリアル国出身の狼獣人はおっとりと微笑む。知り合い程度ならば、普段と変わらぬ様子だと思えただろうが。…風紀指導委員会でそれなりに関わって来た仲だ、表情の読み取りづらい相手の感情は窺えるつもりだ。
やはり、先程同級生が言っていたように元気が無い…気がする。
「…何か、気になる事でもございましたか?いえ、無理に仰る必要はありませんが。」
顔色を伺ってみると、僅かだが唇が震えていた。「ヴィムが…」と小さく呟いた単語を打ち消し、直ぐに笑みを形作り別の話題に移ってしまう。
…言いたく無いのか。だが今、確かに「ヴィム」と聞こえたな。ヴィム…2年のヴィム・ザッハーか?閣下の従者でよく一緒に居たような。
ヴィムの名前を脳内で繰り返し、ふと此処数日の出来事が脳裏に過ぎる。正室同士での話し合いの折、デルヴォー伯爵閣下から付け足された言伝があった。シャヒーン殿が一人従者を増やすと言ったらしいが、それがヴィム・ザッハーという名では無かったか?
火急に行う打ち合わせが多かった為、重要では無い事柄で聞き流してしまっていた。もしもそれが彼のヴィム・ザッハーであったら?
確認出来れば、ライヒテントリット子爵閣下の憂いの理由が少しは判明するかもしれない。本日の夜会が終わり次第、シャヒーンに聞いてみようと胸に留めて置くことにした。
暫く会話を楽しんでいると、楽団の方からさざめきが広がっている。何事かと視線を向ければ、やはりと言うか何というか…。
「…マルケッロ殿下!おやめ下さい!」
「え~?…何がいけないの?」
悲鳴に近い声が耳に届くが、新興貴族達は気にせず下品な笑い声を上げ談笑し、上流貴族達は見ない振りを徹底している。
見知った騎士が近付いて来て「どうにかして欲しい」と囁いて来るが、公の場に引っ張り出した者でどうにかして欲しい。
不思議そうに小首を傾げるライヒテントリット子爵に離れる旨を伝え、騒ぎの中心へと足を進めた。
「…マルケッロ殿下、ご機嫌麗しく存じ上げます。」
「わあ、エドウィン殿久しぶり~。ご機嫌麗しいよ、ありがとね。あ、ねえねえ、中々良いでしょう?」
「殿下、ですからどうかお淑やかになさって下さい…!」
何故か楽団の指揮棒を持って自由に指揮を行う第5皇子と、側付き達は周囲で右往左往している。会場内は参加者のみだった筈だが、マルケッロ殿下の為に皇后の意向だろう。
マルケッロの手にする指揮棒が軽快に動くと、楽団の曲調もテンポの速い物となる。皇族の主催する荘厳な夜会には似付かわしく無い曲調に、他国の貴族の中には戸惑いや軽蔑の視線も見て取れた。
これは…バルディオスにとっても良くない状況では無いか。
だからと言って、第5皇子の行動を止める方法は思い付かない。力付くに止めてしまえば、次は何を仕出かすかも恐ろしい。良くて参加者の衣装を一人ずつ誉めて回るか、会場の中央で歌い始めるか、給仕の真似事を始めるか…。悪い方は考えたく無いな。
ふと気が付くと、参加者と和やかな歓待を続けていたフォルクマー皇后がエドウィンの近くに距離を縮めていた。普段凛とした涼やかな美しさを持つ人物だが、目の奥の光を失っていた気がする。
「…エドウィン殿、もう放って置きなさい。今日は好きにさせて置くと決めました。」
「よろしいのですか?」
機械仕掛けの様に首を動かし、美しい笑みをエドウィンへと見せてくれる。その笑顔に陰りがあるなど、誰か気付けるだろうか。
「…他者に気安く接せず、迷惑を掛けないと約束した結果がこれです。あの子は、今後公に出る日は無いでしょう。ハレムの入室も生涯期待しません。」
「…その、いえ…心中お察し致します。ですが、未だ12歳とお年若くいらっしゃいますから…。」
慰めになるのか分からないが、いずれ年齢相応になるだろうと口にする。だが、マルケッロ皇子については年齢や環境が理由に出来ないと周囲は理解していた。
悪い子では無い。悪気も無いと分かっていても、親心は別なのだから。
項垂れ頭を抱えるマルケッロ殿下の側付きに軽く頭を下げ、諦めて場を離れるフォルクマー皇后の後に続くのだった。
出身国で気安く出席した夜会の筈だったが、正直に言うと一日中鍛錬する方が楽だったと思ってしまうのである。
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