異世界には男しかいないカッコワライ

由紀

文字の大きさ
113 / 129

暗闇







『いやああーー!なに、何が起きているの?!』
『早く灯りを点けてよー!』
『皆様!どうか落ち着いて下さい!どうか、お静まりを!』
『何処に居るのー!きゃああー!…』
『おい!早くどうにかしろ!』

まるで阿鼻叫喚。
遠くから悲鳴や怒号がとめどなく聞こえてくる。
嫌な汗が背中を伝う。大事な事を忘れていた。

「…ファビアン!そこに居るか?!」
「はい!アルフレッド様、お怪我はありませんか?」
「ああ、大丈夫だよ。一体何が…」

周囲から聞こえる動揺する声、警備兵も使用人も誰もが暗闇の中で動けずに居るのだろう。

「…旦那様ー!ファビアン様ー!何処ですかー!…ファビアン様ー!…旦那様ー!シュタルト様ー!…」

よく知った声が喧騒の中で、僅かに耳に入った。

「ジレス!此処だー!アルフレッドだ!ファビアンも一緒に居るー!」

「!良かった…」

声を頼りに近付いて来てくれているらしく、少しずつ声が鮮明になる。
どうやら使用人に聞きながら二人の跡を追って来たが、このような事態で動くべきか迷っていたらしい。

「私は訓練をしているので夜目は利く方ですが、これは夜の暗さではありません!」
「と言うと?」

ファビアンの固い声音に、ジレスが距離を縮める。

「これは月明かりの無い夜ではありません。まるで黒い布や何かに覆われているのに近い気がします。」
「まさか、人為的なものか?」
「可能性はあるかと。」

顔は見えずともジレスの緊張が伝わってくる。

「皆は無事かな。」
「彼方にはキャベンディッシュ様もアンリも居ります。人が密集している分危険もありますが、異常には気付きやすいかと。それよりも、お二方共…開けた場所の此方が危険です。」

エーデルベルク城自体、堅固な城ではある。各門には衛兵が守りを固め、騎士団の強さは4大国随一とすら言っても過言では無い。
だが、現在視界を封じられて何処までそれが通じるのか。

場所を把握する為、ファビアンがジレスの手を取った。アルフレッドはジレスのマントの裾を握り締める。

「…声が、減った気がしますね。」

ファビアンの言葉に、ふと周囲へ耳を澄ませる。
遠くからの騒がしさは止まないが、周辺に居た筈の会話が途切れていた。

「…誰か居られますか!どなたか!執事の方!宮廷使用人の方々!」

ジレスの張り上げた声が虚しく辺りに木霊する。
いやな予感がする。心音が早まり、妙に喉が渇きを訴える。

『ミツケタ』

闇から滲む声はまだ幼さの残るものだった。
思い浮かんだ声とは別で、冷徹で嫌に獰猛に感じた。
動きを止めた二人を庇い、その場で懐から短剣を取り出し構えるジレス。

『ファビアン・デルヴォーとアルフレッド・シュタルト。チョードヨイ。イショニモテイコオ。』

何?

拙いバルディオス語だがしっかりと聞き取れた。
俺とファビアンだと?バルディオスと全く関係無いだろ。ナンバーナインと名乗った青年を思い出すと、この暗闇も納得出来る。だが、彼はバルディオスを狙っていたのでは無かったのか?

もしや、身分の高い人物を捕えるのが目的か?

思案を遮る金属音が響く。

「っファビアン様、手を離します!…上着を掴んで居て、下さい!…!?ッチ…」

その場で最小限の動きで相手に対峙しているのか、暗闇の中ジレスの呼吸音と刃のぶつかる音が止まない。
視力に頼れない状況で二人を庇っているのだ、どちらが優勢か分かりきっていた。

「…っく…!」
「「ジレス!」」

掴んだ裾が強く引かれる。膝を着いたのか、それでも立ちあがろうと動く気配がする。

『ナカナカオモシロカナ、ソロソロハジメルカ。』

「なっ!」
「うわ?!」

ファビアンとアルフレッドが同時に声を上げる。
足元が沈む感覚、何かが纏わりついて引き寄せられていく。焦る此方を嘲笑う様にゆっくりと、闇へと飲み込まれていくようだ。

「…アルフレッド様!」
「ファビアン!此処だ!」

存在を確かめる為呼ばれた名。その場から動こうともがくが、視界の効果か自身の変化が分からない。黒色が、焦燥を駆り立てる。
お互いの名前を呼び、手を伸ばすが何度も空を切る。

「旦那さ、ま…!っファビアン様…!」

やっと掴まれた手は、想定とは違う相手だった。
嫌な血臭と、滑る手の平、息絶え絶えの呼吸。
二人の手を掴んだのだろう、力の入り切らないまま必死に手を引いている。

ああ!くっそ!

「ジレス!離せ!ファビを守ってくれ!」
「いけません!ジレス、アルフレッド様を優先しなさい!」

掴まれた手を振り払うが、思ったよりも力強く握り返される。沈むままに任せようとする身体。
アルフレッドとファビアンからの叫びに、ジレスはどちらの手も離さず両足に力を込めていた。

沈みゆく身体は、既に腰元まで飲み込んでいた。
近くでジレスに叫び続けるファビアンの声を耳に、見えない相手へ笑みを浮かべ優しく語り掛ける。

「…可愛いジレス。俺のお願い聞けるね?どうかファビアンを助けて欲しい。俺の為、俺の代わりに。」

僅かに握る手の力が緩んだ。

「良い子だ。そう、それで良い。頼んだ……」

手が離れ、顔まで何かに浸かった感覚。
ぼやける視界と、滲む思考。意識を手放さない努力は意味を成さず、次第に緩やかな闇に取り込まれていった。







『ジカン…アア、ショウガナイ。ヒトリハシッパイカ。』

ゴーン…

鐘の音が辺りに響き渡る。
静寂の終わりを告げる荘厳な音色。
3度目の音。

月明かりが闇を払い、美しい庭園が姿を現した。
意識を失い倒れ込む、使用人や衛兵達は次第に意識を取り戻しぼんやりと周囲を見渡していた。

呆然と座り込む麗人は、側に落ちてしまっていた眼鏡を拾い緩慢な動作で、酷く時間を掛けて身に付ける。
自分の命を守らなかった相手を叱責しかけるが、相手の姿にそれは思い留まった。

過呼吸気味に繰り返す呼吸、血の気の失せた顔に止め処なく流れる涙。儀礼服を赤く染め上げる至る所から滲む刀傷。
それでも、立ち上がったのだ。





感想 65

あなたにおすすめの小説

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

王道学園のモブ

四季織
BL
王道学園に転生した俺が出会ったのは、寡黙書記の先輩だった。 私立白鳳学園。山の上のこの学園は、政財界、文化界を担う子息達が通う超名門校で、特に、有名なのは生徒会だった。 そう、俺、小坂威(おさかたける)は王道学園BLゲームの世界に転生してしまったんだ。もちろんゲームに登場しない、名前も見た目も平凡なモブとして。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。 そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ※第33話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

聞いてた話と何か違う!

きのこのこのこ
BL
春、新しい出会いに胸が高鳴る中、千紘はすべてを思い出した。俺様生徒会長、腹黒副会長、チャラ男会計にワンコな書記、庶務は双子の愉快な生徒会メンバーと送るドキドキな日常――前世で大人気だったBLゲームを。そしてそのゲームの舞台こそ、千紘が今日入学した名門鷹耀学院であった。 生徒会メンバーは変態ばかり!?ゲームには登場しない人気グループ!? 聞いてた話と何か違うんですけど! ※主人公総受けで過激な描写もありますが、固定カプで着地します。 他のサイトにも投稿しています。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

事なかれ主義の回廊

由紀菜
BL
大学生の藤咲啓嗣は通学中に事故に遭い、知らない世界で転生する。大貴族の次男ランバート=アルフレイドとして初等部入学前から人生をやり直し、学園で出会う無愛想で大人顔負けの魔法の実力者であるヨアゼルン=フィアラルドと親友になるが、彼に隠された力に翻弄され次々と襲ってくる災難に巻き込まれる。終いには、国家の存続を揺るがす大事件にまで発展することに・・・

転生したら乙女ゲームのモブキャラだったのでモブハーレム作ろうとしたら…BLな方向になるのだが

松林 松茸
BL
私は「南 明日香」という平凡な会社員だった。 ありふれた生活と隠していたオタク趣味。それだけで満足な生活だった。 あの日までは。 気が付くと大好きだった乙女ゲーム“ときめき魔法学院”のモブキャラ「レナンジェス=ハックマン子爵家長男」に転生していた。 (無いものがある!これは…モブキャラハーレムを作らなくては!!) その野望を実現すべく計画を練るが…アーな方向へ向かってしまう。 元日本人女性の異世界生活は如何に? ※カクヨム様、小説家になろう様で同時連載しております。 5月23日から毎日、昼12時更新します。