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いざバルディオス帝国IX
昨日と同様に、馬車に乗り込み会場であるエーデルベルク城へと向かう。違った点と言えば、参加するメンバーだろう。
一台目には、ルークと側室2名。二台目には、アルフレッドと隣にラティーフ、正面にジレスと隣にチコが乗っている。
三台目には、各々の従者。1日目はタチと第一正室のみ会場が分けられていたが、2日目は舞踏会で触れ合える人数も多くなる。その為、各ハレムから従者1名護衛1名の参加が許されていた。
アルフレッドのハレムには、護衛としてアンリ・フィッツ。従者としてヴィム・ザッハーが参加する事になっている。
アンリはラティーフ付きとなっており、ファビアンからの信頼も有り元々アルフレッドの護衛であった。小柄ではあるが、参加する護衛として申し分無いとエドウィンからもお墨付きだ。
ヴィム・ザッハーについてだが、本人から無礼への詫びとして従者に名乗り出てくれた…。ファビアン曰く「それで気が済むならば、いっそ仕事を与えましょう。」らしい。
正直言うと、他のネコが見ていない時にザッハーから送られる嫌悪を込めた視線には慣れない。自分の思い込みだと信じたいが、前世でごく一般的な人間関係を経験している身だ。この世界で育った純粋なタチとは違い、感情の見分け方は心得ている。
ザッハーはタチが嫌いなのか?
それとも、俺が嫌われているのか…。
後者だったら結構悲しいな。
そう思うが、夜会が終われば今後関わる事も無いかと嘆息する。
「………な様……旦那様。」
「…っあ、すまない。少し考え事をしていて。」
正面に座るジレスが心配そうに見つめてくる。
「…やはり、フェルナンド様の事が…。」
あっ!そっちね。うん、勿論オボエテイルヨ。
ただ、ちょーっと現実逃避してたわ。
「まあ、心配しても今は何も出来ないからな。とにかく舞踏会に集中するしかない。」
「…はい、仰せの通りに。」
頷き目を伏せるジレスを眺める。フィッツ家の家紋が描かれたマントに、騎士の家らしく儀礼服に身を包んでいた。青い髪を片側だけ編み込み、後ろの首の辺りで纏める飾り紐は銀糸が使われている。
その隣で、緊張気味だが窓の外を興味深そうに眺めるチコ。着せられている感はあるものの、ネコ用の燕尾服は程良く似合っていた。使用人達によって巻かれた紫髪は可愛いらしさが上がり、うっすらと残っていた隈は化粧ですっかり隠され側室として不足は無い。
「…すごい。あれが、エ、エーデルベルク城なの…ですね。」
「そう。今は良いけど、着いたら不躾に見渡さないでよね。」
「は、はい!」
馬車の中でそわそわと落ち着かないチコに、キッパリと言い放つラティーフは見る者が見れば厳しいとも取れる態度だ。それでも、素直に頷くチコからラティーフへは敬意と信頼が向けられていた。
アルフレッドは不思議だったが、この二人の相性は悪くないようだ。反対に、ラティーフとジレスの会話は表面上のやり取りばかりで日常会話は少なく感じる。
…本当はハレムの全員が仲良くなって欲しいけど。アンリの件もあるから難しそうだよな。
手慰みに隣に座るラティーフの髪先に触れてみれば、相変わらず手入れが行き届き枝毛一本すら見当たらない。
此方は普段以上に美少年ぶりが加速していた。目に入るのはネコ用燕尾服に、神聖国家フォーランの者が身に付ける腰まで届くストールの様な物。左耳には三日月を象った黒いピアスがよく映えていた。
ハレムの中で最年少のラティーフだが、年齢を感じさせない威厳と気位を備えており頼もしい限りだ。
髪先から手を離すが、特にラティーフの表情から変化は見られない。
偶には甘えてくれ…ないよな。
「エーデルベルク城到着致しました。」
「ああ、ありがとう。」
馬車の揺れが止まり、到着の知らせを受ける。舞踏会で昨日よりも参加人数が多いからなのか、馬車の出入りが多い気がする。多少貴族の階級によって、入城する時間は前後しているらしい。
馬車から降りるラティーフに自然と手を貸すと、僅かに目を見張るが直ぐに表情を切り替えていた。ジレスも動揺を見せるが顔色は変えず静かに頭を下げる。
チコはというと「ありがとう、ございます」とはにかみ手を取っていた。
先日の様に周囲の興味を引いてしまうかと危惧したが、どちらかと言えば好意的な視線が多かったようだ。すれ違う者の中には、昨夜同会場で挨拶を交わした者も居り「ご機嫌よう」「本日も宜しくお願い致します」等積極的に声が掛けられる。
特にバルディオス出身らしいタチには、度々帝国語で話し掛けられた。共通語から脳内を切り替えるのは面倒だが、不快な雰囲気では無いので素直に受け入れる。
『シュタルト殿、側室方も美しい者達ばかりですね。』
『ありがとうございます。貴殿のハレムも見目麗しい限りです。…では、後程。』
恙無く言語を切り替えて会話を交わす姿に、周囲のネコから熱い眼差しが送られる。気にしない様に振る舞うが、後ろを歩くチコが小さく「…すごい」と呟く物だから少々照れ臭い思いをしたのだった。
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