異世界には男しかいないカッコワライ

由紀

文字の大きさ
99 / 129

ファビアン・デルヴォー視点III





ここは…?

ぼんやりと意識が浮上する。
頭の中に浮かぶのは、キャベンディッシュ卿との会話。
従兄弟のフレデリクが、夫君に恥をかかせ暴言を吐いたと言う。アルフレッド様の第1正室でありフレデリクの血縁者の自分なので、少し灸を据えてやらねばと会いに行った筈だった。

エーデルベルク城の西側に位置するゲスト用の小城。
会いに行けば、直ぐに破顔して機嫌を取ろうとしてきた。

『ファビアン、何か飲むか?喉乾いていないか?』
『いつ見ても見飽きないな!本当に美人だよ、ファビアン』
『おい!何を勝手にファビアンに話し掛けているんだ!』

適当に相槌を打った。相手はタチで、年下で、自国の王子で、従兄弟の血縁者だ。関係を断つ事は不可能なのだから。

話の区切りが良い所で、夜会について触れた。
夫への発言と振る舞いは看過出来ないこと。国を代表する者としての自覚が足りていない事。振る舞いを改めないのならば、私的な交流は控えさせて貰う事。

ネコからタチへ対しての申し立ては、その後何をされてもおかしく無い愚かな行為だ。だが、ファビアンは自分へ対するフレデリクの感情を知っている。幼い頃からの経験で、此方へ対し手を出さないだろうと自信があった。

…何かおかしい。妙に眠いな。

フレデリクが戸惑いながらも何か言い始めたが、そこで視界が霞み机上に突っ伏していた。






朦朧としていた意識が覚めた瞬間、顔面に近付く影に小さく悲鳴が漏れる。

「…っフレデリク?!」
「ファビアン…あの、えっと…」

全身が総毛立つ。柔らかい背中の感触に、此処が寝室で寝台の上に居るのは予想出来た。更に、頭上で固定された両手は動きを封じられている。幸いにも両足の自由は効きそうだ。

今にも唇が触れ合いそうな距離。
怒りと嫌悪に気が昂りそうだが、冷ややかに相手を見据える。触れてしまっても、相手は家族の様な相手、性的な対象とは見ていないが、今はもうアルフレッド様以外に触れさせるつもりは無い。

「愚か者が。仮にも好意を伝えた者へ、薬を使い組み敷くとは。」
「ち、違うんだ!勝手に入れたのは第2正室なんだよ!僕はやってない。その、介抱しようと思って…。」

ホーエン男爵が?
脳裏に思い浮かぶのは、フレデリクの第2正室のマルグリッド・ホーエン。控えめで誠実そうな人柄だった。何を思っての行動かは分からないが、何をしたいかは想像出来てしまう。
やはり、この王子のハレムは居心地が悪いのだろう。

「…介抱、ですか。」
「そ、そうなんだよ!介抱する所だったんだ…。」
「動きを封じて?」
「っあ、あの…」

息を荒げて顔を覗き込んでくる相手に眉根を寄せる。此方の腹部に、固い物を何度も擦り付けてくる動作は無意識なのか。ぞわりと総毛立つ自分に気付く。

「手の拘束を解きなさい。今なら大事にしないで置きます。他国の城内で、賓客が騒ぎを起こしたくないだろう?ジルックェンド王子殿下。」
「っ嫌だ、名前で呼んでくれって言っただろ!言う事聞くから、そんな言い方は止めてくれ!」

悲痛な声は、聞く相手が異なれば心を動かされる物だった。
項垂れながら、緩慢な動きでファビアンの両手を縛る物を解いていく。
愚かだが、意識のある相手へ事を及ぶ覚悟は無かったらしい。あっさりと解放された事へ内心安堵する。それと同時に、フレデリクの此方へ対する想いの深さも嫌でも理解していた。

ハレムに入ったのだから、良い加減諦めて欲しいものだ。

「信じてくれ、ファビアンを愛しているんだ。この世で一番!」

真剣な眼差しで必死な表情を目にしても、心は反対にひえびえと冷めていく。
ああ、フレデリクの哀れなハレム達。私へ向ける気持ちのほんの一欠片さえあったなら、薬を盛る愚行など犯さなかったでしょうに。

「…君のその言葉、ホーエン男爵がどれほど待っているだろうね。」
「は?何故そこで第2正室が出るんだ?…ああ、分かった。マルグリッドが気に入らないんだろ!よし、それならあいつとは離縁するよ。それなら…」

アルフレッド様が叩いてくれていて良かった。
相手の頬の赤みを見て、込み上げる気分の悪さが多少和らいだ気がする。

「ホーエン男爵と離縁などしたら、死ぬまで許さない。」
「わ、分かった。しない!」

素直に頷くフレデリクに呆れながら、良い時間だからと話しを切り上げる。
此処であった事は他言しないので今後の振る舞いに気を付けるように口にすると、苦々しそうにだが了承させた。
口約束だが、少しは態度を改めると信じたい。何故か私の父に良い様に見られたいらしいので、今回の件を知られたくはないのだろう。

はあ、疲れたな。

見送りを断り、城外へ待たせていた馬車に近付く。馬車の前で待機する人物は、その場で深々と頭を下げていた。

「…ホーエン男爵、謝罪は要りません。」
「っ申し訳ございませんでした、全て私の独断でございます。ホーエン家は無関係です。」

震える相手に特に感情は浮かばない。

「そこまでして、夫の機嫌を取りたかったのかい?」
「……………はい。」

長い沈黙の後の、囁やかな肯定は悲しい響きが込められていた。

「…フレデリク様の想いが遂げられれば、私達も人間として扱って頂けると思ったのです。」
「………」

想像していた理由よりも悲しい言葉が耳に入る。
哀れに思えない。自分だとて、アルフレッド様に出会わなければ同じ道を辿った未来もあっただろうと。








感想 65

あなたにおすすめの小説

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

王道学園のモブ

四季織
BL
王道学園に転生した俺が出会ったのは、寡黙書記の先輩だった。 私立白鳳学園。山の上のこの学園は、政財界、文化界を担う子息達が通う超名門校で、特に、有名なのは生徒会だった。 そう、俺、小坂威(おさかたける)は王道学園BLゲームの世界に転生してしまったんだ。もちろんゲームに登場しない、名前も見た目も平凡なモブとして。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。 そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ※第33話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

聞いてた話と何か違う!

きのこのこのこ
BL
春、新しい出会いに胸が高鳴る中、千紘はすべてを思い出した。俺様生徒会長、腹黒副会長、チャラ男会計にワンコな書記、庶務は双子の愉快な生徒会メンバーと送るドキドキな日常――前世で大人気だったBLゲームを。そしてそのゲームの舞台こそ、千紘が今日入学した名門鷹耀学院であった。 生徒会メンバーは変態ばかり!?ゲームには登場しない人気グループ!? 聞いてた話と何か違うんですけど! ※主人公総受けで過激な描写もありますが、固定カプで着地します。 他のサイトにも投稿しています。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

事なかれ主義の回廊

由紀菜
BL
大学生の藤咲啓嗣は通学中に事故に遭い、知らない世界で転生する。大貴族の次男ランバート=アルフレイドとして初等部入学前から人生をやり直し、学園で出会う無愛想で大人顔負けの魔法の実力者であるヨアゼルン=フィアラルドと親友になるが、彼に隠された力に翻弄され次々と襲ってくる災難に巻き込まれる。終いには、国家の存続を揺るがす大事件にまで発展することに・・・

転生したら乙女ゲームのモブキャラだったのでモブハーレム作ろうとしたら…BLな方向になるのだが

松林 松茸
BL
私は「南 明日香」という平凡な会社員だった。 ありふれた生活と隠していたオタク趣味。それだけで満足な生活だった。 あの日までは。 気が付くと大好きだった乙女ゲーム“ときめき魔法学院”のモブキャラ「レナンジェス=ハックマン子爵家長男」に転生していた。 (無いものがある!これは…モブキャラハーレムを作らなくては!!) その野望を実現すべく計画を練るが…アーな方向へ向かってしまう。 元日本人女性の異世界生活は如何に? ※カクヨム様、小説家になろう様で同時連載しております。 5月23日から毎日、昼12時更新します。