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暗闇
『いやああーー!なに、何が起きているの?!』
『早く灯りを点けてよー!』
『皆様!どうか落ち着いて下さい!どうか、お静まりを!』
『何処に居るのー!きゃああー!…』
『おい!早くどうにかしろ!』
まるで阿鼻叫喚。
遠くから悲鳴や怒号がとめどなく聞こえてくる。
嫌な汗が背中を伝う。大事な事を忘れていた。
「…ファビアン!そこに居るか?!」
「はい!アルフレッド様、お怪我はありませんか?」
「ああ、大丈夫だよ。一体何が…」
周囲から聞こえる動揺する声、警備兵も使用人も誰もが暗闇の中で動けずに居るのだろう。
「…旦那様ー!ファビアン様ー!何処ですかー!…ファビアン様ー!…旦那様ー!シュタルト様ー!…」
よく知った声が喧騒の中で、僅かに耳に入った。
「ジレス!此処だー!アルフレッドだ!ファビアンも一緒に居るー!」
「!良かった…」
声を頼りに近付いて来てくれているらしく、少しずつ声が鮮明になる。
どうやら使用人に聞きながら二人の跡を追って来たが、このような事態で動くべきか迷っていたらしい。
「私は訓練をしているので夜目は利く方ですが、これは夜の暗さではありません!」
「と言うと?」
ファビアンの固い声音に、ジレスが距離を縮める。
「これは月明かりの無い夜ではありません。まるで黒い布や何かに覆われているのに近い気がします。」
「まさか、人為的なものか?」
「可能性はあるかと。」
顔は見えずともジレスの緊張が伝わってくる。
「皆は無事かな。」
「彼方にはキャベンディッシュ様もアンリも居ります。人が密集している分危険もありますが、異常には気付きやすいかと。それよりも、お二方共…開けた場所の此方が危険です。」
エーデルベルク城自体、堅固な城ではある。各門には衛兵が守りを固め、騎士団の強さは4大国随一とすら言っても過言では無い。
だが、現在視界を封じられて何処までそれが通じるのか。
場所を把握する為、ファビアンがジレスの手を取った。アルフレッドはジレスのマントの裾を握り締める。
「…声が、減った気がしますね。」
ファビアンの言葉に、ふと周囲へ耳を澄ませる。
遠くからの騒がしさは止まないが、周辺に居た筈の会話が途切れていた。
「…誰か居られますか!どなたか!執事の方!宮廷使用人の方々!」
ジレスの張り上げた声が虚しく辺りに木霊する。
いやな予感がする。心音が早まり、妙に喉が渇きを訴える。
『ミツケタ』
闇から滲む声はまだ幼さの残るものだった。
思い浮かんだ声とは別で、冷徹で嫌に獰猛に感じた。
動きを止めた二人を庇い、その場で懐から短剣を取り出し構えるジレス。
『ファビアン・デルヴォーとアルフレッド・シュタルト。チョードヨイ。イショニモテイコオ。』
何?
拙いバルディオス語だがしっかりと聞き取れた。
俺とファビアンだと?バルディオスと全く関係無いだろ。ナンバーナインと名乗った青年を思い出すと、この暗闇も納得出来る。だが、彼はバルディオスを狙っていたのでは無かったのか?
もしや、身分の高い人物を捕えるのが目的か?
思案を遮る金属音が響く。
「っファビアン様、手を離します!…上着を掴んで居て、下さい!…!?ッチ…」
その場で最小限の動きで相手に対峙しているのか、暗闇の中ジレスの呼吸音と刃のぶつかる音が止まない。
視力に頼れない状況で二人を庇っているのだ、どちらが優勢か分かりきっていた。
「…っく…!」
「「ジレス!」」
掴んだ裾が強く引かれる。膝を着いたのか、それでも立ちあがろうと動く気配がする。
『ナカナカオモシロカナ、ソロソロハジメルカ。』
「なっ!」
「うわ?!」
ファビアンとアルフレッドが同時に声を上げる。
足元が沈む感覚、何かが纏わりついて引き寄せられていく。焦る此方を嘲笑う様にゆっくりと、闇へと飲み込まれていくようだ。
「…アルフレッド様!」
「ファビアン!此処だ!」
存在を確かめる為呼ばれた名。その場から動こうともがくが、視界の効果か自身の変化が分からない。黒色が、焦燥を駆り立てる。
お互いの名前を呼び、手を伸ばすが何度も空を切る。
「旦那さ、ま…!っファビアン様…!」
やっと掴まれた手は、想定とは違う相手だった。
嫌な血臭と、滑る手の平、息絶え絶えの呼吸。
二人の手を掴んだのだろう、力の入り切らないまま必死に手を引いている。
ああ!くっそ!
「ジレス!離せ!ファビを守ってくれ!」
「いけません!ジレス、アルフレッド様を優先しなさい!」
掴まれた手を振り払うが、思ったよりも力強く握り返される。沈むままに任せようとする身体。
アルフレッドとファビアンからの叫びに、ジレスはどちらの手も離さず両足に力を込めていた。
沈みゆく身体は、既に腰元まで飲み込んでいた。
近くでジレスに叫び続けるファビアンの声を耳に、見えない相手へ笑みを浮かべ優しく語り掛ける。
「…可愛いジレス。俺のお願い聞けるね?どうかファビアンを助けて欲しい。俺の為、俺の代わりに。」
僅かに握る手の力が緩んだ。
「良い子だ。そう、それで良い。頼んだ……」
手が離れ、顔まで何かに浸かった感覚。
ぼやける視界と、滲む思考。意識を手放さない努力は意味を成さず、次第に緩やかな闇に取り込まれていった。
*
『ジカン…アア、ショウガナイ。ヒトリハシッパイカ。』
ゴーン…
鐘の音が辺りに響き渡る。
静寂の終わりを告げる荘厳な音色。
3度目の音。
月明かりが闇を払い、美しい庭園が姿を現した。
意識を失い倒れ込む、使用人や衛兵達は次第に意識を取り戻しぼんやりと周囲を見渡していた。
呆然と座り込む麗人は、側に落ちてしまっていた眼鏡を拾い緩慢な動作で、酷く時間を掛けて身に付ける。
自分の命を守らなかった相手を叱責しかけるが、相手の姿にそれは思い留まった。
過呼吸気味に繰り返す呼吸、血の気の失せた顔に止め処なく流れる涙。儀礼服を赤く染め上げる至る所から滲む刀傷。
それでも、立ち上がったのだ。
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