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ファビアン・デルヴォー視点III
ここは…?
ぼんやりと意識が浮上する。
頭の中に浮かぶのは、キャベンディッシュ卿との会話。
従兄弟のフレデリクが、夫君に恥をかかせ暴言を吐いたと言う。アルフレッド様の第1正室でありフレデリクの血縁者の自分なので、少し灸を据えてやらねばと会いに行った筈だった。
エーデルベルク城の西側に位置するゲスト用の小城。
会いに行けば、直ぐに破顔して機嫌を取ろうとしてきた。
『ファビアン、何か飲むか?喉乾いていないか?』
『いつ見ても見飽きないな!本当に美人だよ、ファビアン』
『おい!何を勝手にファビアンに話し掛けているんだ!』
適当に相槌を打った。相手はタチで、年下で、自国の王子で、従兄弟の血縁者だ。関係を断つ事は不可能なのだから。
話の区切りが良い所で、夜会について触れた。
夫への発言と振る舞いは看過出来ないこと。国を代表する者としての自覚が足りていない事。振る舞いを改めないのならば、私的な交流は控えさせて貰う事。
ネコからタチへ対しての申し立ては、その後何をされてもおかしく無い愚かな行為だ。だが、ファビアンは自分へ対するフレデリクの感情を知っている。幼い頃からの経験で、此方へ対し手を出さないだろうと自信があった。
…何かおかしい。妙に眠いな。
フレデリクが戸惑いながらも何か言い始めたが、そこで視界が霞み机上に突っ伏していた。
…
…
朦朧としていた意識が覚めた瞬間、顔面に近付く影に小さく悲鳴が漏れる。
「…っフレデリク?!」
「ファビアン…あの、えっと…」
全身が総毛立つ。柔らかい背中の感触に、此処が寝室で寝台の上に居るのは予想出来た。更に、頭上で固定された両手は動きを封じられている。幸いにも両足の自由は効きそうだ。
今にも唇が触れ合いそうな距離。
怒りと嫌悪に気が昂りそうだが、冷ややかに相手を見据える。触れてしまっても、相手は家族の様な相手、性的な対象とは見ていないが、今はもうアルフレッド様以外に触れさせるつもりは無い。
「愚か者が。仮にも好意を伝えた者へ、薬を使い組み敷くとは。」
「ち、違うんだ!勝手に入れたのは第2正室なんだよ!僕はやってない。その、介抱しようと思って…。」
ホーエン男爵が?
脳裏に思い浮かぶのは、フレデリクの第2正室のマルグリッド・ホーエン。控えめで誠実そうな人柄だった。何を思っての行動かは分からないが、何をしたいかは想像出来てしまう。
やはり、この王子のハレムは居心地が悪いのだろう。
「…介抱、ですか。」
「そ、そうなんだよ!介抱する所だったんだ…。」
「動きを封じて?」
「っあ、あの…」
息を荒げて顔を覗き込んでくる相手に眉根を寄せる。此方の腹部に、固い物を何度も擦り付けてくる動作は無意識なのか。ぞわりと総毛立つ自分に気付く。
「手の拘束を解きなさい。今なら大事にしないで置きます。他国の城内で、賓客が騒ぎを起こしたくないだろう?ジルックェンド王子殿下。」
「っ嫌だ、名前で呼んでくれって言っただろ!言う事聞くから、そんな言い方は止めてくれ!」
悲痛な声は、聞く相手が異なれば心を動かされる物だった。
項垂れながら、緩慢な動きでファビアンの両手を縛る物を解いていく。
愚かだが、意識のある相手へ事を及ぶ覚悟は無かったらしい。あっさりと解放された事へ内心安堵する。それと同時に、フレデリクの此方へ対する想いの深さも嫌でも理解していた。
ハレムに入ったのだから、良い加減諦めて欲しいものだ。
「信じてくれ、ファビアンを愛しているんだ。この世で一番!」
真剣な眼差しで必死な表情を目にしても、心は反対にひえびえと冷めていく。
ああ、フレデリクの哀れなハレム達。私へ向ける気持ちのほんの一欠片さえあったなら、薬を盛る愚行など犯さなかったでしょうに。
「…君のその言葉、ホーエン男爵がどれほど待っているだろうね。」
「は?何故そこで第2正室が出るんだ?…ああ、分かった。マルグリッドが気に入らないんだろ!よし、それならあいつとは離縁するよ。それなら…」
アルフレッド様が叩いてくれていて良かった。
相手の頬の赤みを見て、込み上げる気分の悪さが多少和らいだ気がする。
「ホーエン男爵と離縁などしたら、死ぬまで許さない。」
「わ、分かった。しない!」
素直に頷くフレデリクに呆れながら、良い時間だからと話しを切り上げる。
此処であった事は他言しないので今後の振る舞いに気を付けるように口にすると、苦々しそうにだが了承させた。
口約束だが、少しは態度を改めると信じたい。何故か私の父に良い様に見られたいらしいので、今回の件を知られたくはないのだろう。
はあ、疲れたな。
見送りを断り、城外へ待たせていた馬車に近付く。馬車の前で待機する人物は、その場で深々と頭を下げていた。
「…ホーエン男爵、謝罪は要りません。」
「っ申し訳ございませんでした、全て私の独断でございます。ホーエン家は無関係です。」
震える相手に特に感情は浮かばない。
「そこまでして、夫の機嫌を取りたかったのかい?」
「……………はい。」
長い沈黙の後の、囁やかな肯定は悲しい響きが込められていた。
「…フレデリク様の想いが遂げられれば、私達も人間として扱って頂けると思ったのです。」
「………」
想像していた理由よりも悲しい言葉が耳に入る。
哀れに思えない。自分だとて、アルフレッド様に出会わなければ同じ道を辿った未来もあっただろうと。
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