異世界には男しかいないカッコワライ

由紀

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舞踏会のち







流石に手を出したのはやり過ぎたか…?

扉を出て脳裏に過ぎる後悔だが、ネコ達の前なので顔には出さずに居た。ハレムの前ではなるべく格好良くありたい…。紳士的に振る舞う程、本音を全て曝け出せていないのは自覚している。

後ろに着いて来ているフィッツの2人、特にアンリの憤慨は肌で感じていた。フレデリク王子と彼らの関係性は知らないが、あまり良い物では無さそうだ。
足を止めて声を掛けようと思うが、視界に入る顔へ先に意識が向く。

「っ旦那様!」
「ラティーフ。心配掛けたな、アンリに怪我は無かったから大丈夫だよ。」
「…そうですか。」

…あれ?
待機していたらしい側室2人と共に居る筈の人物が見当たらず首を傾げると、直ぐに察して頷き返してくる。

「ザッハーは帰らせました。仕事を全う出来ないのなら、必要ありませんので。」

普段の様に尊大な口調とは異なり、目を伏せて声も固くアルフレッドの顔も見ようとしない。

…もしかして、ザッハーの仕事ぶりに責任を感じてるのか?
じゃあ、やっぱりザッハーを従者にさせたのはラティーフって事になるよな。

そうか、と相槌を打っておく。
此の場で指摘するのは簡単だが、人の目も有る。何より、今回の件は正室に黙っている訳にはいかなくなった。

「また、後で話そう。」
「はい…。」

すっかり俯いたままとなったラティーフと、気まずく思い言葉を選び次の会話に困るアルフレッド。心配げに2人を伺うが、割り込むのも躊躇われるジレスとアンリ。

「…あ、あの、ラストダンス…が、は始まる…みたいです!」

緊張感の漂う空気の中、口を開いたのは思ってもいない人物だった。獣耳をピコンと立たせ、拳を握りしめて必死に口角を上げる姿に視線が集まった。

チコ…!何て良い子なんだ…!

「…え、えっと、あのっ…皇族の方も、踊られるの、ので…見に、行きません…か。」

つっかえながら言い終えるも、自信無さげにジレスとアンリへ顔を向けている。アルフレッドとラティーフを見られないのも、彼の自信の持てない心情を表している。

「そうだな、行こうか。」
「っは、はい。」

チコのあまりに必死な様子に笑顔を浮かべると、側室達の緊張が少し和らぐ。
ハレムの中では隅っこに居て、皆の顔色を伺う事が多いチコ。そんな子が、勇気を振り絞ってくれたのだ。気持ちを無碍に出来る筈は無い。

歩き出すが、隣に居るだろうラティーフは半歩遅れて着いてくる。

うん、結構気にしてるな。

一応人目を気にしてさり気無く手招きしてみる。一瞬輝いた瞳は直ぐに色を失い、強く閉じた瞳と小さく左右に振られた頭で拒否を示してくる。

まあ、強制は出来ないか。責任を感じているみたいだけど、ザッハーの行動は予想外っぽいしな。仮にラティーフの命令通りだったら、此処まで落ち込んで無いだろうし。

…正直言うと、ラティーフが気落ちするのは意外であった。今までの彼のイメージなら「自分では無く、ザッハーの責任」と言い放って、終えてしまいそうだったからだ。
関係が浅かった故にそう思うのは、流石に失礼だったか。

会場内に戻ると、丁度ラストダンスが始まった所だった。
てっきりフレデリクに手を上げた事で視線を集めてしまうと思ったが、噂が広まっていないのか特に参加者達は気にしていないらしい。
本人は知る由も無いが、広まっていたとしてもアルフレッドのクラスを考えれば問題にはならないだろう。

すれ違ったユミル王子に笑顔で会釈され、一部の新興貴族には距離を取られ、バルディオス貴族には好意的に接せられる
2日目の今、4大国の王族以上に夜会の中で名が知れ渡っていた。

容姿端麗で人当たりが良く、語学力の高いS級のタチ。若いネコの親となれば、シュタルト家へ早速手紙を認める者が後を絶たぬのだった。
暫くシュタルト家も忙しい日々となりそうだ。

わああ!

ラストダンスが終わり、会場内に響き渡る盛大な拍手。
機会を伺っていたルークと話す時間も取れず、探す間も無く会場内には姿が無かった。そうこうしている内に皇帝からの最後の挨拶がなされ、仕方無く帰路に着くのだった。







滞在する城へ戻り、早速ベッドにダイブ!…とは勿論いかない。

舞踏会での諸々が伝わっていた、正室のお怒りモードと対峙するからだ。身体中から放たれる冷たい空気は、流石は未来の騎士団長と言うべきか。
入室する前から感じる緊張感に、部屋の中で共に居た従者達の顔色は悪い。

「ただいまエドウィン。」
「お帰りなさいませ、背の君。夜会でのご活躍耳にしまして、大変誇らしく思います。お疲れ様でございました。
どうか、ごゆっくりとお身体をお休め下さい。」
「ああ、ありがとう。」

恐る恐る声を掛けると、常と変わらぬ美しい微笑みを返される。アルフレッドの後ろから入って来た側室達を一瞥もしないのが、かなり恐ろしいが。
そういえば、と室内を見渡す。

「ファビアンはどうしたんだ?」
「はい。デルヴォー伯爵閣下でしたら、フォンテーヌ王家第6王子殿下とお話しがあると仰って出て行かれました。
『アルフレッド様のお出迎えを出来ず申し訳ない…』とも。」

そうか、と頷く。
フレデリク王子に会いに行ったのか。アンリの事かな?ファビの従者だった事だし。
ファビを好きとか言ってたから、流石に手は出さないよな。うーん…大丈夫かな。俺に蹴られた腹いせとか言って、嫌な事されなきゃ良いが。まあ、あんだけ釘刺しとけば懲りただろ。

ふとエドウィンの表情の変化に気付く。視線の先のラティーフを見留め、凛々しい顔に険を含んだ。

「…背の君。」
「うん?」

いつも通りの笑顔が嫌に眩しかった。

「側室達と少し話しますので、お先にお休みになって下さい。何かあれば従者を待機させます。」
「…分かった。ありがとう。」

こっわ。
お話しする顔じゃ無いね。








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